気高くない女のサイヤ人   作:イゴマル

4 / 6
大幅に書き直した第四話です。ちょっと苦しい箇所もあると思います。


第四話:釣り銭はいらない

◆

 

 長閑な景色が続く荒野のど真ん中で、一人のサイヤ人と四人の地球の武闘家達が激しい攻撃の応酬を繰り広げている。

 

 マシンガンの如き連打を四方から繰り出す武闘家達も凄まじいのだが、サイヤ人リューベは、身長と手足の長さで負けているのにもかかわらず、ナメック人の偉丈夫ピッコロとまともに打ち合えているだけでなく、四人同時の苛烈な攻撃に対して全く動じず、ほぼ全てを受け、逸し、捌いていた。

 

「ははははは……!! 軽い軽い!! そんなもんか!?」

 

 リューベにとって、勝ち負けを気にせずプライベートで戦うのは中々無いことだ。相手は勝ち負けを相当気にしなければならない状況のようであるが、彼らに対して彼女がそれを気にしてやる義理は無い。

 

 加えて、彼女にとって彼らは弱過ぎるのだ。残酷な事実として、高々700から1000ちょっとの戦闘力は、賞金稼ぎの稼業の中で数え切れないほどあしらってきたレベルであり、フリーザ軍の雑兵の方がまだマシかもしれないのだ。

 

「四人がかりでこの調子だと、1万ゼニーでも釣りがくるな…」

 

 それぞれの腹に強めに肘を食らわせた後、追撃で地面へ叩き落とす。そこそこ頑丈なようだが、やはりこれだけでも相当なダメージになってしまったようだ。

 

「く…くそ……なんてヤツだ…どれだけ攻撃を当ててもまったく効いている気がしない…」

 

「ピッコロ……ラディッツをやったっていうあんたの技でも、ダメそうか…?」

 

「……ヤツはラディッツすらザコに思えるほどの気の持ち主だ………ハッキリ言って、今のオレが全力で気を溜めても…分からん」

 

「う、うう…!! お、オレ達でどうにか出来る相手か…!?」

 

「弱音を吐くなクリリン…逃げても結局全員死ぬだけなんだ、やるだけやってやるしかないだろう…!!」

 

 首を鳴らして次の手を待つリューベは、彼らの会話をスカウターですべて拾っていた。何かをするならその時間を与えてやっても良いが、それよりも今の彼女にとって重要なのは、どのようにこの戦いを終わらせるか。200万ゼニー分の戦いなど、よくよく考えてみれば貨幣価値がどれくらいかも分からないのだから意味不明であるし、そもそもこの星には戦いに来たわけではない。

 

 しかし「やめろ」と言って止めてくれそうな雰囲気でもない。ならば真っ向から受けて立ち、実力差で黙らせるしかあるまい、と考えたリューベは、頭の片隅で30分5000ゼニーぽっきりの特別フリーファイトを開いていた。

 

「なんかやるってんなら、待ってやるぜ。それがアンタらの中での最大火力のフルパワーだってんなら、それを受けてやる。ハッキリ言って理由なんか知らねえけどよ、アタシをどうしても倒したいらしいからな…」

 

 地に降り立ち相手の攻撃を待つ。早撃ちなら得意であるし、そうでなくとも真っ向から吹き飛ばすか耐えてみせてやる自信がある。というよりも、出来て当然な実力差があるのだ。

 

「…なあ、ピッコロ。オレたちで時間を稼いだら、その技を確実に当てられるのか…!?」

 

「……それも分からん。だが一回は確実に撃てる…!! 二発目は先にきさまらがくたばってしまえば終わりだがな…!!」

 

「ヤムチャさん、天津飯。一緒にやってくれるか…!?」

 

「…やるしか選択肢はないだろう」

 

「くそ……まだ修行も始まったばかりだったってのに!!」

 

 スカウターの集音機能で話の一切を聴いていたリューベは、長髪の男ヤムチャの言葉が気掛かりになった。よくよく見てみれば、ダメージを加味しても異常に疲弊しているように見受けられた。

 

(島でナメック人は「二人組」と言った……コイツらはその二人組に備えるためのトレーニング期間の真っ只中っだったっつうわけか……そして、彼らはアタシをそいつらの片割れと誤認している…か。余計にめんどくせえ。やっぱり一気にブッ倒して……いや、それじゃあ流石につまらねえな!!)

 

 リューベは、じっくり相手をしてそれぞれの実力を確実に把握していくだけの余裕はあると考えた。生半可な実力でサイヤ人に挑んで揃って死なれては、地球はその「二人組のサイヤ人」とやらに滅ぼされてしまう。ならば、自分が一々出張らなくても良いように、彼らを軽く揉んで、強さの指標を作ってやった方が良いと考えた。

 ラディッツを指標にされては、この先生きてはいけないだろう。

 

「……さあ、もっと掛かってきな!! 腑抜けってワケじゃあねえんだろう!?」

 

「ちくしょーっ!! やってやる!!」

 

 クリリンからヤムチャ、天津飯と続く。真っ先にクリリンが攻撃をしてくるかと思いきや、クリリンは地面に気弾を放ち、煙と共に視界から消えた。そしてその煙の中からクリリンの代わりに襲い来たのは、拳を獣の爪のように構えたヤムチャであった。

 

「新・狼牙風風拳ッ!!」

 

「こいつは…擬獣拳か…!」

 

 鋭く素早い連撃の最後は双掌打。受けて下がったところの背後に襲い来た天津飯の攻撃を防いだリューベは、続けざまに再び来たヤムチャの攻撃も防ぎながら、やりづらそうな顔をした。

 

「面倒くせぇ…!」

 

「どうした、余裕の顔は!?」

 

「はっ、冗談は足だけにしやがれや!」

 

「どわっ!!」

 

 素早い腕に対して止まりっぱなしなヤムチャの足を蹴り払う。しかしそこからヤムチャに対して攻撃を加えようとしたところに、さっきからやけに手数が多い天津飯が攻め立てた。

 

「今度はオレが相手だ!!」

 

「……うん!?」

 

 攻撃を防ぎながら「見間違いであれよ」と内心でつぶやいたリューベの目には、天津飯がどうしても四つ腕に見えていた。

 

「な、なんだ…!? ほ、本当になんだ!?」

 

「つあっ!!」

 

「むっ……!! 本当に腕が四本…!? な、何だアンタ…三つ目だったり…その腕生やしたのか!?」

 

「どうかな……我が秘技、四妖拳…とくと味わえ!!」

 

「…バラエティ豊かな連中だな全く…くっ!! 今度は目からビームか!」

 

 額の目からのビームを防いだところへ、再びの猛攻。そこへ立て直してきたヤムチャも加わると、二人でほぼ四人分のパンチと蹴りの嵐である。

 

「気合入れたらなんだい、結構化けてくれるじゃねえか。しかしこの程度でダメージを通せると思うなよ?」

 

 ヤムチャの拳を弾き、次いで天津飯へと振り向いたとき、彼は背中の腕で攻撃しながら両の手を額に翳していた。

 

「むっ!?」

 

「今だやれっ!!」

 

「太陽拳!!!!」

 

「うぅわっ!!」

 

 また額の目からの光線かと身構えたのがまずかった。ヤムチャの咄嗟の羽交い絞めで顔を覆えなかったリューベは眩い閃光を至近で浴びさせられた。

 彼女は咄嗟に目を閉じたが、既に瞼裏すら後像に染まっており、カメハウスでの目眩ましの仕返しを食らわされてしまった形になった。

 

「ち、ちくしょう!! 因果応報ってところか!!」

 

「二人とも今だ!!」

 

「「波ぁーーーっ!!!!」」

 

「ちいっ!!」

 

 ヤムチャとクリリン、同門での同時の「かめはめ波」が、目くらましによろめいたリューベへと放たれる。彼女はスカウターの警告音でそれを跳躍回避したが、その先では天津飯が既にダブルスレッジハンマーを構えていた。

 

「やはり来たな!! でやあああっ!!」

 

「うおっ!?」

 

 背中に食らい叩き落された衝撃でスカウターが取れて落ちていく。

 落下の最中に戻ってきた視界の中で地面を認識したリューベは身を翻して力強く着地し、地球人たちの連携と猛攻に感心した。

 

「ふうっ!! 搦手混じりだと結構歯応えあるぜ……んんっ!?」

 

「ハッ!!」

 

「がふっ!」

 

 体が反応し動くよりもコンマ秒速く、地中から襲い来た気弾が彼女の顎をかち上げた。喋っていれば舌を完全に噛んでしまっていたであろう。

 急旋回して再び襲い来たそれをリューベは蹴り飛ばすも、気弾は地面をえぐりながら素早く旋回してもう一度襲い掛かってきた。

 

「爆発しないとは…!! なんて機動力だ!!」

 

「自慢の繰気弾を食らいやがれ!!」

 

 迎撃しようと思えばすり抜けて当たってくる。そして当たっても炸裂しないので何度も打撃を与えられる。宇宙広しと言えどこのタイプのエネルギー弾を用いる戦士は記憶になかった。

 

(く…!! だ、ダメージはともかくやたら重く速い…!! 直接操作するタイプだな…!!)

 

「たああ―――っ!!!」

 

「食らえ――――っ!!」

 

 追尾気弾よりも高機動かつ、急制動が利く。それを確実によろけさせられる足元や顔面に食らわされた所に、天津飯とクリリンが打撃や気功波を叩きこんでは離脱していくのだから、かなり苛立つヒットアンドアウェイ戦法であった。

 

 加えて、戦闘力以上の気弾の移動速度と制御能力。これでは埒が明かないと考えたリューベは一瞬の猶予を見つけて軌道を外し、気弾を操っている張本人であるヤムチャへと向かっていった。

 

「畜生、こンの軟派野郎~~! そのだっせえザンバラ頭散髪してやる!!」

 

「ぐわあっ!!!」

 

 ヤムチャに少し強めのタックルを食らわせ、その長い髪を引っ掴んで地面へ叩き付けたリューベは、手刀で後ろ髪ごと斬ろうとする素振りを見せた。すると案の定、クリリンと天津飯が焦りながら阻止しようと近付いてくる。

 

「ヘヘッ、来たな?」

 

「うおわっ!!」

 

「うわああ!!」

 

 髪から足へ掴む箇所を変えて、ヤムチャをクリリンへ投げ飛ばす。クリリンがヤムチャを受け止める一方で、向かってくる天津飯には反応するよりも早く鳩尾にアッパーカットを食らわせ、浮いた体をさらに鋭いサマーソルトキックで高く打ち上げた。

 

「あぐっ…!!」

 

「天津飯!!」

 

 持ち直したヤムチャとクリリンが助けに入るよりも早く、リューベは仰向けに打ち上げられた天津飯の腹に手を置いていた。その手には紅い気が纏わされており、彼等には今にも気功波で天津飯の腹に風穴を空けようとしているように見えていた。

 

「動け、動け天津飯!!」

 

「やばいっ!!!! 逃げろ天津飯―――っ!!」

 

 リューベは「そう心配するなよ」と内心呟きながら、掌のエネルギーを強めた。少なくとも死にはしない筈だ。

 

「…死ぬなよ? つあっ!!」

 

「ぐおわああっ!!!」

 

「!!」

 

 バヂィッ!! とあまりにも痛々しい音を立てて地面へ打ち付けられる天津飯。彼の体を襲ったのは命を穿つ気功波ではなかったが、衝撃砲で受け身の一つも取れないまま後ろ半身を強打させられた彼は、その大きいダメージで気を失ってしまった。

 

「て、天津飯…!!」

 

「く、くそったれ…!!」

 

 動ける中では一番の使い手が一時離脱。サイヤ人の強さの一片を垣間見た彼らは、密かに身震いしていた。

 

 

◇

 

 神の下で修業をしていた連中が修行途上で飛び出してきたように、ピッコロ自身もまた修行途上であった。

 今の己最大の技である「魔貫光殺砲」の欠点は、チャージに酷く時間が掛かってしまうところである。それを改善するには地力を高めていくほかない。

 

「ピ、ピッコローっ!! まだなのかーっ!!!!」

 

「まだだ…!! まだヤツを殺すには気が足りん…!!」

 

 急かすんじゃない、と内心愚痴る。今こうして自分を無視してくれている事自体が幸運なのだからと、ピッコロは少しだけ恨めしそうにクリリンを見たが、すぐにサイヤ人の方へ視線を戻した。

 すでに撃つ事だけはできるが、まだ足りない。あの女を殺し得る予測量の半分程度であった。

 

「えらく掛かるじゃねえか……インスタントならとっくに出来上がってる頃だぜ。お友達は一人ダウン。さて、次はどっちだろうな」

 

 あの三人の中でも技と実力に秀でている天津飯が最初に脱落してしまったのは痛い。気を感じられる事から生きてはいるようだが、あの様子では復帰には時間を要し、復帰してきても体力的に気功砲を撃てば間違いなく死ぬ。

 

「ぬううっ…!!」

 

 ピッコロは中々気が溜まらないことに歯噛みした。魔貫光殺砲は本来、宿敵である「孫悟空」を殺す為に開発した技である。長いチャージ時間は、かつての天下一武道会の時のように、孫悟空ならば真っ向から受けて立つであろう、という考えから度外視できた点だった。

 

 しかしラディッツの時はそれが仇となり、孫悟空が時間を稼がねば溜める事も当てる事も出来なかった。いくら技が早くとも、当てられなければ意味がないのはその時に実証済みだ。

 改めて、孫悟空がどれだけ甘い男であるのかを改めて認識させられたピッコロは、責任転嫁に等しいと分かりつつも小さく呟いた。

 

「孫悟空め……きさまのせいだぞ…!!」

 

◇

 

 何発も食らわせては突っ飛ばしの繰り返し。彼らの最大戦力の全力を受けるべく時間稼ぎに付き合っているが、リューベのサイヤ人としての気性が出てくる程には限界だった。

 

「このクソ緑いい加減にしやがれ!! いつまでちんたら溜めてやがるんだ!! コイツらの両脚叩き折ってやってもいいんだぜ!!」

 

「か、勝手にしやがれ…!! そんなことを言っていられるのも今のうちだ…!!」

 

「なんだいダメか…本当にコイツらの仲間か…? ったく、こっちはこっちでしつこいんだよ!!」

 

 ピッコロと彼らの関係性を知らないリューベは、知ったことではない、と言った風な様子に若干困惑しつつ、三度襲い来た繰気弾を蹴り飛ばした。

 

「ちくしょう…何やっても効きやしないなんて…!!」

 

 クリリンはまだ戦意を失ってはいなかったが、時間稼ぎの中で既に天津飯が気功砲を1発食らわせており、そしてクリリンとヤムチャがサイヤ人の弱点である尻尾まで試しても尚、目の前でどっしりと構え続けているサイヤ人にほぼ全くダメージが通っていないことに恐ろしさを感じていた。

 

 そして彼は、古い友人かつサイヤ人である「孫悟空」も尻尾を鍛えていたことを思い出していた。同じサイヤ人が弱点をそのままにしている訳が無いという考えに至らなかったのは、その友から尻尾が無くなって長かったからだ。

 

「もう限界だぞ…気功砲を撃ってしまってオレも体力がない…」

 

「お前はよく撃てたもんだ…オレなんか打ち合うだけでヘトヘトだってのによ……あれで手加減してるんだろうぜ……あれでよ…」

 

 天津飯が気功砲を放ったのは、気絶から回復してしばらくした頃だ。命を削る程の技である気功砲を全力で放てば死の危険があったが、6割から7割ほどの出力で放ち、時間稼ぎに徹したのだ。

 よくもまあ撃てたものだと、気功砲を知る者は思う。

 

「ま…待たせたな……!!」

 

 一瞥したリューベは、クリリン達に手仕草で「退け」と言い、クリリン達はピッコロの技の射線に全く入らない位置に退避していった。

 

「悪いが、アンタの技を受けきったら戦いは終いだ。良いな?」

 

「…どういうつもりか知らんが、覚悟はいいか…!!!」

 

「覚悟の上で来ちゃいねえけどな!!」

 

 集中した気が激しくスパークする指先をリューベへと向けながら、左手が右腕を支える。照準のブレが補正される。

 

「魔貫光殺砲、受けてみろ―――――!!!!!」

 

 高速徹甲弾めいた速度で、螺旋を纏うレーザーが放たれる。当時圧倒的な力を持っていたラディッツをして「まともにくらったらヤバかった」と言わしめた、圧倒的な貫通力を持つ気功技だ。

 その速度と秘めた威力。それを直感で感じ取ったリューベは驚きを見せたが、右手に紅い気を纏った彼女は逆にそのレーザーへ突っ込んでいった。

 

「でえやっ!!」

 

「!!」

 

 着弾した瞬間、強烈な爆発が彼女とその一帯を覆った。辺りの物を全て吹き飛ばす凄まじい爆風に晒された皆は、伏せて堪えた。

 

「や、やったのか…!?」

 

「い……いや。気はまったく減っていない…!!」

 

「……な………なんて女だ……!!」

 

 これなら確実に仕留めただろう、と考えたクリリン達に対して、いち早く気を感じ取った天津飯と、技の効果をよく知るピッコロは、爆発が示している結果に恐れながら震えていた。

 煙がすべて晴れた中に立つサイヤ人の女は、右手に僅かな痺れと装甲のひび割れを見せているのみであり、魔貫光殺砲のほぼ全ての威力が相殺されてしまっていたのだ。

 

「流石にとんでもねえ威力だ……時間を稼いで迄溜めただけはあるな……戦闘力3000から4000程度ならコイツでサヨナラだ」

 

「そ、そんな……」

 

「か…勝てん……オレたちでは…!!」

 

 倍以上の力を誇っていたラディッツすら屠った技に真っ向から打ち勝たれてしまったピッコロは、もう打つ手無しと見てしまった。

 今放った魔貫光殺砲は自身の半分以上の気を込めてまで放った超フルパワーのもの。クリリン達が残りの体力を使ってまた時間を稼いだとしても、二発目は大きく威力を減じたものにしかならないだろう。

 

「……終わりだ…」

 

「ピッコロ…!!」

 

「出せる手は出し尽くしたに近い……孫悟空を今蘇らせても勝てはせんだろう…それに、戻ってきたところで地球は壊滅だ……そして、ヤツの息子はまだ戦士としては使えんのだ……」

 

 クリリン達は、ピッコロの言動と、目の前で痺れる右腕を降りながらスカウターを探し始めたサイヤ人の余裕な振る舞いで、どれだけの力の差があるのかを思い知った。

 

「ヤツはオレの技を受け切ったら、この戦いは終わりだと言った……今のオレたちでは……」

 

「……勝てないのか……!!」

 

 悔しさと不甲斐なさを滲ませた表情での頷きを見て、クリリンはそれ以上を言おうとはしなかった。四人の視線の先で、まだリューベはスカウターを探し回っていた。

 

「ったく、何処に行ったのやら……ああ、あったあった」

 

 スカウターを探し当てて着け直したリューベは故障の有無を確認すると、地球の武闘家達に向けて手を振りながら空へと浮き上がった。

 彼女からすればそのまま飛び去ってしまっても良かったが、それではあまりにも彼等に実入りが無さ過ぎると思って名乗ろうとしたとき、ピッコロが絞り出すような声で話しかけてきた。

 

「……さあ、やれ。きさまの勝ちだ…」

 

「…はあ?」

 

「とぼけるな……きさまらサイヤ人の目的など分かり切っているんだ……!! 地球人類を滅ぼすとともに、ドラゴンボールを探しにやって来たんだろう…!!」

 

「それも含めて意味分からねえな……それならとっくにアンタらの事なんか殺してるだろうよ」

 

 そう言って、リューベは四人のすっかり落ち込んだ戦闘力数値を呟くように読み上げ、唇を湿らせた。

 

「ふぅん………本当に殺す気でやってほしいなら、やってやっても良いがよ……1億でも安いぞ!!」

 

 言い終わると共に凄まじい剣幕から放たれたのは、今までの彼女からはまったく感じる事が出来なかったほどの「殺気」。圧倒的な捕食者に睨まれている小動物かのような感覚に襲われた四人は、体が動かなくなった。

 

「がっ…!! く、くく…!! ま、まさか…!!」

 

「今の今まで…戦う気にもなっていなかったってことなのか…!!」

 

「あったり前だろ。だって殺し合いに来たんじゃねえからな…それに、何? ドラゴンボール? なんだそりゃ?」

 

 表情が和らぐとともに殺気は消え、硬直が解けたピッコロは、ドラゴンボールについて話し始めた。

 

「…どんな願いでも一つだけ叶うという願い玉だ……きさまの仲間のサイヤ人二人組は、それを狙って半年後に、この地球にやって来るんだ…!!」

 

 リューベは「はあ?」という顔をした。そんなものを想像する世界には生きておらず、ましてや実在するとは露ほども思っていなかったからだ。

 

「…アンタらもその二人組のサイヤ人ってのも、いい年こいて絵本の読み過ぎだぜそりゃあ。なんでも願いが叶うだなんて馬鹿言っちゃいけねえよ。あるわけねえだろそんな物。叶えてもらった事あんのか? アハハハハハハ…!!」

 

「あるさ……!! 俺だって一度死んだけど……生き返ったんだぞ…!!

 

「ん? 臨死体験でもしてきたか? オバケめ! アハハハハハ!!」

 

 ペチャクチャ語ったかと思えば、ころっと顔を変えて大笑いし始めたサイヤ人を見て、ピッコロ達は「この女は違うのではないか」と思い始めていた。

 戦いはほぼ常に受け身。天津飯もあの1発で殺すも消すも出来ていた。ドラゴンボールをも絵物語と思っているだけでなく、二人組の事も全く知らない様子だからだ。

 

 そしてリューベは、この状況でよくもまあ冗談を言ってくれたものだと、腹を抱えて笑った後に涙を拭っていた。

 

「はーっ、まあ、それが本当だとしてもアタシは要らねえな…つまらねえ。で、その二人組ってのの目的がそれなら、まあ十中八九、ロクな願いじゃねえんだろうなあ……」

 

「…本当に知らないのか? 同じサイヤ人なんだろう?」

 

「しつこいな、話が進まねえ。どうせラディッツって奴の仲間だろうが、アタシはそっちの方でホトケを拝んだだけで完全に無関係だ。んで、アタシの名はリューベ。一人で賞金稼ぎやってるが………悪いが、サイヤ人がどういうもんか以外は知らねえ」

 

「じゃあ、どうして、何のために地球に来たんだよ…? 賞金首が地球に居るってのか?」

 

「いや? この星に来たのは休暇のためだ。海も空も空気も綺麗で良いやなあ。だが、そのサイヤ人二人組が来るってんじゃあ、ちとバカンスにはうるさすぎるな」

 

 今の彼等が少しでも思っているであろうことを察した彼女は、彼らが変に希望を持ってしまわないようにすることにし、クリリンに歩み寄って、彼の方を二度叩いた。

 

「気合入れろよな。そのサイヤ人とやらに手を貸す気はねえが、アタシにはまだアンタらと一緒に肩を並べてやる気も無いんだからな」

 

「ど、どうして……どうせこの星が消えちまったら困るのはあんたも同じだろう…!?」

 

「冷たいようだが、ちょっと長く泊まる宿みたいなもんだ…勿体ないが、それも運命だろうよ……どうしてもそのサイヤ人と戦ってほしいってんなら、そりゃもう高くつくぜ。殺しの依頼は好きじゃねえから、相当高く吹っ掛けてるしな…勝てる保証もねえ」

 

 非情なようだが、この美しい星に対して命をかけてやるにはまだ情が薄い。そして半年もあれば、この星から出ていっているかもしれない。

 そして、そのサイヤ人に賞金が掛かっているならやってやる気にもなるが、そうでもないなら、休みのうちはまったく戦いたくない。

 

「結局のところ、アタシは第三者でしかねえ。精々強くなって、アッサリとくたばらないようにするんだな。少なくとも片っぽは持っていけるかもしれないぜ。アンタらが本気でラディッツなんかザコに思えるくらいトレーニングしたらな…」

 

「ああっ、おい、待てよ!!」

 

「待ってやんねえよ。じゃあな!!」

 

 空へ舞い上がったリューベは制止の声も聞かず、また尻を一発叩いてあっという間に飛び去ってしまった。

 

「い…行ってしまった……」

 

「…ま、まさか…オレたちは人違いで戦ってしまっていたっていうのか」

 

「そ、そういうことになるよな……でも、良かったじゃないか。敵でも味方でもないなら、本命のサイヤ人が来るまでの修行は充分に出来る。ピッコロ、お前だって、悟空の息子に修業をつけてやってるんだろ?」

 

「…チッ、だが確かにヤツの強さはケタ違いだった……おかげで強さの明確な目標と指標が出来た。それに、地球もドラゴンボールも目的ではないなら、ヤツも変に手出しはしてこんだろう…」

 

 いざ、話をしてみれば人違いであった。危機感のあまり逆にマヌケな事になってしまったと感じつつも、彼らは一人も欠ける事無く、サイヤ人「リューベ」という明確な強さの指標を一つ得ることになった。

 

 そして、ピッコロが最初に帰っていった後、クリリン達も神様の神殿へ戻る事にしたが、道中彼らは話し合った。

 

「…オレ、もっと厳しい修業を神様にお願いするよ…このままじゃ、絶対に半年後にやってくるサイヤ人には太刀打ちできないと思うんだ…」

 

「…オレもだ…あのリューベってサイヤ人が、後からやって来るサイヤ人と比べてどれだけの強さなのかはまるで想像もつからないが…ピッコロの反応とあの気からして…ラディッツとやらはまず比べ物にならないのだろうな…」

 

 ヤムチャと天津飯は、今まで行っていた以上の厳しい修行への決意を新たにしたが、ヤムチャは直後にリューベが「片っぽは持っていけるかも」と言っていた事を思い出し、少し嫌な想像をしてしまった。

 

「…もしかして、アイツよりヤバいバケモノがやって来るんじゃないだろうな…!! 眩暈がしそうだぜ」

 

「それでも、やるしかないっすよヤムチャさん…ブルマさんのこともあるでしょ?」

 

「それはそうだけどよ……って、ちょっと待てよクリリン……あいつ、ブルマに用があるんじゃなかったのか!?」

 

「ああっ!! そうだ、あのサイヤ人、ブルマさんに『話があるから逃げるなよ』って言ってた…あのサイヤ人が先に逃げだしていったからすっかり…!!」

 

「あのサイヤ人のことだ……こ、殺しはしないだろうが…何の為に?」

 

 水色髪の女、ブルマを心配して強い気を感じる方角を向いた三人組は、あのサイヤ人は如何なる目的があって彼女に会いに行くのかと気を揉んだ。

 

 そして一方のリューベはすでに荒野を抜け、再び東の大地の山脈の上を飛んでいた。

  

「…へぶっしょ!! えぇい…ハイレグタイプやめて寒冷地用のフルスーツ型にでもしてみるかな…でもケツは……うーん…」

 

 噂の事など考えもせず、肌寒い雲の上を飛ぶリューベはくしゃみに鼻を啜りながら、アホことを考えながらカメハウスへと向かうのだった。

 

◆




パワーバランスからかなり苦心しましたが、とりあえずぶった切ってしまいました。
 戦わせなくても良かったのですが、「戦闘力のコントロールとかなにそれ?」という状態であろうリューベに地球の戦士たちが気付かない方が違和感があったので、半ば無理矢理ですが戦わせる方面になってしまいました。

 7回か8回くらい書き直して、ようやく妥協できる内容に。構想自体はあるんですがね…加筆や改編など繰り返していく事が多くなりそうです。


◆キャラクター紹介コーナー その1◆

名前「チョウ・ドイアック」
身長;175cm
体重:105kg
性別:男
種族:ドレスラン族
戦闘力:3300

 コアク原住の豚獣人型種族ドレスラン族の中年男性であり、惑星コアクのマフィア、ドイアック・ファミリーのボスである。
 かつて存在した「コリベイン・カルテル」の用心棒からのし上がった経緯もあってか、彼自身もそこそこの実力を持った戦士であり、フリーザ軍下級兵士であればあしらえる程度の実力を鍛錬で維持し続けているが、体質で太ってしまった。

 家族は妻と息子二人が居るが、正常な環境を持った他の星に移住させてやりたいと考えている。
 直属の部下は「パンセッタ」「ラーミッサ」「チャーレ」「ローシュット」の四名だが、カルテルでの下積み時代からの仲である。

 名前の由来は「超あくどい」だが言うほどあくどくはなく、当初は極悪人としてセリフを書こうとしていたが、あまりワル過ぎるとクライアントとしてもリューベが嫌がりそうなのでかなりマイルドに。

地の文とセリフの間隔などは、読みやすいでしょうか? 修正する場合、どのようにすべきでしょうか?

  • 読みにくい
  • 読みやすい
  • 地の文・セリフを纏める
  • 地の文を纏め、セリフは纏めない
  • セリフを纏め、地の文はそのまま
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。