ギャル宇宙人襲来! 作:匿名の筆者
「貴国は大陸統一国家ですか?」
そんなこと地図を見たらわかるだろう、と舐めた口調で返事をすれば、命が無いことなど分かっている。
(これは極めて重大な軍事的挑発に他ならない!)
48代アメリカ大統領、バランツ大統領は心の中で震えていた。
目の前にいるアンドロイドは肘関節も、膝関節も、肩関節も、股関節も、ありとあらゆる関節がワイヤーで出来ている。
半透明な肌、そしておそらく素材はアルミニウムか何かであろう人型の骨を模した外見。
耳をすましてもモーターの音は聞こえず、ただ真っ白なワイヤーが体の下で音もなく動き、伸縮しているのを見るのみ。
材質は一切不明。いや、推測できるものはあるのだが、本人が語らぬ以上全くと言って分からない。
彼は大使館職員として送られてきたアンドロイド。
アンドロイドの好きな歌はデイジーベル。
大統領も同じ曲が好きだった。
もっとも、単に迎合かもしれないと思いはするが、趣味の話まで踏み込めるほどの関係を、ごく短時間で大統領は形成した。
州知事として党に入り、正式に大統領になり、そしてなんと言っても宇宙人がアメリカに去年の冬、着陸した。
彼の人生においてどんな出来事よりも衝撃的なものはコレであった。
激動の政治を乗り越えた大統領であっても、宇宙人がまさか大統領になってすぐ来訪するとは予想がつかなかった。
(私は大使館に赴き、この職員しかアメリカにいないんじゃないかと思うほど1:1の会話を続けてきたが……)
(極めて容易そうに、彼は踏み込んで来た!これは全権大使の発言ではないが、どれだけ考えても真意を測りかねる!)
(この質問の意図はなんだ!?我が国が北米大陸の大半を占めるのは正しいが、しかし地図の上には明らかに別の国がある。)
(カナダにメキシコに、キューバに……
いや、もしかしたら、大陸を統一してもらいたいから戦争をしろという婉曲表現かもしれない……と最悪の場合を想定すべきか?)
大統領は驚愕した顔を作らず、全力で表情筋を固定した。
選挙の最中に鍛え上げたコントロールはこんな場面にも役立つ。
「ああ、この熟考を見る限り、拡張欲は無いし、マトモな国家元首であるようだ。」
大統領はどきりとした。答えようとした矢先に、相手が主導権を握る形で会話のひとつを終わらせてしまった。
これはまずい。非常にまずい。なんとかして、話題を取り戻さなければ対等という言葉さえいつのまにか消えかねない。
大統領が口を開こうとするも、そのアンドロイドは指を立てて喋り始める。
「私が利益を最大化するために必要なことは、現時点で開示可能な情報において……他国の国家元首が現状維持の姿勢を示すことにある。」
「その他国は貴国以外も含まれる。それは、地球の主権国家体制に限られるが……大使館を置いた国々は全て、その対象であると話そう。」
ペラペラと彼は喋り出すが、それは、大統領にとって最も自然な英語のように聞こえた。
(くそ、こんなもの賢いゴリラとポーカーをするようなものだ!)
(隙を見つけるのはできる……が、相手はいつでもトランプを握り潰し、ちぎることができる。)
(この隙もあえてのことだろう……いや、信頼性に欠ける)
(おそらく世界中の国家に向けて同時に喋ったはずだ。どこの国よりも早く情報を教えてやると言って。)
(情報がとにかく足りない……ええ、下手に喋れんぞこんなもん!とんでもないもんを知らせおって!)
『情報開示』こそ最大の罠にして、牽制である─── そう判断するには、十分すぎるほどの仕込み────
(この内容を一カ国のみに喋るはずもなく。全く同じ文面であるだろう。もしや、これを各国で共有できるのか試している!?)
(あの全権大使が大使館に現れた時もそうだった。準備期間は3週間、出題するお題に備えてスーパーコンピューターを動かせと言った。)
(そしてその結果を世界中にバラまいた。無料で、しかも誰でも見れるように!)
大統領の目の前にいる人物……といってもアンドロイドだが、アンドロイドの瞳はまっすぐ大統領を見つめ返していた。
(彼をただの大使館職員にすぎないと侮るには権限の示唆が強すぎる。
全権大使が大使館で働く職員を連れてきたと言って、ケネディで初邂逅した時も、全権大使のすぐ隣にいたし、なにより私と三番目に握手をした!)
(多くいた大使館職員の中でワシントン駐在の者だけが特別扱いという訳……か。)
(ホワイトハウスでは毎日のように顔を合わせるが、ここまで踏み込んだ質問をされるというのも初めてのことだ。)
(いや、大使館という圧倒的アウェーの場所に連れてきて、言質を取るつもりだ。)
(大統領個人としての見解という意思はもちろん使えないし……クッソー!このままだとまずい!)
そんな焦りで満ちたパラノイアまで考えるほどに大統領の頭の中は混乱で埋め尽くされている。議会を1回挟みたいが、なによりここは大使館。アメリカの土地ではなく、宇宙人の国の土地だ。
いつものように議会を通して政党を牽制し、議員同士での過剰な政治的取引を抑制するといったことは、この土地ではできそうにない。
ホワイトハウスと大使館を頻繁に往復する時間の他は、議会で答弁の日々。
三ヶ月で49の領事館に赴き、累計98回も各州を移動している。あとすこしで百に届きそうなものだが、この移動によって、あまりにも政務に多大な影響が出ている。
大統領の警護に使う費用が重いのは当然であるが、他のアンドロイドたちと会話を重ねられるという圧倒的な利点を前に、全米を移動するということは苦でも無かった。
しかし、大統領の政務の大多数は承認と手書きで書くことである……
尋常ではない量の書類がブリーフケースの中に積まるが、それらの大半は一般人が目にすることすら絶対にありえないもの。
複製禁止・機密事項etc……ありとあらゆる警告文が書かれた紙は大統領が目を合わせるのさえ嫌がるほど連日舞い込んでくる。
行政命令ならばまだ一存で決められるが、下院が必要になるとか、もしくは憲法上の問題で大統領の承認が必要になっている党関連の書類とか、そういうものが厄介なのだ。
どこを優先しても後回しにされたと感じる人が発生する。むろん、内政にかまけて国が滅びるよりは良いのだが。
「万国博覧会に向けて、ひとつ提案が。」
「やはり独立260周年という時間を活かすのはどうでしょう?」
「今年は国交が樹立した記念の年。ちょうど独立記念日もありますし、やはり派手な催しを夏に重ねたい。」
アンドロイドが喋り切ったところで、すかさずカウンターを差し込む。
「それは素晴らしい『案』ですな。我が国としても今年は大切な節目───」
「しかし、それはどのような催しですかな?」
大統領は再び主導権を握るため、頭の中で思考を巡らせた。
全力で考えた結論は、兎にも角にも意図を探るためにはこちらから打ってでなければ何の意味も無いという常識的なコト。
「我々が貴国で披露したいものというのは、公平を期すため、他国とは全くもって内容が同一です。」
「しかし、貴国の独立記念日は夏の始まり。これに合わせるとなると、全て参加国が平等に知ることになりますね。」
「我々の懸念として、宇宙で栽培可能な植物などなどを目玉にしたところで派手さが皆無であるということがあるのです。」
「アメリカという国の民衆が一目であっと驚くようなものは一切ありません。」
「それに、精神的な問題も、多々あるでしょう。」
「民衆からしてみれば、発着場に未知のロケットがやってきてからわずか二年。計画していた万国博覧会に宇宙国家が割り込むだけでも耐え難いものがあるはずです。」
「そしてそんな人々を驚かせるほど目立つようなもの……それは固有名詞の連続になり、長々と説明を重ねても、つまらないものになります。これで喜ぶ民衆は極めて少数しかいません。」
「私は説明ばかりで自分が遊べないもの、それも楽しそうという状況がもっとも不快感があると理解しています。」
「よって、シューティングゲームという形式にするのはどうでしょう?」
「迫り来る隕石を破壊する、といった体験型のモノを想定しています。どうですかね?平和の祭典ということで、逆らえない天災も防ぐという感動を。」
アンドロイドは喋り終えた。
その話をすべて頭の中で咀嚼し、これまでにないほど脳みそを回転させ、大統領は猛烈な速度で喋るべき言葉を導き出した。
「なるほど、それは実に面白そうな『提案』ですね。確かに複雑なモノを並べたところで、研究者でもない民衆が理解できるとは限りませんし、ビデオゲームという形式は万国博覧会にふさわしいものだと考えられる。」
「詳細な計画についてホワイトハウスでブリーフィングをしませんか?書記は我が国の者を三名ほど……そちらの方の書記官も三名。」
アンドロイドを前にしてそう言い切った大統領の勇気は、獅子百匹に囲まれたとて怖気付かないほどのものだろう。
事実、大統領の心中は荒れている。しかしそれを表面に出していない。
いくらアメリカ大統領でも、外交の素人である。
外交官を挟めない以上、ボロは確実に出てしまう。
「それは喜ばしいですが、ひとつ待ってください。」
「我々としては机の形は円が喜ばしい。」
「四角い机でのブリーフィングは拒否します。そして、会議への参加者は後ほど決めましょう。」
自陣であるホワイトハウスに引き込んで有利に立とうとブリーフィングを提案した結果、しかし相手に強烈なカウンター条件を突きつけられる隙を与えてしまった。
場所を指定したことで、かえってホワイトハウスという圧倒的なホームグラウンドすら宇宙国家にルールを書き換えられるという屈辱的な構図を与えてしまう。
会議の机ひとつで、寿命が縮むことになるだろう。
(条件を出され、それを私が受け入れさせた時点でもう対等ではなく、主導権を握られた状況になっている!)
(くそ、万国博覧会に関しても回答してしまったぞ!国務長官とどう話したらいいか……それに参加国ともどう納得させたらいい!?)
(地球の技術を差し置いて宇宙の技術に夢中になっていると同盟国から失望されれば、それは単に政権の終わりを意味するだけではない!)
この大使館の部屋の机は正方形。大統領は左右の圧倒的な距離を感じていた。
この形を指定したのは大統領とはいえ、これでは『お前は対等性を重んじていない』と遠回しに言われているようなものだ。
白頭鷲の紋章が刻まれた録音設備に、星条旗の描かれたドアに、十三州の描かれたタペストリーに、ありとあらゆるアメリカ的要素を詰め込んだ、もはや何かの映画のセットのような部屋。
プリンターが大統領とアンドロイドの言葉を同時に記述し、机の中央にあるプロジェクターが壁に投影する。
書記官が部屋に入れないのは、とある政治的ねじれによるもの。
いわばこれはアメリカという国の代表が主導している会談であり、大使館職員は名目上、ゲストにすぎない。
もしもこれに人間の書記官をつければ人数の不均衡が発生し、そこから大使館職員との1:1が崩れ、お互いに大人数の会談になってしまう。
しかしそれを避けたいからこそ、二度手間で、ややこしい事極まりない、プロジェクターに投影というひと手間を挟んでいる。
これは有線LANでの確実な暗号化通信が可能であり、そして極めて高性能なGPUチップを搭載した、現代の技術で作成可能なプロジェクターで最も高性能な逸品。
アメリカの技術力を密かに、けれど確実に見せつけたいという意図が働くと、こんなにも政治的なねじれが発生する。
筆者の独り言:筆者はアメリカの政治について全くの無知であることを白状します。いちおうGoogle検索で自信が無いところは補っているのですが、ご容赦を。
読者の皆様へ:指摘コメントをしてくれたら、訂正します!