四層世界の最下層、魔物の森で生き残る   作:鳩夜(HATOYA)

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生産工場

 監視室の中央に表示された地図を確認すると、赤い印が示している場所は、先ほど蜘蛛型の機械兵器が鎮座していたフロアだった。

 

「やっぱり、あそこに何かあるのか……」

 

 もう一度調べる必要がありそうだ。

 俺は監視室を出ると、来た道を引き返した。

 

 先ほどまで非常灯しか点いていなかった通路には、いつの間にか通常の照明が戻っている。施設が再び稼働状態へ移行した影響なのだろう。

 やがて巨大フロアまで戻ると、そこも以前とはまるで印象が違っていた。

 

「こんなに広かったのか」

 

 照明が全て点灯し、天井から床まで明るく照らされている。

 暗闇の中では平らな壁にしか見えなかった場所にも、よく見ると何かが開閉したような継ぎ目がいくつも残されていた。

 

 蜘蛛型兵器が消えた時。

 ここからどこかへ収納されたのだろう。

 

 さらに上を見て、別のものに気づいた。

 

「……あんなのあったのか?」

 

 天井の中央に、巨大な円形のゲートがある。

 直径は二十メートルほどありそうだ。

 以前来た時は照明が落ちていたうえ、蜘蛛型兵器ばかり警戒していたため全く気づかなかった。

 

「もしかして、あいつもここから来たのか?」

 

 周囲を調べてみる。

 

 壁。

 

 床。

 

 怪しい場所を順番に触っていると、床の端に小さくスライドできる部分を見つけた。

 開いてみる。

 

「赤いボタン……」

 

 一つだけ。

 何とも分かりやすい。

 押したら何が起こるかは分からないが、ここまで来て迷う理由もない。

 

「押すか」

 

 指でボタンを押し込んだ。

 すると足元から僅かな振動が伝わってきた。

 

「お?」

 

 フロア中央の床が円形に切り離され、そのままゆっくりと上昇し始める。

 同時に、天井にあった巨大ゲートも左右へ開いていった。

 

「昇降機だったのか」

 

 俺はそのまま円形の床へ乗る。

 かなり巨大な装置なのに、動作音はほとんど聞こえない。

 金属同士が擦れる音もなく、わずかな振動だけを残して静かに上昇していく。

 

「こういうところだけ妙に技術が高いんだよな……」

 

 やがて頭上のゲートを抜けると、さらに巨大な空間へ出た。

 

「……なんだ、ここ」

 

 思わず周囲を見回す。

 四方から何本ものベルトコンベアが伸び、中央へ集まっている。

 

 今は全て停止していた。

 

 近くの壁には、大きな文字が表示されている。

 

『現在、下層へ輸送中』

 

『最下層への輸送を一時停止しています』

 

「なるほど……」

 

 さっき監視室で見た映像を思い出す。

 デッドマンティスマシンたちは、今まさに第三層へ送り出されている。

 その間だけ、こちら側の輸送が止まっているらしい。

 

「なら、今のうちに調べられるだけ調べるか」

 

 俺は前方に伸びる停止中のベルトコンベアへ乗り、そのまま先へ進んでいった。

 

・・・

・・

・

 

 奥へ進むにつれ、施設の規模はさらに大きくなっていった。

 

「工場……だよな、これ」

 

 巨大なアームが何本も並び、機械音を響かせながら動いている。

 

 小さな部品。

 金属板。

 細い棒のような物。

 

 何に使うのか分からない部品が、それぞれ別のレーンを流れていた。

 流れてきた部品を巨大アームが持ち上げ、別の場所へ移す。

 別の機械が加工し、さらに次の工程へ送っていく。

 

 誰一人として操作していない。

 

 それなのに、全てが迷いなく動き続けている。

 

「前世でも、ここまで完全に自動化された工場なんて見たことないぞ……」

 

 いや。

 

 俺が知らないだけで、似たようなものは存在したのかもしれない。

 

 それでも。

 

 魔法輪があり、神徒がいて、魔物が森を歩き回るような世界で。

 こんな巨大な機械工場を見ることになるとは思ってもいなかった。

 

 そして。

 

 レーンの終着点まで進んだところで、俺は立ち止まった。

 

「……これ」

 

 アームによって最後の部品が取り付けられる。

 

 組み上がったものは。

 

 何度も見てきた。

 

 硬質な金属の身体。

 鎌状の腕。

 レンズのような目。

 

 そこにはデッドマンティスマシンの製造ラインと書かれていた。

 

「デッドマンティスマシン……」

 

 ここで作っている。

 俺が長年最下層で戦ってきた、あの金属製のデッドマンティスを。

 一体が完成すると、機械は迷うことなく別のレーンへ送り出した。

 

「本当に……製造してたのか」

 

 魔物ではない。

 

 少なくとも、こいつらは自然に生まれている存在ではない。

 誰かが設計し、この工場で大量に作っている。

 その先には格納庫らしき空間があった。

 

 かなり広い。

 

 だが中はほとんど空になっている。

 おそらく、第三層への輸送が始まったため大量に搬出されたのだろう。

 それでも数体のデッドマンティスマシンが、動かないまま整然と並んでいた。

 

「それだけじゃないな……」

 

 さらに奥。

 

 別のレーンから、大型の部品が運び込まれている。

 

 六本の脚。

 巨大な胴体。

 

「蜘蛛型の奴か」

 

 二機保管されていた。

 そのうち一機には、何本もの機械アームが伸びている。

 頭部周辺を溶接し、部品を取り付けているようだ。

 

「……間違いない」

 

 俺が《ブラスト》で砲台を破壊した個体だ。

 フロアから消えたあと、この工場まで運ばれて修理されていたらしい。

 

「倒したわけじゃなかったのか」

 

 それにしても。

 

 ここまで見ても、人の姿は一切ない。

 

 巨大な魔物を作る。

 壊れれば修理する。

 必要になれば輸送する。

 

 全てを機械だけで行っている。

 

 俺が侵入しているにもかかわらず、工場は平然と稼働を続けていた。

 

「俺がここにいるって、気づいてないのか……?」

 

 監視システムがあることは分かっている。

 だが、蜘蛛型兵器をやり過ごしてからは、俺を侵入者として追いかけてくる様子がない。

 もしかすると一度「排除済み」と判断されてから、俺の存在そのものが認識から外れているのかもしれない。

 

 なら。

 

「少し壊してみるか」

 

 最初は《連環爆衝》でも撃ち込み、一気に工場を止めようかとも考えた。

 だが、これだけ大きな施設だ。

 大規模な破壊をすれば、重要な情報まで失う可能性がある。

 

 それより。

 

「小さな故障なら、誰か確認しに来るかもしれない」

 

 この施設を作った者。

 あるいは管理している者。

 

 その姿を見ることができれば、一気に話が進む。

 俺は蜘蛛型兵器の頭部を修理しているアームへ近づいた。

 

 タイミングを見て、一部分だけを《ブラスト》で破壊する。

 

 続いて。

 

 近くにあるベルトコンベアのゴム部分も、手刀で切断した。

 

「これくらいなら直せるだろ」

 

 数秒後。

 施設内へ警告音が響いた。

 

『Equipment malfunction detected in Production Facility No.3.』

 

『Switching to maintenance mode.』

 

「第三生産工場で機器トラブル……メンテナンスモードへ移行、か」

 

 次の瞬間。

 

 今まで忙しなく動き続けていた機械が、一斉に停止した。

 

 デッドマンティスマシンを組み立てていたアームも。

 部品を運んでいたレーンも。

 

 蜘蛛型兵器を修理していた装置も、全て動きを止める。

 

「第三生産工場……」

 

 俺は周囲を見る。

 

「少なくとも、同じような場所があと二つあるってことか」

 

 もしかすると。

 

 もっとある。

 

 ここは第三と呼ばれているだけで、第四、第五まで存在する可能性もある。

 

「……規模がでかすぎるだろ」

 

 しばらく待つ。

 誰かが現れるのを期待していた。

 

 だが。

 

 数分経っても。

 人の足音は聞こえない。

 

 代わりに現れたのは、小さな飛行物体だった。

 

「ドローン……?」

 

 前世で見たものによく似ている。

 

 ただしサイズは少し大きく、下部には細いアームのようなものが付いていた。

 ドローンは俺には目もくれず、破壊された機械アームの周囲を飛び回る。

 赤い光を照射しながら、破損箇所を何度も調べ始めた。

 

「俺が壊したってことには気づいてない……?」

 

 ただの故障だと認識しているのかもしれない。

 しばらくすると。

 ドローンの側面に文字が表示された。

 

『部品保管庫から交換部品を補充する必要があります』

 

「部品保管庫……」

 

 表示が消える。

 ドローンは向きを変え、そのまま工場の奥へ飛んでいった。

 

「待て待て」

 

 これは。

 ついていくべきだ。

 

 部品がどこから供給されているのか分かれば、この施設のさらに奥へ進める。

 俺は気づかれないよう少し距離を空け、ドローンの後を追った。

 

・・・

・・

・

 

 ドローンが到着したのは。

 大型の昇降機だった。

 

「また下に行くのか」

 

 かなり大きい。

 

 俺が最初に使った円形の昇降機とは違い、荷物の運搬を前提に作られているようだ。

 途中で別方向から、大きな荷台が自動でやってきた。

 

 ドローン。

 荷台。

 そして俺。

 

 三つを乗せたまま、昇降機の扉が閉じる。

 

 直後。

 

 下降が始まった。

 

「……深いな」

 

 一分。

 二分。

 

 まだ止まらない。

 振動はほとんどなく、ただ静かに下り続ける。

 

「どこまで行くんだよ……」

 

 結局。

 

 五分ほど経った頃。

 ようやく下降が止まった。

 

 扉が開く。

 

「……今度は倉庫か」

 

 目の前には。

 これまでとはまた違う巨大空間が広がっていた。

 

 何列にも並ぶ棚。

 その中には、様々な部品が種類ごとに細かく分けられている。

 

 小さなネジのような物から。

 デッドマンティスマシンの鎌そのものと思われる巨大部品まで。

 全てが整理され、決められた場所に保管されているようだった。

 

「すごい量だな……」

 

 俺が降りたもの以外にも、昇降機が二台ある。

 合計三台。

 

 そのうち一台が動き、別のドローンと荷台を乗せて上へ向かっていくところだった。

 俺についてきたドローンも棚の一つへ向かい、必要な部品を確認している。

 その近くでは別のドローンが荷台へ部品を積み込み、自動で搬送していた。

 

「ここも全部無人か」

 

 どれだけ探しても、人はいない。

 

 その時。

 

 倉庫の奥から、一台の大きなコンテナが運び込まれてきた。

 

「……あれ?」

 

 部品を持ち出すだけではない。

 外から新しい部品も補充されている。

 コンテナは自動で決められた位置まで運ばれると、ドローンたちによって中身を分類され、それぞれの棚へ収納されていった。

 

「ってことは……」

 

 俺はコンテナが来た方向を見る。

 そこには。

 さらに奥へ続く大きな通路があった。

 

「この部品をどこから持ってきてるのか」

 

 ここで保管されている部品も。

 生産工場で使われている材料も。

 勝手に生まれてくるわけではない。

 

 どこかで作っている。

 

 あるいは。

 

 どこかから運び込んでいる。

 

「調べた方がよさそうだな」

 

 俺は工場へ戻るドローンを見送る。

 

 そして。

 

 新しいコンテナが運ばれてきた通路へ向きを変えた。

 

 この施設が何をしているのか。

 

 誰が作ったのか。

 その答えはもっと深い場所に隠されているようだった。

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