やはり俺がポケモントレーナーなのはまちがっている。 作:~神斗~
続くかもわからんです。
修学旅行の一件以来、奉仕部の二人からは明確な拒絶を受け、学校内でもいじめに近い陰湿な扱いを受けるようになった。
俺はまた、一人ぼっちに戻った。
中学時代にも通った道だ。最初から一人なら、なんてことはないはずだった。だが、一度でも周りに人がいる環境に慣れてしまうと、再び訪れた孤独は思っていた以上に牙を剥く。
――小学生だったあの頃、あいつらと友達でいる楽しさを知ってしまったからだ。あの眩しさを知っているからこそ、今の暗闇が骨身に沁みる。
「ブラー……?」
「……ちょっと昔を思い出して、センチメンタルになってただけだ。気にすんな」
膝の上で丸くなり、心配そうにこちらを見上げてくるブラッキーの頭を、俺は優しくブラッシングする。
昨日はブラッキーの姉であるエーフィにも散々心配させてしまった。どうやらポケモンたちには、俺の隠し通しているつもりの感情が筒抜けらしい。
トントン、と部屋のドアが軽く叩かれ、返事をすると妹の小町が顔を出した。
「お兄ちゃん! ちょっと買い物に行ってきてくれないかな?」
「別にいいが……何を買ってくればいいんだ?」
「んーっとね、ママが『ポケモンちゃん達のご飯がなくなりそうだから、駅前の専門店でポケモンフーズ買ってきて』だって! 小町、今から友達と約束があって行けなくてさ」
「はいはい、分かった。ポケモンフーズだな」
「ありがと、お兄ちゃん! これ、お金と買い物バッグね」
渡されたバッグを受け取ると、小町は一瞬だけ表情を曇らせ、俺の服の袖をキュッと掴んだ。
「……ちゃんと、帰ってきてね?」
「当たり前だろ。ただの買い物なんだからすぐ帰ってくるよ」
小町の中には、俺が小学生の頃に行方不明になった事件が、今も小さなトラウマとして残っている。
俺は安心させるように小町の頭をぽんぽんと優しく撫でると、ブラッキーをボールに戻し、家を出た。
◇
「あら、八幡じゃない?」
背後から掛けられた突然の声に振り返ると、そこには見知った顔があった。
「ん……あぁ、凪さん。お久しぶりです」
そこにいたのは翡翠凪(ひすい なぎ)。前年度の日本チャンピオンであり、数少ない俺の理解者の一人だ。
「本当に久しぶりね。八幡がこんな昼間に外に出てるなんて珍しいじゃない」
「妹からお使いを頼まれたんですよ」
「ふふ、そんなことだと思ったわ」
凪さんはクスッと微笑んだ後、すっと目を細めて俺の顔を覗き込んできた。
「……ねぇ、八幡。何をそんなに思い詰めているのかしら?」
「ッ……! なんのことですか?」
突然核心を突かれ、思わず息を呑む。すぐに取り繕おうとしたが、彼女の澄んだ瞳をごまかすことはできなかった。
「はぁ……これでも、八幡のことは理解しているつもりよ? 君が何かに傷ついて、一人で抱え込んでいることくらい、見れば分かるわ。……話してごらんなさい」
「……凪さんには、敵わないですね」
観念した俺はため息をついた。ここで意地を張るのも惨めだ。
少し人気の無い公園へと移動し、ベンチに腰掛けながら、ポツポツと語り始めた。
高校に入ってからの日々。奉仕部での活動。持ち込まれる依頼の数々。
そして――あの修学旅行で俺が選んだ「解決策」と、その代償である今の孤立。
全てを話し終えると、俺は膝に視線を落としたまま呟いた。
「……俺は一体、何を間違えたんですかね」
「何言ってるの?」
凪さんの声には、迷いが一切なかった。
「全く八幡に悪い所がないとは言わないわ。でもね、君が間違えたなんて絶対に言わせない。君の優しさが歪んでいたとしても、誰かを助けようとした事実は変わらないもの。それは、私が保証してあげる」
「凪さん……」
奉仕部の二人にも、クラスメイトにも否定された俺の行いを、彼女は何の疑いもなく肯定してくれた。
それだけで、胸の奥に溜まっていた重い塊がすっと溶けていくような気がした。視界が急速に滲んでいく。
「よし! 今はお姉さんの胸を貸してあげる。……存分に泣きなさい」
凪さんが優しく手を広げると、俺の堰を切ったように感情が溢れ出した。
「俺っ、頑張ったのに……! サトシみたいに……あいつみたいになりたくてっ! なのに、何にもならなかった……!!」
子供のように声を上げて泣きじゃくる俺を、凪さんは何も言わず、三十分近くずっと優しく頭を撫で続けてくれた。
「……すいません。だいぶ取り乱しました」
涙を拭い、顔を上げると、凪さんは満足そうに微笑んだ。
「いいのいいの! ……でも、八幡がまだ気にしてるなら、お礼に私とバトルしてくれてもいいのよ?」
「……分かりました。やりましょう。俺も……少しバトルをしたい気分なので」
かつての親友――サトシの影を追いかけるように、俺の中のトレーナーとしての血が、確かに熱を帯びていた。
(久々の本気バトルだ。今の俺がどこまでやれるかは分からない。……だけど、俺にはこの子たちがいる。なら、何も恐れる必要はない)
俺の決意に応えるように、腰のホルダーに収まったモンスターボールが、カタカタと強く、頼もしく震えていた。
色々な設定解説①
【世界観】
『俺ガイル』の世界に、当たり前にポケモンが存在するIF世界。
ポケモン関連の職業が増加しており、中でも専業の「ポケモントレーナー」は花形の人気職業となっている。
小学校卒業と同時にポケモンの所持資格が付与され、親から初めての相棒を贈られるのが一般的な習わし。
年に一度開催される日本全国大会への出場条件は、各地のジムリーダーからバッジを8個以上集めること。手持ちとして6体まで持ち歩けるが、一般的なトレーナーは2〜3体を育てるのが限界と言われている。
なお、この世界ではポケモン研究がまだ発展途上であり、補助技の有効性や持ち物の効果、特殊な進化条件などはほとんど知られていない。
【比企谷八幡】
総武高校2年生の本作主人公。
原作通りの捻くれた性格だが、ポケモンに対しては素直な面も多い。八幡の本質的な優しさを本能で察知するため、ポケモンたちから非常に好かれやすい体質。
小学5年生の時に突然行方不明となり、2年後にひょっこり帰還した過去を持つ。そのため、原作とは異なり両親や妹(小町)からは極度に過保護にされている。
その空白の2年間、実はウルトラホールに巻き込まれて異世界(アニポケ世界)へと飛ばされていた。そこで出会ったサトシという少年と共に旅を続け、サトシの旅を見届けた後、アルセウスの導きによって元の世界へと生還した。
学校ではバトルをほとんどせず、やる場合も手抜きをしているが、実力は元の世界とは比べ物にならないほど高いアニポケ世界において「旅を終えたサトシ」と同格。数々のチャンピオンクラスを打ち破ってきた圧倒的な実績を誇る。