魔法少女リリカルなのはStrikerS WitH LAST 作:八神煌斗
急にここ数年の事が走馬灯のように頭に浮かんだからだ。
あの二年。最初の頃は何度泣いたか分からない。
軽い気持ちで局に入った訳じゃない。だけど何度辞めようと思ったか分からない。
それでも姉さんたちに心配掛けたくなかった。
俺が辞めたら絶対に心配するのは目に見えてたし。
そして今年、六課に来た。
その報告を受けたときは本当に嬉しかった。
リニアの上でモニター越しでもはや姉にあえた時、冷静を装ってたけど、内心泣きそうになった。
多分安心できたんだろうな。
でだ。
ある意味あの二年間よりも色々あったなぁ。
最初にJS事件。本当の意味で自分の事を知った事件。
戦う目的を思い出した事件。
自分がプロジェクトF.A.T.Eの派生の研究、F.A.T.E.ソルジャー計画の完成例。
その中でも特例の闇の書の封印装置として作り出された生態ロストロギア。
そして間を空けずにユリア、俺の妹との邂逅。
トウギとの関係に、自分のやりたい事の再確認。
海鳴にあるマジックホールを巡っての決戦。
はや姉を殺すための能力で、はや姉達を救った。
最後に、母さんとも再会を果たした。
うん、こう振り返ると濃すぎるな。
一年の濃さじゃねぇって。
「さて、そろそろいくか」
椅子から立ち上がり、小さなカバンを肩に担ぐ。
《忘れ物はありませんよね?》
「んなもん、ねぇって」
首にかかったアテナに答えながら、一年間過ごした部屋を見渡す。
忘れものしてたらマズイしな。
「さて、最後の大一番。思いっきりやるか!」
俺は部屋を後にした。
「来たな」
「うん。来たよ」
訓練場で待っていたのはシグナム姉さん。
フォワードやなの姉たちは休憩中、俺達の会話を見守るように聞いている。
「準備が出来たら来い」
それだけ言ってシグナム姉さんはすでに廃墟に設定されているビルの上まで飛んでいった。
俺は肩に担いでいた荷物を降ろし、簡単に準備運動を始める。
「ウィズ君、頑張って」
屈伸をしている最中、なの姉は話しかけてきた。
後ろにはフェイ姉もいる。
姉さんたちは皆事情を知っている。だからこその一言だろう。
逆に何も知らないフォワードたちはいつもの俺とシグナム姉さんの模擬戦とは雰囲気が違うと言う事を感じとってるのか、不安そうな顔でコチラを見ている。
「うん。今俺に出来ること、俺の力を全部出し切る」
六課に来て初めて戦ったのがシグナム姉さん。
いや、そもそも俺が剣を握って初めての模擬戦がシグナム姉さんだ。
俺自身の成長を感じるにはこれ以上ない相手だろう。
「でも、なにも今日じゃなくっても……まだ解散まで日にちあるよ?」
「ゴメン。俺は一日でも早いほうがいいと思ってるんだ」
俺を引きとめようとするフェイ姉に、軽く答え俺はアテナを展開する。
レイラはユリアたちに渡している。
母さんもユリアも会えなくなる訳じゃないんだからと、今日は二人で町に出かけている。
少し悲しくなったのは内緒だ。
話がそれた。
貰ったチャンスは一度きり。フェイ姉が俺を止める理由も分かる。
アテナだけの展開。ココ数ヶ月見ていなかった懐かしい騎士甲冑に感触を確かめる。
「どうだ、そっちは?」
《実を言うと少々不安だったんですが、大丈夫ですね。むしろ相棒の魔力量が上がっているのでそれに比例して防御力も上がっています》
嬉しい誤算だ、と今はテクニカルになっているアテナを一度横に振る。
はや姉に出された条件。
――殺傷設定、卑怯な行為以外やったら奇策でもなんでも使ってええ。自分の持ってるもん全部出し切って、シグナムに勝ち。話しはそっからや。
正直言って、俺の意見は蹴られるのを前提だった。
だからこそはや姉の出した条件は納得ができる。
はや姉は、俺の進路に不満があって、それ以上に心配してる。
だからこそ到底達成できないような条件を出してきたんだろう。
六課(ここ)にきて直ぐの頃だったら俺は諦めていたと思う。
だけど、今回ははや姉の思い通りにはならなかった。
その条件を俺が飲んだことだ。
この勝負、絶対に負けられないんだ。
勝って認めてもらいたい、ってのもあるけど、俺が俺を認め切れてない。
俺の戦う目的も、やりたい事も思い出した。
だけど、まだ自分を認め切れてない。
俺は――になりたいんだ。
「じゃぁ、行って来る」
ハイペリオンを展開してシグナム姉さんが立つ向かいのビルに立つ。
「最後に聞くぞ。本当に今日でいいんだな?」
地上は遠く、風も強く吹いているのにシグナム姉さんの声は簡単に聞き取れた。
「いいよ。これでズルズル引き伸ばしてたら、俺はまた逃げることになる」
「……そうか」
これ以上は話す言葉も無い。
シグナム姉さんは構えを取る。
俺は――――。
「はぁぁ!!」
構えを取らずに跳び、シグナム姉さんに切りかかる。
姉さんは直ぐに刃を止める為にレヴァンティンで防ごうとする。
だが俺の目的は刃での一撃じゃねぇ!!
「アテナ!!」
《――Lode Cartridge!――》
二発のカートリッジを消費し、アテナの刃に魔力を纏わせる。
同時に俺はアテナを担ぐように振りかぶる。
形はまるでアテナを背中に隠すように。
「その程度……」
カートリッジを二発消費した俺の必殺技、それなりに威力はあると思う。
しかし相手は姉さん。俺の技を知り尽くし、基礎を叩き込んだ相手。
冷静でいられるのが当たり前だ。
そう――冷静でいて貰わなければならない。
「アテナ!!」
《速力付与、最大展開!!》
速度上昇の魔力付与を維持したままシグナム姉さんの背後に回りこむ。
勿論、どれだけ早く動いても、今の俺じゃ姉さんの視界外に出る事はできない。
それも、計算済みだ。
《――Technical(テクニカル) and(アンド) Buster(バスター) Silhouette(シルエット) ――》
「なに!?」
そう、二発のロードはこの為。
アテナの二重(ダブル)展開(オープン)の為の一発。
そしてもう一発は――……。
「ソードダンス……サードカラーズ!!」
バスターを地面に叩きつけ、サードを発動させる。
俺が一撃を姉さんに入れるのは難しい、というのは重々理解してる。
だったらどうするか。
防がれること前提で考えればいい。
サードなら他の攻撃と違ってコレといった剣筋がない。
姉さんだって無傷とはいかなかった筈だ。
この隙に――……
《相棒、魔力反応感知!!》
「っ!?」
お互い戦っているんだ。魔力反応がある事はおかしいことではない。
しかし、アテナが態々告げてきたって事は、向こうが何かを仕掛けてきてるってことだ。
「駆けろ――」
「ちっ!!」
「――隼!!」
一体に漂っていた土ぼこりを穿ち、紫色の一矢が迫り来る。
ほぼ反射的にバスター状態のアテナを盾代わりにし、矢を防ぐ。
だが、紫色の矢の勢いは衰えることを知らず、押してくる。
「ぐっ……ちくしょう、がぁ!!」
矢と垂直にしていたバスターの剣先をずらし、矢を滑らせいなす。
「はああぁぁあ!!」
「アテナ!」
《――Technical(テクニカル) Silhouette(シルエット)!――》
いなすと同時に、煙の尾を引いて姉さんが刃を振るう。
即座にテクニカルにシルエットチェンジ、速力付与を最大まで展開させる。
切っては防がれ、防いでは切り。
お互いに距離を取る。
瞬く間の攻防。
しかしその攻防で、俺は傷つき、姉さんにはたったの一太刀しか与えられなかった。
「(くそ。あんだけ出してたったの一太刀かよ)」
《(まぁ、今の相棒では妥当なところでしょう)》
俺の愚痴に相棒が反応する。
だが、俺もアテナもそこまで追い詰められてるわけじゃない。
《(相棒はまだ、全力の『ぜ』の字しか出してませんからね)》
「(……そこは『ぜ』の字もだしてない、じゃねぇのか?)」
《(字際出しているでしょう?)》
「(ちがいねぇ!!)」
そして俺は静にアテナのコアに手を添える。
「アテナ、出せ!!」
取り出すのはあの戦い、アング達との最終決戦でユリアが作ってくれたカートリッジの十字ベルト。
それを腰に巻き、更にカートリッジをロードする。
《――blanco(ブランコ) ala(アーラ)!――》
出現する純白のビーム状の翼。
「解除申請!」
「第三封印、解除!」
ついでに第三封印も解除、さらに魔力量の絶対量を上げる。
「ようやく、出してきたか」
向かいに立つ姉さんが、それを待っていたと言いたげな表情で言ってくる。
「エクタレンテ、だったか? それを出さないのか?」
「さぁ? もしかしたら次の瞬間にでもだすかもよ?」
実際エクタランテはカートリッジの消費が激しすぎる。
いや、確かにそれに比例した能力がエクタランテにはある。
しかしアテナの本領はエクタランテじゃない。
エクタランテさえも、アテナの能力の一端に過ぎないんだ。
ならここでエクタランテを出すのは得策じゃない。
「(アテナ、少し無理させるぞ?)」
《(その使い方こそ、私の本領ですよ?)》
その意気だ。
「アテナ、ダブルソード!」
《――Doubul(ダブル) Silhouette(シルエット)!――》
テクニカルからダブルに切り替え、姉さんに突っ込む。
「いまさら、そのシルエットで!!」
「だれが、このまま行くって言ったよ!!」
《――Gun(ガン) Silhouette(シルエット)!――》
ダブルからガンシルエットへ。
体に急停止をかけ、ガンシルエットの剣先を向ける。
「ブランコスフィア」
《――Fire!――》
トリガーを引き、計10発のスフィアを打ち出す。
刃の攻撃と思わせての遠距離攻撃。
さすがの姉さんも反応が一瞬遅れれば、全て交わす事はできない筈!
――筈、だったんだけど……。
《――Schlangeform(シュランゲフォルム)――》
「……うそん?」
《そういうのはいいですから! 早く第二派を!! 相棒~~!!》
確かに姉さんは全てのスフィアを交わしきる事はできなかった。
だが、交わせないなら切ればいいと思ったんだろう。
姉さんはレヴァンティンを蛇腹剣、シュランゲにフォルムチェンジし全てを切り落とした。
「はぁ!」
そしてそのまま、俺に攻撃を仕掛けてくる。
《――Lode(ロード) Cartridge(カートリッジ)!――》
「フォース・カラーズ!!」
再びトリガーを引き、繰り出すのはガンシルエットのソードダンス。
カートリッジの消費を一発に押さえ、砲撃の威力を抑え、限りなく細くする。
これのお陰で細かい操作ができるようになる。
いわば砲撃のシュランゲ。
それによりシュランゲの攻撃を弾く。
「そんな使い方があったか」
「まぁね。っても二度は使えない一度きりの攻撃だよ」
実際姉さんには二度と通用しないだろう。
さて、どうしようか……。
ここで万華鏡かコネクションを出してもいいけど、そこで決められなかったらそれこそ勝負は決まってしまう。
どっちを出すにしても、まだ決め手にはかける。
「ウィズ」
そんな時、シグネム姉さんが静に、怒りを込めて話しかけてきた。
「いつまでそうしているつもりだ?」
「――っ」
心臓をつかまれた気がした。
「エクタランテばかりか、万華鏡やフルドライブを抑えた状態で私に勝つつもりか? 貴様が何を考えているかは知らないが、その程度でこの先進んで行こうと思っているなら、ここで私が引導を渡してくれる」
カチャリと、音を立てながらレヴァンティンの剣先を俺に向けてくる。
そして気づく。
いや、思い出す。
「――あぁ、俺はまた甘えてた見たいだ」
この勝負は元々、俺を諦めさせるためだと思ってたじゃないか。
なのに俺は姉さん達は最後にはわかってくれると、最後には認めてくれると思っていた。
甘えるな。
そんなに甘い世界じゃない。
俺がこれから進もうと思っているのはそんな世界じゃないだろう。
「アテナ、七番だすぞ」
《本気、ようやく出すんですね》
「まぁな。ってか、気づいてたなら言ってくれよ」
《それこそ自分で気づいてください》
まぁ、そうですよね。
「七番? 万華鏡を出す気になったか?」
「違うよ。万華鏡にはシルエットが付いてないでしょ?」
万華鏡はあくまでコネクションの一部。
いうなればコネクションの劣化品、アテナの能力のひとつだ。
「俺が六課に来て一回も出してないシルエットがひとつだけあるんだよ」
「なるほど。確かに万華鏡がシルエットでないなら、まだ一つ出していないな」
凡庸性が高いノーマル。速度上昇のテクニカル。
破壊力のバスターに遠距離のガン、手数のダブル。そして万能のエクタランテ。
そして最後は、姉さん達から学んだこととは別。
あの二年間で身に着けた戦闘技能を存分に吐き出せるシルエット。
《――展開します》
白銀の光がアテナを包み、次の瞬間には光は消える。
「……なんだ、そのシルエットは?」
その言葉は正しいと思う。
今のアテナは到底思いつく限りの剣の形をしていないだろう。
二枚の曲線を描いた刃が円を形取り、俺の右手甲に装備される。
あるのは刃だけ。それ以外はグリップもあったもんじゃない。
「何だって言われたら困るかな。まだ名前もないからね」
《強いて言うならセブンスシルエット、と言ったところでしょうか》
「さぁ、行くぜ、姉さん!!」
《》