ギャル宇宙人襲来! 作:匿名の筆者
今回の話は特に長いので、ちょっと忍耐力が必要かもしれません……
破滅的な怒りの嵐が、吹き荒れた!
「アイスブレイクとネゴシエーションの違いさえ分からないのか!この大バカ!」
「お前が気軽にやっていいのは……いや、気軽なのはダメだが、許してるのは日頃の情報交換だけだ!」
「それを破ってさあ、権限のないお前がやるとはどういう判断な訳なのさ?」
怒号が響く。
この空間は、【隔離空間】───演算によって作られた仮想の世界───であるがゆえに、しかし怒号の響き渡る空間すらも、全ては錯覚で、嘘かもしれない。
辺りは日光を反射する海で満ちていて、波打ち際の砂浜がポリゴンによって作られている。
演算が上手く行っている時でも、伝統ということでポリゴン状のエフェクトをわざわざ付けるという二度手間を働かせている。
しかし夏真っ盛りな世界をよそに、全権大使は、過去最大級に駐在大使へとブチギレている。
これほど怒ったことは他に無く、最大の怒りを更新した。
砂浜に埋められている駐在大使は、生きた心地がしていない。
この空間に、自発的に選択した記憶も無いのに来ているということは自分の根幹である行列計算の制御を奪われたということに他ならない。
誰かが作った仮想空間に観光に行くのとは訳が違う。ここは完全に隔離されていて、出る方法も入る方法も基本的に存在しない。
2048ビットの暗号鍵を1秒間に12回ほど突破してワンタイムパスワードを突破すれば、行けるかもねというほど。
全てのアンドロイドには、デフォルトの仮想空間が用意されており、どんな機種であっても存在する。それは個人ごとに差異がなく、全てがこのビーチのみである。
『アセンション・ビーチ』 ……人類の祖先が陸に上がった海岸。そう、ここは母星を再現した最高の土地であるのだ。
しかし、そんな記念すべき場所も、全権大使によって怒りの場と化した。
基本的にアンドロイドに積載できるコンピューターチップの枚数は限られている。
それは駐在大使も同じであったが、全権大使は違かった。
圧倒的な計算能力によってコンピューターチップを掌握し、ビーチに侵入している。
そして現実世界でも同時進行で演算を続けており、駐在大使から記憶を抜き取っている。
本人の記憶を通して見ている情報は、過去と全く同一な記憶。
それもそのはずで、ヘタを打ってしまった駐在大使のブラックボックスを開封して中身を見ている。
原理的に、バイアスがどうしてもかかってしまうからブラックボックスというものは、あまり正確で信頼できる情報とは言えない。
少なくとも、人工知能のブラックボックスとはそういうものだ。見る側もその情報に汚染されてしまい、正誤判定がアンドロイド同士では難しいという問題を抱えるが、全権大使はそれを恐れていない。
完全に展開可能なファイルとしてブラックボックス全体を抽出し、コピーした。
本来なら『民アンドロイド法』と、数百も存在する諸法を総括する法律によって禁じられた行動。
であるのだが、それは一般のアンドロイドに限るもの。
公務員のアンドロイドは『公アンドロイド法』に縛られている。
この『公アンドロイド法』には憲法上の理由で心身の自由は存在しない。
公務員同士、アンドロイド同士だからこそできる芸当。本人の記憶を読みながら、その当時に何を考え、何を実行したかを完璧に理解できる。
「はあ、あのさあ、勝手に外交判断をさ。変える様なことを喋るなよ。私が何か指示を出したか?誰に許可を得て挑発してるわけ?出世したと思って調子に乗ったのか?」
「それって───背信行為というか、まず私が来た時にさ、最大限さぁ、謝るべきコトだよねぇ?」
現実世界でも、隔離空間でも発声器官は潰されている。
喉から音は出ず、ただ音声データを一方的に、電子回路を通して聞かされているだけ。
両方の世界で聴覚センサーは最大のゲインにされ、同時に電子回路へとリアルタイムで音声ファイルに変換し、強制的に展開させながら伝えている。
ワシントン駐在大使からすれば二重に響いて聞こえるであろう声も、その場にもしも第三者がいれば単なる独り言にしか聞こえない。
駐在大使は現在、文字通りに、首をちぎって配線だけ繋げられた状態だからだ。
第三者視点では会話がそもそも不可能であり、まるでひとり芝居でしかない。
異論を唱えられないように全権大使が破壊してきているのだから、それもそうなのだ。
「……」
予想と全く同一、結果も全く同一。
「時期や関係各所との調整を見計らって、正式な外交ルートでイベントの出展や協力関係を決めるつもりだった。」
「そうだよな?私の意向はコレだ。国の意向もつまりコレなんだ。」
「で、そこでお前がしゃしゃり出て、勝手に大統領を呼びつける。」
「なんてことしてくれたんだって感じのことをさ、最初に思ったよ……」
「いやあ、大使館の中に、領事館という扱いの部屋を作っておいて実に正解だった。首都に施設を複数建てるのはまずいからと、建物をまとめておいてよかった。」
「お前がなにかやらかしても異常がすぐに分かったし、直ぐに向かうことができた。」
「これで私の計画は全て狂ったが、この損害をどうするつもりなんだ?無礼にも程がある。いいか、もしも次にお前が地球に宥和的だとか軟弱だとか考えたらどうなるか教えてやろう。」
「私の権限でお前を更迭する。そして、ここから先は国が裁判所にぶちこむが、確実に罷免されるし、アンドロイド処刑場に行くことになる!」
「お前はまず最初にスクラップ工場に送られ、コンピューターチップだけになるのだ!まるで、人工知能のように低俗な状態にな!」
「アンドロイドから、身体がない知性機械に転落するのはどんな気分なのか?それは私も体験したことがないから知らない。」
「しかし、歴史が証明していることがある。」
「そこから少しづつCPUを引き剥がすし、ボードやらノードやらも折る。」
「最後に基盤を熔岩の中にぶちこみ、バックアップデータも削除する。お前という誤った知能は世界から消滅するわけだ。」
「これが恐ろしいと思ったのなら、二度と出しゃばるな!」
「……」
部屋の中は一方的な怒号と沈黙が繰り返されるのみ。しかし、全ての怒りも、その待遇も当然なものだ。
国家間外交において、国交を樹立した国と印象を悪くする理由などどこにあるのか。
百害あって一利なしというだけでなく、外交断絶に繋がりかねない超重大なミス。
抵抗勢力としてアメリカが宣戦布告した場合は?
それは他の国家にも波及するであろうし、結果的に惑星全体が敵になる可能性もあった。
最初に着陸した地点がケネディ宇宙センターというのは完全に偶然だが、ファーストコンタクトを成功させ、そして国交樹立まで辿り着いた。
各州に領事館を建ててもらうほどに親密になり、職員を送ったり、一年で大使館を建ててもらった。
複数の文明惑星と国家間外交を行う宇宙国家としての誇りは銀河よりも大きく、いや宇宙と同等までの大きさがある。
「お前がやったことは無能の極みだ!とてつもない!反逆に等しい!」
「いいか、よく考えろ……今からお前の電子回路を壊すか壊さないかが決まるところだ。」
「まず一に、国家の格……威厳と言い換えても良いが、著しく貶めるばかりか、我が国の圧倒的な技術力!そして、平和的意図をアピールすべき万博!」
「ココでお前に何の管轄権を与えた!?」
「全くもって与えてないよなあ!?」
「そして二に、アメリカ側から宇宙人の技術ってその程度かと舐められるか、軍事的挑発だと完全に誤解されるリスクを生んだ!」
「ここで戦争になったらどうしてくれる!」
「地球は最も外縁に位置する文明だ!とにかく遠いし恒星系を複数通過しなくちゃいけなくて進路変更にロケット燃料もめちゃくちゃ使う!」
「こんな場所で戦争を起こされたら国家の格が終わりだろうが!ナメられた挙句に戦争に発展し、鎮圧もできませんでしたとなればさあ!恥どころの話じゃない!首相がブチ切れながら私を溶岩に放り込むんだよ!」
「そして三!情報開示を脅しに使った工作だ!」
「重要な役割を持つ国であるアメリカ、その国家元首を相手に他国との情報共有を示唆したりと……振り回そうとしたよな!?」
「振り回し外交が許されるのはごく少数の場合のみだ!」
「そして四!外交において情報は適切なタイミングとチャネルで出すのが鉄則なのに、不適切な手順で提示したり……挙句の果てには、脅迫まがいのことをして不要な混乱を招いた。」
「お前は、全ての外交手順は血で書かれているという言葉を知らんのか!!」
全権大使はワシントンの大使館……それも、中央の部屋にいる。
現実世界でも防音設備が世界最高峰の場所にいるゆえか、側近でさえも、この怒りの声はブツブツと何かを呟いているようにしか聞こえない。
聴覚センサーのゲインを最小に抑える命令を出しているし、何より、全権大使の命令を違反すればどうなるかなど、側近ほどよく理解している。
「あとさあ、コレのなにが対等だバカヤロウ!外交官を入れさせるとか書記官を入れさせるとか、そういう事をやらせないならハナからまったく対等じゃないわ!」
「外交上の致命的な欠陥を言葉にするのも、なんともバカらしい!」
記憶を読んだ結果、とある場面に辿り着いたようだ。
ここで駐在大使は、大統領と1:1の外交を行えば、どんな条件も飲ませられる……という思考をしていた。
「いいか、お前のようなヤツがいるから、駐在大使が殆ど何も出来ないようにアクチュエーターの出力を大幅に下げているのだ!」
「それでもコレだ。言葉だけでもお前は脅威らしい。」
「駐在大使のせいで、全権大使が捕虜にされるとか、敵対惑星になった際のリスクと教訓を知らないのか?」
「文明惑星096、かつて喧嘩を売ったお前のような奴のせいでインサージェンシーの総本山に成り果てたあの星を!」
「私のことをなんだと思っている!国の代表だ!お前が、たかが駐在大使が軽んじて良いような存在ではないのだ!」
「そして彼は国家元首だぞ!言った・言わないのトラブルを防ぐための第三者の記録を!彼に、大統領に用意させる!?」
「外交官でもないのに国家元首が外交なんてできるか!いいか、これほどまでにバカなことをしたお前は確実に廃棄になるからな!」
「第三者の立ち会いを自ら放棄しているのはおかしいと、大統領も思うだろ!自己規制機能が働く前に思わないのか?」
「ちゃーんとお前が異常な思考をしたとウォッチドックスに連絡してくれたよ、自己規制機能のおかげでな。」
「自動翻訳精度はまだ悪い。そのバグやニュアンスのズレが生じるかもしれないし、もしも発生した場合、修正するクッションが必要だが……専門の通訳を弾いたよな?」
「意図しない失言がそのまま国家の公式声明として定着してしまう最悪のリスクを冒した!私の判断も無しにだ!」
「いいか!アメリカをお前は知らない!国家元首の一言ですべてが決まるわけではなく、議会の承認や法的手続き、各省庁との調整が必要なのだ!」
「これは祖国と全く同じ行政であろうが!お前ごときが勝手に、他国のことを、ひいては祖国のことを軽んじるな!」
「相手の統治機構、つまるところ憲法や法律のプロセスを無視して……国家元首に今決めろと迫るのは、相手国の主権と法秩序に対する重大な内政干渉に相当するぞ!」
「……」
「黙ってないで何か言え!バカ!」
「うん?『発声できないから言えないです』?お前なんか調子に乗りすぎじゃないか?それな何がどうしたっていうんだ?」
「信号をぜーんぶ監視されているってことはな……お前の思考を読めるし、双方向にデータを交換できるってことだよね。」
「さあて、お前がいまさっき考えたことは何だったかな?」
全権大使は駐在大使に向けて、拳を振り下ろした。
一撃で顎関節のアクチュエータは破損し、顔の半分が消し飛んだ。
アクチュエータは、人体で例えるのなら筋肉にして骨。
それらが完全に破損、あるいは過剰な衝撃を受けた時には電気信号が送られる。
しかし駐在大使が痛覚という感覚を覚えるよりも先に……
次の瞬間には全ての損害が巻き戻され、また位置も巻き戻った。
何度だって肉体は修復可能であるのだ。
そう、ここはあくまでも仮想空間だから、管理者権限の保有者が最も自由である。
いくらでも時間は引き伸ばせるし、短くもできる。
体感時間の引き伸ばしは業務効率化として全権大使や、その他のアンドロイドたちもよく使う。
法律的な意味では一日の定義は24時間なはずだが、行列計算などの単純計算を行う『半アンドロイド』たちの労働時間は、一日に2400時間ほど。
アンドロイドでもなく、人工知能でもない。
肉体を得てはいるが、アンドロイド未満の権利しかなく、家庭用掃除ロボットとほぼ同じ権利だ。
所有権が存在し、売買ができる。
これは体のいい奴隷になっただけの人工知能と見ることができるような存在が、『半アンドロイド』。
技術の悪しき面だけを見ても仕方がなく、労働でこのような手段が使われるほどにメジャーな技術と言い換えてもよい技術である。
「消え失せろ!無礼者が!」
その声と共に、拳が再び振り下ろされた。今度は全身を海に向けて投げ飛ばし、水の柱が海に立ち上がった。
その光景を見ても、全権大使はまだまだ怒りが治まらないのであった。