アクトと黒曜 ――銃声と魔法、軽口と理屈。関係に名前をつけないまま、共に走る   作:矢塚 和哉

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 白い装甲の継ぎ目に、一本だけ銀色が残った。

 

「そこ、埋めへんの?」

 

 アクトが訊いた。

 

 EVOの整備台の横で、技術担当者が手を止める。

 

「埋められます」

 

「ほな、なんで止めたん」

 

「あなたが先ほど、残せと言いました」

 

「ああ。せやった」

 

「忘れないでください」

 

「麻酔明けの人間に厳しない?」

 

「局所麻酔です」

 

「ほな言い訳できへんな」

 

 右肩。

 

 白い増加装甲は新しい部材へ交換されている。

 

 その前縁、肩から上腕へ落ちる継ぎ目だけ、幅数ミリの銀色が露出していた。

 

 破損した装甲を剥がし、内部フレームを点検し、交換できるものは交換した。

 

 全部を新品のように戻すこともできた。

 

 アクトが残した。

 

「傷に見えます」

 

 黒曜が言った。

 

「傷やろ」

 

「機械ですよ」

 

「機械でも壊れたら傷や」

 

「直せるのに?」

 

「直っとるで」

 

 アクトは右腕を上げた。

 

 回す。

 

 止める。

 

 指を開く。

 

 閉じる。

 

 右肩の駆動表示は正常。

 

 左膝も補助制御を外している。しゃがむ。立つ。ほんの少しだけ重心が右へ逃げた。

 

「まだ庇っています」

 

 理香子が端末を見たまま言った。

 

「二・八パーセント」

 

「誤差や」

 

「昨日は四・一パーセントでした」

 

「改善しとるやん」

 

「ゼロではありません」

 

「人間にゼロ求めんな」

 

「サイバーリムです」

 

「あたしが乗っとる」

 

 理香子が顔を上げた。

 

「それは、そうです」

 

「やろ?」

 

 アクトは笑った。

 

 首を回す。

 

 整備室の後ろには、白い壁と、黒曜と、理香子がいた。

 

「今、見ましたね」

 

 黒曜が言う。

 

「見たで」

 

「首で」

 

「首で」

 

「よろしい」

 

「何様や」

 

「停止役です」

 

「まだ有効なん、それ」

 

「契約上は」

 

 理香子が端末を操作した。

 

「今から、その契約の話です」

 

「嫌な言い方するなあ」

 

「契約の話は基本的に嫌なものです」

 

「一般社会人みたいなこと言いよる」

 

「一般社会人です」

 

「まだ言うか」

 

「契約更新されています」

 

「そこだけ妙に強いな」

 

 整備室の扉が開いた。

 

 EVOの契約担当者が立っていた。

 

「会議室の準備ができました」

 

 アクトは肩を回す。

 

 銀色の線が、白の中で一瞬だけ光った。

 

「ほな、次直そか」

 

「何をですか」

 

「契約」

 

 

     *

 

 

 白い会議室。

 

 白い机。

 

 白くないものが四人分、向かい合って座っていた。

 

 アクト。

 

 黒曜。

 

 理香子。

 

 EVOの契約担当者。

 

 壁面には契約書が三枚並んでいる。

 

 旧契約。

 

 追加試験契約。

 

 改訂案。

 

「まず」

 

 黒曜が言った。

 

「ヘカトンケイル実戦試験について、当初予定された試験工程は終了したものと扱います」

 

「はい」

 

 契約担当者は即答した。

 

「継続試験は?」

 

「別契約です」

 

「自動更新は?」

 

「ありません」

 

「実戦データの二次利用」

 

「現行契約範囲内では、匿名化した技術評価に限定されます」

 

「同伴者のデータは?」

 

「除外します」

 

 理香子が横から言う。

 

「除外の定義が曖昧です。アクトさんのログに混入した第三者由来情報も含めてください」

 

 契約担当者が一拍置いた。

 

「修正文を提示します」

 

 画面の一節が書き換わる。

 

 アクトはそれを眺めた。

 

「速いな」

 

「交渉の準備はしていました」

 

「うちらが何言うか分かっとった?」

 

「ある程度は」

 

「ほな最初から書いといてや」

 

「企業契約は、要求されていない権利を自発的に増やすようにはできていません」

 

「清々しいな」

 

「ありがとうございます」

 

「褒めてへん」

 

 黒曜が次の項目を開く。

 

「緊急切断権限」

 

「本人、指定第三者、医療安全担当に残します」

 

「優先順位は?」

 

「生命保護に関する閾値を超えた場合、医療安全担当が最優先です。それ未満では本人、指定第三者」

 

「指定第三者、二名」

 

「可能です」

 

 アクトが理香子を見る。

 

「お前と黒曜な」

 

「確認します」

 

 理香子は端末から目を上げない。

 

「私は次も切ります」

 

「知っとる」

 

「五秒と言われても」

 

「知っとる」

 

「三秒でも」

 

「しつこいな!」

 

「確認です」

 

 黒曜が淡々と言った。

 

「私は殴って止めます」

 

「お前だけ物理なん?」

 

「確実なので」

 

「魔法使えや」

 

「あなた相手に?」

 

「……物理でええわ」

 

 契約担当者が咳払いを一つした。

 

「続けても?」

 

「どうぞ」

 

「部品供給についてです。契約終了後も、現行規格部品は有償で供給します。ただしデルタグレード部品の外部持ち出しには制限があります」

 

「独立整備資料は?」

 

 理香子が訊く。

 

「診断仕様と交換手順の一部を開示します。製造工程は除外」

 

「妥当です」

 

「おい」

 

 アクトが理香子を見る。

 

「そこで即妥当言う?」

 

「製造工程まで要求すると交渉が止まります」

 

「一般社会人め」

 

「一般社会人です」

 

「嬉しそうやな」

 

「事実です」

 

 黒曜が最後の項目を表示する。

 

「ヘカトンケイル接続方式の改修成果」

 

 空気が少し変わった。

 

 契約担当者は理香子を見る。

 

「共同成果として扱います。EVO側の既存神経接続技術と、理香子さんの情報選別方式の組み合わせです」

 

「私の成果物は?」

 

「選別ロジック部分について、本人保有の複製を認めます」

 

「外部利用」

 

「競合企業への直接提供は禁止。非軍事用途の研究利用は申請制」

 

「期間」

 

「三年」

 

「長いです」

 

「五年案から縮めました」

 

「二年」

 

「三年」

 

「二年半」

 

 契約担当者が止まった。

 

「……二年半」

 

「はい」

 

 アクトが黒曜へ小声で言う。

 

「強ない?」

 

「誰に似たんでしょうね」

 

「知らんなあ」

 

「あなたですよ」

 

「なんでや」

 

 理香子は聞いていなかった。

 

 改訂条項を一行ずつ追っている。

 

 以前なら、アクトの後ろから画面を覗いていた。

 

 今は自分の席がある。

 

 自分の端末がある。

 

 自分の名前で契約する欄がある。

 

「一点」

 

 理香子が言った。

 

「ヘカトンケイルの次期接続試験について、アクトさん単独の適合を前提にしないでください」

 

 契約担当者が眉をわずかに動かした。

 

「説明を」

 

「方式を変えます」

 

「どのように?」

 

「まだ設計中です」

 

「では契約には――」

 

「設計中だから、単独適合を前提にしないと書いてください」

 

 沈黙。

 

 アクトが吹き出した。

 

「強なったなあ」

 

「黙っていてください」

 

「はい」

 

 契約担当者は文面を修正した。

 

 理香子が読む。

 

 黒曜が読む。

 

 アクトは途中で目を細めた。

 

「長い」

 

「読んでください」

 

「二人読んどるやん」

 

「あなたの契約です」

 

「はいはい」

 

 三人で読んだ。

 

 最後にアクトが承認欄へ指を置く。

 

 止めた。

 

 黒曜を見る。

 

「何です」

 

「ええ?」

 

「私に訊かないでください」

 

「まだ何も言うてへん」

 

「顔が訊いています」

 

「顔で契約したらあかんな」

 

「当然です」

 

 理香子を見る。

 

「私は私の分を確認しました」

 

「せやな」

 

 アクトはもう一度画面を見る。

 

 押した。

 

《契約改訂:承認》

 

 白い文字が出る。

 

 それだけだった。

 

「終わり?」

 

「終わりです」

 

「もっとこう、ファンファーレとか」

 

「ありません」

 

「百万新円の時はもっと緊張したんやけどな」

 

「今回は払う側でも貰う側でもありません」

 

「ほなええわ」

 

 契約担当者が初めて少しだけ笑った。

 

 

     *

 

 

 ダンボの外部腕は、一本ずつ外されていた。

 

 一度に全部ではない。

 

 本人が選んだ順番で。

 

 EVOの医療区画。

 

 観察窓の向こうで、巨大な男が椅子に座っている。

 

 右側に二本あった補助腕は、一つになっていた。

 

 左側はもうない。

 

 背部の火器支持機構も外されている。

 

 端末が表示される。

 

《REMOVAL CANDIDATE:LEFT SUPPORT ARM》

 

《REMOVE》

《KEEP》

《DEFER》

 

 ダンボの指が止まる。

 

 三秒。

 

 五秒。

 

 十秒。

 

 アクトは観察窓のこちら側で腕を組んでいた。

 

「遅いですね」

 

 黒曜が言った。

 

「ええことや」

 

「そうですか」

 

「前は〇・二秒やった」

 

 ダンボの指が動く。

 

《DEFER》

 

 保留。

 

 アクトが笑う。

 

「ほら」

 

「何がです」

 

「決められへんのも、自分で決めとる」

 

「詭弁では?」

 

「そうかもな」

 

 ダンボがこちらを見る。

 

 ガラス越しに目が合った。

 

 口が動く。

 

 音声回線が開く。

 

『何を笑っている』

 

「迷っとるから」

 

『悪いか』

 

「全然」

 

『……次は外す』

 

「知らんがな」

 

『お前が外せと言った』

 

「次に何付けるか自分で決めろ言うたんや。全部外せとは言うてへん」

 

 ダンボが黙った。

 

 端末を見る。

 

『残してもいいのか』

 

「誰に訊いとる」

 

『……』

 

「それ決める練習しとるんやろ」

 

 ダンボは返事をしなかった。

 

 回線が切れる。

 

 もう一度端末を見る。

 

《REMOVE》

《KEEP》

《DEFER》

 

 今度は、どれもすぐには押さなかった。

 

「時間がかかりますね」

 

 理香子が言った。

 

「かけたらええ」

 

 アクトは観察窓から離れた。

 

「急いで完成せんでええやろ」

 

 

     *

 

 

 小鴉からの通信は、三十七秒だった。

 

 理香子の端末に転送された短い映像。

 

 黒い髪。

 

 無表情。

 

 背景はMCT施設らしい白い壁。

 

『ダンボの回収要求は撤回されていません』

 

「せやろな」

 

 アクトが答える。

 

『あなた方が保有し続けるなら、再度接触する可能性があります』

 

「本人に訊いたら?」

 

 一拍。

 

『彼はMCT資産です』

 

「本人やろ」

 

『同じです』

 

「同じちゃうやろ」

 

 小鴉は少しだけ目を細めた。

 

 その後ろで、誰かの声がした。

 

 ラッシャーかもしれない。

 

 画面には入らない。

 

『黒宮静』

 

 小鴉が黒曜を見る。

 

『あなたはまだ、そちらにいるのですね』

 

「います」

 

『なぜ』

 

 黒曜はすぐには答えなかった。

 

 アクトも理香子も口を挟まない。

 

「私が決めたからです」

 

 小鴉は黙った。

 

『そうですか』

 

「はい」

 

『理解できません』

 

「でしょうね」

 

『では』

 

 通信が切れた。

 

 三十七秒。

 

「短かったな」

 

「十分です」

 

 黒曜が言う。

 

「喧嘩せんかったやん」

 

「してほしかったんですか」

 

「いや、別に」

 

「では黙ってください」

 

「今日みんな強ない?」

 

 

     *

 

 

 理香子の作業机には、ヘカトンケイルの接続図が広がっていた。

 

 以前の図とは違う。

 

 中央にアクトはいない。

 

 正確には、中央そのものがない。

 

 視覚。

 

 聴覚。

 

 外部肢。

 

 防護。

 

 火力。

 

 それぞれの入力と出力が小さな群れに分けられている。

 

 その外側に三つの認証枠。

 

《ACT》

 

《RIKAKO》

 

《KOKUYOU》

 

「なんで黒曜まで入っとるん?」

 

「停止権限」

 

「契約で入れたやん」

 

「それだけではありません」

 

 理香子が図を拡大する。

 

「前の方式は、最終的に全部をアクトさんへ集めていました」

 

「せやな」

 

「選別しても、最後は一人です」

 

「まあ、あたしの身体やし」

 

「だから切断した時、一人で全部失いました」

 

 アクトは首を回した。

 

 理香子がそれを見る。

 

「今も残っています」

 

「まあな」

 

「次は、接続そのものを一人に集めません」

 

「どうすんの?」

 

「アクトさんが見るものを決める。私は流す情報を決める。黒曜さんは止める条件を持つ」

 

「前も似たようなもんちゃう?」

 

「権限が違います」

 

 理香子は三つの枠を指した。

 

「前は、私も黒曜さんもアクトさんを補助していました」

 

「うん」

 

「次は三人とも接続の一部です」

 

 黒曜が眉を寄せる。

 

「私まで機械に繋がるつもりはありません」

 

「神経接続ではありません」

 

「ならいいです」

 

「即答やな」

 

「そこは重要です」

 

 理香子が続ける。

 

「常時ではありません」

 

 一つの線を消す。

 

「必要な時だけ」

 

 別の線を繋ぐ。

 

「一人が全部を持たない」

 

 三つの認証枠が、それぞれ別の色で点灯する。

 

「でも、三人が一人になるわけでもない」

 

 アクトは図を見る。

 

「めんどくさそうやな」

 

「めんどくさくします」

 

「なんで」

 

「簡単すぎたからです」

 

 理香子が言った。

 

「ダンボのシステムは、選ぶ工程を減らして速くしました」

 

「うん」

 

「前のヘカトンケイルも、アクトさんへ集めれば集めるほど速かった」

 

「うん」

 

「だから、少し遅くします」

 

 アクトが目を瞬く。

 

「兵器を?」

 

「人間を」

 

 黒曜が理香子を見る。

 

「それで性能が落ちても?」

 

「落ちます」

 

「即答ですね」

 

「速さだけなら」

 

 理香子は画面を閉じなかった。

 

「でも、誰か一人が変なことをした時、他の二人が止められます」

 

「変なこと」

 

 アクトが言う。

 

「主にあなたです」

 

 黒曜が言う。

 

「なんでや!」

 

「実績です」

 

「否定できへんの腹立つな」

 

 理香子の口元が少し動いた。

 

「フヒ」

 

「笑ったな!」

 

「笑っていません」

 

「今フヒ言うた!」

 

「呼吸です」

 

「便利やなその言い訳!」

 

 黒曜がため息をつく。

 

 理香子は画面へ戻った。

 

 名称欄が空白だった。

 

「名前つけへんの?」

 

「まだです」

 

「ヘカトンケイル二号」

 

「嫌です」

 

「即答やな」

 

「百の手にする必要がありません」

 

「ほな何」

 

 理香子は考えた。

 

 黒曜が画面を見る。

 

「選べる形」

 

 二人が黒曜を見る。

 

「名前?」

 

「違います」

 

「ほな何」

 

「今の状態です」

 

 理香子は少し考えてから、名称欄を空白のまま保存した。

 

 

     *

 

 

 夜。

 

 三人で帰った。

 

 アクトの部屋。

 

 玄関に靴が三足。

 

 もう珍しくない。

 

 理香子は自分の端末を抱えて作業机へ向かう。

 

 黒曜はローブの袖を直しながら台所を見る。

 

「食事は?」

 

「蕎麦」

 

「またですか」

 

「ええやろ別に」

 

「理香子は?」

 

「何でもいいです」

 

「一番困る答えや」

 

「では蕎麦」

 

「決めたな」

 

「はい」

 

 アクトは棚から乾麺を出した。

 

「乾麺ですか」

 

「今日はな」

 

「この前は生でした」

 

「毎回生蕎麦食えるほど金持ちちゃうねん」

 

「百万新円」

 

「部品代で飛ぶわ」

 

 鍋に水を入れる。

 

 火をつける。

 

 右後ろ。

 

 手がある気がした。

 

 鍋の取っ手を、そこにない手で掴もうとする。

 

 何も起きない。

 

 アクトは一度止まった。

 

 右手で掴む。

 

 位置を直す。

 

「今」

 

 黒曜が言う。

 

「言うな」

 

「何も言っていません」

 

「顔が言うとる」

 

「顔で会話しないでください」

 

「お前が先にやったんやろ!」

 

 理香子が端末から顔を上げる。

 

「会話成立率、八十二パーセント」

 

「何測っとんねん」

 

「今」

 

「やめろ!」

 

 理香子の口元がまた少しだけ上がった。

 

 鍋の湯が沸く。

 

 アクトは乾麺を入れた。

 

 二本の手で。

 

 それで足りた。

 

 

     *

 

 

 同じ夜。

 

 EVOの医療区画で、ダンボの端末に三つの選択肢が残っていた。

 

《REMOVE》

《KEEP》

《DEFER》

 

 彼は長く見た。

 

 左の補助腕。

 

 まだ動く。

 

 強い。

 

 便利だ。

 

 それから、自分の右手を見る。

 

 指を開く。

 

 閉じる。

 

 もう一度。

 

 端末へ手を伸ばす。

 

 止まる。

 

 戻す。

 

 五秒。

 

 十秒。

 

 十五秒。

 

 表示は急かさない。

 

 推奨も出ない。

 

 最適解も出ない。

 

 ダンボは、自分で考える。

 

 やがて指を伸ばした。

 

《KEEP》

 

 残す。

 

 次の項目。

 

《REMOVE》

《KEEP》

《DEFER》

 

 今度は、

 

《REMOVE》

 

 外す。

 

 次。

 

《DEFER》

 

 決めない。

 

 画面の下に、処置予定が更新される。

 

 残すもの。

 

 外すもの。

 

 まだ決めないもの。

 

 ばらばらだった。

 

 

     *

 

 

 翌朝。

 

 アクトは玄関で白い通常小銃を確認した。

 

 弾倉。

 

 安全装置。

 

 照準。

 

 ガウスライフルは持たない。

 

 ヘカトンケイルもない。

 

「依頼内容」

 

 黒曜が言う。

 

「護衛。二時間。たぶん何も起きへん」

 

「その言い方で何度起きましたか」

 

「数えてへん」

 

「私は数えています」

 

「やめて」

 

 理香子が端末を持って立つ。

 

「経路、三案あります」

 

「一番飯屋多いの」

 

「護衛です」

 

「終わった後や」

 

「二番」

 

「採用」

 

「仕事で決めてください」

 

「仕事終わった後の選択も大事やろ」

 

 黒曜が扉を開ける。

 

「行きますよ」

 

「はいはい」

 

 アクトが一歩出る。

 

 右後ろ。

 

 見えない。

 

 首を回す。

 

 黒曜がいる。

 

 理香子がいる。

 

 前を向く。

 

 右肩の白い装甲に、細い銀色の線が走っている。

 

「アクト」

 

「ん?」

 

「何を笑っているんです」

 

「別に」

 

「気持ち悪いです」

 

「ひどない?」

 

「事実です」

 

「一般社会人もなんか言うたれ」

 

「出発予定時刻を二十七秒超過しています」

 

「そっち!?」

 

 三人が廊下を歩く。

 

 アクトは白い右手を上げた。

 

 銀色の線が朝の光を拾う。

 

「ほな、行こか」

 

 黒曜が隣を歩く。

 

 理香子が半歩遅れて続く。

 

 三人は、そのまま街へ出た。

 

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