四層世界の最下層、魔物の森で生き残る   作:鳩夜(HATOYA)

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正規の攻略法

「う……」

 

 意識がゆっくりと浮かび上がる。

 頭の下に、柔らかい感触があった。

 

「あ、目が覚めましたか!」

 

「……ん?」

 

 目を開ける。

 すぐ近くに、フーチェの顔があった。

 

「…………」

 

「どうしました?」

 

「膝枕!?」

 

 勢いよく身体を起こしかけ――。

 

「いてっ!」

 

 頭がくらりとする。

 

「まだ急に起きない方がいいですよ!」

 

「あ、ああ……」

 

 俺はもう一度、フーチェの膝へ頭を戻した。

 

「いや……ありがとう」

 

「嫌でしたか?」

 

「嫌ってわけじゃないけど、びっくりした」

 

「マグは、これだとよく寝られるみたいなので!」

 

「特別に貸した」

 

 横を見ると、マグが座っていた。

 

「いや、マグの膝ではないですよ!」

 

「……」

 

「なんで自分のものみたいに言うんですか!」

 

 相変わらずだな、この二人。

 少し笑いそうになったところで、直前の出来事を思い出す。

 

「そうだ!」

 

 俺は身体を起こした。

 

「マグ! 試練は!?」

 

「?」

 

「最後、《COMPLETE》って出てたけど、俺が気絶しただろ! あれで失敗になったとか……」

 

 マグは無言で右手を上げた。

 人差し指と中指を立てる。

 

「合格」

 

「……!」

 

 ピース。

 

「そうか……!」

 

 身体から力が抜ける。

 

「よかった……!」

 

 あれだけ戦って、最後に俺が気絶したせいで失敗。

 そんなことになっていたら、さすがに立ち直れなかった。

 

「見て」

 

 マグが少し自慢げに右腕の袖を上げた。

 

「おお……!」

 

 これまで五つだった魔法輪。

 その上に、新しく一つ。

 

「六輪……!」

 

 マグは六輪へ到達している。

 

「ちゃんと増えてるな」

 

 しかし。

 

「……あれ?」

 

 俺は腕を見る。

 

「一つしか増えてない?」

 

 神輪の祭壇では、六輪の情報として二つの名前が表示されていた。

 

《バースト》。

 

《キーキューブ》。

 

 だから、てっきり二つの輪が追加されるものだと思っていた。

 

「うん」

 

 マグは今度は手を開いた。

 

「代わりに、こっち」

 

「掌?」

 

 見せてもらう。

 

「……本当だ」

 

 掌の中央。

 

 そこに、小さな魔法陣のような模様が刻まれていた。

 

 腕にある魔法輪とは明らかに形が違う。

 

「これがもう一個の魔法か?」

 

「多分」

 

「気になるな……!」

 

 六輪《バースト》。

 

 そして、掌に刻まれた《キーキューブ》。

 

 どんな魔法なのか。

 すぐにでも試してみたい。

 

「ロフルさん」

 

「ん?」

 

「……私の試練、忘れてません?」

 

「え?」

 

 フーチェがじっとこちらを見ている。

 

「わ、忘れてない!」

 

「今、完全にマグの新しい魔法のことしか考えてませんでしたよね?」

 

「そんなことないって!」

 

 ……少しだけ忘れていた。

 

「魔力も回復してるし、もういつでも行けそうだ」

 

 身体の状態を確認する。

 気絶した直後特有の妙な怠さはあるが、魔力はある程度戻っているようだった。

 

「そういえば、俺どれくらい寝てた?」

 

「五時間くらいです」

 

「五時間!?」

 

 思っていたより長い。

 

「そんなに看病してくれてたのか……」

 

「はい」

 

「悪かったな。迷惑かけた」

 

「大丈夫ですよ」

 

 フーチェは笑った。

 

「マグと交代で見てましたから」

 

「マグもありがとうな」

 

「うん」

 

 俺は少し身体を動かし、問題なく立てることを確認した。

 

「それで」

 

 フーチェを見る。

 

「マグから、敵の姿とか、どうやって倒したかは聞いた?」

 

「えーっと……」

 

 フーチェの顔が微妙な表情になる。

 

「一応、聞いたのですが」

 

「どんな説明だった?」

 

 フーチェがマグの方を見る。

 そして、淡々と再現した。

 

「『柔らかい場所で、鉄の敵を《ブラスト》でぶち抜いた』と」

 

「……」

 

「このような説明でして」

 

「……マグ」

 

「?」

 

「間違ってはいないけど、情報が足りなさすぎる」

 

「伝わったと思った」

 

「伝わってません!」

 

 フーチェが即座に否定する。

 

「分かった。俺から説明するよ」

 

 俺は試練について、一通り話した。

 

 白い部屋。

 

 《No.6》と表示された三メートルほどの金属製人型。

 

 ボクシングのような攻撃。

 

 通常の《エンハンス》では十分なダメージを与えられなかったこと。

 

 出力二の《ブラスト》で腹部を貫通できたこと。

 

 そして二発目で頭部を破壊し、試練を突破したこと。

 

「なるほど……」

 

 フーチェは真剣な表情で聞いていた。

 

「攻撃力もかなり高い。普通のジャブを受けただけで、《エンハンス》越しに腕が腫れた」

 

「それは危険ですね」

 

「ただ、マグは磁力があるからほとんど攻撃を受けなかった」

 

「なるほど」

 

 フーチェは少し考える。

 

 そして。

 

「一ついいですか?」

 

「何?」

 

「どうして《バインド》を使わなかったんです?」

 

「…………」

 

 俺は固まった。

 

「《バインド》で動きを止めてから、頭部へ《ブラスト》を撃てばよかったのでは?」

 

「…………」

 

 隣を見る。

 マグもこちらを見る。

 

「……」

 

「……」

 

 俺とマグは、しばらく無言で見つめ合った。

 

「……確かに」

 

「うん」

 

 なんで思いつかなかったんだ。

 

 相手はボクシングしかしてこない。

 遠距離攻撃もない。

 

 しかも《バインド》は、一度命中すれば一時間以上俺を拘束し続けたほど強力だ。

 

「最初から拘束すれば良かったじゃないか……」

 

「うん」

 

「俺たち、何で正面から殴り合ってたんだろうな」

 

「分からない」

 

「マグ!」

 

 フーチェが呆れたように腰へ手を当てる。

 

「魔法を使わず、まず肉体でどうにかしようとする癖は早く直してくださいね?」

 

「……」

 

「ロフルさんも」

 

「え?」

 

「同じ癖がありそうです」

 

「あ、あはは……」

 

 否定できない。

 

 フレイムロックを見たときも、まず蹴った。

 

 硬いデッドマンティスも、まず殴った。

 

 No.6も、まず蹴った。

 

「さて!」

 

 俺は立ち上がる。

 

「そろそろ行こうか!」

 

「誤魔化しましたね?」

 

「試練の方が大事だ!」

 

 ともかく。

 

 フーチェとの戦い方は決まった。

 今回は最初から《バインド》を使う。

 

・・・

・・

 

 再び神輪の祭壇。

 俺とフーチェが、それぞれの円へ立つ。

 

《神徒》

 

《その他》

 

「準備は?」

 

「大丈夫です!」

 

「じゃあ行くぞ」

 

「はい!」

 

 光が立ち上がる。

 

 身体を包み――。

 

 次の瞬間。

 

 俺たちは、先ほどと同じ白い部屋へ転送されていた。

 

「ここですか……」

 

 フーチェが周囲を見る。

 

「本当に人工物みたいですね」

 

「やっぱりそう思うか?」

 

「人工物?」

 

「あ……いや、何でもない」

 

 空中に表示が現れる。

 

――――――――――

 

 レベル六の試練を開始しますか?

 

 はい / いいえ

 

――――――――――

 

「行くぞ」

 

「はい!」

 

《はい》

 

 に触れる。

 

 表示が切り替わった。

 

――――――――――

 

 No.6

 

 戦闘準備。

 

――――――――――

 

 床へ魔法陣が現れる。

 

 そして。

 

 前回とまったく同じ姿のNo.6が、光の中から現れた。

 

「さっきと同じだ」

 

 全長三メートル。

 金属製。

 両腕に武器はない。

 

 構えも同じ。

 No.6が拳を上げた。

 

「じゃあ、予定通り!」

 

 俺は左手を前へ出した。

 

「四輪――《バインド》!」

 

 円盤状の魔法が飛ぶ。

 

 No.6は避けようとしなかった。

 

 胸部へ直撃。

 

 ガシャァンッ!

 

 無数の鎖が飛び出す。

 

 それは全身へ絡みついた。

 

「……」

 

 No.6が拳を動かそうとする。

 

 だが。

 

「お?」

 

 動かない。

 

 脚も。

 腕も。

 

 頭部すら、ほとんど動いていない。

 

「完全に止まりましたね」

 

「……止まりすぎじゃないか?」

 

 俺が自分で受けたときも身動きは取れなかった。

 

 だが、No.6の力は俺より遥かに強い。

 

 あの拳の威力を考えれば、多少は鎖を軋ませてもおかしくない。

 

 それなのに完全停止している。

 

「まあ、今は考えるのは後だ!」

 

「はい!」

 

 フーチェが前へ出る。

 

 《エンハンス》を纏う。

 

 全身へ炎が広がった。

 

「頭部ですね!」

 

「ああ!」

 

 フーチェが右手を構える。

 

「五輪――《ブラスト》!」

 

 ドンッ――!

 

 炎を纏った圧縮魔力が射出される。

 逃げることも、防ぐこともできないNo.6。

 

 炎の《ブラスト》が、頭部へ真正面から直撃した。

 

 ドゴォンッ!!

 

 頭部が吹き飛ぶ。

 

 火花。

 

 金属片。

 

 炎。

 

 それらを撒き散らしながら、No.6の巨体が崩れ落ちた。

 

「……」

 

「……」

 

 一瞬だった。

 

 前回の苦戦は何だったのか。

 空中へ文字が浮かぶ。

 

――――――――――

 

 COMPLETE

 

 試練を達成しました。

 

 帰還します。

 

――――――――――

 

「余裕でしたね!!」

 

 フーチェが嬉しそうに振り返った。

 

「ああ」

 

「怪我もありません!」

 

「完璧だったな」

 

 俺は手を上げる。

 

「おめでとう、フーチェ」

 

「ありがとうございます!」

 

 フーチェが笑う。

 

 俺も笑い返した。

 

 ただ……。

 

「……」

 

 消えていくNo.6の残骸を見つめる。

 どうにも腑に落ちないことがあった。

 

 確かに《バインド》の拘束力は強い。

 それは自分の身体で嫌というほど理解している。

 

 だが。

 

 No.6ほどの力を持つ相手が。

 抵抗することすらできず、あそこまで完全に停止するものなのか?

 

「……まるで」

 

「ロフルさん?」

 

「いや」

 

 最初から。

 

《バインド》で動きを止め。

 

《ブラスト》で弱点を撃ち抜く。

 

 それが――。

 

「正規の攻略方法です」

 

 そう言われているような。

 妙な感覚があった。

 

「……まあ、いいか」

 

「何がです?」

 

「何でもない」

 

 今考えても、答えは出ない。

 俺はフーチェを見る。

 

「とにかく、合格したんだ」

 

「はい!」

 

「今はそれを喜ぼう!」

 

 直後。

 俺たちの身体を光が包み込んだ。

 

 次に祭壇へ戻ったとき。

 フーチェにも――六つ目の魔法輪が刻まれているはずだ。

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