Sword Art Online ーPhantom Knightー 作:陣禅 祀
お知らせ:Story 03に下手ながらシモンの挿し絵を入れました
ー第四層・主街区ー
目映い日射し、照り返す白い漆喰の壁、赤煉瓦の屋根、輝く水を満たした水路、行き交うゴンドラ。
まるで現実世界の
私のプレイヤーホームがある街にして、新生アインクラッド屈指の観光名所のひとつ。
「ほう…SAOの時とほぼ変わらないな」
ぽつりとそんなことを呟くヒースさん。私は事情を知っているからいいものの…ってユウキは目をキラキラさせて周りを見回すのに夢中みたいですね。これなら聞かれてはいないでしょう。SAOサバイバーだとバレてしまうと対応が大変なのではないのでしょうか?
「折角ですしゴンドラに乗って我が家まで移動しましょう」
飛べば一瞬ですけど、やっぱり乗るのが筋じゃないですか。
「ホント?!あれに乗るのっ?」
こうして思いっきりはしゃいでいるユウキを見ていると、なんだか微笑ましく思えますね。
「えぇ、そうです。丁度空いてますしあの船着き場のゴンドラに乗りましょう」
近くの船着き場に待機しているゴンドラを見つけて指差し、少し小走りで向かう。
「すみません、3名、この座標のプレイヤーホームの船着き場までお願いします」
船頭さんにそう言いながらマップを可視化して見せる。
「オウ、あいよ!じゃあ嬢ちゃんたち、乗った乗ったァ!」
二つ返事で快く引き受けてくれた船頭さんにお礼を言いつつゴンドラに乗船する。
ユウキ、ヒースさんも続いて乗ったのを確認した船頭さんは「これで全員か?」と確認し、船着き場を離れました。
ゴンドラでの移動は一見ゆっくりとしていそうですが、案外早いんですよね。
言葉に言い表しがたい程綺麗な街並みを眺めながら、ゆったりと落ち着いてぼんやりとそんなことを考えていました。
ユウキはゴンドラに乗ったことが無かったようで、始終落っこちそうになってはヒースさんに引き戻される、ということを繰り返しています。
そのヒースさんはと言えば、溜め息をつきつき危なっかしいユウキの動向を見張っていました。
私がそちらに乗ったほうが良かったですね、すみません…
「着いたぜェ、お客さんがた!」
そうこうしているうちにゴンドラは留まり、少し久し振りに見るもうひとつの『我が家』の前に着きました。
他の家屋と同じような、漆喰の壁と赤レンガの屋根で、少し大きめの三階建て。勿論半円形のテラスもあります。
実は水路に面したシャッターの内側に船渠があり、職人NPCさんに作って貰った個人所有のゴンドラが係留してあるのですが、今回はそれを取ってくるのも手間なのでこうしてNPC船頭さんのゴンドラを利用したんです。
「さ、どうぞ」
乗船料金を支払ってゴンドラから降り、数段しかない階段を駆け上がって玄関のドアを開け、二人を招き入れる。
少し廊下を歩くと、三階まで吹き抜けの光溢れるリビングダイニングに出る。
ベージュや白、緑等の優しい色合いの家具で揃え、壁には白木の木材を貼り、部屋の中程に大きなソファが向かい合うように二つ、一枚板の硝子天板が特徴的なローテーブルを挟むように置いてある。
「うわぁ…きれい……」
息を呑んで部屋を見回しているユウキと、何やら考えている様子のヒースさんへ「適当に寛いでいてください」と伝え、キッチンで紅茶…アールグレイを淹れる。
輪切りにしたレモン、シュガーポットにミルクポットを、紅茶を淹れたティーカップと共に盆にのせ、テーブルまで運んでなるべく音を立てないように置くと、ヒースさんと向かい合って座っていたユウキの隣に腰を下ろした。
「さ、どうぞ。冷めてしまう前に飲んで下さると嬉しいです」
「……戴こう」
角砂糖をひとつ溶かし、レモンのスライスを浮かべると、慣れた所作で紅茶を啜るヒースさん。
学者と言えばコーヒー、なんて先入観がありましたが、やっぱり紅茶も嗜むんですかね?堂に入ってます。
「紅茶かぁ、ちょっと久し振りに飲むなぁ」
そう言いつつ、彼女は慣れない様子で角砂糖2つとミルクを入れてかき混ぜ、落としそうで不安なのか、カップを手のひらで包むように持って少しずつ飲み始める。
ユウキさん…じゃなかった。ユウキはティーカップで紅茶を飲む、なんてことはあまりしなかったようですね。
まぁ紅茶を日常的に嗜むような家庭はそう多くはないでしょうし、当然ですね。ウチもそんな感じでしたし。
私?私はALOを始めてからです。飲み方も知人に教わりました。
角砂糖をひとついれ、軽くかき混ぜて溶けたのを確認すると、香りを味わってから飲み始めます。
VRの中でもこうして紅茶を味わえるのって、とても凄いことですよね。味も香りもほぼ同じですし。
「ふむ…中々上質な茶葉ではないか」
「まぁ、央都の紅茶店で買える中ではそこそこ値の張る品ですからね。アインクラッドで買える紅茶はこの茶葉よりももっと美味しいらしいです。でも少なくともこれの数倍はするんですよね…」
アインクラッド内で買える嗜好品はとても良質ですが、それに比例して相場も高いので中々買えないんです。一度味わってみたいのですけど。
「ん~…ボクは美味しいってこと以外良くわかんないや」
苦笑しながらまた紅茶を啜っていました。滅多に飲まないみたいですし、当たり前ですよね。でもアールグレイは口にあったようで安心しました。
「美味しいと思うのなら充分じゃないでしょうか?紅茶は好みが別れますからね」
へぇ、と彼女は感嘆符を漏らし、残っていた紅茶を飲み干すと、空になったティーカップをソーサーの上に戻し、満足げな顔をしてソファに背を預けました。
「さて、少し休んだところで本題といこう」
「シモン君が提供してくれるのはどのような盾かね?」
先に飲み終えていたヒースさんが、この家に来た目的について切り出してきました。
「そうですね…ヒースさんは主にタンク系が使用する大型が好みのようですので、決闘前に渡したものと同型で、同等かそれ以上の性能のものを持ってきます」
そう言って立ち上がり、リビングを出て2階に続く階段を上がると、寝室に入って部屋に備え付けてある大型ストレージを開く。
先程彼に提供したものは多分29層フロアボスのドロップだろう。LAは他よりレア度の高い首飾りで、一応確認ポップも出ていたので、ちゃんと保管してある。
さて、アレより性能が高いものとなると、以前PKを返り討ちにしたときにドロップしたエンシェントウェポンの盾くらいですねぇ…あのボスドロップの盾、結構高性能…ボックスの中身の大半が鉄屑になるくらいには強力だったんですね…ハハハ……
それを11連撃とはいえ一度のソードスキルで貫通させてロストさせた、って…どれだけ強力無比なんですか…
ユウキの秘めたるポテンシャル、そして破壊力は測り知れない。
《絶剣》、という二つ名は伊達では無いということなんでしょうけど。
とりあえずコレを持っていきましょう。
大型ストレージから探し出した盾を、自身のアイテムストレージに移す。
そして大型ストレージを閉めて寝室を後にし、階段を下りてリビングに戻る。
「ユウキとのデュエルの前に差し上げた盾より性能の高いものがこれしか無かったのですが、これで良いでしょうか?」
とってきた盾をオブジェクト化する。
重厚な鈍色に、十字に走る黒、さらにその黒の真ん中に走る赤のライン。中々ダークな感じの盾ですね。スプリガンというよりはサラマンダーが使った方がしっくり来そうなビジュアルです。
……って確かあのPKさんはサラマンダーでしたし、当たり前ですかね~。
PK推奨だからとか言いつつ、標的の実力も確認しないで無謀に突っ込んでくる(自称)玄人のサラマンダーのPKさん達にはほとほと呆れますよ。集団で掛かってこようがいくつかのOSSを連続発動すれば前衛職は瞬殺。後衛職は羅刹で強襲かけて終わりです。
「ふむ、ふむ…レプラコーンの職人が作ったエンシェントウェポンか。体感重量も重過ぎず軽過ぎず、性能も良い。幸いステータスも装備要求値は満たしている。だが、それよりもコンバートとはいえ初心者にこれほどの装備を提供してくれていること自体に驚きを隠せないが」
実際に装備してそのスペックを実感したみたいですね。満足げな顔をしている…はず。表情が読めません…
「いえ、武器はこの剣しか使いませんから。その盾もたまたま残していただけで、その内露店に出そうかと思っていた品のひとつです」
「そうか…ならば先の直剣と共に気兼ね無く使わせて貰うとしよう」
ストレージに仕舞ったようで、片手に持っていた大盾は消えた。
「ねぇ、今さっき初心者って聞こえてきたんだけど…」
信じられないものを見るような顔をして私たちの方を見てます。え、何故です?……あ。
ユウキ、ヒースさんと試合しましたね。だからですか。その実力で初心者とはどういうことだって感じですね?
「言ったが…それがどうかしたのかね?」
怪訝そうに眉を潜めて……あー…気付かないですか、そうですか。
「え、ちょっ…ホントにホントに初心者なの?!」
ソファから勢いよく立ち上がり、テーブルを飛び越えてヒースさんに詰め寄る。ティーセット壊れたらどうするんですか、もう。
「初心者と言っても此所と似たようなジャンルのタイトルをやっていた。そのタイトルの前線での戦闘経験もある。所詮名ばかりの初心者だ」
魔法は一切勝手がわからないがね、と皮肉げに付け足していた。
「そうなんだ…ボクも一応他のタイトルからのコンバートだし、そんなにやりこんでたなら最初から強くてもおかしくないのかなぁ」
一応納得してくれたようで何よりです。
では、少し気になったことを切り出してみることにしますか。
「さて、これからどうしますか?一応この家を拠点に活動することもできなくはないですが」
「うーん…そうだねぇ…」
「私はその方が都合が良い。決まった拠点を持つ、というのは集団で活動する場合において色々と便利だろう」
悩んでいる風のユウキと、経験者的な視点から語るヒースさん。確かに、ヒースさんの言う通りではあります。バラバラのギルドに所属するパーティーでの集合や作戦会議を、個人のプレイヤーホームで行うなんてのもたまに聞く話ですから。
「え、えーと、つまり…どういうこと?」
頬をぽりぽりとかきながらユウキは苦笑する。
「集合場所は何処だ、というのが手っ取り早く決めやすくなったり、酒場等を利用しなくても攻略会議の内容を聞かれずに済んだりといった利点があります」
「……まぁ私もそこらの高価格帯の宿より居心地の良い家だと自負してますし、ヒースさんとユウキさんなら出入り自由にしても悪用しないと信じられますから、それでも構いません」
「なるほど…っていいの?!え、いいの!?」
「そ、そんなに詰め寄らないで下さい……えぇ。ヒースさんは私のために
「そう、なんだ。それだけで許しちゃっていいの?人は見かけによらないっていうし」
「私の見立ててでは貴女も私と同じように直感や動向の観察なんかで関わる・関わらない、信用できる・できないをはかるタイプだと思いますけど」
自分のことなのでアレですが、先程寝室に行った際、声のトーンは自然に変わるのに、表情の方は意識しないとかわらないことに気が付きました。大型ストレージのすぐ上に鏡を掛けてたからなんですけど。
傍目にはかなり関わりにくそうな人物に見えるはずです。
その点を踏まえて考えてみると、ユウキも直感か観察かで関わる人間を選んでいるという結論に達しました。
「あはは…やっぱり?確かにそんな感じかなぁ」
「さて、ではこのプレイヤーホームの入退室許可を出しておきますね」
所有者権限から二人に自由な立ち入りの許可を与え、その他の設定を確認し、OKしてウィンドウを閉じる。
「これでいつでもこの家に出入りできますから、一旦お開きにしても構いませんよ。連絡はフレンド機能のメッセージや通話で可能ですし…ってヒースさんはフレンド登録してませんでしたね」
メニューウィンドウを出して操作し、ヒースさんにフレンド申請を送る。
「む、そういえばそうだったか」
申請受領のウィンドウが出たのを確認して閉じる。
「んー、じゃあボクはそろそろ帰ろっかな。今日はすっごく楽しかった!ありがとね、シモン、ヒースさん!」
三人でリビングから玄関まで出て、ユウキと二言三言別れの言葉を交わし、明日も会おうという約束をし、彼女は飛び立った。
飛んでいくユウキさんの後ろ姿が玄関先から見えなくなるまで手を振って見送り、ヒースさんと共にリビングに戻る。
「さて、どうしましょうか」
「ベッドはひとつだけですので私かヒースさんがソファで寝ることになりますけど」
「家主は君だろう、何を言っているのかね…私がソファで寝る。研究室や開発室に籠ることが多かった私にその程度が苦になる筈がないだろう」
「…寧ろソファで寝られるだけでも有り難いくらいだ。背凭れの低い椅子で寝るほど辛い寝方はそうそう無い…」
うわ、辛い…というより私寝付ける自信無いですよ、それ…
「そ、そうですか、なんだかすみません…」
「あ、室温なんかは大丈夫だと思いますが、毛布をどうぞ」
ストレージから毛布をオブジェクト化して渡す。
「いや、君が謝ることではない。む…すまないな、有り難く使わせてもらおう」
彼は私の手から毛布を受けとり、ソファに掛けた。
「…で、これからどうする?」
「そうですね…今現在兄らしき人物からの新たなメッセージは届いていませんし、兄名義のアカウントもログイン状態ではありません。ですので私自身がこうしたい、というのは無いです」
新着メッセージの有無を確認してから答える。
「そうか…ならば少し付き合って貰えるか?顔を見ておきたい知り合いが居てな。まぁあのホロウエリアでも時々見ていたのだが」
私が首を傾げていると、あぁ、ホロウエリアというのは私が居たあの白い空間のことだ。と付けたしてくれた。
「そうですか。見ておきたい、ということは居場所の目星はついているんですよね?」
「まぁ、な。ログイン時間の大半を過ごしている場所は心得ている」
少し口角を上げる姿を見て、ヒースさんにとって良い意味での知り合いなのだろう…等と思ってみたり。
「なら構いません、お供します」
別にすることも無い訳ですし、暇を潰すには丁度良いでしょう。
「それでは22層へ行くとするか」
現在解放されている新生アインクラッドは30層、それまでで唯一確認されている、迷宮区以外のマップでの敵mobのポップが無いーー云わば緩衝地帯となっている層。キャンプとか、バーベキューみたいなレジャーに人気な層でしたっけ。
ふと頭に層の情報が過ったが、然して重要でもないので無視する。
家を後にし、飛翔して転移門へ向かうヒースさんに着いていきながら、その知り合いについて考えてみる。
ヒースさんのようにその人物もまた研究者なのか、はたまたただの友人であるのか。
ヒースさんの性格がまだよく解っていない私にはその程度しか思いつかない。
ヒースさんと共に転移門を潜り、湖と針葉樹林が広がる22層へと向かう。
促され再び飛翔し、その目的地へと向かっているであろうヒースさんの後を追う。
少しして進行方向に見えてきたのはーーー
林に囲まれた、プレイヤーホームらしきログハウスだった。
更新遅くなって申し訳ありませんでした…
ちまちま書いてたのですが、やはりリアルに圧迫されてがーっ!と執筆する余裕も無く…
また亀更新かもしれませんが、何卒生暖かい目で見守ってくださいm(__)m