ハリー・ポッターと創られし娘   作:テーラ・クレプスクリー

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賢者の石と緑の目の少女編での、注意事項を
10話の前書きに、のせております。

そちらの注意事項を、よくお読み頂いてから
先へとお進みください。

厳しめ、原作改変、独自設定、独自解釈、独自展開など
多数です。

その為、何でもあり、大丈夫、な方のみ
お進みください。

それではどうぞ!



14話 父と娘

 

▷視点、リリローゼ

 

ホグワーツ特急が、夕闇に包まれたプラットフォームへと滑り込み、静かに停止した。人混みの中、押し出されるようにして皆について外へ出ると、そこには先月ダイアゴン横丁で見かけたあの大男――ハグリッドがランプを掲げて立っていた。

 

「イッチ年生! こっちだ!」

 

ハグリッドの先導について少し歩き、狭い小道を抜けて角を曲がると、目の前に大きな黒い湖のほとりが広がった。遮るもののない湖の向こう岸、高い山の上に聳え立つ、ライトアップされた荘厳なホグワーツ城。無数の窓の明かりが夜空の星々と混ざり合うようにきらめくその絶景に、私は息を呑んだ。

 

(……映画で観た通り、なんて綺麗なんだろう……っ)

 

4人乗りの小さなボートに揺られて黒い湖を渡り、地下の船着場に着いてから、なだらかな階段を登った先。待っていたのは、エメラルド色のローブを着た、背の高い黒髪の魔女――マクゴナガル先生だった。

 

パッと見るだけでは、確かに厳格で少し怖い印象を受ける。けれど、私は知っている。最終決戦の時、ヴォルデモート卿からハリーの死を告げられた際、城中に響き渡るほどの悲鳴をあげるくらい、彼女が生徒思いの温かい先生だということを。

 

マクゴナガル先生からこれからの寮についての簡単な説明が入り、先生は一度、大広間の扉の先へと去っていった。重厚な木製の扉が閉まり、残された一年生たちの間に、張り詰めたような緊張感と小さなざわめきが広がる。

 

「……どうやって組分けされるんだろう? トロールと戦わされるんじゃないかって、フレッドが言ってたんだ」

 

ロンが顔を真っ青にしながら、ハリーの隣でぶつぶつと不吉な冗談を呟いている。ハリーもそれを聞いて、不安そうに周囲を見回していた。

 

(トロールだなんて、ウィーズリー家の双子のお決まりのおふざけなのにね。……でも、いざ人前に出るとなると、この緊張感は抑えられないわ)

 

私はぎゅっと胸の前で手を組み、その時を待った。いよいよ大広間の扉が開けば、そこからは「組分けの儀式」が始まる。壇上の教職員席には、すでにスネイプ教授が座っているはずだ。今朝別れたばかりだというのに、すでに恋しくてたまらない。学校では『スネイプ教授』って呼ぶね、と約束した時の、あの少し寂しそうだった教授の顔が再び脳裏を過る。

 

(教授は、私がスリザリンに入ることを期待しているのかな……)

 

なんといっても、私はスリザリンの寮監の娘なのだ。もし私が別の寮に組分けされてしまったら、教授はショックを受けてしまうかもしれない。そんな風に考えていると、私のすぐ近くの壁から、思わず悲鳴を上げたくなるような冷たい冷気が吹き抜けた。古びた石壁をすり抜けて現れたのは、乳白色の半透明な体をした、何人もの「ゴースト」たちだった。

 

「わあ……っ!」

 

周りの生徒たちが驚いて声を上げる。本物のゴーストたちの登場に、私のオタク脳は(ほとんど首無しニックだ! 太った修道士だ!!)と再び大はしゃぎを始めた。――まさに、その時。目の前の重厚な扉が、静かに、ゆっくりと開け放たれた。戻ってきたマクゴナガル先生が、厳格な仕草で私たちを見つめた。

 

「さあ、準備ができました。全員、二列に並んで私に続きなさい」

 

ついに、運命の幕が上がる。私は小さく深呼吸をして心の緊張を整えると、ハリーやロンたちのあとに続いて、静かに大広間へと入室していった 。そこには、映画のスクリーンで観た通りの、息を呑むほどに美しい光景が広がっていた。室内なのに、見上げれば本物の夜空が広がり、キャンドルが何千も空中に浮かんで、4つの長いテーブルを温かく照らしている 。上座の教職員席には、教授を含めた先生達の姿があった。私は教授の方へと視線を向けてみたけれど、すぐに先生達に背を向ける形で一列に並ばされてしまう。マクゴナガル先生が、私たちの前に一つのスツールと、古びた魔法使いのとんがり帽子を置いた 。

 

(――組分け帽子だ……!)

 

本物の登場に内心で興奮していると、やがて帽子の裂け目が口のように開き、朗々とした歌声が響き渡った。

 

『私はきれいじゃないけれど』

 

始まった、組分け帽子のオンステージだ!素晴らしい歌声だけれど……じっくり聴いていると、ふとある疑問が頭を過る。

 

(……別にいいんだけどさ。これ、スリザリンだけ遠回しに貶してない?)

 

帽子の歌が終わると、マクゴナガル先生が長い羊皮紙の巻紙を手に一歩前に進み出た。これから始まる組分けについて説明してくれた後、ついに、どんどん新入生の名前が呼ばれていく。

 

「グレンジャー、ハーマイオニー!」

 

椅子に座って帽子を被った彼女は、ほんの少しの間のあと、

 

『グリフィンドール!』

 

と告げられた。そのあとも、ネビル、ドラコの名前が呼ばれる。ドラコに至っては、帽子が彼の白金の頭に触れたか触れていないかという一瞬の速さで、

 

『スリザリン!』

 

彼は満足げにスリザリンの長テーブルへと向かっていった。

 

「ポッター、ハリー!」

 

ハリーの名前が呼ばれると、大広間中が一瞬にして水を打ったように静まり返り、すぐに激しいひそひそ声が沸き起こった。

原作通りに少しの間をおいたあと、帽子が叫ぶ。

 

『グリフィンドール!』

 

良かった。映画版だと、事前にロンからスリザリンの悪い噂を吹き込まれていたからこそ激しく嫌がったはず。どうやらこの世界線では、映画と原作の要素が絶妙に合わさっているようだ。

 

そんな風に周囲の状況を分析しながら、私は自分の内面へ意識を集中させた。転生特典である「開心術拒否の力」を帽子に本心を覗かれない程度に緩めるように強く意識する。

 

そして、ついにその時がやってきた。

 

「スネイプ、リリローゼ!」

 

私が呼ばれ、一歩踏み出す。その途端、上級生を中心に大広間が静まったかと思ったら、すぐにひそひそとした、ささやき声がした。声までははっきりと聞こえないけれど、あの教授に娘がいるなど、誰も思わなかったのだろう。私がスツールに腰掛けると、古びたとんがり帽子が頭に被せられた。

 

『ほう、これは面白い。勇気もあるし、頭も悪くないし、公平だ。状況を見て臨機応変にも動ける』

 

頭の中に響いたその言葉に、私は驚いた。教授の娘だし、問答無用でスリザリンかと思っていた。

 

『ふむ、どこの寮でもやっていけそうだ。どこか、希望はあるかね?』

 

(選べるのなら、お父さんと同じスリザリンがいいです)

 

私が心の中でそう願うと、帽子は満足そうに告げた。

 

『ふむ、分かった。スリザリン!』

 

笑顔になった私は、スリザリンの長テーブルへと走った。

 

「よくやったぞ、ミス・スネイプ!」

 

「スネイプ教授の娘さんなら、当然スリザリンだな!」

 

緑と銀のネクタイを締めた上級生たちが、盛大な拍手と歓声で私を迎え入れてくれる。先に組分けを終えて席についていたドラコも、マルフォイ家らしいおすまし顔で、小さく私に拍手を送ってくれていた。歓迎の嵐に包まれながら、長テーブルの空いている席へと腰掛ける。私は興奮で上気する頬をそっと押さえながら、上座の教職員席へと視線を向けた。

 

――教授。

 

そこには、いつも通り漆黒のローブを纏い、憮然とした厳しい表情のまま、背筋をピンと伸ばして座っている私のお父さんの姿があった。

 

遠目から見れば、教授は相変わらず冷酷で近づきがたい、スリザリンの寮監そのものの佇まいだ。だけど、私の真っ直ぐな視線に気づいた教授の底のない黒い瞳が、ほんの一瞬だけ――本当に、他人には絶対に気付かれないレベルで、ひどく優しく愛おしそうに和らいだのを、私の目が逃すはずはなかった。

 

(あ、今教授、すっごくホッとした顔をしたよね!? やっぱり私の組分け、内心めちゃくちゃ緊張して見守っててくれたんだわ……!)

 

その不器用な優しさが愛おしくて、私はとても嬉しかった。その後、ロンの「グリフィンドール!」の決定を長テーブルから見届け、アルバス・ダンブルドア校長の「謎の短いスピーチ」が終わると、目の前のテーブルの上に、信じられないほど豪華なご馳走が一斉に姿を現した。

 

賑やかにナイフとフォークを動かすスリザリン生たちの輪の中で、私は手元に用意されたジュースのゴブレットをそっと手に取った。ハリーもロンも、無事にグリフィンドールへ行った 。ドラコも予定通りスリザリンだ。そして私は、教授が寮監を務めるスリザリンの所属を勝ち取った。

 

(よし、ここからが本番よ。スリザリンの寮生として、教授の近くで完璧に立ち回らないと)

 

私はゴブレットの甘いジュースを一口喉に流し込み、美味しそうなローストビーフに手を伸ばしながら、これからの未来について静かに考えていた。

 

食事を進めていると、途中でドラコの隣にスリザリンのゴースト――「血みどろ男爵」がいるのに気がついた。虚ろな目、げっそりとした顔、そして銀色の血でべっとりと汚れた服。

 

(正直、あんな血だらけの人……ゴーストとは言え、その真横で楽しく食事なんて出来るわけないよね……)

 

私は、少しドラコに同情した。すると上級生を中心に次々と私に声をかけてくる。

 

「やあ、ミス・スネイプ。しっかり食べているかい?」

 

「ええ、美味しく頂いております」

 

「それは良かった。……ところで失礼だが、スネイプということは、やっぱりあのスネイプ教授は君のお父さんかい?」

 

まあ、その質問はくるだろうなと想定していた。

 

「ええ。私の父は魔法薬学教授のセブルス・スネイプです。いつも父が大変お世話になっております」

 

私のこれからの態度一つによっては、教授の評判も悪くなってしまうかもしれない。そう考えた私はとにかく好印象を与えるいい笑顔で挨拶した。

 

「いや、お世話になってるのは僕らの方だよ。……それにしても、確かに外見はお父さんによく似ているけれど……」

 

上級生の先輩は、何やらそれ以上は言いづらそうに口を濁らせた。きっと教授と私のギャップに困惑しているのだろう。そのあとも、周囲から投げかけられる色々な質問に笑顔で答えていると、いつの間にかテーブルの上の食事はきれいになくなり、今度は色とりどりのデザートで溢れかえっていた。私が大好物のチョコレートの入ったアイスを食べていると、不意に声をかけられた。

 

「やぁ、ミス・スネイプ。先程はどうも」

 

「ええ、ミスター・マルフォイ。同じスリザリン寮になれて嬉しいです。よろしくお願いしますね」

 

私がにっこりと微笑んで挨拶を返すと、ドラコは私の隣の席へと腰掛けた。そして、自分の父親(ルシウス)と私の父親(セブルス)が昔からの友人であり、付き合いも長いことなどをあれこれと話してくれた。私はドラコの話に適度に合わせて相槌を打ちつつ、デザートを食べながら時折上座の教職員席へとそっと視線を向けた。教授は相変わらず憮然とした顔をして、隣のクィレル教授と何やら不機嫌そうに話をしていた。

 

(確か原作だと、この瞬間に、ハリーは初めて教授を認識するのよね……)

 

でも、この世界線では違う。ハリーとはすでにダイアゴン横丁の『マダム・マルキンの洋装店』でバッチリ遭遇しているし、さっきのホグワーツ特急の車内で、ハリーやロンに教授について色々と話してあるから。

 

(最初から最悪の印象を植え付ける原作の展開に比べたら、教授への印象はそこまで悪くないはず……そう思いたい!)

 

チラッとグリフィンドールのテーブルを見ると、ハリーは額を手でおおっていた。

 

(クィレル教授の後頭部に潜んでいる、ヴォルデモート卿のせいで額の傷が痛むのね……)

 

可哀想だけど、あの傷の痛みに対して、私は出来ることなど何も無い。そんなことを考えながら、デザートを食べ終えた頃、デザートも綺麗に消えていた。上座の席から、アルバス・ダンブルドア校長が立ち上がる。

 

「えー――全員、よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、またいくつか、新学期を迎えるにあたりお知らせじゃ」

 

ダンブルドア校長から、いくつかの説明が始まった。「禁じられた森」には決して入らないようにと言いながら、ウィーズリー家の双子のお兄さんたちをチラリと見たり、授業の合間の魔法についてのや、クィディッチについての話が続く。そして、最後に校長はこう付け足した。

 

「最後に、危険な思いをしないために、今年度いっぱい、4階の右側の廊下は立ち入禁止です」

 

『賢者の石』が隠されているからだ。おそらく、この大広間の中で、ダンブルドア校長と教職員以外でその真実を知っているのは、原作の知識を持っている私だけだろう。その後、生徒全員がバラバラのリズムでホグワーツの校歌を歌い 、ダンブルドア校長の言葉で、大広間はついに解散になった 。

 

「さあ、一年生! 僕に続いて。はぐれるんじゃないぞ」

 

スリザリンの監督生の合図で、私たちは一斉に長テーブルから立ち上がった。大広間の喧騒をあとに、きらびやかな階段を下りて、どんどん城の奥へ――教授の管轄であり、これから7年間を過ごす我が家となる地下牢へと、向かって歩みを進める。

 

周りの壁には冷たい石造りが広がり、松明の緑色の炎が揺らめいていた。グリフィンドールやハッフルパフの生徒たちなら「不気味だ」と怖がるかもしれないけれど、スピナーズ・エンドの薄暗い地下室や居間で育った私にとっては、どこか懐かしくて落ち着く空気だった。

 

(はぁ……、やっと長い1日が終わるわ。早く休みたいし、教授やミリスに会いたいな)

 

湿った石壁の前で監督生が合言葉を唱えると、隠し扉がゴゴゴと音を立てて開き、その奥に緑色の光に照らされた、精緻で豪華なスリザリンの談話室が姿を現した。談話室の暖炉の前に、一年生たちが静かに並べられる。するとその時、パサァッ……と、夜の闇をそのまま切り取ったかのような漆黒のローブを大きくはためかせ、教授が静まり返った談話室へと足を踏み入れてきた。

 

すっと通ったシャープな高い鼻筋、すべてを拒絶するような圧倒的な陰のオーラ。――私の父であるけれど、今はホグワーツの教員であり、スリザリンの寮監、セブルス・スネイプ教授だ。教授は一年生たちの前に立つと、冷酷で底のない黒い瞳で全員を鋭く見下ろした。そのあまりの威圧感に、隣にいた他の新入生たちがびくりと肩を震わせる。

 

教授の視線が、最後に列の真ん中にいる私の姿を真っ直ぐに捉えた。表向きは、一分の隙もない厳格で恐ろしいスリザリンの寮監の顔だ。だけど、私の目と視線がぶつかった瞬間、教授の黒い瞳の奥が、安堵したように微かに揺れたのを私は見逃さなかった。

 

(教授、今朝別れたばかりなのに、ようやく会えたと思ってしまう。スリザリンにこれて本当に良かった……!)

 

私は心の中でそう呟きながら、教授の仕事用の格好いい姿を密かに拝みつつ、誰にも気づかれないように笑顔を向けた。

 

私のホグワーツでの初めての夜が、静かに更けていくのだった。

 

 





ようやく、組み分け儀式が終わりです。
思ったより、長くなりました。

原作だとようやく7章が終わったところですね。

それでは次回もお待ち頂けましたら幸いです。
失礼します。

修正しました。
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