ヤンデレに監禁されるわけwww 作:ヤンデレエアプ
イバヤ王国から3つくらい国境を越えた。現代日本とは違いこの世界の移動速度は遅い。何しろ取れる移動手段が徒歩、船、馬くらいしかないのだ。
基本的に人々は徒歩で移動する。船はもっぱら商売人が使うものだ。人間が運ぶよりも膨大な物量を船は運べるのである。荷物がメインで人はおまけである。客船ではなく貨物船に人間を追加している。
ちなみに馬も同じ扱いだ。軍馬や荷馬車はあるが、客を積むような高価な馬車はない。荷馬車を持っている旅商人に帯同したとしても、護衛の役得として荷物を乗せられるくらいしかない。
俺は旅商人のおっさんの護衛をしていた。護衛と言うよりも雑用役だ。街道は基本的に安全である。護衛はほとんど必要ではない。
よっぽどリスクの高い道を通るか、危険を犯してまでリターンを得ようとしなければ旅は安全なのである。
王や領主にとって商人は自らの領地に交易による利益を齎す存在である。彼らは金の卵である商人を非常に重要視している。
危険な道は普通の商人であれば避けるのだ。領主は商人を招くために街道の治安を保ち警備を固めている。
「マサンさん…!! 魔物です!!」
街道は安全であり魔物は出現しない。そのはずなのだ。何故ここに魔物がいる??
「氷霊か……なかなか珍しい魔物だな」
「分析してる場合じゃありませんよ!! 早くやつを倒してください」
勿論、氷霊ごときに苦戦するはずがない。もしやこの氷霊は使い魔かもしれない。誰の使い魔だかは不明だが。
普通に倒した。
「おっさん。あんたなんかヤバいもの運んでんじゃないか?」
「まさか、私が運んでいるのは鎧ですよ。あとは、剣やら武器やらです」
「北の大演習に向けてか?」
「ええ。そうですとも。鎧や武器は堅い品物ですからね。魔王軍との戦闘が続く限り安定して売れますからね」
魔族とは、邪神を崇める奴らの総体である。魔王軍は魔族の抱える軍で、こっちの聖教連合軍とバチバチやっている。
とはいえ、小競り合い程度である。険悪な仲だが人類根絶とか魔族滅ぶべしとかやっているわけじゃない。だからこその皮肉を込めての大演習だ。
「それで、マサンさんは北の大演習に参加されるのですか? 魔術師なのでしょう?」
そこのところは微妙だ。北の大演習に参加しても特にメリットはない。俺はイバヤ王国で詐欺を働いたことから逃げているだけなのだ。
お金はいっぱい有るけど、詐欺師だからね俺。ギスギスの気配を感じたから逃げ出したのだ。
学歴詐称してるし、既存の魔術体系にないこと教えてますよね? これって王国法だと処刑ですよ処刑って、脳内のウスラ姫が言っている。
なんかクール系だけどメンヘラっぽいから逃げたということもなくはない……囁くんだよ俺のゴーストが。
「ボチボチやりますよ。魔術師はそこそこ便利ですからね。火や水が出せますし」
旅商人のおっさんと適当に飯を食って野営だ。魔術でふかふかマットとか作ってるけど、おっさんには渡さない。面倒の種になりそうだからだ。
(そこのやつ。我を抜け。この我、アイシクルブレードを)
やっぱ居たよ。おっさんがヤバいもの運んでたパターンだ。おっさんは無自覚だったから悪いのはこの剣の方だろう。
インテリジェンスギア。要は魔剣の類だ。
(おい! 聞こえているのだろう魔術師! 我を抜けと言っているのだ!)
(ファミチキ食べたい)
(おい! なんだそのふぁみちきというのは!? 変な電波を送ってくるな! 我を抜け魔術師よ…!)
(ちくわ大明神)
(ふざけているのか…! ええい! こうなったら実力行使に出てやる!)
剣が独りでに浮かび上がり、光の粒子が人間を形成する。光の粒子が固まると、そこには白い髪を靡かせる少女がいた。着込んでいる白の軽鎧もよく似合っている。
「はっはっはっ、我こそ魔剣アイシクルブレード! さあ、魔術師よ契約だ! 我を抜け!」
「間に合ってます」
「貴様っ! この我との契約を断ろうと言うのにゃっ、あぇ、ちからが……」
紛れもなく友人の力だ。
「ふん、三下が僕の主に手を出そうと言うのかい? マスターもそのアバズレ包丁に何鼻の下を伸ばしてるのさ! 恋人たるこの僕がいるのに!!」
俺、無機物と恋人になる趣味はないんだ。ピグマリオンさんとは性癖が違うわけでして……
「俺は君のことを友人だと思っているよ。スタグ」
「友人じゃなくて
「杖を恋人とは考えられないな」
スタグは停滞の杖に宿った精霊である。黒髪ショートで地雷系の服装を好んでいる。かわいい。
「え〜。僕はこ〜んなに好きなのに。マサンの時間を停滞させて一緒に永劫の時を過ごしたいのにな〜」
「却下だ。杖と心中するような趣味はない」
「へー。そういうこと言うんだ。それならウスラ姫に氷漬けにされれば良いよ。助けてやらないんだから」
スタグちゃんは人間の身体を乗っ取って受肉すれば妊娠も出来るよとか言うタイプだ。
契約でガチガチに縛っているので運用出来ている危険極まりない杖である。
「えいえい! 怒った?」
「杖ごときが、剣であるこの我を……足蹴にするとは!」
「よわよわ〜。アイシクルブレード(笑)ちゃん、もう姿を保てないんだ〜」
「うるさい!! 我は氷の魔剣なのだぞ!」
そう言えば氷霊のことを聞いていなかった。スタグちゃんのストレス解消道具にされたアイシクルブレードは、喋る気力を失っているようだ。
くだらない騒動だった。寝るか。
§ § Tips:氷霊でストーキングしてるのは姫様 § §
クジマー魔術学院には忌み書庫がある。学院の創始者たる4人の魔術師の遺産や、呪具がこの忌み書庫に封印されているのである。
最奥に封じられている特級の呪具こそが停滞杖スタグであった。
学院の創始者たる魔女マーリンの娘スタグは、その莫大な魔力と停滞の能力を持ってして一世を風靡した魔女であった。
だが、彼女はやり過ぎたのである。元々魔術師という生き物は特権意識を持っており、無意識に他者を見下しがちだ。その中でもスタグは、その傾向が強かった。
とはいえ彼女が大罪を犯したわけではない。スタグは倫理的であり、むやみに人を殺したり傷付けたりはしなかった。
もとよりスタグは人と関わることが好きであった。明るく社交的な彼女は、男に持て囃されることに何の抵抗も持たなかった。
そのうち、男に幻覚を見せ金を貢がせるなどの行為に走るようになった。
学院の初期においては、スタグの行為は一種の魔術比べとしての側面があり、眉を顰められることはあれども違法ではない。
しかし、母である魔女マーリンの狙っていた男から金を巻き上げたことにより、スタグの運命はねじ曲がってしまう。
スタグの持つ魔力と停滞という魔術特性は、希少なものであった。魔女マーリンにしてもスタグを殺してしまうのは惜しかった。
魔女マーリンは、スタグから魂を抜き取り宝珠とした。そして肉塊となった身体を変質させ杖へと加工したのである。
停滞杖スタグは、こうして生まれることとなった。
マーリンが生きていた頃は杖としてそれなりに使われていた。しかしマーリンの亡き後、その悍ましい由来と、人々の恐れにより停滞杖スタグは、忌み書庫の最奥に封じられることとなった。
あれから、何十年経ったのだろうか? 肉の身体を失い
ただ、地下特有の黴臭く薄暗い風景を見ることしか叶わない。
学院の創始者の1人が掛けた魔術は非常に強力なものであり、スタグは狂うことも消えることすら許されなかった。ただ、時が過ぎることを待つことしか出来ない。
忌み書庫に、人が立ち入ることはほとんどない。何故なら、忌み書庫が危険だからである。一流の魔術師であっても、立ち入ることに躊躇するほどの危険地帯だ。
スタグにとっては悠久に感じられるほどの時間が過ぎていく。母であるマーリンへの憎しみが最初にはあった。それからどうにかしてこの魔術を解こうと努力した。
けれどそれは叶わなかった。創始者の魔術は堅固であり、内側からは決して解けない。それが分かった時にスタグは絶望し、生きる気力を失った。
しかし、消えることも狂うことも許されなかった。
それから何十年が過ぎたのだろうか。スタグは数えていないものの、彼女が忌み書庫に封じられてから千年あまりが過ぎようとしていた。
「ここが、忌み書庫か〜! テーマパークに来たみたいだぜ〜! テンション上がるな〜!」
青年の声に、スタグは微睡んでいた意識を取り戻した。必死に声を出し、助けを求めた。
そして青年はそれに応えた。魔術の罠で傷だらけになりながらも、呪われ人で無くなった自分のために命を懸けたのである。
「たかが杖である僕のために、生命を張るなんてね。どうかしているんじゃないかな?」
「…………」
「どうしたのかな?」
「いや、すっげぇタイプの女の子だなぁって思って」
「……全く。男ってやつは」
スタグは満更でもなかった。そもそも他者と会話することが久しぶり過ぎており、彼女の霊核は混乱していた。
「スタグ。千年前の真相は分からないけど、俺は君を信じるよ。君が何であり、俺は俺の身を案じてくれた君が好きだし、何より見た目が好みだ」
「チョロいよ。そんなんじゃ悪い女に騙されちゃうぞ。
千年の孤独がスタグの精神をおかしくしたのだろうか。自分のために命を懸けた男にスタグ自身がおかしくなっているのかは、よく分からない。
とは言え、スタグが彼の手綱を離すことは一生無いだろう。精神体であるスタグは本体である杖と宝珠を破壊されない限り、不老不死である。
停滞の魔術を使えば、擬似的な不老不死が可能だ。母である魔女マーリンには決して使おうと思えなかったその魔術を、スタグはどうしてか目の前の男には使いたくなかった。というかこっそり使った。
「僕と永劫の時を共に生きよう。