ヤンデレに監禁されるわけwww 作:ヤンデレエアプ
眼の前で刃がギラギラと輝いている。これが俺の首を刈り取るのだろう。最悪である。俺の人生はもうここで終わりだ。
「口先の魔術師、カイ・マサン。貴様には指名手配が掛かっている。大人しく従うんだな」
「はい。……従います」
「聞き分けが良いな。よし、王宮まで大人しくしておけよ。暴れようとは考えないことだ」
目の前の男が剣を収める。鎧には王国の紋章と剣があしらわれている。この男、近衛騎士だ。
――対して、俺は詐欺師である。転生チート?? 現地民の方が強かったんだよ!!
俺は、ついこの前までイバヤ王国の宮廷魔術師だった。イバヤ王国からは金を巻き上げたので、本性がバレないうちに宮廷魔術師を辞めとっとと国を出国したのだ。
宮廷魔術師には学歴や才能が必要とされる。俺には学歴も才能もない。才能については誤魔化しようはないが、学歴は詐称出来る。なので、俺は学歴詐称をした。
碌な学歴がないので、当然高尚な魔術理論なんてものは知らない。姫様の教育係に目出度く任命されたが、俺は教育なんてしたことがない。なので適当なことを口からでまかせで喋っていたら、姫様はよく分からないけど魔術が上手くなった。
宮廷魔術師というのは、口が上手ければ誰でも出来る職業である。騎士のようにフィジカルも剣の腕前も必要ない。チョロいもんだぜ。
それっぽいことを言っておけば、脳筋の騎士には分からない。そしてインテリ陰キャの魔術師は、そもそもこちらに介入してこない。
ということで、宮廷魔術師に潜り込めたらクッソ適当なことを言ってもオッケーなのだ。最先端の魔法理論とか言って、カレーの作り方を教えても何の問題もない。
「騎士様、その鎧だと疲れませんか?」
「疲れないと言えば嘘になるな。マサン卿、貴公はなぜ王国を去るのだ? 貴公は多大な功を収めたのだぞ。褒章だけを受け取り、国を去るなど姫様に申し訳が立たん。故に貴公を指名手配させてもらった。許せ」
やめてくれ。俺は適当なことを言っただけだ。姫様が勝手に成長しただけだよ。俺の功績はない。
「疲労回復の霊薬です。是非ともこれを」
「むっ、貴重なものではないのか?」
「ええ。それなりに貴重ですが、私であれば簡単に作れますよ」
「ならいただくとしよう。感謝する」
――引っ掛かったなバカが!!! それはTS薬だ!!! ぐっすり寝たあとに美少女になるから副次的作用として疲労は回復するぞ!! なので、疲労回復の霊薬ということは嘘ではない。本当でもないが。
寝落ちした騎士を尻目に、俺は逃げ出した。あばよ、イバヤ王国!! 二度と来ねえから!!
§ § Tips:姫様は遠見の魔法が得意 § §
少女となって帰還した己の騎士を見て、氷の姫ウスラは穏やかな笑みを浮かべた。
もっともその内心は全く穏やかではなかった。己の師であり恋人でもあるカイ・マサンをまんまと目の前の騎士は取り逃がしたのだ。
ちなみに恋人だと思っているのは彼女だけである。ウスラは愛を告白することすらしていない。
「ええ。あなたにはもとより期待していませんでした。師はあれぐらいで捕まるような人ではありません」
ピリピリとしたウスラの感情は氷の魔力となり、部屋に広がっていく。霜が降り始めたのを見て、騎士は恐怖と寒気から身体を震わせた。
ウスラは先天的な魔力異常症であった。彼女の持つ絶大な魔力は、ウスラの感情と共に、氷の魔力として出力されていた。
ウスラの成長とともに、氷の魔力はその鋭さを増し、周囲を無差別に凍らせるようになった。
ウスラが笑えば、周囲が人モノ問わずに凍りつくのである。人が死ぬことは起きなかったが、何人もの侍女や使用人がウスラの氷の餌食となり、傷付いた。
感情が昂ぶれば、周囲が傷付いてしまう。それを知った彼女は笑うことをやめた。
表情を示さなくても、氷の魔力は時たま暴走し、周囲を傷付けた。王と后は、ウスラへの愛情を次第に失っていった。
ウスラは自分が両親に愛されなくなったことを悟り、その晩に部屋を氷漬けにした。その行為は、彼女を危険と判断するのには十分すぎるものだった。
ウスラを待っていた運命は、還らずの塔と呼ばれる尖塔への幽閉であった。
眼の前で必死に詫びている騎士すら、ウスラとは会おうとしなかった。偶然顔を合わせると彼の顔には恐怖が貼り付いていた。
きっとこの先、誰にも愛されない。そして孤独のまま死んでいくのだろう。そうウスラは思っていた。
新しい宮廷魔術師が雇われたことをウスラは侍女の噂話を通して知った。その男は、クジマー魔術学院の卒業生であり、極めて魔術理論に秀でているという話であった。
ウスラは宮廷魔術師という存在に、良い印象を持っていない。なぜなら彼らはウスラの魔力異常症をどうすることも出来なかったからだ。
今度の魔術師も同じだ。そうあらかじめ思うことで、ウスラは心のバランスを保っていたのかもしれない。
しかし、カイ・マサンという男は今までの宮廷魔術師と全く違った。
「ウスラ姫、あなたはそのチカラを制御出来ます」
初対面でそんなことを言う魔術師は、初めてだった。他の魔術師は、ウスラの魔力の強さに恐れ慄くか距離を取っていたのだから。
「無理よ。今まで誰もこの力をどうすることも出来なかった。だからあなたも出来ないわ」
「いえ、私がどうにかするのでは有りません。あなたがそのチカラを制御するんです」
「……私が?」
ウスラには困惑しかなかった。ウスラ自身が制御するなんてことは、不可能だからだ。自分でコントロール出来れば、ウスラは幽閉なんてされていないはずなのだ。
「不安ですか? ここには宮廷魔術師である私がいます。だから、大丈夫ですよ」
「そんなことを言っても無駄よ。私の氷は皆を不幸にするから」
ウスラは、男との会話を打ち切った。どうせ男は来なくなる。その方が良いのだ。ウスラの氷で傷付く人は少ない方が良い。
男は、ウスラの予想に反して翌日も、翌々日もやってきた。
「……私が怖くないの?」
「恐れる必要がありますか? ウスラ姫は可憐で優しい。あなたを慕い塔に通う侍女がいることがその証左ですよ」
「私が優しい?」
「ええ」
男の言葉は本当だろうか? ウスラはそれを疑った。自分は両親に見捨てられた身であり、親切にする必要性はない。なら、本当かもしれない。
「おや、ウスラ姫。ようやく笑ってくれましたか」
男に指摘されるまで、ウスラは自分が笑っていることに気が付いていなかった。感情を他人に見せるということは、ウスラにとっての禁忌であった。
「マサンさん、逃げて! 氷が!」
氷の魔力が部屋の中に溢れていく。中心にいるウスラは、どうすることも出来なかった。
しばらく魔力の暴走が起きていなかったからであろう。ウスラの氷は人を傷付けるには十分な冷たさを抱えていた。
――部屋の氷が一瞬で消える。
マサンが指を鳴らしたのだ。大きな魔力の揺らぎはあったが、彼の魔力は揺らいでいない。
「…何をしたの?」
「ちょっと友人の力を借りたのですよ。姫様、お手を。あなたの力をお借りしますよ」
ウスラの指先をマサンの温かな指が包み込む。それは、ウスラにとって久しく感じていなかった。誰かの存在であった。
その瞬間、ウスラは指を握られていることが、とても恥ずかしく思えた。
「あなたの力は、感情の揺らぎに合わせて生じます。これは、体内の魔力をあなたがコントロール出来ていないからです。つまり、魔力の制御が出来れば問題は解決します。私が、あなたの魔力に触れるのであなたはそれを受け入れてください」
熱く硬いものが、ウスラの腹の中に入ってきている。股の奥が焼けるように暑かった。
「あ〜。日本風に言うと丹田? この世界だと肝臓の一部が魔力を蓄えるように変質してるっぽいんだよな。でもミトコンドリア的な魔力生命が体内にいる可能性もあるしよく分からん」
ウスラにとってはよく分からないことを話している。
「お腹の中に、何かがあります。熱い何かが!」
「あー。ごめん。熱かった? 動くよ」
臓器を突かれるように、激しく魔力が動き回っているのが分かった。不思議と痛みはなく、奇妙な高揚感があった。
「あっ、やっ、だめです。これ、だめ」
結果として、ウスラは魔力を制御する感覚というものを身に着けることができた。
「あの、これから先生って呼んで良いですか? あ、あと、あの、ずっと一緒にいてくれます??」
「えっ、うん。あぁ」
ウスラにとって、先生と一緒に過ごせる時間は至福だった。塔の狭い部屋で完結していたウスラの世界は、先生と過ごすことによりどんどん広がっていった。
ウスラは、先生こそが運命で、ずっと一緒にいてくれると信じていた。先生と結婚して子供を産んで、死ぬまで一緒に過ごすのだ。
狭い塔の中で、一生を終えるはずのウスラを救ってくれたのだ。
カレーなる料理を教えてくれたのも、とても楽しかった。
ウスラが、魔力を制御出来たことが知られると、周囲の反応は一気に好転した。ウスラはそれが嬉しかった。
けれど、先生はそうでなかったようだ。
「ウスラ。君の魔力の制御が完璧になった今、俺は必要ない。俺の役目は終わったんだ。君は君の道を行くと良い。君と出会えて良かったよ」
そう言い残すと、ウスラの恋人はどこかへと消えてしまった。
役立つの騎士を追い払い、ウスラは怜悧な美貌をぐちゃぐちゃに歪め、情欲の籠もった視線を鏡に向ける。
「絶対に逃しませんよ。私のせんせい♡」
先生の教えてくれた遠見の魔術は、ウスラの得意な魔術の一つだ。これであれば、術破りをされない限りどこに行こうと愛しの先生のことを見ていられる。
「どこに行こうと捕まえてあげますよ。先生は私の恋人ですもんね♡」