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『ジリリリリリリ!!』
「う、うう、うるせっ…うるせえよ…」
ベタな喧しいアラーム音が、コールドスリープ用のカプセルベッドの中に響き渡り、完璧に寝ぼけた頭を覚醒させる。一度なり始めたら10分は鳴り止まないのだから、こればかりは参ってしまう。
「あ~ぁクソ。頭いってェ~……ガンガン来る…」
苛立たし気にサイヤ人の印たる茶色の尾を揺らし、まだ冷えが残る身体を温めるためにシャワーを浴び、インナーだけを着たものぐさスタイルでコックピットへと入った。
「…おお!!」
リューベの目に飛び込んだのは、キャノピーグラス越しに望む、青く輝く美しい星。宇宙船は確かに目的の星である「地球」へと到着し、美しい星に機首を向けたまま衛星軌道に乗っていた。
「こりゃあ期待できそうだが……忘れちゃいけねえや」
見惚れるのも程々にコンソールを弄り始めたリューベは、地表解析用のスキャンレーダー波を発すると同時に、フリーザ軍のスカウターや宇宙ポッドの反応の有無も探った。
幸いにも、フリーザ軍の施設の反応は何もなかったが、スカウターと宇宙ポッドの反応は引っ掛かっていた。
「……何処かと通信している風じゃないな。宇宙ポッドの反応も微弱だ…破壊されたのか?」
どちらの反応も極めて微弱だった。スカウターの反応は「旧式スカウター」の物だったが、宇宙船が拾っているシグナルは故障しているのか、何処の誰にもつながらない状態だった。
「フリーザ軍の誰かが来て、この星で死んだのか?」
棚から取り出したスカウターを、コンソールから伸ばしたコードで繋いだリューベは、レーダーと同期したサーチモードに切り替えた。
レーダー範囲内の地球上の人間の戦闘力が、ずらりとコンソールパネルに表示されていく。特に平均から外れた者は、強調表示されて分かりやすくなっている。
「…戦闘力1720、940…同じくらいの戦闘力があと3人…少し落ちるが100以上のがちょくちょく居るな…」
戦闘力1桁と2桁の反応が無数に並ぶ中で、この星での「戦士」と言えそうなのは極めて少なかった。戦闘力100以上は散見されたが、他所の星と比較してしまうと、どうしても見劣りした。
頷きながらスカウターからコードを外したリューベはクローゼットを開け、洗ったばかりでピカピカの戦闘服を取り出した。
「どっちにしても大した心配はいらねえのかな…一番は何も起こらない事なんだがよ」
スカウターの反応の主が気になる。持ち主がフリーザ軍ならば思い切って始末してしまう事も視野に入るが、結局はそれが現地住民でも、スカウターだけを破壊さえすれば血の気は無い話である。
「ここでの路銀はねえしな…食っちまうか」
テーブルに戦闘服を無造作に置き、台所の棚から大して美味くないカロリーバーを取り出してモソモソと齧り始めた。マズくもないのだが、何か飲み物が欲しくなるタイプの食べ物は、実用性を加味してもどうにも好きになれないものだ。
手袋を着ける途中、気晴らしにまたドラマの再放送を点けていた。今回は主人公が仲間と協力して強大な敵と立ち向かっていたのだが、主人公はその敵を道連れにして、家族を残し死んでしまった。
「あれま。次回からどうすんだよっ?」
予告で次回を待て、と言われても打ち切りエンドのようで腑に落ちない。そう思いながら口の水分を全部持っていかれたリューベは、水をブクブクと含みながら戦闘服を着ていた。
「さあて、何処に降りようか…街の近くは避けるべきかな…かと言って遠くてもめんどくせえなぁ…」
地球の世界地図が表示されたコンソールを覗き込む。地球の機体と比べてもあまり乖離していないタイプの宇宙船だが、街中に降りるわけにはいかない。
その考えで平面地図から選び出したのは、街からは比較的遠く、そして村はあっても疎らな土地。それでいて微弱な宇宙ポッドの反応に近い「スピニッチ荒野」であった。
「さて、直接この目で拝ませてもらおうかね…」
シートを正して座り直したリューベは、大気圏降下モードへと移行した宇宙船ですぐさま地球へ突入した。断熱圧縮の赤い光も直ぐに消え、彼女の船は青空の中を突き進み始めた
「こりゃあいい。空気が澄んでるぜ」
広がる青空に白い雲、大洋に輝く広大な海。見た目に一切の偽りなし。空気清浄装置を切ってこれは良い星に間違いないと、年甲斐なく心が躍った。
程なくして洋上から大陸へと移った宇宙船は人目を避けるべく加速し、あっという間に目的の地点へ到着してしまった。
「地図は荒野つってるが……普通に良い牧草地なんじゃないのか…? あっ?」
荒野と言いながらも緑が広がる豊かそうな土地には、よく分からない鳥が放牧されている。
そんな荒野の一か所に、明らかに不自然な一つの巨大なクレーターがあった。宇宙船のカメラは既に、そのクレーターの中に散在している機械パーツを映していた。
「やっぱり宇宙ポッドか…!」
岩山の陰に宇宙船を着陸させたリューベはウェストポーチを着け、メンテナンス用の上部ハッチから外へ飛び出ると、件のクレーターの縁へ足を掛けて中を覗き込んだ。
大きな部品の殆どは何者かに持ち去られていたが、使い物にならないと判断された大小の幾つかの部品は、まだその場に残されていた。
斜面を滑り降り、スカウターでシグナルを探る。微弱な非常信号を頼りに、リューベは宇宙ポッドの小さなビーコンと、小さなメモリーカードを見つけ出して拾い上げた。
「……フリーザ軍で確定か…しかしコッチはちょい古いな…?」
古いシリアルナンバーのメモリーカード。それをポーチから取り出したマルチカードリーダに挿し込んだリューベは、リーダをスカウターに繋いで片目を瞑り、そのカードの情報を読み取り始めると同時に、ビーコンの電源を切ってしまった。
「…S-31823…名前は『ラディッツ』…か」
スカウター越しに映し出された、ラディッツという名前の戦士のホログラフ。カードはコンパネに挿す医療情報の物だった。
リューベはラディッツの情報の一つ一つを読み取っていく。そして、彼女はラディッツの「種族」に目が留まった。
「…サイヤ人。なんだい、人生クソつまんなそうなツラしやがってよ。何が不満だよ、言ってみな?」
初めて目にした同族の姿。ホログラフでもしかめっ面をしていて、日々が心底面白くないとでも言いたげな、腰まで届くほどのザンバラ長髪の男に向けて、リューベは軽口を飛ばした。
記録されている戦闘力は1500。先の1720の戦闘力がこのラディッツである可能性はゼロではないが、ポッドが破壊され、スカウターも通信機能が死んでいる状態で、ラディッツが生きていると言える証拠は何処にも無かった。
「………む?」
リューベがクレーターからパーツを持って上がってきたとき、サァ、と風が吹いた。その風の中に何か、一見平和で長閑な荒野には似つかわしくない要素が漂ってきたことを感じ取った彼女は、二度三度鼻を鳴らしながら宙へ浮かび、上から辺りを見回した。
「…居たな」
明らかに土の様子が違う。草の生え方も違っていて、岩とも金属とも言えない物が覗いている。そちらの方から微かに漂ってくる嫌な風に舌打ちをしたリューベは、明らかに不自然なその場所へ降りた。
黒と茶の戦闘服、そして特徴的であった長髪が覗く。リューベはその土を手で掘り返し、そこに埋められていたサイヤ人の亡骸と対面した。
「おう、ラディッツとやら…いつ振りかの太陽はどうだい」
見紛うこと無き、サイヤ人の男ラディッツ。彼は文字通り、土手っ腹に大きな風穴を空けられて死んだようだ。
スカウターによるスキャンは、その傷が巨大な牙や腕によるものではなく、気功波といったエネルギーによるものだと断定し、死後数か月は確実に経過していると推定した。
彼の左耳にスカウターは無し。彼を仕留めた者かは不明だが、やはり何者かに持ち去られたようだった。
戦闘力1500。下級戦士としてはかなりボーダーなギリギリの数値だが、それでも戦士としては十分過ぎる数値であるが、これほどの恐ろしい傷を負わせてくるほどの存在が、この星には居るようだった。
「まったく、理由なんか知らねえが、不運な奴だぜ…」
ホログラフでは分からない、生身の人相も窺い知れぬほど朽ちてしまったサイヤ人の戦士の亡骸。どのような表情で、何を思いながら死んでいったのかは、もう分からない。
少なくとも、生きたフリーザ軍の兵士がこの星に居るわけではないと分かっただけでも、大きな収穫であった。彼女は長閑な荒野との現場の雰囲気の乖離に複雑そうな顔をすると、かつて訪れた一つの星の礼儀に倣って、片合掌にて最低限の弔いをしてやった。
「さて、次の用事を済ませるか…」
合掌を下ろし、左手でスカウターを起動する。旧式スカウターから時折発せられる微弱な通信波が逆探知され、距離方角全てがはっきりと表示された。
スキャン時に地球上の通信波から得ていた地図データ上では「NBI 8250012B」とある。その場所はリューベが今いるスピニッチ荒野から見て、およそ南南東の遠い洋上である
「戦闘力152ちょっとと一緒に居るな…さて、どんな顔か見せてもらおうか?」
ラディッツを埋め直してやったリューベは、宇宙船がある方へリモコンを向け、人目につかぬように光学迷彩を起動して隠蔽した。
紅いオーラを纏ってその場を飛び去ったリューベは、広大な山地の上を飛んでいる際中、スカウターが再び拾ったいくつかの反応に気を向けた。
「……そうかい。アタシの位置が分かるってか」
スカウターの逆探知には引っ掛からない。それでも尚、かなり遠くの位置をピッタリ尾けるように飛んでくる弱めの反応が2から3ほど。リューベは飛行速度に緩急をつけてみたが、それでも器用に付いてくるそれらの反応速度に感心した。
「…上手い事やるじゃんよ。せいぜい付いてきな」
付いてくる何者か達を一気に撒こうとリューベは速度を上げる。その道中、景色を楽しむ余裕すらあり、水質の解析も兼ねて、海面すれすれを飛んで潮風を楽しむ事もできた。
「さて、そろそろだな…?」
そうして訪れた、何度目かの反応の更新。お目当ての反応が居るであろう場所へ到着して宙に静止した時、リューベは眼前の景色に「おおっ」と小さく感嘆の声を漏らした。
ぽつんとした孤島にピンク色の家が一つ。着説が夏であろう今はパラソルとビーチベッドも出ている。不便そうだが、隠れ住むという意味では望みにカッチリとハマる理想像だった。
「……へえ、なるほど?」
その何とも羨ましい島から見上げてくるのは、神妙な顔をしたナイスなグラサンの老人と、スカウターを着けた白衣姿の水色の髪の女性。
リューベはその女性をじい、と見下ろして見つめ、納得の笑みを浮かべたのだった。
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結構バランスに苦心しています。