四層世界の最下層――魔物の森で帰還魔法を得た少年は、家族のために帰らない 作:鳩夜(HATOYA)
貴族の少年は、俺たちを先頭に立たせ、森の中を進んでいた。
「もっと早く歩けよ」
背後から、苛立った声が飛んでくる。
俺たち五人の紫髪の子供は、一列になって森を歩かされていた。
身体は自分の意思では止められない。
足元に太い木の根があっても、顔の前に枝が伸びていても、貴族の命令に従って前へ進み続ける。
枝が頬をかすめた。
濡れた葉が顔へ張りつく。
それでも腕で振り払うことさえできない。
身体を動かす権利は、完全に奪われていた。
俺は前を歩きながら、必死に周囲へ目を向ける。
まずい。
こいつは森の中を歩くときの注意など、何も考えていない。
紫髪の子供たちを先行させ、自分は安全な後ろを歩いている。
足音を立てることも、草木を踏み荒らすことも気にしていなかった。
折れた枝が、ぱきりと音を立てる。
茂みが大きく揺れる。
慎重さの欠片もない。
これだけ音を立てていれば、いずれ魔物に気づかれてしまう。
昨日出会った、鉄の外殻を持つ巨大なカマキリ。
あれほどの魔物が現れれば、俺たちではどうすることもできない。
せめて、貴族へ静かに歩くよう伝えられればいい。
しかし口も、俺の意思では動かなかった。
嫌な汗が背中を流れる。
頼む。
何も出てくるな。
そう願った直後だった。
「チチチッ!」
前方の茂みから、聞き覚えのある鳴き声が響いた。
「……!」
巨大な影が、木々の間から姿を現す。
全長三メートルほどのカマキリ型の魔物。
昨日見た機械のような個体とは違い、外殻は濃い緑色だった。
巨大な鎌を持ち、三角形の頭をこちらへ向けている。
「ひいっ!」
後ろから、貴族の少年の情けない悲鳴が聞こえた。
「出たぞ! お前!」
貴族は、列の先頭にいた紫髪の少年を指さした。
「あいつを引きつけろ!」
命令を受けた少年の身体が、びくりと震える。
嫌だ。
その表情が、はっきりとそう訴えていた。
しかし、彼の手は腰の剣を抜いた。
「や、やめ……」
口から、かすれた声が漏れる。
完全に話すことまで禁じられてはいないらしい。
それでも身体は命令へ逆らえない。
少年は剣を両手で構えると、そのままデッドマンティスへ向かって走り出した。
「う、うわああああっ!」
剣の構えも、足の運びも乱れている。
恐怖で目を閉じたまま、正面から突っ込んでいく。
ただ走らされているだけだ。
結果など、考えるまでもなかった。
デッドマンティスが鎌を振り上げる。
「逃げろ!」
思わず叫ぼうとした。
だが、声にはならなかった。
ザシュッ――。
巨大な鎌が、少年の身体を横から通り抜けた。
上半身と下半身が、別々の方向へ落ちる。
少年は悲鳴を上げる暇さえなかった。
地面へ転がった身体から、大量の血が流れ出す。
「……っ」
俺の意識が、真っ白になりかけた。
一瞬だった。
昨日まで家族と過ごしていたはずの子供が、あまりにも簡単に命を奪われた。
「ちょっとくらい持たせろよ!」
貴族の少年は、死んだ子供を心配するどころか、苛立った声を上げた。
「次は、お前ら二人だ!」
新たに指を向けられた二人の少年が、同時に走り出す。
「嫌だ……!」
「助けてくれ!」
二人は泣きながら剣を構え、デッドマンティスへ向かっていく。
俺と、もう一人の紫髪の少年だけが残された。
「お前たちは僕と来い!」
貴族が走り出す。
俺たちの身体も、その後ろへ勝手についていった。
背後から、剣が外殻に弾かれる音がする。
続いて、短い悲鳴。
「こいつ……」
怒りが、腹の底から込み上げてきた。
こうして生き延びてきたのか。
自分は戦わない。
紫髪の子供を集め、魔物が現れたら囮として差し出す。
死ねば、また別の子供を補充する。
「許せない……」
声にはできない。
それでも、頭の中で何度も言葉が繰り返された。
許せない。
俺たちを道具のように使いやがって。
会ったばかりの子供たちだ。
名前すら知らない。
だが、同じ試練へ送られた仲間だった。
その命を、こんな奴のために使い潰されていいはずがない。
「チチチチッ!」
背後から鳴き声が近づいてくる。
振り返ることはできない。
だが、足音と草木が倒れる音で分かった。
先ほど走らされた二人も、すでに殺されたのだ。
デッドマンティスは、こちらへ向かってきている。
「くそっ、もう追いついてきた!」
貴族が振り返り、残っていた紫髪の少年を指さした。
「お前! あいつに突っ込め!」
少年の身体が止まり、反対方向へ向き直る。
「いやだ……死にたくない……」
涙を流しながらも、剣を抜いて走り出した。
デッドマンティスの鎌が振り下ろされる。
少年の悲鳴が途切れた。
これで残ったのは、俺と貴族の二人だけだった。
「お、おい、お前!」
貴族が俺の肩をつかむ。
「僕の盾になれ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の身体が反転した。
デッドマンティスが目前まで迫っている。
巨大な鎌が持ち上がった。
俺の身体は、貴族を守るように前へ立つ。
このままでは死ぬ。
次の瞬間には、さっきの子供と同じように身体を切断される。
嫌だ。
こんな場所では死ねない。
母さんがいる。
父さんがいる。
ハナとサンクも待っている。
ここで死ぬわけにはいかない!
「絶対に……」
全身へ力を込める。
動け。
俺の身体だ。
他人の命令なんか聞くな。
「こんなところで、死ねるかあああっ!」
頭の奥で、何かが弾けた。
身体を覆っていた見えない鎖が、一瞬だけ消える。
「なっ――」
自由になった。
そう理解するより早く、俺は後ろへ手を伸ばした。
貴族の腰に差さっていた剣の柄をつかみ、一気に引き抜く。
「お前……!」
貴族の少年が目を見開く。
「掌握が解除されて……!」
デッドマンティスの鎌が振り下ろされた。
俺は地面を蹴り、横へ転がる。
巨大な鎌が、つい先ほどまで立っていた場所へ突き刺さった。
湿った土が大きく飛び散る。
避けられた。
身体が自由に動く。
俺は立ち上がると、地面へ突き刺さった鎌へ向かって剣を振り下ろした。
「はあっ!」
刃が、鎌と腕をつなぐ関節へ食い込む。
ザンッ――!
大きな鎌が、地面へ落ちた。
「チギィィッ!」
デッドマンティスが激しく身体を揺らす。
昨日の奴とは違う。
剣が通る。
「お前は柔らかいな!」
父から聞いていたデッドマンティスだ。
昨日目にした鉄のような個体ではない。
通常のデッドマンティスなら、倒し方は教わっている。
「父さんから聞いていた奴だ!」
俺は後方へ大きく下がった。
残った鎌が、横薙ぎに振るわれる。
姿勢を低くして避け、魔物の側面へ回り込む。
武器だけを見るな。
相手の全身を見ろ。
父の教えが、頭の中によみがえる。
鎌が動く前には、肩にあたる部分がわずかに沈む。
踏み込む前には、後ろ脚へ力が入る。
すべての攻撃には予備動作がある。
見える。
デッドマンティスの動きが、普段よりはっきりと見えた。
鎌が振り下ろされる前に、その軌道が分かる。
脚が動くより早く、次に進む方向が分かる。
俺は攻撃を避け、脚の関節へ剣を突き立てた。
「ギチッ!」
一本。
さらに反対側へ回り、もう一本。
脚を失ったデッドマンティスの巨体が傾く。
その身体を足場にして、俺は駆け上がった。
「これで――終わりだ!」
背中から跳び上がる。
両手で握った剣を、首の付け根へ突き刺した。
ドシュッ――!
刃が外殻の隙間へ深く沈む。
そのまま柄を両手でつかみ、身体ごとひねるように剣を振り下ろした。
首が裂ける。
デッドマンティスの頭部は完全に切り離され、地面へ転がった。
切り口から、青紫色の液体が勢いよく噴き出す。
「うっ……!」
鼻を突く、腐った鉄のような嫌な臭い。
頭を失った巨体は、しばらくふらふらと立っていた。
やがて脚が一本ずつ折れ、地響きを立てながら倒れていく。
「はぁ……はぁ……」
俺は剣を握ったまま、倒れた魔物を見つめた。
死んでいる。
間違いなく、俺が倒した。
戦闘を頭の中で反芻する。
自分でも、ここまで動けたことが信じられなかった。
戦っている最中、視界は普段よりも鮮明だった。
魔物の動きが遅く見えたわけではない。
それでも、次に何をするのかが手に取るように分かった。
指先から頭の先まで、身体のすべてを今まで以上に自由に動かせた。
死が間近に迫ったことで、何かが覚醒したのだろうか。
「そうだ、あいつ……!」
俺は貴族の少年へ振り返った。
仲間を何人も死なせた。
俺まで盾にしようとした。
どうしてやろうか。
そんな怒りを抱きながら振り返ったが――。
「ごふっ……」
貴族の少年は、地面へ膝をついていた。
右胸の辺りに、大きな穴が開いている。
俺が避けた鎌が、そのまま後ろにいた貴族を貫いていたらしい。
口から血を流し、俺を睨んでいる。
「お前が……避けたせいで……」
「……」
当然の報いだ。
こいつが命令しなければ、誰も死なずに済んだかもしれない。
助ける気など起きなかった。
「その傷じゃ、長くは持たないな」
俺は剣についた体液を振り払い、貴族へ近づいた。
「剣はもらう。鞘もな」
元々、俺の剣は紫髪の少年たちに奪われたままだ。
どこへ落としたのかも分からない。
貴族の持っていた剣は、父が作ってくれたものよりも軽く、切れ味も良かった。
持っていけるなら、使わせてもらう。
鞘を取ろうと、貴族の前へ立った。
その瞬間。
少年の口元が、小さく持ち上がった。
「――《下位掌握》」
「なっ……!」
再び、身体の自由が消えた。
指一本、動かせない。
剣を持つ腕も、俺の意思を完全に無視して止まっている。
「油断したね……」
貴族は血を吐きながら、笑った。
「一度、自力で解除できたから……もう効かないと思った?」
「ぐ……!」
声すら、思うように出ない。
「さっきのは、たまたまだったようだね」
貴族は苦しそうに息をしながらも、黄色い瞳を俺へ向け続けている。
「僕だけ死んで、お前だけ生きるのも癪だ」
嫌な予感がした。
逃げろ。
目を逸らせ。
だが、身体は動かない。
少年は、ゆっくりと口を開いた。
「その剣で、自害しろ」
「……っ!」
右腕が動き始めた。
俺の意思とは関係なく、剣先がこちらへ向く。
切っ先が、喉元へ近づいてくる。
止まれ。
やめろ。
動くな。
頭の中で何度叫んでも、腕は止まらない。
抗えない。
先ほどのように怒りを燃やしても、身体の自由は戻らなかった。
剣先が皮膚へ触れる。
冷たい刃の感触。
「くそ……!」
このまま死ぬのか。
魔物を倒した直後に、こんな奴の命令で。
そのときだった。
「――《下位掌握》」
俺でも貴族でもない、少女の声が森に響いた。
「え……?」
突然、身体を縛っていた力が消えた。
剣先が喉から離れる。
指が動く。
足にも力が入る。
俺はすぐに貴族から距離を取った。
声のした方向へ顔を向ける。
一人の少女が立っていた。
俺とも、黄色髪の少年とも違う姿。
真っ赤な髪を、左右で束ねたツインテール。
瞳も、透き通るような赤色をしている。
「神徒……?」
父から聞いたことがある。
一層に住む神徒は、赤い瞳を持つ。
目の前の少女は、倒れている貴族へ赤い瞳を向けていた。
黄色髪の少年は、地面へ倒れたまま動かない。
意識は残っているようだが、身体の自由を奪われているのだろう。
「た、助かった……」
間一髪だった。
あと少し遅ければ、自分で自分の喉を切っていた。
「動ける。助かったよ、ありがとう!」
少女へ駆け寄る。
「君の名前は?」
少女は、俺の質問へ答えなかった。
視線すら向けず、倒れたデッドマンティスへ歩いていく。
腰から小さなナイフを抜くと、無言で外殻の隙間へ刃を入れた。
「何をしてるんだ?」
少女は慣れた手つきで脚を外し、腹部を切り開いていく。
「デッドマンティス」
短く、それだけ答えた。
「それは分かるけど……」
「君が仕留めた」
少女は手を止めずに続ける。
「でも、食べないならもらう。助けた報酬」
「食べるのか……?」
先ほどまで戦っていた魔物だ。
青紫色の液体と強烈な臭いを放っている。
正直、食欲が湧く見た目ではない。
「この時期には珍しい、柔らかい個体」
少女は外殻を切り開き、中から白い肉を取り出した。
「無駄にはできない」
「柔らかい個体……」
だから、昨日の機械のような個体とは違ったのだろうか。
食べられると聞いても、今すぐ口にしたいとは思えない。
だが、せんべいは残り二十枚しかない。
これから生きていくためには、魔物の肉も食べなければならないだろう。
「そうは言ってられないかもしれないな……」
そう呟きながら、少女を観察する。
何かがおかしい。
姿ではない。
身体の周囲に、目には見えない何かがまとわりついている。
昨日、瞑想で感じた魔力に似ていた。
だが、俺の魔力とは比べ物にならないほど濃い。
「君……何かをまとってる?」
少女が初めて、こちらへ顔を向けた。
「なんだ?」
「いや、身体の周りに……」
「チチチチッ!」
説明しようとした瞬間、森の奥から鳴き声が響いた。
俺はすぐに剣を構える。
「まだいるのか!」
木々の間から、もう一体のデッドマンティスが姿を現した。
どうやら一匹だけではなかったらしい。
先ほどの個体と同じく、緑色の比較的薄い外殻をしている。
少女は立ち上がり、魔物へ目を向けた。
「また柔らかい奴」
その声には、恐怖が一切なかった。
「今日はついてる」
少女は右腕の袖をまくり上げる。
「その腕は……!」
俺は目を見開いた。
驚いた理由は二つある。
一つは、手の甲にある輪。
形は俺が最下層へ来る前に持っていたものと同じ、綺麗な円形だ。
だが、色が違う。
白ではなく、灰色に染まっている。
そして、もう一つ。
少女の右腕には、手首から肘へ向かって、五つもの輪が刻まれていた。
「五輪……?」
少女が手の甲の灰色の輪へ触れる。
輪が皮膚から半分ほど浮かび上がった。
そのまま、手首側から数えて四番目の魔法輪へ指を当てる。
灰色の光が腕を流れ、手の甲の輪へ集まっていく。
手の甲に浮かぶ輪が、複雑な魔法陣へ姿を変えた。
少女は掌をデッドマンティスへ向ける。
「四輪――《バインド》」
掌から、円盤状の魔力が射出された。
目で追えるほどの速度で飛び、デッドマンティスの胴体へ命中する。
「チギッ!」
円盤から、無数の鎖が飛び出した。
灰色の光を放つ鎖が、鎌や脚、胴体へ巻きつき、巨大な魔物をその場へ拘束する。
少女が地面を蹴った。
一直線に走り、デッドマンティスの目前で跳び上がる。
「高っ……!」
人間が跳べる高さではない。
少女の身体は、デッドマンティスの頭部よりもさらに上まで舞い上がった。
空中で前方へ回転する。
そのまま、踵を魔物の頭部へ叩きつけた。
ドシュッ――!
鈍い衝撃音。
デッドマンティスの頭部が、地面へ向かって吹き飛んだ。
頭を失った巨体が、その場へ崩れ落ちる。
少女は軽々と地面へ着地した。
「こっちはマグが仕留めた」
少女――マグは、俺へ振り返る。
「渡さない」
「あ、ああ……」
驚くことばかりが、立て続けに起きた。
下位掌握を使う神徒。
五つの魔法輪。
魔法による拘束。
そして、十歳の少女とは思えない身体能力。
何から質問すればいいのか分からない。
そう思っていた、その瞬間だった。
「ん……?」
両手の甲が熱くなる。
奇妙な形をした白い模様が、強い光を放ち始めた。
右腕へ、細かな痛みが走る。
「痛っ……!」
皮膚の内側を、針でなぞられているような感覚。
手首の少し上に、白い光が円を描いていく。
やがて光は皮膚へ沈み、一つの輪として刻み込まれた。
「これ……!」
右腕に、魔法輪が現れている。
一輪。
最初の魔法――《サーチ》を使うための魔法輪だ。
「おおおおっ!」
思わず声が出た。
「魔法! 魔法を習得できたぞ!」
昨日から、いつ覚えられるのかと考えていた。
これで周囲の魔物や人間の位置を調べられる。
生存できる可能性が、大きく上がる。
喜んでいると、マグが俺の手元へ近づいてきた。
赤い瞳が、手の甲の模様へ向けられる。
「君も、ユニークリングなんだ」
「ユニークリング?」
マグは俺の手を取り、スチール缶のリサイクルマークに似た模様を指でなぞった。
「普通と違う色や形の輪」
マグ自身の灰色の輪も、そのユニークリングなのだろう。
「これが何なのか知ってるのか?」
「知ってる」
「だったら、教えてくれないか?」
マグは俺の手を離した。
「君は神徒じゃない」
「え?」
「だから仲間じゃない」
それだけ言うと、解体したデッドマンティスの肉を布へ包み始めた。
もう一体の死骸も、脚をまとめて持ち上げる。
「待ってくれ!」
マグは俺を無視し、その場から離れようとする。
聞きたいことがいくつもあった。
俺は少し大きな声で問いかける。
「君には五つの魔法輪がある!」
マグの足が、わずかに止まった。
「でも、ここにいるってことは、《リターン》を覚えられなかったのか?」
マグは右腕を持ち上げ、二番目の魔法輪を指で示した。
「これが《リターン》」
「だったら、どうして帰らないんだ?」
「マグたちは、帰る気がないの」
「帰る気がない……?」
俺は思わず、手の甲を見つめた。
《リターン》を覚えること。
それだけが、最下層へ送られた子供たちの目的だと思っていた。
帰れるのに帰らない者がいるなど、考えたこともなかった。
「どうやって魔法輪を増やしたんだ?」
さらに問いかける。
マグは面倒そうに息を吐いた。
「魔物をたくさん倒しただけ」
「それだけで、五輪まで?」
「それだけ」
「あ、まだ聞きたいことが……!」
だが、マグはそれ以上答えなかった。
デッドマンティスを抱えたまま、地面を強く蹴る。
その身体は一瞬で高く跳び上がり、巨木の枝へ着地した。
「待ってくれ!」
呼び止める声も届かない。
マグは枝から枝へ軽々と跳び移り、薄暗い森の奥へ消えていった。
残された俺は、右腕に刻まれた一つ目の魔法輪を見つめる。
「帰れるのに、帰らない……か」
その言葉が、妙に頭へ残った。