四層世界の最下層、魔物の森で生き残る   作:鳩夜(HATOYA)

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六輪の試練

 神輪の祭壇へ戻ると、俺はすぐに青い台座の前へ立った。

 

「さて……」

 

 後ろにはマグとフーチェ。

 二人とも、俺以上に結果を楽しみにしているように見える。

 

「入れるぞ」

 

「はい!」

 

「早く」

 

「マグ、俺より急かしてないか?」

 

 俺は苦笑しながら、台座の穴へ右腕を差し込んだ。

 いつもの吸引力に引かれ、肩まで腕が飲み込まれる。

 

 青い光が走り。

 正面の黒い石板へ、文字が浮かび上がった。

 

――――――――――

 

 現在レベル五・九九。

 

 レベル五までの魔法輪。

 

 特性《制御》を開放済。

 

 次のレベルまで〇・〇一。

 

 開放の試練をクリアする必要があります。

 

 試練条件。

 

 レベル五・九九以上の神徒を含んだ、

 異なる種族二名の参加が条件の試練を

 神輪の祭壇で受ける必要があります。

 

 対象者は一般人。

 《開眼の試練》も達成すること。

 

 試練を開始しますか?

 

 はい / いいえ

 

――――――――――

 

「おおっ!」

 

 思わず声を上げる。

 

「五・九九! ちゃんと上がってるぞ!」

 

 熱波の森で狩ったフレイムロック。

 やはり経験値はかなり高かったらしい。

 

「でも……」

 

 表示を読み直す。

 

「二人とは少し違うな」

 

「一般人だから?」

 

 マグが石板を覗き込む。

 

「ああ。俺だけ《開眼の試練》ってのも必要みたいだ」

 

「一般人は大変」

 

「全くだ!」

 

 自然に五輪まで上がれる神徒。

 二輪で止まり、そこから祭壇を探し、自力で魔法輪を開放してきた俺。

 さらに六輪では試練が一つ多い。

 

「階級差が魔法にまで反映されすぎだろ……」

 

「でも」

 

 フーチェが石板を指さす。

 

「今、試練を開始するか聞かれていますよ」

 

「あ、本当だ」

 

 俺は二人を見る。

 

「今からやるか?」

 

「大丈夫」

 

 マグが即答する。

 

「私も行けますよ!」

 

 フーチェも拳を握った。

 

「よし」

 

 何が起こるかは分からない。

 だが、ここで引く理由もない。

 

 俺は迷わず、

 

《はい》

 

 へ触れた。

 

 その瞬間。

 祭壇の床へ、二つの白い円が浮かび上がった。

 

「なんだ?」

 

 それぞれの円の上に文字が表示される。

 

《神徒》

 

《その他》

 

「その他……」

 

 俺は自分を指さす。

 

「これが俺だな」

 

「雑ですね」

 

「一般人でもいいのにな」

 

 さらに表示を見る。

 

「一人ずつしか入れないみたいだ」

 

 神徒側の円は一つ。

 

 つまり。

 

 マグかフーチェ。

 どちらか一人しか俺と試練を受けられない。

 

「マグが先に行く」

 

 マグが一歩前へ出た。

 

「いいのか?」

 

「うん」

 

 フーチェも頷く。

 

「そうですね。戦闘面ではマグの方が動きも良いです」

 

「フーチェより?」

 

「少しだけです!」

 

「マグの方が強い」

 

「マグ!」

 

 相変わらずだな。

 俺は《その他》と書かれた円へ立つ。

 マグも《神徒》へ入った。

 

「どんな試練か分からないけど」

 

 俺はマグを見る。

 

「頑張ろうな」

 

「うん」

 

 次の瞬間。

 二つの円から、光が立ち上った。

 

「うおっ!?」

 

 筒状の光が身体を包む。

 足元の感覚が消え――。

 

・・・

・・

 

「……え?」

 

 瞬きをする。

 景色が変わっていた。

 

「なんだよ、これ……」

 

 森ではない。

 祭壇でもない。

 

 壁。

 床。

 天井。

 すべてが真っ白。

 

 広さは、前世で見た学校の体育館ほどある。

 壁には窓も扉もなく。

 天井には光源らしきものすらないのに、部屋全体が明るかった。

 

 足元を踏んでみる。

 

「柔らかい……」

 

 硬そうに見える白い床。

 だが実際には、少しだけ沈み込む。

 硬めのマットのような感触だ。

 

「また人工物……」

 

 区画の壁の内部。

 熱波の森にあった祭壇。

 

 そして、この場所。

 どう考えても自然にできたものではない。

 

「本当にどうなってるんだ、この世界……」

 

「怪我しにくそうで良い」

 

 隣でマグが床を軽く踏んでいる。

 

「ああ……まあ、それはそうだな」

 

 俺ばかりが気にしている。

 今は考えても答えなど出ない。

 

「試練に集中するか」

 

「うん」

 

 部屋の中央へ近づく。

 そこには、空中へ文字が浮かんでいた。

 

――――――――――

 

 レベル六の試練を開始しますか?

 

 はい / いいえ

 

――――――――――

 

「ここでも確認するのか」

 

「押す?」

 

「押そう」

 

 俺が《はい》へ触れる。

 文字が消え。

 代わりに、新たな表示が浮かんだ。

 

――――――――――

 

 No.6

 

 戦闘準備。

 

――――――――――

 

「……何か来る」

 

 マグの表情が変わった。

 

「ああ」

 

 二人で少し後退する。

 文字が浮かんでいた真下。

 白い床へ、青白い魔法陣のようなものが広がった。

 

 光が立ち上る。

 

 その中から――。

 

「……ロボット?」

 

 一体の人型が現れた。

 

 全長三メートルほど。

 二足歩行。

 

 頭。

 胴体。

 両腕。

 両脚。

 

 人間に近い形ではある。

 だが、皮膚はない。

 

 全身が銀色の金属で覆われていた。

 武器は持っていない。

 

 顔にも、人間らしい目鼻はない。

 ただ頭部に、細い光が横一文字に走っている。

 

《No.6》

 

 胸部へ、その文字が刻まれていた。

 

「こいつ……」

 

 俺は金属の身体を見る。

 

「鉄製じゃねーか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 マグの目が少し輝いた。

 

「余裕で勝てそう」

 

「やっぱりそう思うよな」

 

 鉄。

 そしてマグ。

 

 相性が良すぎる。

 

 マグの身体を覆う魔力が強くなる。

 灰色のユニークリング。

 

《磁力》。

 

「行く」

 

 次の瞬間。

 ギュンッ――!

 

「速っ!」

 

 マグの身体が一瞬でNo.6へ引き寄せられた。

 

 いや。

 

 自分自身とNo.6の金属を引き合わせたのだろう。

 

 勢いをそのまま乗せ。

 マグが蹴りを放つ。

 

 ギャァンッ!!

 

 凄まじい金属音が、白い部屋へ響き渡った。

 No.6の巨体が後方へ吹き飛ぶ。

 

 だが。

 

「壊れてない……!」

 

 何度も地面を転がりながらも、原形を完全に保っている。

 すぐに起き上がった。

 

「硬いな……」

 

 デッドマンティスの機械型より、遥かに頑丈だ。

 No.6が踏み込む。

 

 構えは――。

 

「ボクシング?」

 

 左腕を前。

 右腕を顎の近くへ。

 

 そして。

 

 シュッ!

 

 鋭い左ジャブ。

 マグの顔面へ飛んだ。

 

 だが――。

 

 拳は直前で不自然に横へ逸れた。

 

「……」

 

 続けて右。

 左。

 右。

 

 連続で拳が飛ぶ。

 

 しかし。

 

 一発もマグには触れない。

 マグが避けているわけではない。

 

 拳の方が。

 マグを避けている。

 

「本当に鉄に対して無敵だな……!」

 

 No.6がどれだけ速く拳を放っても。

 金属である以上、マグの《磁力》で軌道そのものを変えられる。

 これならマグ一人でも、そのうち勝てるだろう。

 

「……でも」

 

 次はフーチェと試練を受けるかもしれない。

 あいつに同じ戦い方はできない。

 

 それに。

 

 俺自身が、No.6へどの程度通用するのか知っておきたい。

 

「マグ!」

 

「なに?」

 

「ちょっと俺の攻撃を試させてくれ!」

 

「分かった」

 

 マグが後ろへ跳ぶ。

 入れ替わるように、俺が前へ出た。

 

「まずは……!」

 

 《エンハンス》を右脚へ集中。

 

 出力二。

 

 地面を蹴る。

 

「はあっ!」

 

 回転を加えた蹴りを、No.6の腹部へ叩き込んだ。

 ギャリンッ!!

 

「くっ!」

 

 硬い。

 

 No.6は勢いよく吹き飛び、床を滑っていく。

 

 だが。

 

「無傷かよ……!」

 

 へこみ一つない。

 俺が硬いデッドマンティスを破壊した攻撃だ。

 それでも足りない。

 

「出し惜しみはできないな」

 

 右手を前へ出す。

 

「マグ!」

 

「うん?」

 

「俺、気絶するかもしれない!」

 

「……」

 

「そのときは頼んだ!」

 

「分かった」

 

 即答。

 

 頼もしい。

 

 俺は掌へ意識を集中する。

 

 五輪《ブラスト》。

 

 通常の出力では足りない。

 

 なら。

 

「出力……二!」

 

 魔力が一気に右腕へ集まる。

 危険な量。

 

 以前は、これを撃とうとした瞬間に意識を失った。

 だが、あのときより魔力は増えている。

 

「いける……!」

 

 手の甲に浮かぶ魔法陣が、いつもより強く輝いた。

 

「五輪――《ブラスト》!!」

 

 ドッ――!!

 

「ぐっ!!」

 

 猛烈な反動。

 身体が後ろへ押される。

 肩が外れるかと思うほどの衝撃が、右腕全体を突き抜けた。

 

 掌から射出された《ブラスト》は、通常より一回り大きい。

 色も濃い。

 

 圧縮された魔力の塊が、一直線にNo.6へ飛ぶ。

 ドゴォンッ!!

 

 命中。

 

「……っ!」

 

 俺は自分の意識を確認する。

 

「ある……!」

 

 倒れていない。

 

「意識……あるッ!」

 

 初めて。

 出力二の《ブラスト》を撃ち切った。

 

「ロフル、危ない!」

 

「え?」

 

 マグの声。

 前を見る。

 

 No.6が――。

 

「嘘だろ!?」

 

 腹部から煙を上げながら、こちらへ走ってきていた。

 攻撃を受けても止まっていない。

 

 左肩が動く。

 ジャブ。

 

「ぐっ!」

 

 ガンッ!!

 

 咄嗟に左腕で受けた。

 身体が宙へ浮く。

 

「うおおっ!?」

 

 一気に壁まで吹き飛ばされた。

 

 ドンッ!

 

 背中から激突する。

 

 だが。

 

「……痛っ、くない?」

 

 壁も床と同じ。

 硬そうに見えて、衝撃を吸収するように柔らかかった。

 大した怪我ではない。

 

 ただ。

 

「重い攻撃だ……」

 

 受けた左腕を見る。

 赤く腫れている。

 

 《エンハンス》を纏っていた。

 

 それでも完全には防ぎ切れていない。

 

「ただのジャブでこれかよ……」

 

 もし。

 しっかり踏み込んだ右ストレートを受ければ。

 

「《エンハンス》をぶち破られるかもしれないな……!」

 

 ぞっとする。

 

「大丈夫?」

 

 マグが俺の前へ来た。

 

「ああ」

 

 立ち上がる。

 

「大丈夫だ。それより見ろ、マグ」

 

「?」

 

 俺はNo.6を指さした。

 腹部。

 

「穴……」

 

 マグが呟く。

 

「ああ」

 

 《ブラスト》が命中した場所。

 

 腹部が綺麗に貫かれていた。

 向こう側まで見える。

 

「効いてる」

 

 壊せる。

 

「もう一発撃てば、多分倒せる」

 

 問題は。

 

 右腕の五輪を見る。

 光を失っている。

 

「少し溜めがいる」

 

 《ブラスト》のインターバル。

 

 約十五秒。

 普段なら短い。

 

 だが。

 

 今は――。

 

「マグ、頼んだ!」

 

「まかせて」

 

 マグがNo.6へ向かう。

 

 ギュンッ!

 

 磁力を利用して一瞬で間合いを詰める。

 蹴り。

 No.6が反撃。

 

 拳が軌道を逸らす。

 再び蹴り。

 

 俺はその戦いを見ながら、右腕を確認し続ける。

 

「まだか……!」

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 たった十五秒。

 

 それが、永久のように長く感じる。

 

 十。

 

 十一。

 

「あと少し……!」

 

 No.6がマグを無視し、こちらへ身体を向ける。

 

「……まずい」

 

 マグが磁力で引っ張る。

 

「こっち」

 

 No.6の身体が僅かに傾く。

 それでも俺へ進もうとする。

 

 十三。

 

 十四。

 

 そして。

 

 五輪が光った。

 

「来た!」

 

 右手を前へ構える。

 外せない。

 

 頭部。

 

 狙う場所は小さい。

 しかも相手は動いている。

 

「……いや」

 

 俺は手の甲の模様を見る。

 

「外さねえ」

 

 俺には。

 

《制御》がある。

 

 掌へ魔力を集中。

 もう一度、出力二。

 

 意識が少しだけ遠くなる。

 まだ持て。

 

 あと一発。

 

「マグ!」

 

「うん!」

 

 マグが磁力を反転させた。

 No.6の身体が、強制的に後ろへ引かれる。

 頭部が一瞬だけ止まった。

 

「そこだ!」

 

 俺は照準を定める。

 

「五輪――《ブラスト》!!」

 

 ドンッ!!

 

 射出。

 No.6が横へ動く。

 

 だが。

 

「曲がれ!」

 

 俺の意識に応じ、《ブラスト》の軌道がわずかに変化した。

 そして。

 

 ドシュッ――!

 

 No.6の頭部を真正面から貫いた。

 

「……!」

 

 巨体の動きが止まる。

 ガシャン……。

 

 膝をつく。

 頭部から青白い電気が漏れ。

 

「ボンッ!」

 

 小さな爆発。

 金属部品が辺りへ飛び散った。

 No.6の身体はそのまま前へ倒れ、完全に動かなくなった。

 

「……倒した」

 

 俺はその場へ膝をつく。

 空中へ文字が浮かび上がる。

 

――――――――――

 

 COMPLETE

 

 試練を達成しました。

 

 帰還します。

 

――――――――――

 

「コンプリート……」

 

 また英語だ。

 そんなことを思った直後。

 急激に視界が暗くなった。

 

「あ……」

 

 魔力切れ。

 マグなら視界が赤くなって分かるらしい。

 

 俺には。

 やっぱり何の前触れもない。

 

「ロフル?」

 

「悪い……マグ……」

 

 最後に見えたのは。

 こちらへ駆け寄ってくる、赤い髪の少女の姿だった。

 

 そこで――。

 俺の意識は完全に途切れた。

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