ヤンデレに監禁されるわけwww 作:ヤンデレエアプ
フレアが、俺にジリジリとにじり寄ってくる。俺は、身振りでその動きを止めた。もうお前とは終わったんだ。終わった恋に縋るなんてことはしたくない。
「カイ? わたしさ、頑張ったんだよ。カイの隣に立てるように必死に努力したんだ。だから、君のピンチを救えた。わたし、村が襲われた時に決めた。隣に立てる強さを手に入れられるまで、カイに甘えないって。もう、わたし隣に立って良いよね?」
「良いわけ無いだろ……これ、俺キレて良いやつだよな??」
フレアの近くに転移してきた魔術師が彼女に抱きつく。男は、こちらに対して優越感と警戒心を抱いているようだ。痩せぎすで背は低い。典型的なイケメン魔術師って感じの容姿だ。
あの時の寝取り男やんけ〜! 殺すぞ!!
「フレアはボクの彼女なんだけど!! フレア、あの男とは終わったんでしょ!」
「トリーナ。邪魔しないで」
「カイのことはもう良いでしょ!!」
「ちょっと黙ってて…!」
「みゃ゛っ」
フレアがトリーナの意識を刈り取った。ええ……??
「待て。フレア、お前彼氏を気絶させたけど良いのか??」
「トリーナは女の子だよ?」
「…………待て、理解が追い付かない。声が男声だったし、胸は平坦だったぞ」
「トリーナは貧乳だから」
「いや、説明をだな」
そうだった。コイツは昔から言葉足らずなのだ。フレアの特徴を端的に言うと、脳筋コミュ障である。
フレアの話を纏めると、男と付き合ったと言うのは面倒を避けるために教えられた嘘らしい。釣り合わないとかは、フレアが俺に釣り合わないという意味だったようだ。えっ? 俺それ何も聞いてないんだけど…?
男役のトリーナは女の子だった。わざわざフレアが気絶したトリーナの下着を降ろして見せてきたから確かだ。人の心とか無いんか??
トリーナちゃんは、魔術で喉が焼けちゃったから自身の声を出せないそうだ。その代わりに、精霊に声を出させているという。そういう事情は先に言えって!
えっ、つまり俺は、このクソアホのついた嘘と誤魔化しに騙されてたってこと???
当時の俺は傷も完全に治っていないフレアがいきなり居なくなって焦ってはいた。あと脳筋メスゴリラのフレアに嘘を付く知能が有るとは思っていなかった。
というか、フレア誰かに騙されてないか?? 具体的には俺が見たことのない、そこの邪悪な気配のする剣とか……
「ちょっと待ってくれ。俺のために強くなりたかったのは分かったし、お前が浮気していなかったのも分かったけど、それにしたって連絡とか取れよ! 書き置きとかメモとか残せよ!」
「れんらく…! その手が!」
おバカ!
幼馴染だったフレアは、底抜けに明るくて、真っすぐで可愛かった。ちょっとした冗談を真に受けて、それをすぐ実行してしまうくらいには、フレアは素直な女の子だった。
俺とは正反対のタイプだったけど、いつしか好きになっていた。初めてキスをした時の感触をまだ覚えている。彼女の口の中の熱さと甘さは、昨日のことのように鮮明に残っている。
セックスの時の声も大きくて、フレアらしいと笑った。そしたら、フレアはしばらく不機嫌になっていた。これは俺が悪い。
フレアが村から出ていかなかったら、俺はそのまま村付きの魔術師でもやって一生を終えていた気がする。それくらい、フレアは俺の心の多くを占めている女だった。
でも、終わったんだよな。
それを、いきなり現れて、全部勘違いだった。まだ好きだって言われても困る。初恋には終止符を打ったはずなのだ。
「悪い。お前の事情は分かった。でも、終わったんだ。だから、そういう話はナシにしよう。タイミングとかそういうのが悪かったんだ」
「……わたし、赤龍だって倒せるよ? カイのために強くなったんだよ! ずっと隣にいられるように努力したんだよ? それでもダメなの?」
「ああ。ダメだ。フレア。お前、昔からそうだったけど言葉足らずなんだよ。大事なことは言葉にしなきゃ伝わらないだろ。いくら俺たちが恋人だったからって、お前の気持ちまで完全に分かるわけない」
「じゃあ、カイのこと、さっ、攫っちゃおっかな? わたし、カイの彼女だよね? あ、えーっと、そこの悪霊とか狐耳とかは悪い虫じゃん……えっでも、これ悪口だよね? バルムンク、これって言っちゃダメじゃない?」
「フレアさん。カイ様はあなたとの関係は終わったと言っています。辛いですが現状を受け入れるしかないですよ?」
「僕もそう思うな。僕という契約者が居るわけだし、そこら辺は弁えた方が良いと思うよ?」
わ、わぁ……ギスギスしてるよぉ……
「……邪魔するの? じゃあ斬っちゃうよ? 勝った方がカイの隣に立つ。シンプルで分かりやすいよね。
えっ、違う。もっと威圧的にだって?? わたしは、カイと結婚するために強くなったんだよ! あの子たちカイの友達かもしれないだろ。無闇に煽ったら仲が悪くなっちゃうじゃん」
フレアが剣と会話している。フレアは魔術が使えないので、念話ではなく声を出すしかないのだろう。端から見たらおかしいやつだ。
「フレア、その剣って喋るの??」
「うん。頭の中に声がするの。色々教えてくれるんだ」
「お前が村を出ようと考えたのって、誰かから言われたから? お前がそう考えたからなの?」
「バルムンクが、わたしは弱いからカイに相応しくないって。英雄になれば隣に立って良いって教えてくれたんだ。男避けの方法とかも全部教えてくれた。バルムンクのお陰で赤龍くらいなら倒せるようになったんだよ!」
「フレア。そのバルムンクって剣は魔剣とか邪剣の類だぞ……それどこで拾ったんだ?」
「村を襲った竜の中から」
あー、今まで薄っすら抱いていた違和感が、ようやく溶けた。そもそも、百年前ならいざ知らず、今の時代、魔物は魔物の領域。人は人の領域と棲み分けがなされているはずなのだ。
たまたま竜が村を襲うということも、低確率だから有るかもしれない思って納得してきた。誰かが仕組んだとも考えたが、これにより利益を得る者がいないから、その線は捨てていた。
コイツじゃねぇか……このクソ邪剣。お前が企んでやがったな…!
「フレア、お前、今まで騙されてたんだよ」
フレアの持つバルムンクという剣。これ、魔力が邪悪なんだよな。持ち主のための剣ではなく、剣のための持ち主を作り上げるタイプの魔剣だろう。
「な、なにをする!? 余に何をした!? はわわわわ……」
バルムンクを強制的に霊体化させた。彼女、いや、
フレアの幼少期の面影があるのは、バルムンクが持ち手の影響を受けたからかもしれない。
「ふ、ふん……余は弑殺剣バルムンク! 担い手を乱世の梟雄とせし、弑殺の剣なり。…………その、フレアを騙してお主との仲を引き裂いたのは悪かったとは思っている。
じゃが、騙される方も悪いとは思わんか??? フレアが馬鹿正直に騙せるのにも問題があるのじゃ! 怪しげな【力が欲しいか?】という余の問い掛けに応じるのにも問題が有った! そう余は思うのじゃ! 余はそんなに悪くないのじゃ!」
フレアが小声で、「へぇ、わたし騙されてたんだ。どれくらいの力で折れるかなぁ…」って呟いて、バルムンクに力を加えている。
「お゛っ、折れるのじゃ! 折れる! フレア! 余とフレアの仲じゃ! 頼む! やめてくれ! 折れたら余が死んでしまう!!」
「とりあえず事情を聞くから、折るのはやめてくれ」
「た、助かったのじゃ……魔術師。お主は余の恩人じゃ……スゥ~ 余と契約しませんか? なんと今なら強力無比な英雄になれる! バルムンクプロデュースにより、あなたも強力無比な英雄に!」
「ならねぇよ……」
「僕という契約者がいるのに、二股を持ち掛けるとか舐めてるの?? お前の刀身を錆び錆びにしてやろうか? 溶かしてドロドロにしてやろうか?」
インテリジェンスギアに好かれても嬉しくない。あとスタグちゃんは、自認が武器よりなのでこういうことされると、すごい機嫌が悪くなるんだよな。
「フレアの前任者は、竜に挑んで余ごと喰われたのじゃ。余は危うく竜の腹の中で、消化されるところじゃった……消化されて竜のウンチにならないように耐えに耐え、竜の脳を乗っ取ってフレアと出会ったのじゃ! ウンチにならないための余の奮闘ぶりは聞くも涙、語るも涙でのぅ」
「早く話してよ…」
フレアが刀身を捻じ曲げようとしたため、バルムンクは要点を話そうと必死になった。目には涙も浮かんでおり、冷や汗が褐色の肌に浮かんでいる。
「余の使命とは王を倒す弑殺である。つまり梟雄、いや、英雄を作ることじゃ! フレアは才能は有るのに村で燻りそうじゃから、恋人と別れさせて剣の道に生きるように助言したのじゃ! 慌てて追いかけてきた彼氏の、脳が破壊されていたのは非常に面白っ…………くなかったのう……え、えへへ。フレアは強くなったじゃろ!! 余の指導が良かったからじゃな! これで余は無罪。いやー良かった。一時期はどうなることかと……」
「折るね」
「あびゃァァァ!! 余が悪かった!! いだぃぃぃ! 謝るから許して…………ごめんなざぃぃぃ」
バルムンクの刀身が歪んだように見えたのは気の所為だろう。
「ごめん。カイ。わたし、勘違いしてた。カイの気持ちとか全然考えられてなかった。ごめんなさい」
「それは終わったことだ。許すよ」
ぱあっとフレアの表情が明るくなる。
「わたしとカイって恋人だよね? 付き合ってるよね?」
「それとこれとは話が違うだろ」
「わたしとカイって恋人だよね? 付き合ってるよね?」
「そんな事実はない」
「わたしとカイって恋人だよね?」
「違う」
「わたしとカイって恋人だよね?」
「…………」
ループに入ったNPCか?? 赤龍をぶっ殺せるヤツが言うの怖すぎる……
「そもそもフレア。お前はどうして俺にそんなに拘るんだ?」
「カイがわたしの初めてで最後の男の人だから。わたし、自分の気持ちに嘘は付きたくないんだ。カイのこと大好き。浅ましいと思っちゃうけど、わたし以外の女の人と話してると胸が痛くなる……村に何が来ようとも今のわたしなら怖くないよ。だから、わたし、カイの隣に居ても良いかな?」
§ § §
フレアという少女は、子どもの時から変わっていた。赤ん坊の頃からあまり泣かず、のんびりと過ごしてきた。
言葉を話すようになるのも遅かった。女の子が好む玩具や遊びにフレアは馴染めなかった。
村の少女からもフレアは浮いていた。そんな中で出会ったのがカイだった。カイはフレアが黙っていても、特に何も言わなかった。だから、子どもたちに馴染めないフレアにとってはカイの傍だけが居場所だった。
カイも、フレアを特に気にした素振りは無かった。転機が訪れたのはフレアが木刀を握った時だった。村の大人とカイが、稽古を付けているのを見て、フレアもそれをやりたがったのだ。
木刀を握ったフレアは別人のようだった。カイは勿論のこと、大人を瞬く間に倒したのである。いつも何を考えているか分からない少女が、その瞬間に剣の才を開花させたのだ。
カイは口をパクパクと開き、唖然としていたし、大人たちも同じような反応だった。けれど、それがフレアの生活を好転させることには繋がらなかった。
フレアは無口で静かな女の子から、剣で大人を倒せる何を考えているか分からない奴になった。禁域近くの辺境でもなければ、戦乱の世でもない。小さな村には優れた師は居なかった。
フレアの持つ剣の天禀は、全くもって無駄なものだった。それでも、カイだけはフレアに優しく接してくれた。
いつの間にか、フレアはカイに惚れていた。そして、カイにとってもそれは同じだったようだ。やがて年頃の2人は、周囲と同じように愛を囁き、夜露で身体を濡らした。
幸せな日々は、そのまま続くと思っていた。カイが魔術学院に行ってしまってからも、フレアはそれを疑わなかった。カイは頻繁に村に帰ってきては、睦事を繰り返す。そんな日々がフレアにとっての幸せだった。
転機は突然やってきた。村を竜が襲ったのだ。居合わせたカイが、村人を避難させ竜と戦っていた。フレアは数打ちの鋳造剣を持ち、カイの援護に向かった。
竜が、大きく息を吸い込む素振りを見せた。ドラゴンブレスだ。フレアは必死にカイの前に立ち、焔を斬り伏せた。けれど数打ちの剣は焔に負け鈍らとなり、フレアの全身を焔が包みこんだ。
カイに傷付いて欲しくなくて、フレアが取った行動は、フレアの身を傷つけるだけだった。
「どうして俺を庇ったんだ…? 俺は焼かれても魔術で治せる。フレアが前に出る必要は無かったんだ」
「カイが焼かれるのが嫌だった。それなら、私が焼かれれば良かった」
「そういうことは、やめてくれ。俺はお前が大事なんだ」
唖然とした。カイとは対等だと思っていた。だから、そんなふうに慮られるとフレアは、自分が自分でなくなってしまう気がした。だから、力が欲しくなった。というわけで、フレアは魔剣の誘惑に負けた。
「わたし、頭は良くないし、バカだけど、カイに対する想いは本当だよ。カイのこと大好き。子どもも何人も欲しい。ねぇ、バカなわたしじゃダメかな?」
フレアの瞳は、風に揺らめく焔のようだった。真っすぐで、どこがチグハグな彼女はぎこちなく笑顔を浮かべた。