◆
分かりやすく「KAME HOUSE」と書かれた家に微笑む。リューベの微笑みは後々の理想の手本が見られた事による喜びだったが、眼の前の二人には獲物を前にした不敵な笑みにしか見えていなかった。
「か、亀じいさん……あ、あいつって……!?」
「サイヤ人じゃ……しかも、今度は女のサイヤ人か!?」
老人と女性の反応から、この星ではえらく怖がられるらしいと考えたその時、リューベのスカウターが急接近する4つの反応を捉えていた。
彼女は、先程に速度で突き放してきた連中が速度を上げて追い付いてきたのだと考えながら、カメハウスの方をちらりと見やった。旧式スカウターの反応はその奥から来ている。
「……チッ、おいそこの白衣の人、そっちのジイさんと絶対に逃げるなよ。あとで話があるからな…」
「わ、わたし!? 何でよ…!! どうしてわたしなんかに用があるってのよ!!」
女の事を無視して、飛来してくる者達の方へ体を向ける。スカウターのロックオンサークルと同じ4つの光。一番先頭を飛んでくる者が最も戦闘力が高い。その者がラディッツを倒したもので間違いない。
「よう、案外速いじゃねえか」
やってきた4人の武道家達に分かるよう、リューベは尾を解いて揺らした。ラディッツの件を知っている連中ならば、分かりやすい反応をするだろう。
「サイヤ人だ…! 本当に来た…!!」
「半年も早く来るなんて聞いてないぜ…!!」
剃髪頭のチビな男と長髪の男の反応に、リューベは少し訝った。
しかし、彼女がどういう訳かと聞こうとした時、最も前に居た男、ナメック星人らしき男が睨みつけながら問いかけてた。
「きさま、もう一人はどうした?」
「もう一人? 何のことだよ」
「とぼけるな…!! きさまらサイヤ人は二人組で来るんじゃなかったのか!!」
ラディッツ絡みの話だろう。リューベからすれば知らん奴の存ぜぬ因縁であった。
「知らねえな。誰が言った?」
「きさまの仲間…ラディッツとかいう奴だ」
リューベは腕を組み、一時思案した。
ラディッツの仲間は間違いなくフリーザ軍であり、中級兵士から上級兵士の可能性が高いだろう。
実力は不明だが、今の地球人の戦闘力では相手にもならないだろう。
しかし、ここでリューベはさらに面倒な事になりそうだと気付いた。向こうは「サイヤ人の脱走兵」としてこちらを知っている可能性があるのだ。
そんなサイヤ人が二人。命令が有ろうが無かろうが、まず間違いなく戦いになるだろう。
金にならないフリーファイトは真っ平御免である。しかし、やっと見つけたバカンスの希望先をどこの星の連中とも知れない連中が歩き回るようにもしたくない。
この間、コンマ5秒。その話の前にリューベは地球人とやり合いそうなこの状況を避けるべく、素早く腕を解いてクロスに構え、真紅の気弾を両手に現す。
「!!」
「来るぞ!?」
技を警戒して構える武道家達。しかしリューベにとっては都合の良い反応だった。
「じゃあな!!」
そう叫ぶと同時に両腕が掲げられ、両掌の気弾は真っ白な光球となり閃光を放った。それは真夏の太陽を直視するよりも眩く輝いたのだ。
「わあああっ!!目が…!!」
「ま、まさか目潰しとは…!!」
「ぐ、うおおおっ…!!」
本物だとは思っていなかったが、三つ目の武道家には余計に堪えてしまったようだ。地上の二人も目が眩んでおり、老人もサングラスを光が貫通してしまったらしい。
全員目がくらんでいるのならと、リューベは少し調子に乗ってみた。
「ハッハッハ…!! 愉快、愉快!! アハハハハハハ!!」
自慢の尻を一発引っ叩き、心底小馬鹿にしてみる。何せ彼女はここまで目潰しが綺麗に決まったのは久しぶりで、楽しくなってしまったのだ。
まだ眩さを放つ光球をその場に留めたリューベは、あっという間にその場を飛び去っていく。
その直後、彼女は「逃げるなよ」と言った自分が逃げていた事に気付き、洋上で「あっ、やっちまったなあ」と舌ベロを出して頭を掻くのだった。
◇
○
◇
一方、所変わり、そこはオレンジシティ。大陸南東部最大の街として知られるそこは立派なビル街とハイスクールも在り、道路も広く綺麗で豊かな街である。
だが、そのオレンジシティはどういう訳か、警察消防も充実しているというのに、犯罪がやたらと多いことで有名であり、それが玉に瑕であった。
そして、それは今日も起こっている事であった。
「ギャハハハハ!! じっとしてやがれ!!」
「ひいぃ〜っ!! お、応援求む、応援求む…!!」
警官隊へ向けて、赤いリボンマークが付いた古いマシンガンを撃ちまくる銀行強盗達。弾薬箱まで用意したフル武装は、最初からそのつもりであったかのようだ。
対する警官隊は精々拳銃かショットガン程度。幸いなのはパトカーが防弾仕様であったことか。
「邪魔くせえな、ふっ飛ばしちまえ!!」
ビックリドッキリも良いところである。ズイ、と引っ張り出されたのはパンツァーファウストの類だ。防弾パトカー如き容易に吹き飛ばすだろう。
「バカ、カネを詰めてる途中だぞ!! まだ取っとけ!!」
「なんだよつまらねえな!! マッポなんかさっさと吹き飛ばして黙らしちまえよ!!」
「防衛軍とやり合いてえなら一人でやれ大雑把野郎!!」
「だったら奥の奴らにさっさとカネを詰めろと言いやがれ!」
流石にパンツァーファウストは止められたが、据え付け型のマシンガンは警官隊を怯え留めさせるにはあまりにも十分だ。
相手が悪くて役に立てない警官達は、防弾パトカーの裏で頭を抱えていた。強盗達のマシンガンが小口径仕様だったのが更なる幸運だった。本来の口径なら、もう誰も生きてはいない。
強盗のやたらめったらな射撃の隙を見つけては撃っていたが、どの車両もベコベコでボロボロ。エアカーなので爆発よりもバッテリーからの出火が危惧されていた。
「く、くそーっ、応援が来ても同じことか…!?」
肝が据わっているベテラン警官も頭を出したくならない、無数の鉛弾が放たれている危険極まりない現場がここだ。
その時、空から降ってきた一条の紅い光が、アスファルトを爆ぜさせた。
「な、なんだ!?」
強盗は射撃を止め、警官と同じように空を見上げた。そこには、妙に際どいインナーに見慣れない鎧を着た、尻尾が生えた女が立っていた。
「う…浮いてる…!?」
重力を知らないかのように地上へ真っ直ぐ降りてきた女の姿を、皆が確かめる。
その女は、トランジスタグラマーのように出るところが出たボディよりも、男のボディビルダーを思わせる迫力のある、四肢の太さと胴の厚さが目を引いた。
「筋肉の塊に……」
「オッパイとケツが付いてるぜ…」
強盗のガンナー2人は呟きながら呆然としていたが、その女が一歩踏み出した事で気を取り直し、マシンガンのグリップを握り直した。
「く……来るな!! 何だてめえ!! 蜂の巣にされてえか!!」
「ハチミツは出ねえぞ?」
「ふざけやがって、死ね!!」
「わっ、馬鹿!!」
片割れが感情の突沸に任せ、トラック据え付けのマシンガンが猛烈に火を噴き始めた。
10数秒も続いた連続射撃。本来やらないような撃ち方を続けたことで生じる問題に、本来は兵器のド素人である彼は気づくのが遅れた。
「なあっ……!? や、やべえ!! 焼け付いっ…!?」
射撃が止まった瞬間、強盗の眼前には、無数の鉛弾を受けて尚も全く無傷のままな女が、既に構えた状態で迫っていた。
「ひっ!?」
一発、二発。素早い手刀が一基のマシンガンと一挺のサブマシンガンを粉々に砕き散らしただけでなく、二人のサイドアームの拳銃までもがスリ取られていた。
「はっ!? はあっ!?」
「アンタは行儀が、アタシは手癖が悪いか」
直後に響き渡る2発の銃声。奪われた拳銃で脛を撃たれた強盗二人は倒れ伏し、女はわざとらしいモデルウォークで銀行の中へツカツカと歩んでいく。
「な、何だ、テメェは!?」
人質の抑え役は答えを待つよりも早くサブマシンガンを撃とうと構えたが、構えた瞬間に拳銃が顔面に投げられた。
「あがっ!」
バランスを崩した抑え役の真正面に立った女は、そのサブマシンガンのハンドガードを掴み、なんと丸めた紙のように容易く握りつぶしてしまった。
「ひいいっ!?」
直後、股を蹴り上げられた抑え役は痛みで気を失い、頭から床に突っ込んでしまった。
人質達が疎らに逃げ始める中、女は金庫室に繋がる通路を見つけた。
その通路に入ると、巻き添えを食ったのか、それとも単純に殺されてしまったのか、数人の警備員が斃れていた。
「ちぇっ……正直気分悪いぜ」
左耳の機械が倒れている警備員全員の死亡を示した事で、女は苦い顔をした。
その直後、まだ奥に残る強盗のうち一人が姿を現したが、指先からの見えないエネルギーに額を強く打たれ、一言も発さず気を失った。
入り組んだ通路の先の金庫室では、袋詰めに難儀している強盗がまだ3人居た。
女には、すでにその3人がはっきりと視えていた。
「早く、早くしろよ!!」
「今やってるだろ!! 一枚と残らず持っていこうだなんて…!」
「あとどれくらいだよ…!!」
几帳面か強欲か、リーダーの無茶な命令が祟ったらしく、広い金庫室の奥で文句を言い合っていた彼らには、外の音が聴こえていなかったようだ。
これは都合良しと、女は直様一人に鉛弾を撃ち込んだ。
「ぎゃあっ!!」
「いっ!?」
バラクラバの男二人はサブマシンガンを構えようとするも、カバンの札束で重くなった体で振り向くよりも早く脚を撃たれた。二人は体勢を崩した途端に素早く武器を蹴り飛ばされ、一人は顎に一発食らって崩れ落ちた。
「ひいいっ…!! ば、バケモンだ!!」
「待ぁ〜〜てや…」
痛みを押して足を引き摺り逃げようとする、強盗の一人の首根っこが引っ掴まれた。女は、その万力よりも強い力で引き寄せることもしないまま、その場で問い掛けた。
「この星の通貨は? 通貨。カネよ」
「えっ…!? ぜ、ゼニーです……!!」
「そうか行け」
「だっ!? わっ!? ばわっ……」
突き放された強盗は仕切りの固い鉄格子に顔から突っ込んで気を失った。
すっかり静かになった金庫室の奥。札束で一杯になって置かれていたショルダーバッグを覗き込んだ女は、100万ゼニーの札束を一つ手に取った。
「紙幣と硬貨か…ふぅん」
女はこっそりとポーチに200万ゼニーほどくすね、残っていた拳銃とその弾倉を投げ捨てて、金庫室を後にした。
「き、君っ!! 止まりなさい…!!」
悠々と銀行の入り口まで歩いてきた女を、警官が静止する。先のマシンガンに対して無傷、そして煤もかすり傷も付いていない存在に対して感じるのは、得体の知れない恐怖である。
だが女は止まらないまま、ふわりと浮かび上がった。一人の警官が驚きのあまり引き金を暴発させてしまったが、女はその弾を指先で掴み取り、逆に銃に当てて弾き飛ばしてしまった。
「おわあ!!」
「ああっ…!」
「もっとシャキッとしろよ…!! ほらぁ!!」
心底うんざりしたような顔で怒鳴った女が銀行の方を指差すと、我に返った警官達が確保の為に突入していく。
「ご…御協力…感謝します…?」
「アタシにそれを言う前に、そんなチャチな装備で機関銃とやり合えって言ってくるお上に文句言えよな」
定型文じみた感謝の言葉をあしらうと、女は紅いオーラを纏い、戦闘機の様な速度で飛び去ってしまった。
呆気にとられる警官と野次馬達。その日からオレンジシティは、その謎の女についての噂が多く話されるようになり、ヒーローだとか宇宙人だとか、本当は映画の撮影で全部トリックなのだとか、様々な憶測が飛び交うようになった。
そして、オレンジシティ警察はその年から装備の増強が行われ、検挙率と治安が向上していくのであった。
◇
○
◇
「ひい、ふう、みい、よぉ……めんどくさ。フフフ、初期資金としちゃ悪くねえかな」
オレンジシティで見かけた強盗騒ぎで、どさくさ紛れにポーチにねじ込んでくすねて来た、200万ゼニーのピン札束。金銀財宝も良いが、やはり仰げて涼しい札束の方が気分が良い。
「さて…アイツ等はどうするべきかな」
ギったとはいえ、途中で金ができたのだから前金扱いで少しは相手をしてやっても良いかと考えたが、下手に痛めつけて要らぬ恨みを買う気はない。
かといって、ずっと追われっぱなしも嫌である。
どうしたものかと考えたとき、リューベは地球の武道家達が、スカウターも無しに自分の位置を正確に把握してきていた事を思い出した。
「エネルギー探知を自力でやってるってのか…? 面白いな」
スカウターでの反応はまだ少し距離があるが、彼ららしき反応は確かにリューベの所へ向かってきている。
スカウターのように一々ボタンを押したり、定期サーチさせたりする必要がないのなら、それはとても便利である。
「む…戦闘力1821…戦闘力が変動して…他も速度も上がったな?」
先頭はやはりあのナメック星人だろう。今までよりも速度を上げてこちらに向かっている事から、相手が動いているか否かも判別できるのだろう。
「……ふぅ、分かった、分かったよ……相手してやるよ」
何をどう感知しているのかはサッパリな以上、ずっと逃げ回ってもバレっぱなしなのだろうが、それ自体はこちらもスカウターを使っているのだからお互い様だった。
そして事情を察するなら、彼らにはあまり時間が無いのだろう。一日でも惜しいのなら、この日のうちに色々と済ませてしまった方が双方ともに都合が良い。
そう考えてリューベがやってきたのは、スピニッチ荒野の自分の宇宙船から少し離れた辺りであった。
「…来るな?」
宇宙船から持ってきた数本の酒とともに、小さな岩に腰掛けて武道家達を待ち受けた。
スカウターを外して目を閉じ、意識してみればなるほど、何かを感じるような気がしなくもないが、戦いで使えるレベルには程遠い。胸が熱いのはラッパ飲みしているジンのせいだ。
「もう逃さんぞ…!!」
「ハハハ…もう逃げねえよ」
降り立った四人の武道家に微笑みを向けたリューベは、瓶に残ったジンを全て飲み干し、着け直したスカウターの動作音と共に目つきを変えた。
「バカにして悪かったな。気が変わったんで相手してやるよ…」
空き瓶をトン、と置いて立ち上がり、ゆっくりと構えたリューベは、地球の武道家達がまだ一度も感じた事の無い程の「気」を放つのだった。
◆
リューベ視点だと原作キャラの名前を出しづらく、原作キャラ視点だとリューベの名前を出しづらく…と結構悩んでます。さっさと話を進めて自己紹介でもさせたほうがいいんですかね。
そんでリューベが拳銃を使った件については、とりあえず持ったんだから使ったれ、の精神です。