魔法少女リリカルなのはStrikerS WitH LAST 作:八神煌斗
「――っ」
頭に電気が走って、重いまぶたを開いた。
まだ少し霞む視界に映ったのは、灰色。
それが天井の色だと気づくのにはそう時間は掛からなかった。
体を起こして周りを見るが、全く知らない部屋だ。
ここがどこなのか、それを考えようとして、目の前に有った扉が開いた。
「あ、起きたんだ?」
「ユリア?」
そこに居たのは紛れも無くユリアだった。
しかしその格好はバトルドレスを着ているわけでもなく、普段着。
頭には真新しい包帯が巻かれている。
「あれから、どうなったんだ?」
「倒したわよ。……まぁ、私も気づいた時には終わってたんだけど」
右手で頭をかきながら、何故か気まずそうに答えるユリア。
と、手首にも包帯が見えた。
この調子だと服の下にも包帯が巻いてあるんだろう。
そういえば心なしかユリアの眼が赤い。
元々どこか赤みのある紫だったが、今は特に赤い。
「お前、眼も怪我したのか?」
「は?何でそうなるのよ」
「いや、だって赤い――へぶぅ?!」
額に衝撃と激痛に俺は再ベッドへ沈む。
「お、おおぉぉおぉ……」
「寝ぼけてるんじゃない?」
そんな訳があるか。
何よりお前が攻撃してきたのが何よりの証拠だ。
ってちょっと待て。
さっき聞き流しそうになったけど――。
額をさすりながら体を再び起こす。
「なぁ、さっき終わってたって言ったか?」
「言ったわよ」
ふむ、と手を顎に当て考える。
終わってたって事はユリアがやった訳じゃない。
勿論言うまでも無く俺でもない。
ならはや姉たちでも増援に来てくれたのか?
スバルたちが連絡入れてたらソレが一番自然だけど……。
「ま、来たら分かるわよ」
ここ六課じゃねぇし、そのユリアの一言でその可能性は無いんだろう。
だけど、気絶する前に見たのは間違いなくユリアだったし……。
「早く来なさいよ」
「あ、ちょっと待てよ」
ユリアは最後に言い残し部屋を出て行った。
俺は慌ててベッドから抜け出し、ユリアを追いかけた。
「ってアイツ、どこに言ったんだよ……」
完全に見失った。
アイツが部屋を出てから直ぐだったのに、もう姿が見えなかった。
とは言っても、あいつの魔力を辿れば迷う事なんてない。
俺は真っ直ぐ魔力を辿りながらひとつの部屋の扉をくぐった。
何かの研究室だったんだろう。
部屋の隅々に、何なのか想像も付かない装置があるし、大小様々なコードやパイプが乱雑に置かれている。
中央には嫌でも目に付く程大きなモニターも設置してある。
色は白で統一してあるくせに清潔感を感じさせないもの研究室らしさを感じさせる。
そんな部屋の隅、そこにユリアがパネルを叩いていた。
「おいユリア。来いって言っときながら置いてくなよな」
俺の声が聞こえたんだろう。
ユリアは大きく肩を揺らし、顔を背けた。
「あん?」
おかしい。
普段のアイツなら――
「さっさと動かないアンタが悪いんでしょ」
――くらい言ってきそうなものを……。
不信に思って俺はユリアに近づく。
「お前、やっぱどっか怪我してたのか?」
「な、なんで?」
顔をそらしたまま、俺の質問に大人しく答えた。
……やっぱおかしい。
つか気持ち悪い。
「おい、こっち向けっ……て……?」
半ば強引にユリアの肩を掴み、俺の方を向かせる。
そして俺は、言葉を失った。
眼の色が、翡翠色だった。
ユリアの眼の色は紫。それも結構深い、そのくせ澄んだ色をしていた。
だけど、目の前に居るユリアの眼の色は、翡翠色……。
良く見たらユリアとは髪の長さも少し違う。ユリアは膝辺りまで髪があるけど、目の前の人は腰に掛かる程度。
いや、これでも十分長いけど。
お互い言葉を失い、ユリアだと思っていた目の前の女は顔をそらす。
信じられない。
一瞬で、俺の眼の前に居るのが誰か、予想が付いた。
でも、それが信じられないんだ。
「ひ、久しぶり、ウィズ。大きくなったわね……」
遠慮がちに、顔を背けたまま。
それでも視線だけはコッチをチラチラと盗み見みながら、言った。
「……母さん?」
気づけば、俺はそう言っていた。
自分で言って、確証は無いのに確信した。
今、俺の目の前に立っているのはユリアじゃなくて、アリヤ……俺の母さんだ。
だけど、そこからお互い何も言えずに、ただ気まずい空気が流れる。
――話したい。
母さんが俺を捨てたんじゃないことも分かってるし、本当に恨んでいる訳でもない。
でも何を話していいか分からない。
多分だけど、母さんも俺と同じ気持ちなんだろう。
「ったく、やっぱりこうなったのね」
後ろから声がして振り向く。
そこに居たのは開いた扉に肩を預けるように寄りかかり、呆れた顔をしているユリア。
瞳の色が紫だから間違いない。
《アリヤさん、なんの為に私たちが気を使ったと思ってるんですか?》
「だ、だって何を話したらいいのか分からないし……」
ユリアの首に掛かっていたアテナの一言に、また視線をそらす母さん。
「言い訳しない!」
《言い訳しない!》
「うぇ!!?」
二人に怒鳴られ、動揺しだす母さん。
そして俺は、母さんの口から出だ言葉を聞いて、思わず噴出してしまった。
――うぇ!?――
これは俺も良く使う口癖だった。
「ちょっと!なんでウィズまで笑うかな!?」
「ご、ゴメン。でも……プッ」
なんか、緊張してた自分が馬鹿らしくなってきた。
で、それから暫くもしないうちに俺たちは改めて机をはさんで向かい合って座っていた。
なお、母さんたちが俺を捨てた理由はアテナ達に聞いていたので特に話すことも無かった。
母さんが謝ってきたけど、俺も普通に許したし。
それに今は問題はコッチじゃなくて――。
「で、お母さんは何で私に連絡しなかったのかしら?」
俺の隣に座ってるユリアだ。
さっきから俺でも滅多に見た事の無い射殺さんばかりの眼でジトッと母さんを睨んでいる。
「だ、だから連絡手段が――」
「私たち、殆ど同位体なんだから感応伝達くらい出来たでしょう?」
「……忘れて――」
「た訳ないわよねぇ?教えてくれたのお母さんなんだから」
「うっ……」
たじろぐ母さん。そしてズイッと身を乗り出すユリア。
「(おいアテナ。お前何とかしろって)」
《(私に単独で死地に赴けと?この人でなし)》
「(……いや、今回は俺が悪い)」
確かにあの二人の間に入るのは相当な覚悟が要る。
暫くは知らんぷりでも――。
「ウィズー!ユリアちゃんが苛めるー!」
「って、考えてるそばからか!!?」
半泣きになりながら俺の陰に隠れるように移動する母さん。
必然的に俺が間に挟まれる形になるわけで、んでもってコレはかなりマズイ。
「へぇ……。ウィズはお母さんの味方なんだぁ。へぇ~」
ユラリと、顔だけをゆっくりと俺に向ける。
前髪が眼にかかってる上に半眼なもんだからメッチャ怖い!
「い、いや!ユリア、違うぞ!コレは――」
「ウィズはユリアちゃんの味方なんだ?」
「ひぎぃ!?」
今ミシっていった!つか、母さん握力つよ!!
「ウィ~ズ~?」
「だから、俺の話を聞けーー!!」
《あ。相棒がキれた》
その後ユリアが落ち着いて、全員が元の位置に戻るまで30分かかった。
「だから、さすがに接触は出来なかったのよ。接触したらユリアちゃんに危険があると思って……」
「本当は?」
「会い辛かっただけです」
ユリアに頭下げてるのはほっといて。
母さんの話を纏めると――。
俺をはや姉の所に預けてから母さんは管理局に戻り、ユリアを生み出した。
その時には親父は行方をくらまし、母さんも連絡は取れないらしい。
でだ。ユリアと別れた後も母さんは管理局に残った。
管理局に俺は入隊すると言う話を聞いたかららしい。
ヘタに姿を消すより、局に居るほうが俺の情報も入りやすいし安全と考えたらしい。
ただ、それでも俺の前に現れ辛くて、本当に見守っているだけだったらしい。
あ、でもレジアスの方には何かしらの圧力をかけていたらしく、俺でもギリギリ死なないレベルの任務を回していたとか。
しかしソレが局の上層部にバレて母さんは本局から別の場所に移される事になった。
時期的にも任務の危険度が上がった時と重なる。
本来なら無人惑星に飛ばされても文句は言えない状況。
でも母さんは魔法想像者(マジック・クリエイター)と呼ばれる程の有望な人物。
よって母さんは研究責任者って階級に上げられ、去年の始まりにここじゃないミッドの研究室に回された。
表面上は昇給だが、結局は左遷って事だ。
ここでユリアに連絡云々の話だが、元々FS計画で生まれた者たちは反乱を起こした。
管理局としてはそいつ等を野放しに出来るはずも無く、何度も母さんに居場所を聞いたらしい。
もっとも母さんはマジで知らなかったから答えなかったらしいけど。
「ユリアちゃんが起動六課に居るって分かったときも大変だったのよ」
「大変って、ユリアの存在の話し?」
「そうなのよね。情報操作も矛盾が出ないように色々考えたし」
困った顔でペロって下を出す母さん。
いや、可愛いんだけど、母さんの実年齢って考えるとギリギリアウトだろ。
「それに……」
笑顔から反転。急に表情が暗くなった。
「会うつもりも無かったから。私には会う資格なんて……」
膝に置いていた手を握り締め、震えた声で搾り出すように言った。
俯いて表情は見えないけど……俺はソレを気の毒に思う事は無かった。
それはユリアも同じだったらしく――。
「ふざっけんじゃないわよ!!」
「っ!?」
机に足を置き、片手で母さんの胸倉を掴んだ。
当然母さんの顔には困惑の表情が浮かんでいる。
「私に危険がとか、資格とか、さっきから言い訳ばっかりして……!」
ギリッと、歯を食いしばる音が聞こえた。
ユリアは今までに見たことも無いほど、アング達と対面していたときでさえ見なかったほどの怒りに震えている。
「結局、アンタが言ってるのは全部自分勝手な自己満足でしかないじゃないの!」
「ち、違う!私は本当にユリアちゃん達の事を――」
「違わないでしょ!仮にも母親なら、子供にとって母親がどんな存在か分かってるでしょう!?」
ユリアは感情を爆発させているのか止まる気配が無い。
「私はね、会いたくてしょうがなかった。一秒でも忘れたこと無かった。それでも、会えなかった!手掛かりなんて一つも無いんだから同然よね!?でもアンタは、私達が……私がココに居るって分かってたくせに、無視してたんだ!」
「…………」
「結局、母親なんて名乗ってるけど……名乗ってるけど……」
次第に最初の勢いは消えていき、目頭に涙がにじみ始めた。
声も、途切れ途切れ、嗚咽も出てき始めている。
「わ、わたっ……私は……ずっと……」
限界だったんだろう。
瞳からは涙が溢れ、もう上手く喋れてもいない。
「なっ、なんで……会いに来てくれっ、くれなかったのよ……」
糸が切れたように、ユリアの手はほどけ、そのまま母さんの胸へ顔を沈め、泣きはじめた。
いつも気丈に振舞っていたユリアの、その姿に俺は言葉を失った。
母さんはそっと、その両手でユリアの事を抱きしめた。
俺はその光景を、二人の気がすむまでずっと見ていた。
「アンタの前で泣くなんて……不覚だわ」
「開口一番それか、この野郎」
その後、調子を取り戻したマイシスターはジト眼でそんな事を抜かしてくれやがりました。
切り替えが早い事はいい事ばかりじゃないって事かね。
因みに座ってる位置も母さんの隣に変わっている。
《皆さん、口を挟むようで悪いのですが……》
「あ、どうかしたか?」
首元でアテナが控えめに声を出した。
《相棒を含め、これからどうするのですか?》
「どうするって何がよ?」
《接触したこともありますが……これからお互いにどういう距離感を持っていくのかと言う事です》
言われて見れば確かに問題だよなぁ。
俺もだけどそれ以上にユリアは反乱者とかってなっちまってるんだろうし。
なのに――。
「何言ってるのよ。私はお母さんと暮らすわよ。あ、下につくってのもありよね」
シレッと、問題発言のユリアさん。
母さんも満足げに微笑まないでくれませんか?
「理由なんて後でもでっち上げられるわよ。お母さん、仮にも責任者なんだし、クロノやはやてっていうコネもあるしねぇ~」
「私も上にはいくつかコネはあるわね。情報操作は簡単だしね」
両手を組んで頭に回し、深くソファーにもたれるユリア。
それに対して母さんも怖いことを言う始末。
なんかアホらしくなってきた。
「ウィズ?頭痛いの?」
「いや、大丈夫」
心配してくれる母さん。この原因のひとつは母さんだからね?
「それより、アンタはどうするのよ?」
「……なにが?」
ユリアは俺を心配することもなく、いつも通りに接してくる。
「だから、アンタもお母さんと暮らしたり、下に付くの?調度六課は解散するんだしいい機会じゃない?」
「あぁ、そう言う事か」
確かにいい機会だ。
コレを逃したら簡単に移転なんて出来ないだろうし。
さて……どうすっかなぁ~。
「直ぐには決めなくていいわ」
「母さん?」
「まだ解散するまでは少しあるんでしょ?」
「あぁ、うん」
まだ二月だし、正確な日程は忘れたけど一ヶ月あるのは確かだ。
今の時点でどこに行くか決まってないのは俺だけだけど……。
「ソレまでに申請してくれれば大丈夫だから。そんなことより……」
「?」「?」
突然いい顔になった母さんに、俺とユリアは顔を見合わせる。
「ウィズがお世話になったはやてちゃん達に挨拶に行きましょう」