TS死霊術師な偽聖女は、勇者がゾンビ化している事を隠したい 作:銀髪幼女
「よし! 無事に暗森の攻略も終わったことだし、今夜はドカンと祝勝会だーーーッ!!」
王宮を出るやいなや、レイモンドが満面の笑みで叫んだ。
そのまま私たちは、王都で最も大きい冒険者ギルドへと向かい——なんとレイモンドは、国王から支給されたばかりの莫大な討伐褒賞金の袋をカウンターにドカンと叩きつけ、ギルドをまるごと貸し切ってしまったのだ。
「酒だ酒だー! 今日は俺のおごりだ! ギルドにいる全員、好きなだけ食って飲んでくれー!」
『うおぉぉぉぉぉっ!! さすが勇者様ー!』
『聖女様万歳! 聖騎士団万歳ーーッ!!』
ギルド内に地鳴りのような歓声が巻き起こる。
あちこちで木樽が担ぎ込まれ、酒杯が交わされ、お祭り騒ぎが始まった。
「ガハハ! おい冒険者ども、もっと飲め! 聖女様の加護があれば二日酔いなんて吹き飛ぶぞ!」
「ハハハ! 最高の気分だ! 飲め飲めー!」
強い酒をガブ飲みし、周囲の冒険者たちにご機嫌で奢りまくるレイモンドとガーランド。
そんな二人の横で、魔法使いのルナは腕を組み、氷のように冷ややかな視線を送っていた。
「はぁ……呆れましたわ。まだ祝勝会は始まったばかりですのに、男ふたり揃ってそんなに酔っ払って……。だいたい、私はまだお酒を飲める年齢ではありませんから、そんな下品な飲み物はお断りですわ」
自分は未成年だから、ときっぱり辞退して果実水に口をつけるルナ。
正直感動した。
他二人がカス過ぎて、彼女もまた何かしらのカスなのかと思った。
いい子だなぁ、ルナは。
——と、私が密かに胸を撫でおろした、次の瞬間だった。
「ガハハ! 何言ってんだルナ! 聖女様の加護があれば年齢制限なんて関係ねぇ! 祝いの席だ、固ぇこと言ってねぇで一杯飲めぇぇッ!」
「ちょ、ちょっとガーランド!? 何をする……んぐッ!?」
豪快に酔っ払ったガーランドが、ルナの首根っこを引っつかむと、強烈な度数の蒸留酒が入った木のジョッキを口元に押し当てて無理やり流し込んだ。
「ぷはっ……! げほっ、なにすんのよ! はぁ、結局毎回こうなるからこの人たちと同席したくなかったのよ……」
真っ赤な顔で抗議の声を上げるルナ。
……そして、それからしばらく経った頃。
「……ふふ、ふふふふ。世界が……世界がぐるぐる回って……とってもハッピーですわ〜〜〜……」
まるで危ない薬でも決めたような姿をしたルナがそこにいた。
どうやら、限界を超えたアルコールのせいで、ルナは目を据わらせてふにゃふにゃと笑い出し、そのままカウンターに突っ伏して昏倒する。
死体なのに酔えるってどういうことなのだろう。という場違いな疑問が浮かぶ。
が、すぐに吹き飛んだ。
「——あの、聖女様? お召し上がりになりませんか?」
怯えたような、でも可愛らしい鈴を転がすような声にハッとして顔を上げると、そこには一人の少女が立っていた。
大きなエプロンを身につけ、木製の大皿を抱えている。
このギルドのギルドマスターの娘であり、併設された食堂で腕を振るう若き料理人——レナちゃんだ。
大皿の上に載っているのは、こんがりと香ばしく焼き上げられた肉厚な謎肉のステーキと、彩り豊かな謎野菜の煮込み。
「これ……私が作ったんです。暗森のドラゴン討伐、本当にお疲れ様でした。聖女様たちが命を懸けて街を守ってくださったって聞いて、直接お礼が言いたくて」
「レナちゃん……!」
思わず涙ぐみそうになった。
殺伐としたゾンビ軍団との旅で荒みきっていた私の心が、一瞬で浄化されていく。
なんて良い子なんだろう。普段死体としか話していないせいか、久しぶりに人間と話した気がする。
なんというか、会話に体温があるのだ。わかるだろう? こういう温かい心遣いは心に沁みる。
私はナイフとフォークを手に取り、ステーキを一口食した。絶妙な焼き加減と肉汁が口いっぱいに広がる。
「美味しい……! すごく美味しいわ、レナちゃん!」
「本当ですか!? ふふ、よかったです……!」
レナはホッと胸を撫でおろすと、私の向かいの席に少しだけ腰を下ろし、申し訳なさそうに、。泥酔している男二人と酔いつぶれたルナの方をチラリと見た。
「……実はね、前にも一度、同じような祝勝会が開かれたことがあるんです」
「え? 前にも……?」
「はい。その時も勇者様とガーランド様がひどく悪酔いしてしまって、酒の勢いでギルドのテーブルや椅子を何脚も叩き壊すわ、他のお客様と大喧嘩を始めるわで大暴れだったんです」
「うわぁ……」
特にガーランドならやりかねない。
「しかも、散々暴れてギルド内を荒らしておいて、片付けることもなくその場で寝始めて。前の聖女様、泣きそうな顔でみんなに謝ったり、その場で褒賞金の中から弁償金を出したりしたあと、お二人を必死に介抱されていたんです」
レナちゃんは遠い目をして、心から憐れむような溜息をついた。
「あの頃の聖女様、本当にいつ見ても顔色が悪くて、とてつもない苦労人だったんだと思います。だから私、今の聖女様のことも心配になっちゃった」
レナちゃんは小さな手をぎゅっと握りしめ、私を真っ直ぐに見つめてきた。
「今の勇者様たちは、聖女様の加護で不眠不休だ!ってあんなに元気いっぱいですけど、レノ様、無理をされていませんか? あの人たちの勢いに付き合っていたら、いつか倒れちゃいますよ……?」
君の言う通りだよ。正直、 今すぐキャベツを育てに行きたい。
だが、ここで「私も今すぐ逃げ出したいです」などと言えるはずもない。
聖女ロールプレイを続けなければならない理由が私にはある。
「ふふ……心配してくれてありがとう、レナちゃん。でも大丈夫だよ。いまの彼らは……ほら、ね?」
ゾンビだから。
私たちの密談に気付いたのか、レイモンドとガーランドが、泥酔したルナを抱えたままドカドカと楽しそうにこちらへやってきた。
「おいおい、なに話してるんだぁお二人さん? 内緒話なら混ぜてくれよォ」
こいつ、内緒話の意味知ってるのか?
「ガハハ! そうだぜ聖女様! 仲間なんだから、なんだって隠し事はなしだ! それで、なんの話してたんだ? 女の子二人で、一体どんなお話をしてたのかなぁ?」
ガーランドが腹を撫でながら意味深な笑みを浮かべる。
「……こんな感じで、前の聖女様も毎回絡まれてました」
「それはなんていうか、大変だっただろうね……」
隣国で今もキャベツを撫でているであろう前の聖女様に思いを馳せる。
あなたのかつての仲間であるこのバカ共は、戦いでは雑魚相手に即死するし、酒癖は悪いし、挙句の果てにはゾンビになってしまいました。
今、どんな気持ちですか? キャベツはおいしいですか?