どけ!僕はお兄ちゃんだぞ! 作:お兄ちゃん
¿月♀日
最近、少しばかり危機感を覚えている。無論、妹たちのことでだ。最近、あまりにも蛆虫が増えすぎている。
妹たちは赤ちゃんの頃から絶世の美少女だったが、成長するにつれ、その美貌は留まることを知らなくなっている。
そんな彼女らを己のモノにしようと蛆虫が蛾のように集ってくる。今のところ一線を超えてくる猿は出てきていないが、いつ暴力的なカスが現れるか分からない。
いざという時に彼女たちを守れる力が欲しい。
なので、武道を習うために道場に入門した。地元じゃ結構有名な道場らしい。武道を学べれば何だっていいんだが、質の良い稽古を受けれるなら、それに越したことはない。
とにかく今は力が欲しいのだ。妹たちを守れる力がな……
£月△日
基礎的な技量は全て習得した。普通なら数ヶ月あるいは半年かかると言われているらしいが、肉体に宿る才能がものの数日でそれを成し遂げてしまった。丈夫な体で産んでくれたママ上とパパ上には感謝だな。
だが、才能に胡座を掻く気はない。
僕の目的は力をつけることではなく、妹たちを守れるようになることだ。とことん極めても足りないぐらいだろう。
℃月∮日
師範から全国大会でも良い成績を残せるレベルだと言われた。
じゃあまだまだだ。
少なくとも日本で1番、いや世界で1番にならないと安心できない。
∃月♯ 日
初めて大会に出た。
優勝した。妹たちに褒められて嬉しかった。
《月》日
最近アーリャが構ってくれない。
以前から自立の早い子だと思っていたが、なんやかんや構ってくれていた。
だが、最近はより勉強に熱を入れるようになった。
まさか反抗期か!?話しかければ普通に返してくれるし、それはないか。
それとも僕がかまちょすぎたのか!?これが現状で1番あり得る。
これからは少し控えめに……できたら苦労しないんだ。妹たちの姿を見るとどうしてもリミッターが外れてしまうから、これに関しては半ば諦めがついている。
アーリャがもう一度構ってくれるまで待つしかないか。
@月□日
今日、新しい門下生が入門した。
女の子なんだが、線が細くて体も小さく、その見た目に反せず気弱な性格そうだった。武道を習う理由も、そんな自分を変えたかったかららしい。
名前はサラシナ・チサキ。マーシャと同い年だ。
∵月∞日
正直、サラシナは武道に向いていないと思う。
時折彼女の稽古風景を見ているが、人を傷つけるのが苦手なせいか先手を取れず、積極的にもなれず、いつもおよび腰で腰が引けている。師範も困っているようだった。
僕は僕のことで精一杯なので、どうすることもできないけど。
¡月°日
大雨が降った今日、サラシナがボロボロになって道場にやって来た。
幸か不幸か、道場には僕しかいなかったので、その姿を師範たちに見られることはなかった。
放っておけなかった、というのが正直な感想である。
というか普通スルーできる?目の前で、ずぶ濡れになってわんわん泣いてるんだぜ?もしスルーできる奴がいるなら、そいつはただ単に倫理観の欠如野郎なので道徳の授業受け直した方がいい。
サラシナを武道に設営された風呂場にぶち込んだ後、あんまり仲良くした記憶ないけど、少しだけ話を聞いてやった。
彼女はいわゆるいじめられっ子だった。
何となく察しはついていた。彼女の武道を志した動機からして訳アリなんだろうなとも思っていた。こういってはなんだが、結構ありきたりな理由で武道を習い始めたのだろう。
サラシナは結構思い詰めていたが、僕から何か手助けをしてやろうという気持ちは湧かなかった。
だって、サラシナとは友達でも何でもないし、何なら今日初めて会話したぐらいだし……
精々できるのは応援ぐらいだろう……そう思っていたんですが、うちなる
というわけで、イマジナリー妹に良心を叱責された僕は、改めてサラシナに武道を教えることになった。
妹たちに感謝せぇよ!サラシナ!
‖月♂日
今日からサラシナと1対1の授業開始だ。
まずは彼女に僕に対する敬語をやめさせた。師弟関係になるとはいえ、敬語で謙れても僕が困るだけだ。
彼女には自然体でいてほしい。その方がサラシナにとっても気楽だろう。
そしていよいよ実践の稽古……となったのだが、ここで問題発生。
元来の性格のせいか、体格のせいかは分からないが、パンチの威力があまりにお粗末。
女の子らしさを体現したいならこれでもいいが、いじめっ子に打ち勝つという目的がある以上、現状ではダメダメのダメだ。心を鬼にして指導しないとな。
思えば、これまで技術をインプットはしてきても、誰かに教えるアウトプット行為はしてこなかったな。
誰かに教えることで、自身の能力も飛躍的に向上すると聞いたことがある。
今回の件で、僕も成長できればいいな。
◆月∀日
休日、アニメの修行シーンでは実家のカレーの味ぐらいお馴染みである滝行に2人で行ってみた。
滝行は精神統一を図る修行法だ。今のサラシナに最も必要なことだと思っている。滝は普通に冷たかった。
しかし、予想外の事態も発生した。滝に打たれたことで上着が透け透けになり………見えちゃったよね、アレが。正直申し訳なかった。
◉月+日
サラシナにタイヤ引きをやらせた。
修行といえばタイヤ引きだろう。異論は認めない。
休憩中、夕焼けをバックに普段の彼女の様子について聞いてみた。
気弱で体が弱く、よく虐めの対象になってきた……ここまでならいい。ただ、「いつも男の子たちが意地悪してくる」だとか、「男の子からブサイクだと言われる」だとか、明らかにガキんちょが気になる異性に対してやる意味不明な意地悪行為が含まれていたのが気になった。
確かにサラシナはよく見たら……いや、よく見なくても顔は整っているし、モテるのには納得しかない。ただ、ガキんちょどものアピールの仕方があまりに悪手すぎた。
サラシナに「気づけ」と言うのはあまりに酷だろう。というか多分、女の子からも虐められる理由がここに詰まっているような気がしてきた。
∞月√日
今日はサラシナとショッピングモールに訪れた。
休暇も修行の一環──そう思って休日を与えたのに、気づけば2人してここにいた。why???
ただ、ショッピングは普通に楽しかった。妹たちへのアクセサリーも買えたし。
そのついでに、サラシナにもアクセサリーを贈ってやった。
特に派手な装飾のないブレスレットだったが、彼女はすごく喜んでいた。
サラシナめ、贈り甲斐のあるいい子だな。
◇月Å日
今日、サラシナが道場の裏側にある山の岩を砕き割った。
何を言っているのか分からないと思うが、僕も何が起きたのか今でもよく分からない。
サラシナはブレスレットの効果と言っていたが、多分そのブレスレットにそんな効果はない。RPGの装備じゃないんだからさ。
明日、いじめっ子たちと決着をつけに行くそうだ。
どうしよう、不安でしかない。
♫月*日
僕はとんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれない。
──────────
アスファルトの地面が砕き割れる音が聞こえた。
それは凡そ普通の日常では聞くことのない衝撃音だった。
平穏の象徴とも云える小学校で発生したとしたら、なおさら。
僕は今、サラシナが通う小学校にて、大衆に囲まれて出来たリングの外から、彼女の決着を見届けに来ていた。
本当はここまでするつもりはなかった。ただ、数週間前とは180度違う、ある種の心配や不安に突き動かされる形で、今僕はここに居る。
その不安は的中した。
目の前には一瞬一撃で伸された男子たちが、白目を剥いて倒れていた。
さらに追い討ちをかけるように、そこら辺にあった道端の石ころを
「───ねぇ。見て、このブレスレット。師匠からもらったんだ〜」
「へ……?」
「かわいい?似合ってるでしょ?」
「えっ、え……?」
「似合ってるかって聞いてんだけど」
「は、はい!似合ってます!」
「んふふ♪ならよかった♪」
「ヒィ、ヒィ……!!」
こわぁ……
もう見てらんないよ、流石に。確かに虐めたあっち側が100%悪いのは重々承知なんだけどさ、ちょっと気の毒の方が勝る光景だよこれ。
「サ、サラシナ!」
「あっ、師匠!……呼ばれちゃったからもう行くね。師匠に感謝しなよ?もし師匠が呼んでくれなかったら………あんたの拳が、この石ころみたいに
「ヒ、ヒィ……!?」
………………(絶句)
女の子ってすごいよね。僕にはあんなに綺麗な笑顔見せてるのに、あっち向いた途端雰囲気がガラッと変わるんだもん。
「師匠!見ててくれた?」
「あ、うん。見た見た。しばらく夢に出てきそうなぐらいしっかり見ちゃったよ」
「良かった♪全ては師匠の教えあってこそだからね!」
すまない、それに関しては断じて否であると言いたい。
「僕は何もしてないさ。全て君自身が勝ち取った結果だよ」
「ううん!師匠は弱かったあたしを叩き直してくれたんだ。それにこの魔法のブレスレット……これを付けていると、心がとても温まるの。まるで師匠がそばに居るような気がして……力が何倍も跳ね上がるんだ」
だからブレスレットにそんな効果ないって。
「……師匠がいてくれたから、あたしは強くなれた。あなたがあたしの心の支えになってくれた。師匠と出会えて……本当に良かった」
うるうると瞳を潤ませ、頬を上気させながら見上げるサラシナを見て、出かかっていた大きなため息を再び喉奥へと戻した。
色々言いたいことはあるが、彼女が己の弱さを乗り越えたことは心から祝福したいのは本当だ。
なら、1つや2つの茶々ぐらい、飲み込んでしまおう。
「じゃあ、そこにいる
「……………」
天真爛漫に笑いながら、その光景が嘘であるかのように、冷酷な言葉がその口から告げた後、まるでゴミ袋を引き摺るように、ガキんちょたちの足を掴んでどこかへ行く後ろ姿に、今後彼女を怒らせる行為だけは絶対にしないようにしようと心に誓ったのであった。