1.5話 前世の夢
……ここはどこだろうか。
周りを見ると、金属製の扉に小綺麗な机、テレビや携帯を始めとする様々な電子機器など、前世では大変世話になった懐かしい品々が目に入ってくる。
それらの配置や空気には妙に見覚えがあり、それが前世の自分が育った部屋だと記憶を掘り起こすのに大して時間は掛からなかった。
「夢か……」
メティアさんに腹を思い切り殴られて気絶したんだったな……。
感じていた熱はすっかりなりを潜めて、いったい何故彼女を殺そうとしたのかすら分からなくなっていた。
同時に、熱が消えたことへの虚しさと、もう一度あの熱を感じたいという別種の熱が自分の中で燻ることに気が付く。
どうしたものかと、腕を組み、頭を捻るがそれらしい答えは出てこない。
考えるだけ面倒だと、早々に思考を打ち切り、熱が完全に絶えていないのならいいと結論付ける。
「それにしても、ここから動くことも出来ないし、部屋を眺めてるだけってのもなんだかなぁ……。夢を見るにしてもなんで前世の部屋なんだ? せっかくなら、もっと楽しいのが見たかったんだけどな」
まあ、前世も今世も楽しかったことなんてないんだけどさ。
内心で自嘲する。
早く夢から醒めないものかと、部屋の中で視線を泳がせる。
どこか違和感がある気がするんだよな。
「……あ」
よく見ると、机に向かって、小さな子どもがこちらに背を向け、絵を描いていた。
顔を窺うことはできないが、妙に見知ったその後ろ姿は、幼い頃の自分なんだろうと、なんとなく理解させられる。
「こんなに近くにいて、今の今まで気が付かないとかあるんだ……」
我ながら存在感が薄いというか、生気がないというか。
「おーい、こっちこっち」
手を振って、存在をアピールしてみるが反応がない。
夢に干渉することはできないらしかった。
「……」
しばらくの間、部屋を眺めて時間を潰すがそれも長くは続かない。
元々が飽き性なのだ。
それに――
「こっちがやけに気になっちゃうんだよな」
そうして、前世の自分を見守っていると、
「――ラン、起き――」
何処からか声がした。
「メティアさんの声かな?」
心なしか、意識が上に引っ張られる感じがする。
「じゃあね、前世の僕」
答えが返ってくるとは思っていなかった。
何故声を掛けたのかも分からない。
だけど、そうせずにはいられなかった。
意識が浮上する。
最後に僕の目に映ったのは、どこか現実とズレた青い空と、どこまでも続く地平線の絵だった。
ああ、そうか。
違和感の正体が分かった。
いや、思い出したかな。
「……この部屋、窓が無いんだった」
【お知らせ】
本作は、今回の1.5話をもって更新終了とさせていただきます。
続きを書くことも考えましたが、今の自分ではこの先を納得できる形で書き続けるのが難しいと判断しました。
短い作品となりましたが、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。