最強の魔剣、拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった〜荷物持ち扱いで捨てられた俺、無限の魔力でダンジョン無双を始めます〜   作:竜刃丸

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第6飯 ポテチミックス(粗塩味)

 

「なあ、ヴィヴィ。昨日の話の続きだけどな」

 

翌朝。ちゃぶ台の向かいで、ヴィヴィが昨日の鍋の残りをつついている。朝から鍋。しかも二杯目だ。

 

「なんじゃ。飯の邪魔をするでない」

「お前、昨日言ったよな。『わしがおれば、もっとうまいものが食える』って。あれ、どういう意味だ」

「言うたか?」

「言った」

 

ヴィヴィは、うどんをすすりながら、しばらく考えるふりをしていた。だが俺が黙って見ていると、観念したように箸を置いた。

 

「……まあよい。そのうち話すつもりではあった」

 

そう言って、こいつはいつになく真面目な顔をした。

 

「下僕。わしは前に、自分は魔王剣だと言ったな」

「ああ。普通の魔剣とは違う、とか」

「うむ。魔王剣というのはな、かつての魔王の"体"から生まれた剣じゃ。全部で、七本ある」

 

七本。

 

「それぞれに、司る部位がある。頭脳。胴体。右腕。左腕。右脚。左脚。そして――」

 

ヴィヴィが、自分の胸を、とん、と指した。

 

「心臓。それが、わしじゃ」

 

……なるほど。体の各部位の魔王剣が存在する。だが同時に別の意味でもある。

 

「……待て。それってつまり」

「なんじゃ」

「魔王の体、バラバラにされてるってことか?」

「……そうなるのう」

「そうなるのう、じゃねえよ。ひどい話だな。誰がやったんだ」

「知らん」

 

即答だった。

 

「知らんのかよ」

「わしは覚えておらんと言うたじゃろ。心臓じゃぞ、わしは。頭が入っておらんのじゃ。細かいことを覚えておるのは、たぶん――頭脳のほうじゃ」

「頭脳の魔王剣、か」

 

そいつを見つければ、全部分かるということなのか。

だが今はそこじゃない。俺が気になっているのは、別のことだ。

 

「なあ、ヴィヴィ。その魔王剣ってのは、それぞれ特殊な力を持ってるのか。お前の"無限の魔力"みたいな」

「お、するどいのぉ。その通りじゃ」

「じゃあ――集めれば、俺はもっと強くなれるのか」

「さぁてのぅ」

 

こいつ。

 

「つーか、お主。もう十分強いじゃろ。魔力が無限にあるのじゃぞ。何でもできるじゃろが」

「……それが、そうでもないんだよ」

 

俺は、虚空にステータスを唱え、自分のステータス画面を開いた。探索者は自身のスキルを確認できる。

ヴィヴィを手に入れてから、ずっと気になっていたものだ。

 

 

 

 

【空間魔法EX】

 

 解放条件:

 ・魔力が一定値(10000)以上になる ――【解放済】

  スキル【空間操作】を獲得

 ・力が一定値(10000)以上になる ――未解放

 ・器用さが一定値(10000)以上になる ――未解放

 ・素早さが一定値(10000)以上になる ――未解放

 ・抵抗力が一定値(10000)以上になる ――未解放

 ・丈夫さが一定値(10000)以上になる ――未解放

 ・知力が一定値(10000)以上になる ――未解放

 

 

「……なんじゃこれは」

「見ての通りだ」

 

俺はスキル画面を指でなぞった。

 

「俺のスキルには、まだ"開いてない条件"が六つもある。今まではな条件そのものが見えなかったんだ。ただ『条件未達』としか出なかった。だから俺は一生このままだと思ってた」

「それが見えるようになったと」

「お前を装備してからな。魔力が10000を超えて条件を一つ達成した。そうしたら――残りの条件も、見えるようになった」

 

つまり、こういうことだ。

魔王剣を装備すると、対応するパラメータが跳ね上がる。心臓の魔王剣は、魔力を無限にした。なら、他の魔王剣は――力を、器用さを、素早さを、丈夫さを、知力を。

確実ではない、だがあり得るかもしれない予想に胸が高鳴る。

 

「六本。あと六本の魔王剣を集めれば、俺のスキルは全部開く」

「ほう」

「そして、空間魔法ってのはな、ゲームでも定番の――いや、まあ要するにだ」

 

俺は、一度言葉を切って、ヴィヴィを見た。

 

「開いてない六つの中に、まず間違いなく、"アレ"があると考えている」

「アレ?」

「ワープだ」

 

 

 

 

「わーぷ?」

「空間移動。文字通り、好きなところへ、一瞬で飛べる力だ」

 

ヴィヴィはうどんを食べ終えて、露骨に興味のなさそうな顔をした。

 

「ふーん。……で! それがどうした」

「どうしたって、お前」

「面倒じゃ。魔王剣を六本も? 探すのじゃろ? 面倒くさい。わしはパスじゃ」

 

こいつ。

ヴィヴィは、ちゃぶ台に肘をつくと、袋菓子を開けてポテチミックスをつまみ始めた。未だ食うのか、つーか完全に話を聞く気がない。

 

……まあ、こうなるだろうとは思っていた。

俺は深呼吸をして、切り札を出すことにした。

 

「なあ、ヴィヴィ。よく聞け。ワープってのはな」

 

ぽりぽり。ヴィヴィがポテチをかじる。

 

「好きな時に、好きな場所へ、一瞬で行ける力だ。距離は関係ない。北海道だろうが、九州だろうが、一歩で着く」

 

ぽりぽり。

 

「たとえば、だ。……今、この八皇子じゃ絶対に食えない、日本海側の福居。あそこの、朝獲れの魚を山ほど盛った、超絶うまい海鮮丼」

 

ぽり、と。

ポテチをかじる音が、止まった。

 

「あれを、獲れたその日に、その場所で。距離も気にせずにすぐに食いに行けるとしたら?」

 

ポロ、とヴィヴィの手から、ポテチが落ちた。

 

「な……じゃと……」

「濃厚なチーズがこれでもかとのった、北海堂のピザ。その焼きたてを、店の窯から出したその瞬間に」

 

ヴィヴィの手が、震え始めた。

 

「香ばしい特濃ソースがかかった、大佐華のお好み焼き。カリッカリの、焼きたてを。……毎日でも」

 

ガタッ!!

 

ヴィヴィが、勢いよく立ち上がった。目が爛々と輝いている。

 

「よし来た!! 下僕! 魔王剣を集めるぞ!! 今すぐじゃ! 六本! 六本すべて集めよ! そしてワープを手に入れるのじゃ!! ワープ! ワープ!」

「はいはい」

 

……ふふ。狙い通りだ。

こいつを動かすのに、世界の危機だの、真実の探求だの、そんなものは一切要らない。うまい飯。それだけでいい。安上がりな魔王もいたものだ。

 

「言っておくが、簡単じゃないぞ。どこにあるかも分からないんだからな」

「そんなもの、探せばよかろう! さあ行くぞ! どこじゃ! どこにある!」

「……それを調べに行くんだよ」

 

 

 

 

八皇子ギルド。

例の強面の職員——古館(ふるたて)さんは、俺の質問を聞くと、渋い顔で腕を組んだ。

 

「魔剣の、入手方法ですか?」

「ええ。どこで手に入るのか、知りたくて」

 

職員は俺の腰にある魔剣をチラリと見た。

 

「うーん……そうですね。——本当はAランクにならないとお教えできない決まりなんですが……狭間さんは既に持ってますしねぇ」

 

職員は、端末を叩きながら言いにくそうに俺を見る。

 

「ま……いいでしょう。魔剣はですね、階層ボスやダンジョンボスがドロップすると言われています」

「言われてる?」

「はい、あくまでと()です。また絶対に魔剣が出てくるわけではないみたいです。条件は定かではないですが、例えば何度もボスを倒す事で魔剣をドロップする可能性があるという()です」

 

噂……ね。

しかしこれは……本来は機密情報である情報なのに……仄めかしてくれているんだろうな。親切な人だ。

 

「どのボスがどういう魔剣を落とすのか、まだお伝えできません。高ランクのクランやパーティが持っていること、そこで察して下さい。……あ、ちょっと待ってください」

 

画面を見つめた職員の眉が、ぴくりと動いた。

 

「一つだけ。十年前の記録です。これも噂です。『渋家ダンジョンのボスで魔剣ドロップを確認』――と」

「ボスが」

「ええ。ただこれもどこまで本当か。実際にこの噂が出たとき、探索者達が渋家ダンジョンに殺到したそうです。でも結局手に入れたものはいなかった、と」

 

渋家ダンジョン。

ダンジョンボスは強く強大だ。予想だが誰も勝てなかっただけでは? そう思ってしまう。

 

その魔剣が俺が探しているものかはわからないが、確かめる必要があるだろう。

確率ドロップならそれこそ何日も張り込む必要がある。

 

「ありがとうございます。参考になりました」

「はあ。……探すんですか? 魔剣」

「ええ、まあ」

「そうですか、であれば早く探索者ランクを上げて下さい。お手伝いしますので。あともし渋家に行ったらギルドには顔を出してください。話を通しておきます……。」

 

ペコリとこっちに少し頭を下げる古館さんに挨拶して、俺はギルドを出た。今日は空はよく晴れている。

 

腰の短剣が、うずうずと震えていた。

 

『下僕! で、どうするのじゃ! どこへ行く!』

「決まってるだろ」

 

俺は、スマホを開いて、日本地図を表示した。

北海堂、東北、関東、中部、近基、中国、四国、九洲、全国に散らばる、大小さまざまなダンジョン。その数、確認されているだけで、百を超える。

 

「全部、回る」

『ぜんぶ?』

「全部だ。日本中のダンジョンを、片っ端から潜る。ボスを狩って、魔王剣を探す。……ついでに、その土地のうまいものも食う」

 

短剣が、一瞬、沈黙した。

それから――

 

『……下僕。お前さん、たまには良いことを言うのう!!』

 

うるさいくらいのヴィヴィの歓声が腰から響いた。

 

まあ、こいつが乗り気ならそれでいい。

どうせ俺一人じゃ何もできなかったんだ。荷物持ちだった俺が、日本中を回れるなんてな。

 

「行くぞ、ヴィヴィ。まずは――渋家だな」

『飯のうまいところじゃ!!』

「そこかよ」

 

俺たちは、歩き出した。

まさか、この時の俺が――もう、"見つかっている"なんて、思いもせずに。

 

 

 

 

――時は、少し遡る。

 

 

その日、狭間蓮が魔王剣を持ち、八皇子ダンジョンから地上へ出て、まだ数時間と経たない頃。

 

夜。閉門間際のダンジョン入口に、一団が現れた。

 

七人。全員が同じ黒い外套を纏っていた。装備は統一され、動きに無駄がない。誰一人として私語を交わさない。ゲート脇の警備員が声をかけようとして――先頭の男が示した何かを見て、そのまま黙って道を空けた。

 

一団は、無言でダンジョンへと降りていった。

 

彼らの歩みは異様だった。

迷わない。立ち止まらない。分岐でも、地図を確認しない。まるで、この迷宮の構造を最初から知り尽くしているかのようだった。

 

道中の魔物は、彼らを認めると近づく前に散った。あるいは近づいた個体は、音もなく消えた。戦闘の跡すら残らなかった。

 

十層。十一層。

そして、十二層。

 

先頭の男が、そこで初めて足を止めた。

 

目の前の壁に、穴が開いていた。

人ひとりが通れるほどの、綺麗な断面の穴。ダンジョンは通常傷つかない。しかしそこはまるで豆腐を切り抜いたような、自然にできたものではない跡があった。

 

男はその断面に指を這わせた。

 

「……これはどういうことだ」

 

呟いた声は、若くも老いてもいない、平坦な声だった。

 

一団は穴を潜った。その先にもまた穴。また穴。誰かが壁を無視して、まっすぐに突き進んだ痕跡を、彼らは辿った。

 

やがて。

 

穴の連なりが途切れ、ぽっかりと開けた空間に出た。

地図にもない行き止まりの先。埃ひとつない小さな祭壇のある部屋。

 

そこには何もなかった。

 

しかし台座の中央に、おそらく剣が刺さっていたであろう、細い切れ込みがあった。

 

先頭の男がゆっくりと祭壇に歩み寄る。片膝をつき台座に手をかざした。

その手のひらが、かすかに赤い光を帯びる。

 

「……ここに、あったのか」

 

男は、目を伏せた。手のひらの光が、静かに消えていく。

 

「五百年。……我々が五百年探し続けたものが、ここにあった」

 

背後の六人は微動だにしない。

 

男は立ち上がった。そして空になった台座を見下ろしたまま言った。

 

「――魔力の残滓がある。持ち去られた後だ」

 

外套の下で男の指が、ぎり、と鳴った。

 

「誰だ。……"魔王剣"を持ち出したのは」

 

答える者はいない。

ただ剣の抜けた祭壇だけが静かにそこにあった。

 

 




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 カクヨムで先行で2話分配信しています。
 先が気になる方はそちらもご覧ください。

 https://kakuyomu.jp/works/2912051604673684115
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