ヤンデレに監禁されるわけwww 作:ヤンデレエアプ
シスターの亜麻色の髪に紛れて獣の耳が、ちょこんと揺れている。なるほど。これは良いものだ。
「俺はカイ・マサン。しがない金等級魔術師だ。シスター、君の名前を聞いて良いかな…? あと、耳を触りたい」
耳を触りたいと俺が言った途端、シスターは手で耳を覆った。顔はよく熟れた林檎のように真っ赤になっている。
「わ、私はアンジェラです。カイさん、耳を触りたいんですか……? 私たちは、まださっき会ったばかりですよ! それなのに耳を触りたいんですか!?」
なるほど、話をぶっこみ過ぎたようだ。しかし、耳を触りたい気持ちはある。
「シスターアンジェラ。大変失礼した。俺に耳を触りたい気持ちは有るが、シスターにとっては突然だったな……」
「そ、そうですよね! やだなぁ、もう、びっくりさせないでくださいよ!」
耳を触りたいって言っただけで、こんなになることある? もしや宗教的、文化的な側面があったりするのだろうか?
「アンジェラ。俺が無知で悪いんだが、耳を触りたいと言う申し出には、何か特別な意味は有るのか?」
俺の言葉に、アンジェラはキョトンとした表情を浮かべる。そして、少し、冷めかけてきた彼女頬が再び赤く染まった。
「へひぇ、も、もしかして、知らないで言ったんですか!? そんな!! わ、私の部族では『耳を触りたい』って申し出は結婚したいっていう意味なんです! お母さんから聞いたんです!』
知るわけ無いだろそんな風習! と言いたいところだが、俺が無知なだけかもしれない。なので、強く出るのもアレだ。
「……すまない。アンジェラは魅力的な女性だが、俺にはスタグと言うパートナーが居るんだ」
「そ、そうですよね。変なこと言ってすみませんでした」
スタグちゃん、これは不幸な事故なんだ。浮気でもなんでもないんだ。
(ん〜、僕は寛大だから許す)
スタグちゃんからお赦しが出た。これで拗ねられたら溜まったもんじゃない。いや待て、そもそも、俺はどうして無機物に媚びているのだ??
なんか掛けられたかなと思って、魔力を回したら軽度の魅了と読心の呪いを掛けられていた。うわっ、解除しておこう。無機物に惚れるわけ無いだろ。見た目は好みだが、所詮は無機物。せいぜいマスコット枠だ。
(
(なんで俺が無機物に惚れなきゃならないんだよ)
(…………)
なんとなくスタグのむくれた気配がする。無機物じゃなければ良いんだろ? とか言って受肉しなければ良いのだが……受肉は普通に犯罪だからしないとは思う。でも、古代魔術師だからなぁ……倫理観が有るのか分からん。
「姉ちゃん……もう良いだろ! もう! 男とイチャつくなよ! 発情期かよ!!」
アンジェラの手により、尻を丸出しにさせられていた少女が叫んだ。居たな。人間は慣れるものである。尻が丸出しになった少女をシスターが小脇に抱えていても、見慣れるものなのだ。
いや、見慣れねぇよ。まず、ケツをしまえと言うのは常識的な極めて真っ当な意見だ。
「くそ! 酷い目にあった!」
「レニア。あなたはまだカイ様に謝っていませんよ……」
「なんで謝らなきゃいけないんだよ! 金があるやつから盗んで何が悪いんだ」
少女に反省した様子はない。仕方がないので刻印を虹色に光らせることにした。
「眩し…!」
「目がっ!! カイ様!! 目が! 目が!」
「アタシのお尻がぁぁ!!」
蛍は綺麗だが、たとえ美少女でも、人間の尻がゲーミングしていて美しいとは思えない。そういう学びがあった。
「ごめんなさい。もう、アタシのお尻を光らせないでください……」
「分かった」
超新星爆発くらいの輝きを放っていたレニアの尻は、光を失い正常な状態に戻った。つい出来心でやった。後悔している。多分、目にはダメージが入らないレベルであったとは思う。
「なんで、財布を盗んだんだ?」
「…………この教会を守るためだ」
「教会を守るため?」
レニアは涙ぐんでいた。どうも深い理由が有るらしい。
「そうだったのですね。レニア、あなたの思いは分かりました。しかし、罪を犯すことは許されません」
「姉ちゃん……ごめん」
「大丈夫。私がなんとかするから……」
「……なんとかなるわけねぇだろ」
悲壮感を漂わせる2人。レニアを応接室から追い出し、アンジェラに話を聞くと、つっかえながらも事情を話してくれた。
ノルディアンナにおいても、北伐前には、魔族国家群とは取引があり、人の往来があった。この都市には魔族か住んでいたという。
ノルディアンナに移り住んだ魔族は、彼らの神に祈るため教会を作った。それがエメンス教会だそうだ。
ノルディアンナは北河のほとりにあり、貿易が盛んである。魔族とも仲良く貿易をしていた。そのため、北伐により魔族追放運動が起きるまでは、魔族と普通人種が共存できていたのだ。
魔族は追放されたが、彼等の妻や半魔となった子どもたちはノルディアンナから離れられない者もいた。そういった者たちが頼ったのがエメンス教会である。
アンジェラは心優しい老神父と、爪に火を灯す生活を送りながら、エメンス教会を運営してきた。しかし、老神父が病によりこの世を去ると、領主からの支援が完全に打ち切られ、エメンス教会は破綻した。
エメンス教会にいる子どもたちをなんとかするために、アンジェラは娼館に身売りをしようと考えていた。それを察し、お金が必要だと考えたレニアが、俺の財布を盗んだという。
うーむ、世知辛い話だ。
「アンジェラは銅等級の傭兵なんだろ? 北伐で稼げないのか?」
修道服に付けている銅色の傭兵徽章を、アンジェラの指が弄ぶ。
「それだと足りないんです。私は治癒魔術や法術なら使えますけれど、あまり稼ぎにはならなくて……」
教会の人員が治癒魔術や法術を施す場合、基本的には高い報酬は出ない。教会は、領主から税を取る権利を与えられている場合が多い。
そのため金銭を稼ぐために傭兵ギルドに参加すると言うケースは少ない。ボランティアや街のためにという名目で、籍だけ傭兵となっている事例がほとんどだ。
アンジェラが子どもたちのために必要だと推定したお金は、かなりのものだった。でも、俺なら払えるな……
「俺が払うよ。俺はエリート様でね。これでも魔術の最高峰であるクジマー魔術学院に居たことも有るんだぜ。元宮廷魔術師だ」
「…!? た、対価が払えませんよ…!! 私の耳ですか…? 尻尾ですか…? そ、その身体も…? え、えっちな、こと、するんですか???」
娼館に身売りするに当たって、アンジェラは色々と勉強したらしい。おそらく、彼女の脳内がピンク色というよりは、勉強の成果が発揮されているだけだと思いたい。
淫乱ケモミミシスターは、えっち過ぎるだろ…!
「俺とパーティーを組んで欲しい。君ならもし魔族に捕まったとしても口利きが出来るだろう? 今回の北伐は荒れそうだからな」
「パーティーを組むんですね! 分かりました…! ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
ピコピコと耳が動く。修道服の下でワサワサと動いているのは尻尾だろう。
ちなみに今の今まで、北伐に参加することは本決まりではなかった。アンジェラに金を出すと懐が寂しくなる。なので、北伐に参加することに決めたわけだ。
アンジェラが、罪悪感を抱かないように、今思い付いた言い訳を述べたのである。
「カイ様、私頑張ります!」
ぞいの構え。かわいい。ケモミミは正義。
(浮気者…!
(お前、杖じゃん。霊体にはなれてなんとなく触れるけど、実体無いじゃん)
(…………くっ、覚えてろよ)
悔しそうなスタグとの念話が終わる。へっ、無機物がよ。