令和と昭和   作:◆QgkJwfXtqk

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1-2 状況/接触と接触による混乱

+

――接触/帝國海軍

 1900年代の後半に入った日本帝國は、国難と言う言葉こそ相応しい国家の存亡が掛かった大戦、日露戦争(1904-1905)を勝利で終える事こそ出来てはいたが、その勝利への燃料 ―― 時の国家予算の6倍を超える膨大な戦費(戦時国債)の償還と対峙する事となっていた。

 とは言え返済しない(踏み倒す)という選択肢は無かった。

 戦勝によって日本帝國は欧米列強から田舎(アジア)の弱小国から列強に準じた強国、文明国と言う立場(評価)を得たのだから。

 それを、只の評価と笑うなかれ。

 欧米列強と伍せる文明国と言う評価があればこそ江戸時代末期に締結されていた不平等条約(禁治産者扱い)、安政五カ国条約の改正に向けた外交が可能になるからである。

 故に、その看板を汚す訳にはいかなかった。

 

 又、戦争が生んだ問題はそれだけではなかった。

 実態としては引き分けに近い辛勝であったとは言え、兎も角として日本はロシアに勝利した事が日本国内の空気を炙ってしまっていたのだ。

 アジアの国家として、非欧米の国家として日本は初めて列強の座に就いた(発展途上国の座を返上した)と自認したのだ。

 それは、本質的には自尊心の強い(プライドの高い)日本帝國人の心にあった、明治維新以来の鬱屈を発散させた。

 それ自体は悪い事では無い。

 だがそれも、過度と言える状況であれば話は別であった。

 一等国(列強)であると言う自負は国民世論を湧き上がらせ、国士や弁士たちは威勢の良い声を上げて日本帝國政府を嗾ける動きがあった。

 又、陸軍と海軍では英雄と軍神が隊伍を組む状態であり、特に若手将校が浮つく所がみられていた。

 一等国には、その名誉に相応しい軍備が必要であるとかの主張だ。

 何とも頭の痛い話であった。

 とは言え、国家の興廃と言う極めつけの難事が終わったという事で概ね、陽性の空気があった。

 

 

 そんな日々。

 ある種の浮ついた空気の中で、ある日本帝國海軍の将校 ―― 海軍省所属の少佐は、妙な仕事を押し付けられていた。

 面会であるという。

 

「山師の類ですか?」

 

 面会の命令に応えたその声に、ウンザリといった色が強かった。

 だが命令した大佐の側に、それを咎める気配は無かった。

 さもありなん。

 何故なら日露戦争終結から此方、日本帝國の未来を憂う士であるという国士(自意識高い人)、或いは画期的な発明を行いたいので支援を受けたいという在野の発明家(香具師)の売り込みは佃煮に出来る程に多かったからだ。

 とは言え、十把一絡げに拒否する事も出来ない。

 平時である今現在、天井に達している国軍の人気と信望とを好んで削れる訳では無いのだから。

 主に予算的な意味で。

 海軍の整備には金が掛かるし、有事(イザ鎌倉)ともなれば莫大な増税による予算増を呑んで貰わねばならないのだから、国民からの人気を失う訳には行かないというのが本音であった。

 しかも、最近では欧米列強が海軍力の拡充を計画しているという話も伝わってきているのだ。

 帝國海軍に戦争の英雄ですとふんぞり返っている余裕など無いのだ。

 

 とは言え週に1人と言う勢いで、売り込みが来られては厭きるというのも人間としては当然の話であったが。

 

「マァ、そう言うな。今度の()()()()は礼儀な成っとるという話が上がって来ておる。少なくとも炙られて前のめりでは無いとの事だ」

 

「先月のが酷すぎましたから。過信はしませんよ?」

 

「第2石炭の山師か。モノに成れば良かったのだがな」

 

「原油に水と砂を混ぜて人造石炭を作るとか、正気とは思えませんよ」

 

「はっはっは」

 

 

 

 心温まる対話から数日後、海軍少佐は面会者に会う事となる。

 

「どうも初めまして」

 

 そう挨拶をしてきた面会者は中肉中背の、特徴と言うモノの乏しい男性であった。

 綺麗に撫で付けられた髪。

 黒縁のメガネ。

 柔和な表情も含めて、特徴が乏しかった。

 只、妙な若さがあった。

 だが若者と言うには、余りにも落ち着きがあった。

 又、着ている背広にも何というか、違和感があった。

 濃紺のソレが背広だと言う事は理解するが、生地と言うか仕立てが、何というか違っていた。

 総合して、海軍少佐から見た面会者は正しく()()()()()であった。

 

「今日はお時間を頂き、有難う御座います」

 

「いえいえ、御國の為に良い話があるとなれば、吝かではありませんよ。えっと__ 」

 

「はい。山田大郎と申します」

 

 そっと差し出された名刺には、医療史学術研究員の肩書と山田大郎の名が書かれていた。

 

「?」

 

 染み皺どころかくすみすら無い、真っ白な見たことも無い紙。

 少しだけ指に力を入れるが、名刺は歪まない。

 硬い。

 そんな事を頭の片隅で考えながら海軍少佐は言葉を操る。

 

「さて、残念ですが時間は有限です。御國の為とはどのような事でしょうか」

 

 受付でも、事前に何を主張しようとしているのか伝えられていなかった。

 だからこその質問。

 山田大郎は、薄く笑って答えた。

 

「未来」

 

 

 

 

 

――行動/山田大郎

 山田大郎。

 日本人の名前の最大公約数的な、あからさまに偽名にも思える名前であるが、本名もそのまであった山田大郎は令和日本の政府に雇われた調査官であった。

 令和時代(2020年代)では失われて久しい日本帝國の民俗学 ―― 特に医療分野に於ける情報収集を担っていた。

 担当地区は本州東北地方。

 豊とは言い辛い寒村を巡っていた。

 特に、日露戦争末期の1905年に発生していた大凶作、天明以来の大飢饉とも言われるソレの傷痕は深く大きかった。

 それらをつぶさに見て回ったのだ。

 ()()()()()()()

 日本国政府との契約時に、(過去)世界ではやむを得ない場合の自衛を除いて干渉してはならぬという契約をしていたにも関わらず、この世界の為に何かがしたいという感情(パッション)に駆られてしまったのは。

 否。

 山田大郎だけでは無かった。

 日本帝國の地方を廻っていた若手の調査官たちも等しく、自分たちの祖と等しく見える発展途上国としての日本帝國の状況に苦悩していた。

 そうであるが故に山田大郎の発した、人としての善性の発露に、賛同する事となったのだった。

 無論、それが最善の結果を齎すとは限らない事 ―― 未来情報を渡す事による悪い影響(バタフライエフェクト)を危惧する部分もあったのだが、不確定要素に塗れる未来(可能性)と目の前の苦しむ人間(現実)とを天秤に掛ければ迷う事は難しかったのだ。

 或いは人間性の問題とも言えた。

 日本帝國に派遣されていた調査官は、それぞれが有能であり、或いは善意と言うモノを素直に信じられる善良な人間が多かったが為に、ある種の楽天的な考えから行動してしまった、と。

 素直に、自分の曾祖父母たちの世代に当たる人たちが、自分たちにとって問題とならない事で塗炭の苦しみを味わうが如き事になっている事が受け入れられなかったとも言えた。

 今現在で大変な思いをしている人間をその目で見ていたが故の結論とも言えた。

 兎も角。

 日本帝國に滞在していた調査員たちは一致団結して、日本帝國に接触する事を選んだのであった。

 尚、勿論ではあるが日本国政府には無報告であり、完全な事後報告であった。

 

 余談ではあるが、山田大郎と仲間たちが日本帝國海軍を最初の接触先として選んだ理由は、実に単純な理由であった。

 調査員の中に情報の古いミリタリー趣味者(海軍性善説の信奉者)が混じっており、その主張に動かされての結果であった。

 

 

 

 

 

――対応/日本国政府

 日本帝國政府との接触と、日本国の存在を告げたという事後報告を受けた日本国政府は盛大にブチ切れる事となる。*1

 内閣官房の異世界穴(ワームホール)問題を主管する特命補佐官は、第一報を受けた際に是非も無し(意味が判らないよ!!)と漏らす程であった。

 とは言え、第一報に添付された資料 ―― つぶさに集められた1900年代当時の日本帝國の実情(貧し)、地方農村の生活の詳細が鮮明な画像と共に纏められたソレは、日本国政府の要人や官僚たちに衝撃を与えていた。

 数字の上での日本帝國。

 情報で見るだけの日本帝國ではない現実(リアル)の日本帝國の姿は、日本国政府の人々の目にあった歴史(ロマン)と言う名の帳を剥ぎ取ったのだ。

 気取った現実主義者が嘯いていた、歴史を知る為の観察対象等と言う言葉は、簡単に吹き飛ばされていた。

 人間が持つ素朴な善性由来の感情。

 何か支援するべきではないのか、何か支援が出来るのではないのかと言う感情(ナイーブさ)を湧き起こさせていたのだった。

 

 幸いな事に(ワームホール)は日本の領海内にあり、(ワームホール)に関する多国間決議によって日本が特権的な対応が許されている為、対応する事自体は簡単であった。

 故に日本国政府は、事後承諾で行動を行ったという点で山田大郎とその一派に懲罰を与える*2と共に、日本帝國との交渉を行う事としたのだった。

 

 

 

 

 

――対応/日本帝國

 突如として降って湧いた、100年から先の日本と言う存在からの接触は、日本帝國政府にトンでも無い混乱を齎す事となった。

 勿論ながらも簡単に信じた訳では無い。

 だが、山田大郎が最初の接触の場で見せた未来技術による道具(スマートフォンその他の一般的道具)によって、簡単に疑う事も詐欺と断じる事も出来ず、そして日本国政府が出てきた際には未来の天皇陛下から明治の天皇陛下に向けられた親書が渡されたのだ。

 最早、疑念も誤解も抱く余地は無かった。

 とは言え、簡単に本当の事であると受け入れるのは難しい為、日本帝國政府は信用できるモノを選抜し、日本国(未来)に情報収集の為に派遣する事を日本国政府に対して要求する事となる。

 建前としては、受け取った親書の返礼を送る為、であった。

 親書と言うモノの重さを利用した、正しく皇室外交であった。

 勿論、日本帝國政府の腹の内を日本国政府も理解し、そして快諾する事となる。

 

 明治の元勲を代表とした代表団の存在は、面倒事を避ける意味で大々的に公表された訳では無かった。

 秘密裡めいた行動。

 だが、それでも日本国が用意した船で(ワームホール)を渡り、上陸後は高級車で東京を一巡した事で日本国の繁栄ぶりに感嘆する事となった。

 アメリカに留学した経験者は、ニューヨークの摩天楼もかくやと驚いていた。

 道路規制などを行わずに行われた一巡は、広い道を埋め尽くす車の量に圧倒されもしていた。

 決して日本国は夢幻の存在ではないと理解するのであった。

 随員に含まれていた侍従武官(日本帝國陸軍将校)は、日本国陸軍の装備が見たいと熱望する程であった。

 尚、日本国側は日本帝國の興亡、或いは破滅的となった太平洋戦争への歴史が日本帝國側に()()()では伝わらない様に細心の注意を払っていた。

 歴史問題が発生しない様に。

 或いは、予断を許さない事にならぬ様にとの配慮であった。

 アメリカとの全面戦争と敗戦、そして同盟国となった ―― アメリカ軍が駐屯している日本国の状況が感情的な反発などが生まれない様に、としてだ。

 結果として、親書の往復(皇室間外交)は成功裏に終わる事となる。

 

 日本国に派遣された秘密裏の外交団が集めた情報は、それが短時間の滞在で得られたモノであったが日本帝國には値千金の価値あるモノとなった。

 とは言え混乱自体は発生した。

 特に、国号から帝國の名が外れている事が、100年の間に()()()()()と云う事を意識しない訳にはいかなかった。

 とは言え、天皇陛下は国家の象徴として存続しており、更には世界的強国として居ると聞けば安心めいたモノが湧くのも事実であった。

 

 取り合えず日本帝國の指導者層たる元老(明治の元勲)たちは、情報が外部に漏れぬ様に細心の注意を払いながら日本国と交渉をする事となる。

 先ずは、何故に日本国が居る理由を尋ねた。

 そして日本国の目的を尋ねた。

 

 日本国側は回答した。

 2つの日本が繋がった(ワームホール)が出来た理由は、不幸な出来事(中国のミラクルなミス)であると述べた。

 そして続けた。

 原因は判っているが原理は不明。

 何時まで存在しているかも不明。

 現時点で、調査を行っているが何かが判明するかもわからないとも続けた。

 そして日本国の目的は、一言で返していた。

 

 平和と繁栄(ラブ&ピース)

 

 日本国の祖に極めて似た日本帝國の繁栄と安寧であり、その為の助言を行いたいのだと断言したのであった。

 ある種、こっぱずかしい程に純粋なお題目であったが、そうであるが故に、日本帝國側の代表たちは納得する所があった。

 

 

 

 

 

 

*1

 日本国政府の怒りは、(ワームホール)によって生まれた世界の混乱は日本国にとっても他人事などではなく、大きく巻き込まれていたが故の事であった。

 最大の同盟国であるアメリカと、最大の仮想敵である中国が共に混乱しているのだ

 

 仮想敵である中国の混乱事態は、2020年代に入って侵略志向(台湾と沖縄/先島諸島への食指)を隠さなくなっていた状況が止まると言う意味では悪い話では無かった。

 だが同時に中国が過度に混乱する事は、周辺国に悪い影響が出る事となる為、出来れば混乱の果てに爆縮(内側への崩壊)して欲しいというのが本音であった。

 死んで欲しいが、死ねとは思っていない。

 何とも微妙な塩梅の感情と言えた。

 だが、中国の混乱は、その日本国政府の願いを超える形で進行していた。

 中国政府は中国らしい傲慢な態度で異世界の先の国家と接触し、順当に衝突しており(大方の予想通りの展開)、伝え聞く限りに於いて戦争状態に突入する寸前(開戦までカウントダウン状態)だという。

 どうやら中国同様に(ワームホール)の辺りは、向こう側の国家にとっても辺境であり、辺境を支配する国家は強国と言って良い規模と自負とを持っており、明確な侵略者である中国との衝突を恐れていない模様であった。

 兎も角。

 兵員の動員と(ワームホール)のある新疆ウイグル自治区に部隊を集めつつあるのだ。

 勿論、異世界開発に関する情報公開に関して、領土領海領空及び排他的経済水域(EEZ)内であれば公開義務が無いとされている為、詳細は不明であった。

 だが、それを捕捉する情報が齎された。

 中国政府が内々として緊張関係(軍事的衝突の危険性が高い)台湾と日本、それにアメリカに対し、中国が行っている軍事的準備行動は異世界での()()()()()()と伝達していたのだ。

 間違える筈も無かった。

 日本と台湾、そしてアメリカは警戒しつつも極端な対応(エスカレーション)をする事無く中国の動向を見守っていた。

 

 対してアメリカ。

 此方が繋がった異世界は魔王と言う悪、抑圧者が居る世界であり、|人間 ―― 人間種《ファンタジー的諸種族を含めたヒューマノイド》は暴力と恐怖によって支配されていたのだ。

 何というか、まだ接触したばかりで理性が働いている(銃を抜いていない)のだが、それでも異世界(魔王に支配された世界)の情報を小出しに公表しており、アメリカ国内、及び国際世論を動かそうとしていた。

 魔王とその一党は積極的な暴力行使(ヒャッハー行為)を行っていない為、まだアメリカ側の調査部隊を認識していなかったが、それでも認識されるのは時間の問題ではないかと付け加えていた。

 アメリカ大統領は一応として、接触時に交渉を持つ事も考えてはいるとは言っていた。

 だが同時に、アメリカが異世界の権威(魔王)に膝を屈する事は無いとも断言していたのだ。

 諸外国の何れもが、アメリカと異世界が戦争になるのだと理解していた。

 実際問題として、アメリカが繋がっている異世界は資源開発が殆ど行われていない為、アメリカにとっても宝の山であり、そうであるが故に退く余地が無いというのが現実であった。

 又、別の見方での問題もあった。

 それは彼我の逆転であり。

 即ち、魔王とその軍勢にとって(ワームホール)のこちら側が、新しき大地(侵略出来るフロンティア)となる可能性だ。

 世界と異世界の関係性は決して一方的、一方方向でのモノでは無いのだから。

 ある意味で自衛的、或いは攻勢防御と言う考え方であった。

 兎も角。

 アメリカ政府は同盟国/同志国(コア・プロフィットシェアリング・グループ)に対して、アメリカ軍への()()()()を要請していた。

 本格的な戦争(フルスケール・ウォー)の危険性を把握しての事であり、その相手がアメリカ国内で接続されるという状況に、アメリカの冷静な戦争システムとしての側面が動いているのであった。

 そうであるが故に、日本を含めた親アメリカのスタンスを取った国家群(パクスアメリカ体制での利益享受グループ)は、アメリカの覚悟に可能な限り寄り添う準備を進めるのであった。

 

 

 

*2

 日本国政府内の特殊な(日本帝國への感情的反発を持つ)人々は、悪しき日本帝國と関与せざる得なくした山田大郎とその一派に対して法的対応を行う事を主張していたのだが、現実として難しいというのが実情であった。

 何故なら、法的対応をする上での()()()()が存在していないからであった。

 山田大郎とその一派、日本帝國に情報収集の為に派遣されていた調査員は、特に何かの期待を背負ってと言う訳でも無かった為、特措法の類も作られずに派遣されていたのだから仕方が無い。

 行動の規範(ガイドライン)は出されていても、では、そこに反した場合の罰則規定は設定されていなかったのだから。

 否。

 そもそも、罰則が必要となる状況が想定されていなかったというべきかもしれない。

 

 かくして、日本国政府内の特定な人々は実に官僚的な対応を以って山田大郎とその一派に対する事となる。

 即ち、日本帝國との交渉、対応その他といった現場作業の労を押し付けるという形であった。

 

 

 




+
 はーい
 山田()郎であって山田()郎氏じゃありません。
 ここはご注意クダサーイ

 前にpixivでチロっとやった奴の再演と、しっくりと逝かなかった令和と昭和のやり直しです。
 やっぱり状況説明、流れってのは作者にも必要だよナァ
 等とですね
 ではでは~





 
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