最強の魔剣、拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった〜荷物持ち扱いで捨てられた俺、無限の魔力でダンジョン無双を始めます〜 作:竜刃丸
「なあ、ヴィヴィ。昨日の話の続きだけどな」
翌朝。ちゃぶ台の向かいで、ヴィヴィが昨日の鍋の残りをつついている。朝から鍋。しかも二杯目だ。
「なんじゃ。飯の邪魔をするでない」
「お前、昨日言ったよな。『わしがおれば、もっとうまいものが食える』って。あれ、どういう意味だ」
「言うたか?」
「言った」
ヴィヴィは、うどんをすすりながら、しばらく考えるふりをしていた。だが俺が黙って見ていると、観念したように箸を置いた。
「……まあよい。そのうち話すつもりではあった」
そう言って、こいつはいつになく真面目な顔をした。
「下僕。わしは前に、自分は魔王剣だと言ったな」
「ああ。普通の魔剣とは違う、とか」
「うむ。魔王剣というのはな、かつての魔王の"体"から生まれた剣じゃ。全部で、七本ある」
七本。
「それぞれに、司る部位がある。頭脳。胴体。右腕。左腕。右脚。左脚。そして――」
ヴィヴィが、自分の胸を、とん、と指した。
「心臓。それが、わしじゃ」
……なるほど。体の各部位の魔王剣が存在する。だが同時に別の意味でもある。
「……待て。それってつまり」
「なんじゃ」
「魔王の体、バラバラにされてるってことか?」
「……そうなるのう」
「そうなるのう、じゃねえよ。ひどい話だな。誰がやったんだ」
「知らん」
即答だった。
「知らんのかよ」
「わしは覚えておらんと言うたじゃろ。心臓じゃぞ、わしは。頭が入っておらんのじゃ。細かいことを覚えておるのは、たぶん――頭脳のほうじゃ」
「頭脳の魔王剣、か」
そいつを見つければ、全部分かるということなのか。
だが今はそこじゃない。俺が気になっているのは、別のことだ。
「なあ、ヴィヴィ。その魔王剣ってのは、それぞれ特殊な力を持ってるのか。お前の"無限の魔力"みたいな」
「お、するどいのぉ。その通りじゃ」
「じゃあ――集めれば、俺はもっと強くなれるのか」
「さぁてのぅ」
こいつ。
「つーか、お主。もう十分強いじゃろ。魔力が無限にあるのじゃぞ。何でもできるじゃろが」
「……それが、そうでもないんだよ」
俺は、虚空にステータスを唱え、自分のステータス画面を開いた。探索者は自身のスキルを確認できる。
ヴィヴィを手に入れてから、ずっと気になっていたものだ。
◇
【空間魔法EX】
解放条件:
・魔力が一定値(10000)以上になる ――【解放済】
スキル【空間操作】を獲得
・力が一定値(10000)以上になる ――未解放
・器用さが一定値(10000)以上になる ――未解放
・素早さが一定値(10000)以上になる ――未解放
・抵抗力が一定値(10000)以上になる ――未解放
・丈夫さが一定値(10000)以上になる ――未解放
・知力が一定値(10000)以上になる ――未解放
「……なんじゃこれは」
「見ての通りだ」
俺はスキル画面を指でなぞった。
「俺のスキルには、まだ"開いてない条件"が六つもある。今まではな条件そのものが見えなかったんだ。ただ『条件未達』としか出なかった。だから俺は一生このままだと思ってた」
「それが見えるようになったと」
「お前を装備してからな。魔力が10000を超えて条件を一つ達成した。そうしたら――残りの条件も、見えるようになった」
つまり、こういうことだ。
魔王剣を装備すると、対応するパラメータが跳ね上がる。心臓の魔王剣は、魔力を無限にした。なら、他の魔王剣は――力を、器用さを、素早さを、丈夫さを、知力を。
確実ではない、だがあり得るかもしれない予想に胸が高鳴る。
「六本。あと六本の魔王剣を集めれば、俺のスキルは全部開く」
「ほう」
「そして、空間魔法ってのはな、ゲームでも定番の――いや、まあ要するにだ」
俺は、一度言葉を切って、ヴィヴィを見た。
「開いてない六つの中に、まず間違いなく、"アレ"があると考えている」
「アレ?」
「ワープだ」
◇
「わーぷ?」
「空間移動。文字通り、好きなところへ、一瞬で飛べる力だ」
ヴィヴィはうどんを食べ終えて、露骨に興味のなさそうな顔をした。
「ふーん。……で! それがどうした」
「どうしたって、お前」
「面倒じゃ。魔王剣を六本も? 探すのじゃろ? 面倒くさい。わしはパスじゃ」
こいつ。
ヴィヴィは、ちゃぶ台に肘をつくと、袋菓子を開けてポテチミックスをつまみ始めた。未だ食うのか、つーか完全に話を聞く気がない。
……まあ、こうなるだろうとは思っていた。
俺は深呼吸をして、切り札を出すことにした。
「なあ、ヴィヴィ。よく聞け。ワープってのはな」
ぽりぽり。ヴィヴィがポテチをかじる。
「好きな時に、好きな場所へ、一瞬で行ける力だ。距離は関係ない。北海道だろうが、九州だろうが、一歩で着く」
ぽりぽり。
「たとえば、だ。……今、この八皇子じゃ絶対に食えない、日本海側の福居。あそこの、朝獲れの魚を山ほど盛った、超絶うまい海鮮丼」
ぽり、と。
ポテチをかじる音が、止まった。
「あれを、獲れたその日に、その場所で。距離も気にせずにすぐに食いに行けるとしたら?」
ポロ、とヴィヴィの手から、ポテチが落ちた。
「な……じゃと……」
「濃厚なチーズがこれでもかとのった、北海堂のピザ。その焼きたてを、店の窯から出したその瞬間に」
ヴィヴィの手が、震え始めた。
「香ばしい特濃ソースがかかった、大佐華のお好み焼き。カリッカリの、焼きたてを。……毎日でも」
ガタッ!!
ヴィヴィが、勢いよく立ち上がった。目が爛々と輝いている。
「よし来た!! 下僕! 魔王剣を集めるぞ!! 今すぐじゃ! 六本! 六本すべて集めよ! そしてワープを手に入れるのじゃ!! ワープ! ワープ!」
「はいはい」
……ふふ。狙い通りだ。
こいつを動かすのに、世界の危機だの、真実の探求だの、そんなものは一切要らない。うまい飯。それだけでいい。安上がりな魔王もいたものだ。
「言っておくが、簡単じゃないぞ。どこにあるかも分からないんだからな」
「そんなもの、探せばよかろう! さあ行くぞ! どこじゃ! どこにある!」
「……それを調べに行くんだよ」
◇
八皇子ギルド。
例の強面の職員——古館(ふるたて)さんは、俺の質問を聞くと、渋い顔で腕を組んだ。
「魔剣の、入手方法ですか?」
「ええ。どこで手に入るのか、知りたくて」
職員は俺の腰にある魔剣をチラリと見た。
「うーん……そうですね。——本当はAランクにならないとお教えできない決まりなんですが……狭間さんは既に持ってますしねぇ」
職員は、端末を叩きながら言いにくそうに俺を見る。
「ま……いいでしょう。魔剣はですね、階層ボスやダンジョンボスがドロップすると言われています」
「言われてる?」
「はい、あくまでと
噂……ね。
しかしこれは……本来は機密情報である情報なのに……仄めかしてくれているんだろうな。親切な人だ。
「どのボスがどういう魔剣を落とすのか、まだお伝えできません。高ランクのクランやパーティが持っていること、そこで察して下さい。……あ、ちょっと待ってください」
画面を見つめた職員の眉が、ぴくりと動いた。
「一つだけ。十年前の記録です。これも噂です。『渋家ダンジョンのボスで魔剣ドロップを確認』――と」
「ボスが」
「ええ。ただこれもどこまで本当か。実際にこの噂が出たとき、探索者達が渋家ダンジョンに殺到したそうです。でも結局手に入れたものはいなかった、と」
渋家ダンジョン。
ダンジョンボスは強く強大だ。予想だが誰も勝てなかっただけでは? そう思ってしまう。
その魔剣が俺が探しているものかはわからないが、確かめる必要があるだろう。
確率ドロップならそれこそ何日も張り込む必要がある。
「ありがとうございます。参考になりました」
「はあ。……探すんですか? 魔剣」
「ええ、まあ」
「そうですか、であれば早く探索者ランクを上げて下さい。お手伝いしますので。あともし渋家に行ったらギルドには顔を出してください。話を通しておきます……。」
ペコリとこっちに少し頭を下げる古館さんに挨拶して、俺はギルドを出た。今日は空はよく晴れている。
腰の短剣が、うずうずと震えていた。
『下僕! で、どうするのじゃ! どこへ行く!』
「決まってるだろ」
俺は、スマホを開いて、日本地図を表示した。
北海堂、東北、関東、中部、近基、中国、四国、九洲、全国に散らばる、大小さまざまなダンジョン。その数、確認されているだけで、百を超える。
「全部、回る」
『ぜんぶ?』
「全部だ。日本中のダンジョンを、片っ端から潜る。ボスを狩って、魔王剣を探す。……ついでに、その土地のうまいものも食う」
短剣が、一瞬、沈黙した。
それから――
『……下僕。お前さん、たまには良いことを言うのう!!』
うるさいくらいのヴィヴィの歓声が腰から響いた。
まあ、こいつが乗り気ならそれでいい。
どうせ俺一人じゃ何もできなかったんだ。荷物持ちだった俺が、日本中を回れるなんてな。
「行くぞ、ヴィヴィ。まずは――渋家だな」
『飯のうまいところじゃ!!』
「そこかよ」
俺たちは、歩き出した。
まさか、この時の俺が――もう、"見つかっている"なんて、思いもせずに。
◇
――時は、少し遡る。
その日、狭間蓮が魔王剣を持ち、八皇子ダンジョンから地上へ出て、まだ数時間と経たない頃。
夜。閉門間際のダンジョン入口に、一団が現れた。
七人。全員が同じ黒い外套を纏っていた。装備は統一され、動きに無駄がない。誰一人として私語を交わさない。ゲート脇の警備員が声をかけようとして――先頭の男が示した何かを見て、そのまま黙って道を空けた。
一団は、無言でダンジョンへと降りていった。
彼らの歩みは異様だった。
迷わない。立ち止まらない。分岐でも、地図を確認しない。まるで、この迷宮の構造を最初から知り尽くしているかのようだった。
道中の魔物は、彼らを認めると近づく前に散った。あるいは近づいた個体は、音もなく消えた。戦闘の跡すら残らなかった。
十層。十一層。
そして、十二層。
先頭の男が、そこで初めて足を止めた。
目の前の壁に、穴が開いていた。
人ひとりが通れるほどの、綺麗な断面の穴。ダンジョンは通常傷つかない。しかしそこはまるで豆腐を切り抜いたような、自然にできたものではない跡があった。
男はその断面に指を這わせた。
「……これはどういうことだ」
呟いた声は、若くも老いてもいない、平坦な声だった。
一団は穴を潜った。その先にもまた穴。また穴。誰かが壁を無視して、まっすぐに突き進んだ痕跡を、彼らは辿った。
やがて。
穴の連なりが途切れ、ぽっかりと開けた空間に出た。
地図にもない行き止まりの先。埃ひとつない小さな祭壇のある部屋。
そこには何もなかった。
しかし台座の中央に、おそらく剣が刺さっていたであろう、細い切れ込みがあった。
先頭の男がゆっくりと祭壇に歩み寄る。片膝をつき台座に手をかざした。
その手のひらが、かすかに赤い光を帯びる。
「……ここに、あったのか」
男は、目を伏せた。手のひらの光が、静かに消えていく。
「五百年。……我々が五百年探し続けたものが、ここにあった」
背後の六人は微動だにしない。
男は立ち上がった。そして空になった台座を見下ろしたまま言った。
「――魔力の残滓がある。持ち去られた後だ」
外套の下で男の指が、ぎり、と鳴った。
「誰だ。……"魔王剣"を持ち出したのは」
答える者はいない。
ただ剣の抜けた祭壇だけが静かにそこにあった。
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カクヨムで先行で2話分配信しています。
先が気になる方はそちらもご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/2912051604673684115