どけ!僕はお兄ちゃんだぞ! 作:お兄ちゃん
⁑月々日
マサチカとマーシャが友達になった。
非常に、非常に遺憾ではあるが、今は1人でも多く友達ができるに越したことないから、今回ばかりは見逃すことにする。
だが、友達までだ。それ以上は許すわけがない。
マサチカがマーシャに一目惚れしていることを、この僕が見抜けないと思っているのか?マーシャと話すときいつも赤面してるの、知ってるぞ。
だが、残念なことに、マーシャが公園に行くときは僕も付いて行くので、2人っきりの状況になれず、面白くなさそうに不貞腐れる奴の顔を拝めるのは最高である。
≒月★日
今日はマーシャとアーリャと一緒にデパートへ服を買いに行った。
普段着や部屋着、パジャマ、靴下、下着など、色々買えて良かったと思う。
それにしても疲れた。何でかって、周囲の目がうるさいのなんの。
2人が美少女なのは世界の真理だし、全力で肯定するが、それにしたって見過ぎである。大の男どもが、恥を知れ恥を。
◯月〓日
目が覚めたらマーシャが僕の腕を抱き枕にして寝ていた。一瞬心臓止まったと思う。可愛すぎて。
異国に来た不安もあるのだろう。僕が支えなきゃ(使命感)
♀月%日
マーシャにマサチカの印象を聞いてみた。
彼女曰く、『ロシア語を知ってる物知りな男の子』程度の認識らしい。
ひとまず安心だが、これから何が起きるか分からないので、これからも引き続き要注意である。
とまぁ、こんなこと書いておいてなんだが、本当はちゃんと理解しているのだ。いつか僕の手元から離れ、遠くへ飛び立ち、それぞれの幸せへの道へ進んでいってしまうことぐらい、分かっている。
いつか誰かと恋をして、誰かと付き合って、誰かと結婚して幸せになるってことも、ちゃんと分かってるつもりだ。
でも、今は。今この瞬間だけは、まだ一緒にいたい。今だけはお兄ちゃんに構ってほしい。今はまだ、僕の我儘に付き合ってほしいのだ。
それはそれとして、マサチカのことをマサーチカと呼んでいるのは少し面白い。
一応人の名前だし、それとなく訂正させているがなかなか直らない。
じゃあ仕方ない。マサチカくん、マサーチカになれ。
≒月※日
マーシャとアーリャが2人で行きたい場所があると言って僕だけ除け者にされたので、泣きながら、気分転換で少し寄り道しながら帰っていると、バカでかい家を見つけた。
日本の家って狭いイメージがあったんだが、ロシアでも見ないぐらいデカかった。多分由緒正しい貴族の家かなんかだと思う。
ちょっとした興味本位で屋敷周辺を回っていると、屋敷の窓辺で退屈そうに空を眺める少女がいた。
そんなに退屈なら外に出ればいいのに……なんて思いながら、そのまま素通りしようとしたその時、その少女と目が合った。
彼女は困った顔を浮かべていたが、僕も困った顔をしていたと思う。
僕は妹たちが考えてることなら、大抵のことなら察することができるが、他人の考えていることなんてこれっぽっちも分からない。どうしてあの少女があんな寂しそうな目をしていたのかも、何も。
今度、もう一度あの屋敷に寄ってみようかな。
£月+日
また屋敷に寄ってみた。またあの少女がいた。
少女も僕に気づいたらしく、儚く手を振るので手を振り返せば、なんかめちゃくちゃ喜んでくれた。
僕は近所のホームセンターで購入した画用紙に『どうして家から出ないのか』と大きな文字で書き起こし、彼女に見せると、同じく文字を書き起こした彼女から『病気で出れない』という返答が返ってきた。
病気か、可哀想に。我ながら酷く淡白であると自覚している。だが、同情や哀れみを抱くことはあれど、所詮身内以外の他人に向ける感情なんて物はその程度である。
喉に引っかかっていた骨が取れた僕は『早く治るといいね』と文字を見せてやり、後腐れなくその場を後にした。
もうあの屋敷に訪れることもないだろう。
………人ん家の前で何してんだろ、僕。
℃月〆日
あの日から何度か屋敷の前であの子に会っている。
まさかこんなことになるなんて。ずっとあの子のことが頭から離れず、ずっと考えてしまうのだ。
一瞬、『これが……恋……?』なんていう血迷った結論が頭をよぎったが、普通に哀れみからくる感情だと思うので、すぐにその考えを切り捨てたが。
どうにも僕は妹たちと同年代の女の子の可哀想な場面を見ると放っておけない性分であるらしい。
もし見捨てようものなら、『じゃあお前、そうやって妹たちのことも見捨てるんだ?』と内なる僕に責められる幻聴が聞こえてくるのだ。※なお、妹たちに危害を加えようとする輩は別とする。
病気かな?病気かも。確かに妹たちのことは病的に愛していることは認めるが。
とはいえ、僕ができるのは遠くから彼女と数行会話するだけだ。
声も性格も知らない相手と文字で会話するだけの仲……そう考えると不思議すぎる関係性である。
∃月♭日
今日、学校で変な少女に絡まれた。絡まれたというかつけられた。
音も姿も影も気配も消して、一定の間隔を空けながらついてくるのは流石にチビった。とても小学生がしていい追跡能力ではない。忍者か暗殺者の末裔かなんかだろうか。
£月〆日
今日もつけられた。
彼女の目的はなんだろうか?何か悪いことしたっけ?思い出せない。
△月⊥日
そろそろ限界だったので此方から話しかけた。
正面から見ると随分と可愛らしい女の子だと思った。無論うちの妹には劣るが。
学校でも人気ありそうだとも思った。勿論うちの妹には劣るが。
大人しそうというか、ほんの少しでも目を離せば空気になって消えてしまうのではないかと思うほどに存在感のない子だった。そこだけはうちの妹とはまるで違うが。
さて、そんなステルスストーカーに話しかけたはいいものの、問題が発生した。
ストーカーは話しかけられたことがあまりに予想外すぎたのか、目を開いてフリーズしたまま動かなくなってしまった。
改めて考えても怖いな。なんだったんだあの子。妹たちにも注意喚起しないと。
◉月▱日
ストーカーから話しかけられた。
名前はキミシマ・アヤノというらしい。
アヤノはこれまで付け回っていたことに対する謝罪と、その目的、そしてどうして自身の存在に気づくことが出来たのかと尋ねてきた。
『普通に見えてた』と答えたら、またフリーズした。揶揄い甲斐のある子を見つけた瞬間だった。
それにしても、彼女が付け回っていた理由が『主人から頼まれました』と言っていたのが、少し気がかりだ。
僕を付け回って得する理由なんて思い浮かばないんだが?というか主人って、本当に忍者か暗殺者なのか?
⌘月◆日
ストーカーことキミシマさんが正体を現して以降、平穏な日常が戻った──とはならず、あれからもずっとストーカーされ続けている。
今日、そのことについて本人から聞いてみたんだが、『悔しいので』とかいう自己主張薄めな顔をしといて自尊心高めな返答が来たことにびっくりした。
悔しいなんて感情あったんだ……
:月*日
今日もキミシマさんがストーカーしていた。
普通に見つけた。
△月△日
今日もキミシマさんがストーカーしていた。
普通に見つけた。
⊥月々日
今日も(以下略)
‰月↓日
キミシマさんにライバル宣言された。
ごめん、まるで意味が分からない。
──────────
僕の嫌いな人間は大きく分けて2種類存在する。
1つは妹たちに危害を加える輩だ。加えようとする奴も同様である。
そして、もう1つは────妹を困らせる猿どもである。
「マ、マリヤちゃん!初めて見たあの日から、一目惚れしました!お、俺と付き合って───」
「どけ!僕はお兄ちゃんだぞ!」
『えぇ!?』
光に集る蛾のように集まった野次馬を押し退けて、マーシャの隣で仁王立ちをする。
不安顔で今にも泣き出してしまいそうなマーシャも、僕の姿が見えた途端、信頼100%の笑顔を見せてくれた。正直キュン死です。
「お、お兄さん!?何故告白の邪魔をするんですか!?」
「簡単な日本語なら問題ないが、それだけの長文ならマーシャにはまだ通訳が必要だ。よって僕がロシア語で通訳する。それともう二度と僕をお義兄さんと呼ぶなぶち殺すぞ」
「こわっ!?」
割とマジな殺気に当てられて縮こまった猿をガン無視し、改めてマーシャと向き合う。
さーて、後はこっちのもんだ。くふふ、どう改変してやろうか。
コイツの言葉は僕を介さなければマーシャに伝わらない。つまり、僕がどれだけ間違ったことを言っても、マーシャにとってそれが真実となるのだ。
せめて次にマーシャがコイツを見たときに平手打ちが飛んでくるぐらいには酷い言葉に改変させてやりたいが……
【………お兄ちゃん、悪いお顔してる】
【え?き、気のせいだよ】
【あの人が言ったこと、ちゃんと教えてね?】
み、見透かされてる……
マーシャに言われてしまったら、そうせざるを得ない。僕は妹全肯定YESマンbotなのだから。
そして、マーシャに彼が告げた言葉を全て伝えた。緊張でどもってしまったところも全部だ。
あとはマーシャ次第だが……
結果、振った。
いや、そりゃそうだろとは思うが、彼はそうではなかったらしく、『俺足速いよ』、『サッカーもしてるよ』、『勉強だってできるし!』と謎のアピールをし始めたのはほとほと呆れ果てた。
それら全部ロシア語に変換して伝えて、その上で振られたのだから、自ら傷に塩を塗っている行為にしか見えなかった。
だが、そんなことどうでも良い。
僕には謝らなければならないことがある。
【……ごめんね、マーシャ。僕が乱入したばかりに、ますます注目集めちゃった……】
【ううん、そんなことない。急に呼び止められて、囲まれちゃって、すごく不安だったの。だから、お兄ちゃんが来てくれて、すごく嬉しかった】
何となく余計なお世話かと思った乱入行為だったが、マーシャにとってはそうではなかったらしい。ひとまず良かったと安堵すべきだろう。
【で〜も〜!悪いことはしちゃダメ!最初どうするつもりだったの?】
深掘りされたくないところにメスが入ったことに思わず目が泳ぐが、ジト目(かわいい)マーシャの追及から逃れることなど全人類不可能な話で、その例は兄である僕も漏れていない。
全てゲロって聞き届けたマーシャは、次第に頬を膨らませ、腰に手を当てる。どうやら説教モードに突入してしまったようだ。
【そういうことしちゃダメよ!ダーメー!次したらお兄ちゃんのこと許さないんだから!好きな人に『好き』って言うの、すごく緊張するんだから!】
【はい、以後気をつけます……ん?】
というかまるで体験済みのような言い方だね、マーシャ。
言い方の問題かな、マーシャ。
そうなんだよね?マーシャ???
【……お兄ちゃんは私に好きな人ができたらイヤ?】
【うん、嫌だ!】
思わず即答してしまった。
イヤというか、何というか……でもそう思われても仕方ないと思う。というかほぼほぼ事実だし。
ただ、今だけは好きな子のことより兄に構ってほしいって気持ちが強いだけで。
【私に好きな人ができたら寂しい?】
【うん、寂しい!】
【どれくらい寂しい?】
【言葉で言い表せないぐらい!】
【……お兄ちゃんは、私のこと、好き?】
【大好き!!!】
【んふふ♪そっかぁ】
やけに嬉しそうだな、この子───って、前方にいる金髪の天使ちゃんは……!?
【あっ、ようやく帰ってきた】
【アーリャちゃん!】
【な、何よ急に抱きついてきて。アレクもアレクよ、急にどこか行っちゃうんだから】
【ごめんね、アーリャ。たった今、世界存亡の危機を救ってきたところだから】
【何言ってるのよ……】
アーリャにはまだ早い。少なくともあと10年は知らなくていいからね。
【ほら、帰りましょう。早く明日の予習したいわ】
【アーリャちゃんは偉いわね〜】
【ちょ、撫でないでよ!アレクも見てないで止めてッ!】
【…………】
【無言で撫で回すなぁ……!】
美味い。実に美味い。兄妹水入らずでわちゃわちゃできる世界……まさに僕の理想郷だ。
だけど、この天真爛漫な笑顔が、いつか僕ではなく誰かに向けられるものだと思うと、寂しくもあり、じんわりとした気持ちになった。
などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。