魔剣を拾ったら中身が飯にしか興味のない生意気少女だった 〜無限の魔力でダンジョン無双〜   作:竜刃丸

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第7飯 BUFF's CREAM PUFF

 

電車に揺られて、およそ一時間。

 

八皇子から渋家までは乗り換えを挟んでそれなりにかかる。俺は窓際の席に座って流れていく景色をぼんやり眺めていた。

 

腰のベルトには鞘に収めた短剣を差している――ように見えるが、実際はインベントリ小の中だ。人混みで本物を腰に差していたら、それだけで職質ものだからな。ヴィヴィには収納の中で大人しくしていてもらっている。

 

もっとも、大人しくなんてしていない。

 

『のう下僕。渋家ってのは、どういうところじゃ』

 

案の定、頭の中に念話が響いた。収納の中からでも、こいつの声はしっかり届いていた。

 

「渋家か。東卿(とうきょう)、まあ中心地だな。若い子や探索者も来てやたら人が多い。なんでもある街だ」

『なんでもある?』

「ああ。人が集まる場所にはうまいものも集まる。そういうもんだ」

『おおっ、それはよいのう! では今日はなにを食う! なにから食う!』

 

念話越しでも目を輝かせているのが手に取るように分かる。相変わらず、食うことしか頭にない魔王剣だ。

 

「先に言っておくぞ。今日はまず探索だ。魔剣を探しに来たんだからな。渋家のダンジョンは広いらしいし、一日で見つかるとは限らない。何日か通うことになる」

『なんじゃと。飯より先に働けと?』

「働けじゃなくて、それが目的だろうが。飯はそのついでだ」

『ちっ……電車も最初は物珍しくて楽しかったが、こう長いと尻が痛くなってくるのう。面倒じゃ』

「我慢しろ。つーかお前は座ってないだろ。ワープを手に入れるまでの辛抱だ。それが手に入りゃ、渋家だろうが北海堂だろうが、一歩で行ける」

『そうじゃった! ワープ! ワープのためじゃ! よし下僕、はよう働け! はよう魔王剣を探すのじゃ!』

 

現金なやつだ。さっきまで面倒くさがっていたくせに、ワープの三文字で一気にやる気を出しやがった。

 

電車が渋家の駅に滑り込んでいく。

俺は立ち上がって、人の波に混じってホームへ降りた。

 

 

 ◇

 

 

渋家探索者ギルドは、駅から歩いてすぐのでかいビルの中にあった。

 

八皇子のギルドとは規模がまるで違う。エントランスは吹き抜けで、受付カウンターがいくつも並んでいる。

 

行き交う探索者の数も桁違いだ。武装した集団もいれば、やたら華やかな格好の連中もいる。中には明らかにカメラを回している一団もいた。芸能活動をしている探索者ってのも、この辺にはごろごろいるらしい。

 

さすが東卿の中心地だ。人の熱気がすごい。

 

俺は空いていたカウンターの一つに歩み寄った。

 

眼鏡をかけた三十代くらいの女性職員が座っていた。顔を上げて俺を見て――一瞬、その視線が上から下へと流れた。

 

白のオーバーサイズTシャツ。藍色のジーンズ。灰色のスニーカー。腰にはみすぼらしい古びた短剣。

 

……まあ、そうなるよな。どう見ても探索者に見えない格好だ。

 

「……ご用件は?」

 

明らかに値踏みするような声だった。無理もない。この装備で「探索します」なんて言えば、大抵は素人か冷やかしだと思われる。

 

「今日からこちらでしばらく活動しようと思って。手続きをお願いしたいんですが」

「活動、ですか。……探索者登録は、お済みで?」

「八皇子ギルドで登録済みです。狭間蓮。ランクはE」

 

俺が名乗ると、職員の眉がわずかに動いた。何かを思い出そうとするような、そんな間があった。

 

この世界の探索者にはランクがある。下からF、E、D、C、B、A、そしてS。Fが駆け出しでSが最高位だ。

 

俺は今、Eランク。八皇子でゴブリンジェネラルをソロで狩ったことで、最低のFから一つ上がった。とはいえEなんてのは、まだまだ下の下だ。世間から見れば、ようやく一人前の入り口に立ったくらいのひよっこ扱いである。

 

そして魔剣ってのは、本来A〜Sランクの連中が持つものだ。魔剣持ちってだけで高ランクの証、そういう認識が探索者の間にはある。

 

つまりEランクの荷物持ち上がりが魔剣を腰に差している――ってのは、傍から見ればずいぶんと不釣り合いな絵面になるらしい。

 

「狭間、蓮さん……」

 

職員が手元の端末に何か打ち込もうとした、その時だった。

 

「――おい。おまえ」

 

背後から声をかけられた。

 

 

 ◇

 

 

振り返ると、四人組がいた。

 

先頭の一人は剣士らしい。革の防具に、腰にはそこそこ立派な剣を差している。歳は俺と同じくらいか。にやにやと、こちらを見下すような笑みを浮かべていた。

 

「おまえ、あれだろ。最近伸びてる配信者。短剣ニキってやつ」

「……そうだけど」

「やっぱりなあ!」

 

男が仲間を振り返って笑った。

 

「見ろよ、この貧相な格好。あの配信、絶対やらせだと思ってたんだよなあ。壁ぶち抜くだの、ボス一撃だの、どう見てもCGだろ。こんなガリガリのサンダル野郎に、そんな芸当できるわけねえ」

 

背後の三人が、げらげらと笑う。

 

俺はため息をつきたくなった。またこれか。

 

「俺は『野生の呼び声』のリーダー、頓馬(とんま)様だ。ついこないだDからCに上がった、期待の新星よ」

 

Cランク。DからCに上がりたて。なるほど……上がりたてで調子に乗ってる時期ってわけか。自分で期待の新星とかいうか? 面倒な奴に絡まれたな。

 

「でな、短剣ニキよ。おまえのその魔剣」

 

頓馬が、俺の腰の短剣を顎で指した。

 

「魔剣ってのはなあ、俺らみたいな一人前の探索者が持つもんなんだよ。Eランクのおまえには分不相応だ。宝の持ち腐れってやつ。だからよ――俺がもらってやる。感謝しろ」

 

……ああ。

 

その言葉を聞いた瞬間、頭の奥がすっと冷えた。

 

思い出したのは高座の顔だ。あいつも同じだった。俺のスキルを、俺の持ち物を、当然のように「よこせ」と言った。人のものを力で奪えると思っている手合いだ。

 

周りの探索者たちも、遠巻きにこっちを見ている。止めに入る様子はない。むしろその視線には、頓馬に同意する色すらあった。

 

魔剣は高ランクのもの。Eランクが持つのはおかしい。だから「まあ、取られても仕方ないよな」くらいに思っているんだろう。

 

くだらない。

 

「もらってやる、ね」

 

俺は努めて静かに口を開いた。

 

「悪いが断る。Cに上がったばかりで浮かれてるところ、水を差すようで申し訳ないけどな」

「あぁ?」

「よく聞けよ。分不相応ってのは、こういうことだ。――おまえみたいなDからCに上がった程度で天狗になってる雑魚パーティに、魔剣なんざ持たせたら、それこそ宝の持ち腐れなんだよ。豚に真珠、猫に小判。おまえに魔剣ってのは、そういうことだ」

「な……っ」

「その剣も、どうせ似たような言いがかりで誰かからぶんどったんじゃないのか? それで一人前気取りとは、めでたい頭してるな。頓馬って名前、よく似合ってるよ」

 

頓馬の顔が、みるみる赤くなっていった。

 

「て……てめえ! 言わせておけば!」

 

図星を突かれた三下の反応は、いつだって同じだ。手が出る。

 

「調子に乗んなよ、荷物持ち上がりがァ!」

 

頓馬が拳を振りかぶって殴りかかってきた。

 

――先に手を出したのは、そっちだ。

 

俺は避けなかった。ただ、迫ってくる拳に意識を向ける。

 

バースト。

 

手を叩く必要はもうない。慣れてくれば、意識を向けるだけでスキル空間操作はこちらの言うことを聞く。

 

頓馬の拳が俺の顔面に届く寸前、その拳の側面、ほんのわずかな空間で小さな衝撃が弾けた。周りからは見えない、ごく弱い一撃だ。

 

頓馬の拳がつるりと逸れる。まるで空を殴ったみたいに。

 

「うぉっ!?」

 

体勢が大きく泳いだ。そのまま前へつんのめる。

 

そこへもう一発。今度はやつの足元へ。

 

バースト。

 

足を下から軽くすくうように、弱い衝撃を送る。

 

「うわあっ!?」

 

頓馬が盛大に足を滑らせて、床に尻餅をついた。派手に、みっともなく。

 

傍から見れば、勝手に殴りかかって、勝手に空振りして、勝手にすっ転んだ間抜けにしか見えないだろう。実際、俺は指一本触れていない。

 

「て、てめえ、何しやがった!」

「何も。おまえが勝手に転んだんだろ。大丈夫か? Cランク様」

「このっ……やれ! おまえら!」

 

頓馬の号令で、残りの三人が動いた。だが。

 

バースト。×3

 

「「「うわぁっっ!!」」」

 

三人まとめて、同じように足を払う。まるで大坂の喜劇でも見ているように、次々と間抜けな悲鳴を上げて、床に転がった。

誰も、俺が何をしたのか分かっていない。ただ、野生の呼び声の四人が、ギルドの真ん中で次々に勝手にすっ転んでいるように見えるだけだ。

 

周りの探索者たちがざわつき始めた。

 

俺は尻餅をついたままの頓馬に歩み寄ると、その頭を上から軽く掴んだ。

 

「なあ頓馬さん。ひとつ教えてやる」

「うぐ……」

「人様のものを力ずくで奪おうとするから、こうなるんじゃないか?」

 

顔を近づけて、そばで囁くように言う。

 

「——分かったら二度と俺に絡むな。おまえの安いプライドのために、その剣ごとバラバラにされたくなけりゃな」

「ひっ……」

 

頓馬の顔から血の気が引いていた。さっきまでの威勢はどこにもない。

 

その時だった。

 

ボンッ。

 

腰の短剣が光って、ヴィヴィが実体化した。

 

金髪、赤い目。腕を組んで、床に転がる四人をゴミでも見るような目で見下ろす。

 

「なんじゃ、この騒がしいのは。……ほう? わしを奪おうとした、たわけどもか」

 

ヴィヴィはわざとらしく大きな声を出した。周りに聞かせるように。

 

「見よ、この様。クソ雑魚ナメクジどもが。わしの下僕にすら要らんわ。下僕は一人で十分足りておる。……のう? こやつら、身の程を知らんにも程があるじゃろう」

 

これ見よがしの挑発だった。だが、こいつなりに考えているのは分かる。ここで派手に格の違いを見せつけておけば、この先、渋家で妙な連中に絡まれる回数が減る。魔剣目当ての手合いへの牽制ってわけだ。

 

俺には目的がある。魔剣を集めて、ワープを手に入れる。そのために、余計なちょっかいで足を止められるのは面倒だ。だから、ここで見せしめにしておくのは悪くない。

 

「……行くぞ。手続きの途中だった」

 

俺は頓馬から手を離して、カウンターに向き直った。

 

四人組は腰を抜かしたまま、這うようにその場から逃げていった。

 

 

 ◇

 

 

「た、大変失礼いたしました……!」

 

カウンターに戻ると、眼鏡の職員が勢いよく頭を下げてきた。さっきまでの値踏みするような態度は、跡形もなく消えている。

 

「あの、狭間さん……八皇子ギルドから魔剣使いの方がいらっしゃると、連絡は受けていたんです。それが、まさか……その、噂の短剣ニキさんだったとは。すぐに気づかず、失礼な対応を……本当に申し訳ございません!」

「いえ。この格好じゃ、疑われて当然ですから」

「い、いえ、そんな……」

 

職員はちらりと、逃げていった頓馬たちの方を見た。そして、ほっと胸を撫で下ろすような顔をした。

 

「……その、ああいった手合いは、この街には本当に多くて。あの野生の呼び声は、他のパーティへの恫喝、ギルド職員への贈賄行為、他にも色々と悪い噂もあり、こちらでは注意対象として監視しておりました。本来はギルドの方で釘を刺しておかねばならないのですが、申し訳ありませんでした。狭間さんがきちんと対処してくださって、助かりました」

 

どうやらあの頓馬たち、日頃から素行が悪かったらしい。ギルドの職員にすら煙たがられていたわけか。道理で、周りの探索者もあまり味方する気配がなかったわけだ。

 

田中さんは優秀な方だったようで、活動の手続きはそこからは驚くほどスムーズに進んだ。

 

 

 ◇

 

 

「――のう下僕。腹が減った」

 

手続きを終えてギルドの休憩スペースに移動すると、ヴィヴィがさっそく騒ぎ出した。

 

さっきの一件で、こいつはずっと機嫌が悪い。奪おうとしてきた連中に時間がとられたのが不満らしい。ぶすっとした顔で頬を膨らませている。

 

「わかったわかった。……実はな、駅で買っておいたものがある」

 

俺はインベントリから包みを取り出した。

 

「これ、渋家で今いちばん流行ってる店のやつらしい。BUFF's CREAM PUFF。シュークリームだ」

「しゅー……くりーむ?」

 

ヴィヴィの、ぶすくれていた顔がぴくりと動いた。

 

包みを開ける。中にはまんまるに膨らんだシュー生地が、ぎっしり並んでいる。表面はこんがりと焼き上がって、割れ目からはたっぷりのカスタードクリームが今にもあふれそうに顔を覗かせていた。甘い香りがふわりと広がる。

 

「めちゃんこ上手いらしいからな。さぁ食べるか」

 

ヴィヴィがおそるおそる一つ手に取った。両手で包むように持って、大きく口を開けてかぶりつく。

 

さくり、と。

 

焼き固められた生地が軽い音を立てて割れた。中から、とろりと濃厚なクリームがあふれ出す。

 

「ふぉ……、ふぁーー!」

 

ヴィヴィの目が、かっと見開かれた。

 

「……っ! う、うまいっ! なんじゃこれは! 外はさくさく、中はとろっとろで、甘くて、冷たくて……っ!」

 

頬をクリームだらけにしながら、あっという間に一個を平らげ、すぐに二個目に手を伸ばす。さっきまでの不機嫌が嘘のように吹き飛んでいた。現金にも程がある。

 

俺はその様子をスマホのカメラで撮っていた。頬をクリームで汚しながら、幸せそうにシュークリームを頬張る魔剣少女。……まあ、絵にはなる。

 

撮った動画をそのまま短く切って、チャンネルにアップしておく。ショート動画ってやつだ。手軽な割に伸びるらしい。

 

投稿して、数分。

スマホがぶるぶると震え始めた。

 

>クリームついてるヴィヴィちゃんかわいい

>なにこれ天使

>今日のヴィヴィアンちゃんも平常運転で草

>これ話題の渋家のやつか

>上手いよな、あれ

>ヴィヴィちゃんきゃわわ♡

>短剣ニキ、また飯テロしてる

>食べるスピードが尋常じゃない

>尊い

 

「ヴィヴィ、すごいコメント数だ」

「ほぉ下僕! わしの可憐さが、また世を騒がせておるぞ! じゃろじゃろ、わしの可憐さは宇宙最強じゃ!」

「はいはい。宇宙最強な。クリーム、口についてるぞ」

 

結局ヴィヴィは、九個入りのシュークリームを一人で全部平らげた。ついでに俺のも半分分けた。

相変わらずどこに入ってるんだ、その量。

 

満足げに腹をさすりながら、ヴィヴィがふと思い出したように聞いてきた。

 

「そういえば下僕。この渋家のダンジョンとやらは、どんなところなんじゃ? 八皇子と同じか?」

「いや。だいぶ違うらしい」

 

俺は、スマホで調べておいた情報を思い出しながら答えた。

 

「八皇子は通路が入り組んだ迷宮型のダンジョンだったろ。壁があって、道があって、その中を進んでいくやつ。でも渋家のダンジョンは、そういうタイプじゃない」

「ほう?」

「広大なフィールドを持つタイプなんだ。壁も天井もない、だだっ広い空間がどこまでも続いてる。……ネットで見た情報しかないが、ここの渋家ダンジョンはな」

 

俺は一拍置いて言った。

 

「――山なんだ。丸ごと一つ、山が入ってる」

 

 




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 カクヨムで先行で2話分配信しています。

 先が気になる方はそちらもご覧ください。



 https://kakuyomu.jp/works/2912051604673684115

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