魔法少女リリカルなのはStrikerS WitH LAST   作:八神煌斗

9 / 15
09.母は強し

アリアが研究所に戻ってきたとき、その惨状に言葉を失った。

銀色のマネキンの様な物体に、倒れている男女が一組。

どれだけ時が経っても、見間違えることの無い、愛する我が子達。

そのうちの一人、気を失っているんだろう。

脳を揺さぶられたウィズは必死に起き上がろうとするが、体が言う事を聞かない。

をの隙にゆっくりを24番が近づく。

 

――いけない!

 

そう思ったときには体は動いていた。

 

 「目、覚めちゃったんだね」

 

ウィズを守るように、アリヤは二人の間に立った。

 

24番には既にウィズしか見えておらず、ユリアは眼中にすらない。

何か引かれるものがあるのだろう。

ユリアはそう思いつつ、頭の中で術式を構築し始める。

 

その時、ウィズが完全に気を失ったのが気配で感じ取れた。

そしてその瞬間、アリヤは下がると言う選択肢が自然と、当然消えた。

 

下がればウィズの身に危険が及ぶ。

そうなれば何の為に出てきたのか分からない。

 

この選択は、当然の選択だった。

 

 「子供の喧嘩には手を出さない教育方針のつもりだったんだけれど――……」

 

静にその右手が横に上げられ、指先に灰色のスフィアが形成され始める。

 

 「今さらよね。だって母親らしいことなんて何も出来てないんだから。……だから!」

 

悲しみを含んだ静かな呟き。

しかしその声は、どこまでも聞こえるような透き通った、決意の声。

 

その間にもスフィアは人の顔の大きさほどの大きさになる。

 

 「これは、私の一方的な攻撃と、思ってくれていいわよ!!――Set! halcon(アルコン)――」

 

その叫びに呼応する様に、一瞬でスフィアは鷹の姿を模し、右手の甲にとまる。

ユリアのアヴェに比べるまでも無い強大な鷹(アルコン)。

 

 「さぁ、受けてみなさい。成り損ないの母の愛ってヤツをね!」

 

左足を前に踏み出し、右手を大きく振りかぶる。

オーバーアクションにも見えなくない、その動きには一切の無駄をなくしている。

 

本能的に目の前のモノは敵だと感じたのか。

24番は互いの距離を縮めようと走り出す。

 

だがその時点で既に手遅れ。なぜなら――。

――その行動を取った時点で、アリヤの思惑どうりなのだから。

 

 「――break(ブレイク)!――」

 

一小節の短い詠唱と同時に、右手を振り下ろし、アルコンを打ち出す。

その速度はまたもアヴェとは比べ物にならず。

 

それはまるで電光の様。

 

アルコンは目の前の獲物へと、24番の胸元へ接触する。

 

刹那、空気が爆発によって震える。

24番の回りには爆煙が巻き起こり、砂埃さえ立ち込める。

視界は最悪。姿も確認出来るはずもない。

 

しかしアリヤは間を置かず、次弾を左手に創り上げる。

そのまま、流れる様に前傾姿勢のまま、アンダースローの様に振り切り2発目を打ち出す。

 

衝突。爆発。

 

姿が見えない癖に、見えているかのように更に撃ち込む。

その度、爆煙が巻き起こる。

 

5発目を打ち出したところでアリヤは打ち止めた。

魔力切れではなく、様子見。

その証拠にアリヤの右手にはアルコンが待機している。

 

 

先程までの騒音が嘘の様。

辺りには呼吸の音が聞こえてきそうな程の静寂。

 

だが、その静寂も長くは続かない。

 

「――きたっ!」

 

叫んだその瞬間、半透明の白いスフィアが打ち出され、数瞬遅れて漂っていた爆煙に穴が空く。

 

横に跳び込む形で回避。

同時に左手を付き、天地逆転したままアリヤは 打ち出す。

 

アルコンは吸い込まれる様に、開いた穴へと向かい――6度目の爆発。

 

だが今回は爆発と同時に24番爆煙から煙りの尾を引いて跳びだしてくる。

 

直ぐさま体制を戻す。

今は立つ時間さえ惜しい。

膝を付いたまま両手を左右に広げ小さく唱える。

 

「――set(セット)――Espada(エスパーダ)!――」

 

現れるのは獣ではなく、鋭く尖る半楕円形。

長さは1メートル強。

 

その直線部分の片端に小さな穴が空き、グリップが完成。左右に一本ずつ握る。

 

そう、それは見間違う事なく、剣だった。

 

姿勢は低いまま、自身を弾丸の様に打ち出す。

さながら、左右に広げたままの対の剣は小さな双翼。

 

「フッ――!!」

 

右で切り掛かる。

その速さ自体は遅い部類に入るだろう。

しかし、それは通常での事。

弾丸から放たれる斬撃は限りなく速かった。

 

だからこそ――

 

「え――?」

 

その刃が素手で受け止められた時、アリヤの動きは一瞬止まった。

その隙を24番が見逃す筈もない。

刃を受け止めた手とは逆の手で拳を作り、構えた。

 

「しまっ――set(セット)!」

 

自分のミスを後悔するより先に、自身を再起動させ、新しい構築式を組み立て上げる。

 

受け止められた剣を破棄。右手に再度同じモノを生成。

 

「――Escudo(エスクード)!――」

 

そして左右の直線部分を結合させ、盾を作り上げだ。

 

一瞬遅れて、拳が盾を襲う。

その衝撃にアリヤの体は少し後退し、顔は苦渋に染まる。

それほど、24番の拳は重い。

 

(けれど、受け止めきれた)

 

そう。

一発目は。

 

――けれども

 

再度構えられる拳。

 

――シールドがどれだけ強硬でも

振り下ろされ、受け止める。

 

――アリヤ自身が、受けきれない。

 

「キャァ!」

 

後退ではない。

体に浮遊感を感じる間もなく、アリヤは飛ばされた。

 

「Set(セット)――ぐぅっ!」

 

ガスン、と鈍い音を起ててアリヤは自分が今作り上げた壁に背中からぶつかる。

 

アリヤは体を犠牲にして、後ろに飛ばされない様にした。

 

アリヤの後ろには気絶したウィズとユリアがいる。

今の距離は10mもない。

 

つまりこれは距離との戦い。

この10mが0になったとき、アリヤの負けと同義だった。

 

(この距離をどれだけ保って……いいえ。どれだけ早く倒せるか)

 

表情には決して出さず、アリヤは分割思考を使って考える。

けれども結果は全て良いモノではなかった。

 

手がない訳ではない。

しかし、方法がなかった。

 

その方法を取れば必ず24番はウィズに襲い掛かり、アリヤ自身も守りきる自信がなかった。

 

 

ズキリと、背中に痛みが走り、ついそれを表情に出してしまった。

それを今の24番が見逃す筈がなかった。

 

アリヤに向かってさほど離れていない距離を更に詰めてくる。

 

「くっ――!」

 

元々アリヤは遠距離魔導師。

遠距離から相手に詰める時間さえ与えず、短時間で決着をつける戦闘スタイル。

 

当然詰められた時の為に距離を開く魔法もある。

だがアリヤにはウィズと24番の間に居続けるしかなかった。

 

そしてアリヤには戦闘経験が著しく少なかった。

 

決定的な隙を見せ、つかれたら対処方がなかった。

 

「ハイペリオン!」

 

諦めかけた時、アリヤの前にベルカ式の魔法陣が現れた。

 

驚き、後ろを振り返る。

 

そこに居たのは、立っていたのは……ユリア。

 

 「っ。……ユリ――」

 「何ボケっとしてんのよ!!」

 

右手で頭を抑え、前屈みになりながら怒鳴る。

頭からは血が流れ、良く見れば視線もぶれている。

 

 「うけとり――なさい!!」

 

そう叫んでユリアが投げたモノをアリヤが手に取り、直ぐに確認する。

いや、実際確認するまでも無かった。

 

自分達は同位体。

たとえ数年の時離れていたとしても、その考えが分からないはずがなかった。

 

投げ渡されたのは……ベガ。

アリヤはすぐさま右手首にベガを装着し、ベガを目覚めさせる。

だがそれは、ユリアの時の様なレザーグローブではなく、黒金装手(フルメタル・ガントレット)。

指先が鍵爪になっており、至る所が鋭利に突き出す。

鈍く灰色に輝く光を受けたその容姿はまるで堕天使。

 

24番はその姿に脅威し、咆哮しつつアリヤに走り迫る。

だが、アリヤは臆することなく、その怪物を睨みつける。

 

 「……目は覚めてるわね、ベガ」

 《無論です。マスターこそ私の扱い方を覚えてますよね?》

 「当たり前でしょう?」

 

距離は縮まる一方。

アリヤはまだ動かない。

 

 「さぁ、誘ってきたのはアナタよ。私の気が済むまで……――」

 

装甲に包まれた右手を後ろにする様に、半身を取る。

その鍵爪の先にはスフィアになる過程を飛ばして出来上がったアルコン。

 

 「踊っていきなさい!!」

 

アルコンが飛ぶ。

それはまさに光だった。

アリヤが腕を振った刹那、24番の胸部で爆発が起こり、動きが止まる。

 

その隙にアリヤは右手に剣を作り出す。

しかしそれもまた、今までも半楕円形のものではなく、自身の身長程もある破壊剣(バスターソード)。

その形はアテナのバスターシルエットに酷似していた。

 

アリヤはバスターソードを片手で握り、前傾姿勢のまま24番に向かって走り出す。

 

 《随分早い終幕ですね》

 「結局、私の相手には……」

 

ベガとアリヤは軽く会話を交わす。

戦闘中とも思えない気軽さで。

 

そしてアリヤは高く飛び上がる。

24番の頭上へ。

 

だが24番がソレをみすみす見過ごす訳でもない。

手に魔力スフィアを作り出し、打ち出す。

 

 「ベガ!!」

 《――Escudo(エスクード)!――》

 

一瞬だけ張られたシールド。

それは無駄な魔力を一切排除し、当たる瞬間のみ展開された。

 

 「私の相手には、役不足なのよ!!」

 

落下の際、自分の後ろで魔力をブースター代わりに噴出させ、勢いをつける。

そのまま落下速度も味方に付け、アリヤは一文字に24番を叩ききった。

 

文字通り真っ二つに切り離された24番。

しかし切り離されても倒れることは無く、その体を繋げようとしているのか触手の様なものが生え、お互い絡み合い始める。

 

だがその光景を見てもアリヤは動揺することも無く、次の行動に移る。

 

 「ベガ、封印するわよ! ユリア!!」

 「は、はいぃ!?」

 

突然の呼びかけに取り乱すユリア。

しかしアリヤはそんな事気にした様子もなく続ける。

 

 「24番を封印するわ、手伝って!!」

 「手伝ってて……」

 

さすがのユリアの動揺するしかなかった。

今までこそ、その強気な正確でどうにか乗り切ってきたが、母親を目の前にした今、年相応にまで戻っている。

それは単に母親、アリヤの記憶があってこそなのだが。

 

 「アナタにしか頼めないの。私と同位体である……私の娘にしか!!」

 「――!」

 

その一言にユリアの目の色が少し変わる。

その一言をずっと待っていた。いや、正確には言ってほしかった。

 

 「……どうすればいいの?」

 

ユリアの中でまだアリヤを許した訳ではない。

だが、芽生えた気持ちは『今の自分を見せ付けてやる』だった。

ここまで自分は一人で成長したのだと。

アリヤ(母親)が居なくても、ココまでやれるのだと。

 

その気持ちの奥に本心を隠していると、自分で気づいていながら……。

 

 「術式はベガに入ってるから起動させて、対角線上に24番を置いて。そしたら私が封印させるから!!」

 「…………」

 

ユリアは投げ渡されたベガを受け取りレザーグローブに変化させる。

そして直ぐに術式を起動。

24番が対角線上に来るよう位置を移動させる。

 

 「コレでいいの!?」

 「さすがユリアちゃん!動きが早い!!」

 

軽口を叩きつつ、アリヤも術式を起動させる。

 

二人の術が起動した瞬間、24番を通るように二人を灰色の線が一本出来上がる。

 

 「――っ!?」

 

ユリアの顔が歪む。

 

 「ユリアちゃん!」

 「いいから続けなさいよ!付いていくから!!」

 「――くっ!」

 

アリヤはそれ以上心配の言葉を掛けず、術式の起動を急ぐ。

ユリアの限界量がギリギリだと言う事を理解していると言う事だ。

 

元々、同位体だと言っても、分割思考(マルチタスク)の使い方は経験だ。

その差はどう足掻いても、よっぽどの例外が無い限り埋まる事は無い。

だからと思い、ユリアにベガを渡したのだが……それでも差はあったようだ。

 

ならば心配している時間も惜しかった。

一刻でも早く終わらせることが、最善の策だと思ったのだ。

 

 「――囲め、戒めるべき者を――」

 

アリヤが第二節の術式を紡ぎ、24番をピラミッド型のゲージが囲い込む。

 

 「――隠せ、この世に在らざるべき者を――」

 

第三節目の術式。

24番を囲っていたゲージが少しずつ上から圧力が掛けられるように縮み始める。

 

 「(!? そんな……まさか――!!)」

 

しかし、途中で24番が押し返し始めた。

これにはアリヤも驚きを隠せなかった。

 

今展開している術式は、今の様な万が一を考え、24番専用に作り上げた封印魔法。

だが現実は押し返し始めている。

 

アリヤは自分が計算を間違えるような事は無いと思っているし、事実そうである。

 

ならば考えられる事は一つだった。

 

 「(24番が……成長してる!?)」

 

ソレしかなかった。

だが、それに気づいた所でアリヤにはどうしようも無かった。

この封印術式はアリヤの限界ギリギリまでマルチタスクを使う魔法だ。

一人専用で使う魔法を二人で使っているが、レベルを上げることは叶わない。

理由は封印術を使う前の戦闘。そのせいで一人で使う筈だった魔法をユリアとともに使用していた。

 

どうすることも……できない。

 

だがしかし、アリヤは失念していた。

子供の成長は、親が思うほど――

 

――遅くは無い、と言う事を。

 

 「はあぁぁぁ!!」

 「!?」

 

ユリアが叫び、術の効果が強まった。

 

 「(ユリアちゃんの魔力が…・・・違う!術式を上書きしてる!?)」

 

アリヤが組んだ封印術式、その術式をユリアが一人用から二人用に書き換え始めた。

これならば一人用を二人で使うよりも、何倍も効率が上がる。

 

 「このまま……潰れろ!!」

 

セリフ通り、24番は一瞬にてゲージと共に潰れ始める。

そして、アリヤがその瞬間を見逃すはずも無い。

 

 「――封印!!――」

 

アリヤが開いていた右手を握り、ゲージは小さな発光の後、消え去った。

まるで最初から、24番もケージも無かったかのように――……。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。