賢者の石と緑の目の少女編での、注意事項を
10話の前書きに、のせております。
そちらの注意事項を、よくお読み頂いてから
先へとお進みください。
厳しめ、原作改変、独自設定、独自解釈、独自展開など
多数です。
その為、何でもあり、大丈夫、な方のみ
お進みください。
それではどうぞ!
▷視点リリローゼ
ゆっくりと目を覚ますと、見覚えのある天井が視界に入った。記憶を辿れば、ここはあのハロウィンのトロール事件の夜に、一度だけ使わせてもらった教授の寝室だ。
私の最後の記憶は、あの禁じられた森の奥にある。ハリーをヴォルデモートから守るため『プロテゴ』の防壁を展開したこと。そして、激しい蹄の音が響き、綺麗な金髪を持つケンタウルス――おそらく原作通りのフィレンツェが助けに来てくれたのを確認したところで、私の意識は途切れていた。
部屋の時計に目をやると、針はもうすぐ日の出の時刻を指そうとしていた。私はシーツから這い出し、まだ少し重い体を動かして、そっと寝室のドアを開けた。隙間から覗くと、薄暗い執務室の机に向かって、黙々と羽ペンを動かしている教授の背中が見えた。
あぁ、また教授のベッドを占領して、大切な休息の場所を奪ってしまったんだ。罰則の最中に私が倒れたせいで、教授にどれほど大きな心労をかけてしまったことか。申し訳なさで胸がいっぱいになり、私が小さく肩を落として反省していると、ドアの開閉音に気づいたのだろう。机の向こうから、教授が静かにこちらへと鋭い視線を向けた。
教授が椅子からゆっくりと立ち上がり、寝室のドアに立ち尽くす私に向かって、恐ろしい表情で歩み寄ってきた。教授の娘としてこれまでの数年間を穏やかに暮らしている間に、私はこの人の本当の怖さをすっかり忘れてしまっていたのだろうか。その迫力に思わず身をすくめ、私は教授をただ見上げることしかできなかった。
怒られる、そう身構えたとき、私の視界がフワリと大きな黒いローブに覆われた。
いつも地下の教室で魔法薬の調合に使っている、あの少し苦い薬品の匂いが鼻腔をくすぐる。それに、インクと羊皮紙のかすかな香り。
私を壊れ物を扱うように抱きかかえる教授の腕は、かすかに、けれどはっきりと震えていた。驚いて恐る恐る盗み見た教授の顔は青白く、酷い顔色をしていた。その目に涙は浮かんでいない。それでも、この数年間を共に家族として過ごす中で理解できるようになった教授の表情は、今にも泣き出しそうに歪んで見えた。
「ローゼ」
名前を呼ばれて、私はハッと息を呑んだ。教授が私をリリローゼではなく愛称で呼んでくれたのは、おそらくこれが初めてのことだった。
私はこの時、初めて自覚した。自分が心を許した人にだけ『ローゼ』と呼んでほしいと頑なに指定していた理由。
それは、教授の心に深く刻まれている偉大なリリーさんと、自分が比べられるのが心のどこかでずっと苦しかったからなのだ、と。私はリリーさんじゃない、私自身を見てほしいと、ずっとずっと願っていたんだ。
こんな緊迫した状況の時に、私はなんてくだらないことを考えているのだろう。自分の場違いな思考に、心の中で小さく自嘲する。
そんな私の迷いや葛藤が、無意識のうちに表情に出てしまっていたのだろうか。抱きしめてくる教授の顔色は悪いままだったけれど、こちらをじっと見つめる真っ黒な瞳は、まるで全てを包み込んでくれるかのように驚くほど優しかった。その深い眼差しに先程までの恐怖をすっかり忘れた私は、私を包み込む震える腕に身を委ねながら、そっと掠れた声で言葉を返した。
「……心配かけて、ごめんなさい。お父さん」
気がつけば、私の目からは涙が溢れていた。教授は、自身の黒いローブが私の涙で濡れるのも気にせず、私の気が済むまで、ただ静かに泣かせてくれた。
どのくらい泣き続けていただろう。やがて私の肩の震えが収まった頃、教授が静かに声をかけてくれた。
「……落ち着いたか?」
私はまだ上手く声が出せず、教授の胸に顔を埋めたまま、小さく首を縦に振った。すると、教授は私をそっと腕から離し、目の前に一つのゴブレットを差し出してくれた。中には、おそらくカボチャジュースだろう、鮮やかなオレンジ色の液体が満ちていた。泣き疲れた喉に、その甘さが染み渡る。
「ありがとう……」
お礼を言ってジュースを半分ほど飲み干すと、教授に机の前の椅子を勧められた。教授も自分の椅子に腰掛け、いつもの鋭い、けれどどこかまだ痛々しげな眼差しをこちらに向ける。
「話せることだけでいい。何があったのか説明しなさい」
重みのある声でそう促され、私はゆっくりと話し始めた。もちろん、あのフードの影の正体がヴォルデモート卿であることや、クィレル先生が後ろ頭に取り憑かれていることといった、前世の原作知識はすべて伏せたままだ。
(ついでに、教授との約束を破ってハリーの左腕にくっついて歩いていたことも絶対に内緒である。教授大好きな私としては、これ以上のヤブヘビは突つきたくない)
私はただ、暗闇の中から不気味なフードを被った影が現れて、横たわるユニコーンの血をすすっていたこと。そして、ハリーと自分を守るために『プロテゴ』を唱えたことだけを、怯えながら教授に伝えたのだった。
私が一通り話し終えると、教授はしばらく沈黙したあと、そっと私の頭の上に大きな手を置いた。その大きな手のひらの温もりが、私の髪を優しく撫でる。
「……無事で良かった」
いつもと同じ低い、地を著うような声だった。けれど、そこには重い安堵が籠もっていた。
その後、教授は私が他の人たちのことを気に病まないようにと、昨夜のメンバーたちの安否を教えてくれた。ハリーも、ドラコも、ネビルも、みんな無事に怪我もなくそれぞれの寮に戻っていること。ハグリッドも、犬のファングも無事であること。
教授は、私がまだホグワーツに入学する前、スピナーズ・エンドの家にいた頃から、近所の野良犬や野良猫をよく見つけては嬉しそうに撫でていたのを知っている。だからこそ、あのおびえて逃げ出した犬のファングの無事まで、わざわざ口にして私を安心させようとしてくれたのだろう。その不器用な優しさが嬉しかった。
手元のゴブレットに残っていたカボチャジュースを最後まできれいに飲み干したあと、私は教授に付き添われて、スリザリン寮の入り口まで静かに送ってもらった。
「……もう、無理な夜歩きはするな。よく休みなさい」
最後にもう一度、いつもの厳しい教授の顔に戻り、リリローゼとしての呼び声と静かな念押しを背中に受けながら、私は自分の部屋へと戻った。
寮の自室に戻ったときには、ルームメイトの子たちはみんな既にベッドから起き上がっていた。教授か、あるいは監督生からすでに昨夜の事情が伝わっていたのだろう。私が部屋のドアを開けて入るなり、みんなが心配そうに駆け寄ってきてくれた。
「ローゼ、大丈夫だった!?」
「怪我はないの? 酷い目に遭ったって聞いたわ!」
良家の子たちと言っても、みんな根は良い子たちなのだ。私はそんな彼女たちの温かさに感謝しながら、「心配かけてごめんね、私は平気よ」と笑顔でお礼を伝えた。
遠くから不器用に見守ってくれている教授や、こうして私の帰りを心配してくれる大切な友達のためにも、これ以上弱音を吐いて立ち止まっているわけにはいかない。私は大広間へ向かうため、しっかりと前を向いて朝の支度を始めた。
あの恐怖の罰則の日から、また数日が経った。
翌朝の大広間では、ハリーたち三人組と直接言葉を交わすことはできなかったけれど、遠くから目線だけでお互いの無事をしっかりと確認し合うことができた。
それからは、迫りくる進級試験に向けて、残りの時間を勉強に費やす日々が始まった。私はひたすら机に向かって羊皮紙と格闘し続けた。
そうして勉強に打ち込むうちに、気がつけば、窓から差し込む光は夏のまぶしい日差しへと変わっていた。
ついに始まった進級試験。
筆記試験は、若くて吸収の早い今の脳のおかげだろう、スムーズに済ませることができた。
続く実技試験も、日頃の復習の成果もあって特に問題はなかったけれど、パイナップルを机の上でタップダンスさせるという試験内容の意味については正直まったくの不明だった。なぜパイナップルにタップダンスを踊らせる必要があるのだろう……。
そして、最後の魔法史の試験を終えて教室を出た瞬間。廊下へと溢れ出た周りの生徒たちは、一斉に歓声を上げていた。みんなの解放感に満ちた気持ちは、私にもよく分かる。私も前世で大学受験が終わったときは、友人たちと騒いだものだ。
そんな風に試験終わりの懐かしい解放感に浸りながら、のんびりと暖かな校庭で日向ぼっこをしていると、いきなり後ろから声をかけられた。
「ミス・スネイプ、今いいかな?」
驚いて振り返ると、そこに立っていたのはドラコだった。私は少し不思議に思ったけれど、断る理由もないので小さく頷いて、彼の後ろをついて行くことにした。
見れば、ドラコは珍しくいつもの取り巻き二人――クラッブとゴイルを連れておらず、一人きりだった。一体どうしたというのだろう。人気の少ない建物の影まで来ると、ドラコは顔を赤くして、何事かを真剣に考えているようだった。
いつもの傲慢な態度はどこへやら、ひどく落ち着きがない。私は彼のそのあまりの赤さに、もしかして夏の暑さのせいで熱でも出したのではないかと心配になった。
「……ミスター・マルフォイ? 医務室に行こうか?」
私がそう声をかけると、ドラコは「違う!」と大きな声を上げて、慌ててそれを否定した。しばらくして、ドラコは意を決したように、泳ぎがちだった視線を私の方へと向けて切り出してきた。
「あ……あの、僕も、君のことをローゼと呼んでも……いいかな? その、僕のことも、これからはドラコでいいから」
予想外の申し出に、私は驚いて目を丸くした。いつも「ミス・スネイプ」と気取って呼んでいたあのドラコが、まさかファーストネームでの呼び合いを提案してくるなんて。けれど、一生懸命に言葉を紡いでくれた彼の気持ちが伝わってきて嬉しかった。
モブを諦めて『友達その1』を目指すと決めた私の世界に、また一人、大切な友達が加わってくれたのだ。私は心からの笑顔を浮かべて、真っ直ぐに彼を見つめた。
「ええ、もちろんよ、ドラコ」
私が了承すると、ドラコはほっとしたように、どこか嬉しそうな照れ笑いを浮かべた。
その後、私たちは「ローゼ」「ドラコ」と少し照れくさそうに呼び合いながら楽しくおしゃべりをして、再び暖かな太陽の光が降り注ぐ庭の方へと向かって歩いていった。
ふと視線を投げた先、少し離れた場所を、ハリーたち三人組が血相を変えてハグリッドの小屋へと向かっていくのが見えた。ドラコは私の少し前を歩いていたので、おそらく彼らの姿には気づいていないだろう。
急ぎ足で去っていくハリーたちの後ろ姿と、ハグリッドの小屋の方角を見つめているうち、私の胸の奥にざわざわとした違和感が突き上げてきた。
何か重要なことを忘れているような気がする。私はドラコとの会話を続けながら、頭の片隅の記憶を探った。試験が終わった解放感に包まれて、私はうっかり頭から抜け落ちていたのだ。
――そういえば、ハリーたちがハグリッドの小屋へ行くということは、これからあの学期末の大事件が始まるのではないか、と。
ドラコのアタック(まずは名前呼び)や、赤い顔を熱と勘違いするオリ主の天然さは気がついたら書いてました。
これがよく、物書きの方がおっしゃる、キャラが勝手に動くという奴ですかね?
それでは、次話でクライマックスへと向かいます。
オリ主が賢者の石のラストバトルにどう関わるのか、ぜひお楽しみ頂ければと思います。
それでは失礼します。