アンジェラにキスをした。それにより、初心な聖女様は混乱し、そして鼻血を出し気絶した。ピンチはチャンスだ。
これは全然関係ない話なんだが、聖教における聖女はまだ分かる。しかし、邪教における聖女は邪女とかでは…? しかし、これには理由がある。人間側が邪教認定しているわけで、エルド教は厳密には邪教ではないのだ。
ただ魔帝国が不老不死の研究をやらかして、かつての世界で有数の都市を死者の都にしたり、戦場に戦略魔力核分裂兵器を撃ったりした。外道な行動をたくさんしただけだ。
エルド教もエルド教を信じる奴もかな〜りやらかしている。なので、エルド教を信じる奴は魔族で、エルド教は邪教と言われても納得できてしまう。聖教側もなかなかカスなので、まあ、両方ともイキスギだからオッケーか。ウンコ味のカレーと、カレー味のウンコどっちが良い?
みたいな謎のバランスで成り立って……。はは。成り立ってないから、北の大演習やってるんですけどね初見さん……
目の前にいるアンジェラとクウカ。彼女たちは獣人だ。かつての魔帝国が、普通人種に獣の因子を入れたらオモロそうやね。ってノリで生み出された種族でもある。
「……なんだ? 交尾するのか? それならアタシは出ていくが」
「しませんけど…!? 俺は、あなたに拉致されて現状がどうなってるんだか全く分からないんです。説明していただいてもよろしいですか?」
「…………ハァ」
なんで、ため息を吐かれなきゃならないんですかね? こちとら拉致被害者ですよ。拉致被害者。説明責任があるでしょうが。
「立場を弁えろよ魔術師。お前はアタシに敗れた雑魚だ。それが説明だと?? どの面下げてそんなことを言うんだ? 聖女様に気に入られてるからって、調子に乗るなよ」
「つまり、俺を舐めてるから教えないと?」
「その通りだ。アタシは雑魚には興味はねぇ」
弱者が権利を求めても、強者に踏み躙られるだけである。これは正論だ。俺が弱者扱いかよ。転移できる剣士は確かに強者だ。
それは、初見殺しに強いからである。対策すれば怖いものではない。転移妨害にスタグの停滞魔術。そして身体強化。
「犬臭いんだよ。発情期の狗っころかよ。デケえ乳ぶら下げてるお前が序列を語るんじゃねぇよ。ほら、お手しろよ。お手」
「どうやら、まだ分かっていないようだな…!」
ブチギレデカ獣人。デカいというのは正義だ。質量と速度は乗算により、とてつもないエネルギーを生み出す。
――刀の鯉口が切られた。
「なっ、転移出来ない……! なら!!」
だが、クウカの身体は張り付けられたように動けない。串刺しにされた蟻のように藻掻いている。俺が見たところクウカの転移には、抜刀する、空間を切裂く、そして空間を潜るという3つのプロセスが必要だ。
神速の居合により、その三段階をクリアしているわけだが、転移の妨害魔術と、停滞魔術により身体を固定出来ればどうとでも料理できる。
「いやー、
「黙れ。貴様のような品性下劣な男に聖女様は渡さん!」
停滞魔術が弾かれる。クソ!
当然、こうなることも予想済みだ。オラ!! 停滞! 停滞! 停滞! 止まれオラ!!
――クウカの身体を覆っていた鎧が砕けた。そして、豊満な胸がモロ見えになる。うぉっ、おっぱいデカ! 乳輪でっか…!
そして鎧がふっ飛ばされ、刀が吹き飛んでも、異端審問官は怯まなかった。しかし、3重で放たれた停滞魔術はクウカの体勢に影響を及ばした。
結果として俺は、クウカに押し倒された。張ってて良かった魔術防壁。クウカはもう停滞魔術により動けない。これで下から魔術をぶち込めば俺の勝ちだ。
端から見ると、おっぱい丸出しでパンツしか身に着けていないデカ女が、男を床に押し倒しているように見える。
少なくとも気絶から目覚め、鼻血の止まったアンジェラからはそうだった。
「な、何をしているんですかー!!! カイ様!! クウカ様!! いきなり愛を確かめているのですか???? カイ様は格好いい方なので仕方ないですけど……! でも、婚約者ですよ! 私の旦那様ですよ!! 浮気です!! 浮気女ぁぁ!!」
俺とクウカは、神威を纏ったアンジェラのパワーにより気を失った。
「済まなかった。聖女様の夫となる方に行う対応ではなかった」
「お手」
「…………っ、くっ、貴様……うぅ」
憤死しそうな顔で、俺の手に手を差し伸べるクウカ。肉球がツルツルしてて気持ち良い。
「おすわり」
「……ころすぞ」
流石にそれはやってくれないらしい。
「聖女様の手前、お前に行ったことは詫びた。貴様も、私に何か言うべきことがあるのではないか???」
「ナイスおっぱい!」
「死ね!!!」
すこん、という音を立て突き出されたクウカの手が跳ね返る。反射の魔術を仕込んでいて良かった。
「まぁ、貴様は弱者ではない。私には及ばんが、それ相応にやるようだ」
……おっぱい見せておきながら勝者ぶるのか。羞恥心は有るようなので、はじめから鎧を狙えば良かったのかもしれない。
「私の鎧は魔術抵抗性の高い魔帝国の遺産だ。それを貴様は壊したのだぞ。賠償は貴様持ちだ。アレはなかなか良い値段がする」
捕食者の目でこちらを見るクウカさん。保険とかは下りない?? そもそも保険掛けてねぇ! 何の保険だよ!
「お前が吹っ掛けてきた喧嘩だ。俺に払う義務はない」
「ほう。なら、貴様を魔術学院に売ってやろうか? 万象たる貴様を閉架検閲官は欲していたぞ」
「出来もしないことを言うなよワンちゃん。ほら、お手」
「ぐっ……クソ……身体が、私は負けてなどいない。貴様を認めてなどいない」
犬系の獣人は、序列に敏感らしい。どうもクウカの身体は、俺が格上であると認識しているようだ。
「クウカ。これから語尾にワンって付けて」
「ふざけたことを言うな! ……ワン」
「かわいい。俺さ、前世でデカイ犬を飼いたかったんだよね」
「誰が犬だ! 誰が! アタシはノルド教の異端審問官だぞ! ……ワン」
「おお」
「早くこの命令をやめさせろ! ……ワン」
「ワンは付けなくて良いよ。代わりにニャンを付けてくれ」
「ころす……ニャン」
「おお」
「学院に引き渡す……ニャン」
「やめて良いよ」
クウカは無言で刀に手を伸ばした。
「カイ様、クウカ様
アンジェラの話を纏めると、普通人種側がコテンパンにされたらしい。今俺のいる場所はノルディアンナであり、ノルド公国はボロクソにやられたという。
つまり、魔族と邪教側が大勝利を収めたということだ。俺がアンジェラと出会ってすぐの時点で、騎兵によりノルド公国の兵がボロクソにされていた。その時点でこうなることは予想は出来た。
「アタシたちとしては、エルド教の過激派にやり過ぎないで欲しいんだ。具体的には、暴虐と権力を司る邪神グブガブルに選ばれた魔王、ミシフ・アールブに権力が集中するのを避けたい」
ミシフ…?? 誰だ…? どうも魔族側が内ゲバってことらしい。
「ミシフ様は、わたくし! って偉ぶっていたのにお漏らしされた方です」
「ああ……居たっけ??」
魔帝国の後継国家であるアールブ王国において、
つまりアンジェラは権力闘争の最中におり、俺もそれに巻き込まれたというわけだ。クソがよ!!
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