「…まだ終わらないのか」
俺は未だ抜けられる気がしない一歩先でさえ見えるかどうかも怪しい砂嵐の中、コートで口元を覆いながらこの場所に来てからもはや何度目かも分からないため息混じりの声でそう言った。
「はぁ…はぁ…リーウェイ…待って…くれ…」
「ステファン。もうお前と合流してから何分が経った?」
「え?それなら…35分…経ったな…」
ステファンは息を切らしながらも俺に向かって言うと服の中に砂が入らないようにと素早く服の袖で腕を隠した。
「まずいな…」
俺は地団駄を踏むように足に溜まり続ける鬱陶しい砂を顔を殴ってくるように吹いてくる風に向かって蹴ると、ステファンの腕から再び視界を目の前に広がるいっぱいに飛び込んでくる砂に移した。
この様子だと砂嵐はまだしばらくは続きそうだな…となると俺たちには現在砂を避けれる場所がない。仮に見つけたとしても砂嵐がどれだけ長引くかによっては食料と水がないことからそれなりの飢えは覚悟しないとならない…俺だけならまだ耐えられるかもだが、ステファンはたったさっき目覚めたせいか疲弊しきっている。これ以上歩かせることもちろん、食料なしでどれだけ保つかどうか分からない…
改めて状況を整理すると本当に状況がまずいな…
「リーウェイ…後どれぐらいすればこの砂嵐を抜けられると思う?」
「…後少しで抜けられるはずだ。もうすぐ止むとここに住んでいる奴も言っていたしな」
嘘だ。ユメがもうすぐ止むと言っていたが具体的な数字ではなかったことからおそらくここに住んでいる彼女自身の勘だろう。さらにそんな言葉とは対照的にステファンと合流してから35分が経ったが未だにこの鬱陶しい砂嵐は弱まるどころかさらに強くなっている。
「ならよかった…」
「…あぁ」
俺は少しずつステファンの砂に突き刺す足の震えがより大きく、不安定になるのを横目にただ前に進むために重く感じる足を動かした。
——分後
「リーウェイ…」
「…なんだ?」
「後どれぐらいで抜けれる…?」
「…後少しだ」
「さっきも…それ言ってたじゃんか…」
俺とステファンはもう時間がどれくらい経ったのかも分からなくなってしまったほどただひたすらに足元に積もった砂を踏み続け進んでいた。
「俺はこの砂に埋もれて死ぬのか…」
「…そういうことを言うな。本当にそうなるぞ」
後ろを振り返って見れば、ステファンは片手で持っていた銃を背中に服の間に挟んで持ち歩き、今にも倒れそうな足取りでかろうじて俺についてきている状態だった。
ステファンはもうそろそろ限界が近いか…俺もあまりいい状態とは言えないしな…何よりも肩に持っているこいつがいつ起きてもおかしくはない…最悪の場合は…
「…おい!あっちに何か見えるぞ!」
「なんだ!?」
俺は前を向き直し、いつものように考え事をしていると、唐突に耳に響いてくるステファンの声で現実に引き戻された。
「あれは…何かの建物か何かか?」
「今すぐあっちに行こう!もうこんな砂しかないところにいるよりはマシだろ!」
再び後ろを振り返るとそこには砂の中にうっすらと浮かぶ四角いシルエットを興奮気味に指差し、その方向へと向かうステファンの姿があった。
「おい!…はぁ」
俺はもはや止まる様子を見せないステファンの後ろ姿にため息を吐きながら追いかけた。
……..
「クソッ…!なんで…!開かないん…!だよ…!」
「何をしてるんだ?」
ステファンのことを追いかけること数分。俺は遠くからうっすりと見えた四角い家のようなもの玄関口まで辿り着くと、ステファンがおそらく金属製であろうドアに繰り返し体当たりをしていた。
「リーウェイ!よかった…ついて来てたのか…」
「当たり前だろ。ところでなんでお前はさっきからドアに体当たりをしてるんだ?」
「見ての通り…!開かないからだよ…!クソッ…!」
「一回体当たりをするのをやめろ。この砂嵐の中閉まってることからその程度じゃ開かないはずだ」
「っ!はぁ…それもそうか」
「一回ドアから離れろ。鍵が掛かってるだけならちょうどいいものがある」
体当たりを繰り返していたせいかステファンが地面に倒れ込むようにして座り込んだのを横目に俺は肩に持っていた奴を地面にそっと置くと、コートの内ポケットの中からピッキング器具を取り出した。
今このドアを開けられる可能性のあるものはこれしか無い…うまくいくといいんだが…
「…よし」
「開いたか!?」
「あぁ」
「じゃあ入ろう!」
「分かってる」
俺はピッキング器具をしまい代わりに拳銃を取り出した。ステファンも未だに興奮が冷めていないのかいつもよりも大きめの声で俺に話しかけていたが、その手には背中から抜いた残り少ない弾の込められた銃を握り俺と反対側の玄関前の壁に張り付いていた。
やっていることは正直気に食わない、でもこれもまた仕方ないことだ。
「……」
「……!」
ハンドシグナルでステファンに合図を送り俺が前に進みその後ろをステファンがカバーすると言う簡単なフォーメーションで家の中に突撃した。
「ここは…」
「また砂かよ…」
家の中に突撃し、ところどころ穴が開けられている壁を伝いながら廊下を出ると、そこには部屋の端にある大きめな窓から入って来たのか少しばかり溜まっている砂以外ほとんど何も置かれていない一つの大きな部屋があった。
「警戒を緩めるな」
「分かってるって…」
ステファンの吐き捨てるような言葉を背に部屋の中に進んで見るとそこには、部屋の至る所に剥き出しになったコンクリートの壁と天井にヒビが入り、まるで何年も人が足を運んでいないようなまさに廃墟の雰囲気を漂わせていた。
「とりあえずはここで良さそう…」
「ステファン!!」
「は?うわっ!?」
爽快な足取りで俺の後ろから隣に歩いてきたステファンが言い終わる前に俺は背後から殺意を感じステファンを横に思い切り押し出した。そしてそれがまるで正しい判断だったと答えるように後ろから廃墟の静けさを切り裂くような銃声とその弾がステファンの頬を掠めた。
「ステファン!早く立て!」
「あぁもう!なんで何かがうまくいくと毎回こうなるんだよ!」
俺たちはすぐに廊下の入り口の近くに素早く隠れ、臨戦体制を取った。
なんで後ろから銃声がしたんだ?担いでたあいつのだとしても武器は今俺の手元にある…一体誰だ?
廃墟に再び都市製の銃声が数発響いた。
………..
「ねえねえホシノちゃん!今から一緒に宝探しに行かない?」
「またその話ですか?この前も何もなかったのに懲りませんね、先輩。それにもう夜ですよ?」
「ひぃん…」
砂嵐が去った空から眩しいほどに窓から差し込む赤とオレンジ色の光が生徒会室の中を照らすほんのり暖かい空気の中、私は机を囲いながらユメ先輩とようやくアビドス校内の巡回を終えいつも通り家に帰る前の軽い雑談をしていた。
「先輩?」
「…!どうしたのホシノちゃん?」
いつもとは様子が明らかに違う、ずっと窓の外を虚な目で見ていた先輩に声をかけるとまるで白昼夢から覚めるように体を少しびくつかせ、いつもの笑顔で私に返事をくれた。
「…まだあの大人のことを心配してるんですよね?」
「…うん」
「…そうですか」
先輩が私の質問にゆっくりと頷くのと同時に私は腰掛けていた椅子に深く座り込み心の中でため息を吐きながらどうしてか少し怒りが込み上げてきた。
ユメ先輩は困っている人がいれば必ずその人の助けになりたいと考える人だ。その行為自体はアビドスやアビドスに住んでいる人たちに寄り添っていて私自身も憧れていることだ。しかし先輩はその反面誰にでもその救いの手を差し伸べてしまう。『お人好し』これ以上先輩のそんな反面を言い表すには的確な言葉はないと思う。
アビドスにいる大人は基本自分の利益しか考えて行動する。だからこそ先輩は本来差し伸べるはずじゃないに相手にもその救いを与えてしまい、そしてそれは先輩の意思とは裏腹に将来絶対に悪用されてしまう。
「先輩はどうしたいんですか?」
「私はね…リーウェイさんを探しに行こうと思うんだ」
「…本気ですか?」
「うん。だってあの砂嵐の中からもう何時間も経ってるのに戻ってきてないし…私たちが最初に倒れてるリーウェイさんを見つけたしよくあの人のことも知れて…」
「いい加減にしてください!」
私は先輩の口からあの忌々しい大人の名前が発せられていくこと、どうせあいつも先輩を利用しようとしているのだろうと考えるたびに最初は小さくも感じた怒りの炎の火種、渦のようなものが少しずつ大きくなるのが分かった。
そしてついに私は湧き上がってくる怒りに身を任せた。
「は、はぅ…」
「いつもアビドスのためって言って自分の身を顧みず知らない奴らの人助けばっかり!」
「うえぇ…ホシノちゃん一回落ち着いて…?」
「いつもいつも人のことばっかり!先輩は…ユメ先輩はなんでいつもそうやって利用されるだけの行動ばっかりなんですか!」
「……ごめんね、ホシノちゃん」
「っ…!今日はもういいです!」
先輩の落ち込んでいる悲しそうな、寂しそうな笑顔を見ることが耐えられなかった私は生徒会室から逃げるように外に飛び出しって行った。
なんで先輩は…いつも利用されるばっかりなんですか!
校舎の出口をくぐった私は、いつの間にか自分の怒りの感情が自分の心を強く引き締めるような感情に変わっていることに気がついた。
お待たせしました!
友人から投げられた小説と合わせて5つ連載してまして…しかも全部自分の語彙力が足りないし遅筆だから更新が遅すぎる…!
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