TS死霊術師な偽聖女は、勇者がゾンビ化している事を隠したい 作:汐留美海
人生とは、常に予期せぬ事故の連続である。
たとえば、出勤途中にトラックに跳ねられること。
あるいは、気がついた時には謎の魔法陣の上で、豪奢な衣装を着たおっさんたちに囲まれていること。
「おお……! 成功だ! 聖女様がお降り立ちになられたぞー!!」
大聖堂のような広間に響き渡る歓声。
白い礼服のような物を着た老人たちが、涙を流しながら床にひざまずいている。
「召喚に応じていただき感謝いたします聖女様。私めは、大神聖国アストラの神官長をつとめております、シン・カンチョーと申します。急な事とは存じ上げておりますが、まずは我が国の現状を説明させていただきたく。……我らが大神聖国は現在、魔王軍の侵攻に際し国家存続の危機を迎えており――」
……うん。状況は理解した。いわゆる『異世界召喚』というやつだ。
魔王が攻めてきてて、この大神聖国とかいういかにも光っぽい名前の国は、今にも滅びかけている。
そこで、私が聖女として召喚されたらしい。
聖女? つまり、TSである。
燃えるじゃないか。
ちなみに、現在の私の姿はというと。
12歳前後の、儚げな銀髪と透き通るような白磁の肌を持つ小柄な少女。シスター服のような白い修道服に身を包んでいる。
前世の冴えないサラリーマンとしての記憶はあるものの、可愛い幼女になれたのはぶっちゃけ悪くない。しかも聖女ときた。願ってもない幸運だ。
これなら一生、神殿で美味しいものを食べさせてもらいながら、温かいベッドでヌクヌクとスローライフを送れるのでは——?
そんな浅はかな淡い期待は、神官長らしき老人が恭しく差し出してきた水晶玉によって、一瞬にして砕け散ることとなった。
「さあ、聖女様。この鑑定の水晶に手をかざし、そのお力をお見せください……!」
「あ、はい……」
言われるがまま、小さな手を水晶にかざす。
すると、水晶が怪しく光り輝き、空中に半透明のステータスウィンドウが浮かび上がった。
【名前】レノ
【職業】
【神聖属性適性】E-
【暗黒属性適性】SSS
【所持スキル】
・『死体錬成・極』 高位の死霊魔術
・『魂の繋止』 成仏していない魂を繋ぎとめる
・『死霊隠蔽』 暗黒属性の魔力を神聖属性の物と誤認させる
・『死界の門』 ???
……。
……ん?
(……え? 神聖適正E??? 暗黒適正SSS???? 聖女なのに? 神聖な国なのに?? つーか、死界の門ってなに?????)
日本語で綴られたステータスウィンドウを二度見した。しかし、どれだけ目を擦ってもネクロマンサーとかいうどう考えても聖女っぽくない、むしろどっちかというと悪魔っぽい文字は消えない。
冷や汗がダラダラと背中を伝う。
「……? 聖女様、この文字は……?」
「あ、あの! これは、その……!」
偉そうな神官が首をかしげる。
ヤバい。日本語で綴られているおかげで意味までは分からなかったみたいだけど、仮にこの人たちが異世界の言語を読めなかったとしても、絶対なんとなくでわかるレベルでヤバい。
周囲の神官たちの目が「あれ? なんか紫色の不吉な光出てない?」みたいな怪しむ色に変わり始めている。
ヤバすぎる。さっきの神官の言葉が嘘じゃないならここは神聖国だ。よくわからないけど国として神聖であることを大事にしてそうだし、さぞ綺麗な国なんだ。
そうじゃなくても、ここに居るのは神官たちで、
「あの、聖女様。失礼ですが、そのまがまがしい魔力は……」
聖職者の前で暗黒魔法の魔力です! なんて言えるわけないだろ。
後ろの方でざわざわと何かを噂しているのか聞こえてくる。
やばい。どうにかして隠さないと……。
脳みそをフル回転させ、私は初期スキルの欄を必死に凝視した。
……あった! 【死霊隠蔽】!
これなら、この紫色のエグい色をした魔力をなんか綺麗な物に変えられるかもしれない。
(頼む、効いてくれえぇぇぇぇ!!!)
祈るような気持ちで、頭の中で何回も死霊隠蔽と叫び続ける。
すると、水晶玉から溢れていた紫色のおどろおどろしい光が、一瞬にして眩いばかりの黄金色の光へと変化した。
「おおおおおっ!? なんという神々しい光だ!!」
「これは、浄化か!? しかも水晶の文字が光で読めぬほどに……! これぞ本物の、神の御光!!」
「大聖女様だ! 本物の大聖女様がお現れになったぞー!!」
神官たちが再び地べたに平伏し、歓声をあげる。
(助かったあああああーーーーッ!!!)
心の中で胸を撫でおろす。どうやら【死霊隠蔽】によって、私の禍々しい闇の魔力がめちゃくちゃ強い神聖魔力として偽装されたらしい。危機一髪だった。
「おお、大聖女レノ様! 貴女様のその圧倒的なお力、ぜひとも世界を救う勇者様のパーティにて発揮していただきたい!」
「そうですぞ聖女様! 暗黒魔法を使いしかの魔王どもを、その清く美しい神聖魔法を持って浄化するのです!」
「……え?」
今、魔王を浄化とか言わなかった? 魔法は暗黒魔法を使う?
「現在、魔王軍との戦いは激化の一途を辿っております。どうか、命を懸けて戦う勇者様たちの傷を治し、その軌跡を持って、で彼らを、そして我らをお救いください!」
「あ、はい……!」
迫力に気圧されて、私は頷いてしまった。
……いや待て。
待ってくれ。
『傷を治し』?
『奇跡の治癒魔法』?
(いや無理無理無理!!! スキル蘭に回復系なんて何一つなかったが? つか適正皆無だったし、私が使えるの、今にアンタらを滅ぼそうとしてる魔王と同じ暗黒魔法だけなんだけど!?)
心の中で大惨事の警報が鳴り響く。
しかし、周りの神官たちは「おお、なんと神々しい笑顔……」と涙ぐんでいる。
こうして、光の魔法が1ミリも使えない、どちらかというと魔王軍側のステータスで転生した私は、バレたら即処刑の偽・聖女生活を始めることになった。