至高の愛   作:捧げるもの


オリジナル現代/恋愛
タグ:R-15 ヤンデレ コメディ
主人公の女は、愛する者の家へと向かう。 行き過ぎた愛を胸に、今日も愛するものにすべてを捧げようとするのだった。

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至高の愛

 今日も私は、神よりずっと素晴らしい人の家に向かう。

 町外れにある、小さな一軒家。慎ましいところも、また尊い存在よね。木造の家からは、神聖なオーラが立ち上っていると言って良いわ。そう。青空に照らされた、素晴らしい光景。秘境の絶景なんて、比較にすらならないわ。

 

 チャイムを鳴らすと、すぐに彼が出てくる。素早い対応も、高貴さの証。王族や貴族、社長が何だというのか。彼の前では、全員が平身低頭で向き合うべきだわ。

 当然、私も深く深く頭を下げる。地面に頭が付くくらいなんて、常識よね。

 

「また……。別に頭を下げなくても良いって、何回言ったっけ……。普通に来てくれれば良いのに……」

 

 仕方ないので頭を上げると、彼は額に手をついて首を振っていた。礼節を気にしなくて良いと言ってくれるのは、とても素敵なことよ。自分の価値を鼻にかけない、まさに菩薩を超えるような方。非暴力主義が何よ。この方の優しさに比べれば、くだらない自己満足に過ぎないもの。

 

 ああ、私の感情が少しでも伝われば良いのに。恋慕なんて言葉では、とても言い表せない。態度で示すしかないんだから。

 膝をついて私を起き上がらせてくれる。すぐに私は彼の手を取る。そして、そっと胸に抱えたわ。

 

「あなたへの愛は、地球のすべてを捧げたくらいじゃ表現できないわ。それを少しでも表すためなのよ」

「地球を捧げられても、困るんだけど……。僕、ただの小市民だよ……?」

 

 目をそらしているし、膝がくっついているわね。照れちゃうだなんて、その愛らしさも最高よ。猫を天使とのたまう人には、この魅力にはたどり着けないのでしょう。

 

 手を握りしめたままでいると、彼は私を先導してくれたわ。リビングに入ると、清浄な空気が広がる。昨日までより、数段上と思えるほど。

 やはり、彼のいる場所は違うわ。ここが聖地。疑いようのない真理よ。

 息を深く吸って、吐いていく。澄みきっているとは、まさにこのこと。肺の奥の奥どころか、全身の細胞にまで染み込んでいく。思考が冴え渡って、彼の体温をより感じる。

 

 やはり、彼がいるだけで世界は彩られていく。輝いていく。私のすべてが満たされていくのよ。

 今度は彼の胸に顔を埋めて、深呼吸。芳醇な香りが、脳にまで直撃する。彼の胸じゃなければ、よだれをこぼしていたかもしれないわ。

 何度も何度も、10回は深呼吸を繰り返す。禁止薬物に指定されたりしないかしら。そんなことになったら、私は立法府を壊すわ。

 

「その……飽きないの?」

 

 声の方に顔を向けると、彼は眉を下げていたわ。何を言っているのか、分からないわね。飽きるとか飽きないとか、そんな段階ではないもの。

 水と空気、食べ物。そして彼。私が生きるために必要なものは、決まりきっているわ。

 

「あなたさえそばにいてくれれば、そこが桃源郷なのよ。心のすべてが癒やされていくの。まさに浄化のオーラよね。マイナスイオンとか、そんなエセとは比べ物にならないわ」

「そ、そう……。僕は人間じゃなかったりするのかな……」

 

 少し苦笑いする顔も、様になっている。そう、私に強い言葉を言えない優しさそのもの。肺の奥まで満たされていくわ。

 彼のためなら、体どころか全財産、いや世界の全てだって捧げられるのに。体だけはなんとか押し切れたけれど、他もどうにかできないかしら……。

 

 そうね。まずは、日常に入り込んでからよね。いつも通りの流れをこなすことは、当たり前として……。

 

「今日のご飯も、作ってくるわね。何が良いとか、ある?」

「急に話が飛んだね……。ハンバーグとか?」

「分かったわ。付け合わせも、もちろん完璧にするわ」

 

 すぐに冷蔵庫に向かって、食材を取り出していく。多めに買い込んでおいたおかげで、今日のところは買い足す必要はなさそうね。

 牛肉と豚肉、卵と玉ねぎ。そしてニンジンとじゃがいも、アスパラガスを取り出した。

 

 ニンジンを軽く切ってレンジに放り込んでから、野菜を切って味付けをする。

 そして、肉を細切れにして、一片残らず叩いていく。氷水で手の感覚が少し鈍くなるまで冷やしてから、肉を混ぜる。これが、愛情というものよ。彼のためなら、冷たさに凍えようとも構わない。冷蔵庫に入れと言われようとも、1秒だってためらわないわ。

 

 1グラムの狂いもなくパン粉や卵も放り込んで、混ぜ終える。手と包丁を洗って、新しいボウルの中で野菜に調味料を混ぜ込んでいく。

 それを終えたら、いよいよフライパンに火を通す。少ししてから、計量カップで水を計ってハンバーグのフライパンに投入したわ。

 完璧な分量で食事を出せないのなら、彼にはふさわしくないもの。当然の義務でしかないわよね。

 

 タイマーを設定しつつ、一瞬だって目を離さない。焼く音が変わった段階で蓋を取ると、ちょうどタイマーが鳴った。彼のための集中力は、今日も万全ね。

 すべてを並べて、肉汁をスプーンですくう。野菜に混ぜ込んで、今日のメニューは完成したわ。

 一口だけ、味見する。会心の出来に、頷いた。自信を持って、彼に食べてもらえるわね。

 

 テーブルに配膳しようとすると、もう机が拭かれていた。ご飯もよそわれている。細かい気遣いもできるなんて、やはり違うわ。彼ならば、私がすべてを用意してあげられるのに。ただ私の奉仕を受け取ってくれるだけでも、私は十分に満たされているのに。

 

 唇を緩めながら皿を並べていくと、彼の動きが止まる。少しだけ口を開けて、私を見ていたわ。

 首を傾げると、彼は首を振っていた。そして、妙に固い動きで箸を手に取る。顔が赤いけれど、風邪かしら?

 いえ、体温も声も普通だったわ。よく見ると、手を合わせてご飯を口に運んでいた。食欲は、しっかりあるみたいね。

 

 すぐに、顔を華やがせてくれた。いつも喜んでくれるけれど、それでも体の反応は誤魔化せない。今日のハンバーグは、特に良かったみたいね。体調にも、問題はなさそう。何よりだわ。

 続けて私もハンバーグを口に入れると、あることに気がついた。今日は、香りをいつもより鋭く感じる。だから、良い味だと感じているんだわ。

 

 やはり、彼の清浄さが部屋中に染み渡ったのね。ニコニコとしながら食べる彼は、どれだけ眺めても飽きない。白ご飯が進むと言うけれど、私なら生米でも進みそうよ。それどころか、空気だけでも十分なくらい。

 

「今日もとっても美味しいよ。いつもありがとう」

「当然のことよ。あなたのためだもの」

「ううん、それでも。頑張ってくれたのは、手順を見ただけでも分かるから」

 

 微笑みながら、彼は満足げにお腹をさすっている。当然の奉仕にも、当たり前のように感謝してくれる。それがどれほど嬉しいかなんて、彼には分からないのでしょうね。

 いつやってきても、必ずお礼を言ってくれる。だから私は、尽くしたいの。あらゆるすべてを捧げたいの。

 

 そこで私は、後ろに回り込む。肩に手を乗せて、ぎゅっと親指に力を入れた。

 指先がどれだけ潜り込むかをしっかり確認しつつ、少しずつ動かしていく。穏やかな声が、こぼれてきた。

 

 固いところに体重をかけるために、体を寄せる。彼が跳ねるように動いて、手を止めた。

 

「どうしたの? 痛くしちゃった?」

「そ、その……。あ、当たって……」

 

 ああ、そういえば胸が触れていたわね。私の体は一片に至るまで彼のものなのだから、照れることはないのに。どこの感触も知っていてすら、俗人のようには穢れない方ということだけれど。私まで誇らしいわ。

 ……そうね。良いことを思いついたわ。彼の腹ごなしも兼ねて、しっかりとマッサージをしてあげましょう。

 もちろん、いっぱい照れさせて。彼がその気になってくれたのなら、私の勝ち。簡単なルールよね。

 

 まずは、肩の続きから、今度は狙って押し当てながら、本気でとろけさせる動きをしていく。五本の指をすべて使って、ピアニストよりも繊細に。筋一本一本をほぐすように、じっくりと。

 肩に力が入っちゃったみたいだから、耳に息を吹きかける。彼はピクリと跳ねて、力が抜けていったわ。ふふ、可愛らしいわね。

 

 10分ほどかけてほぐし終えたら、今度は腕に移る。二の腕のあたりをほぐす時は手首を、手首をほぐす時は二の腕を胸で挟み込む。

 身じろぎをしていたけれど、ギュッと捕まえて逃がさない。

 

「もしかして、わざと……?」

「嫌だったら、突き飛ばしてくれていいのよ……?」

 

 返事は、無言。それが答えなのだから、私は遠慮しなくてもいいわよね。むしろ、積極的にしてあげるのが義務というもの。

 マッサージは当然失敗しないようにしながら、私は全身をこすりつけていったわ。

 

「こ、こんなの……。僕をどうしたいの……?」

「我慢を捨てちゃえばいいのよ。あなたには、その権利があるわ。欲望のままに、振る舞って……?」

 

 耳元でささやくと、彼は少し震えてつばを飲んだ。対する私は、腕を抱きしめながら続けたわ。

 

 30分ほどかけて両腕を終えた頃には、彼は息を荒くしていた。目も血走っている。予定通り、ね。もうマッサージはやめて、抱きつく。彼はこちらに手を伸ばして、一度止めた。

 もう一押しね。頬に手を添えて唇を近づけると、彼の方からむさぼられる。濃密な匂いが頭の中に広がっていったわ。焼いた肉よりもガツンと頭に響く。

 もはや、私の欲望は止まらない。ソドム程度じゃ収まらないの。

 

 そのまま、彼は私を押し倒す。たくましい腕で押さえつけられていて、逃げようとしても逃げられないでしょうね。全身に、ゾクゾクしたものが走ったわ。

 彼の目は、ただ私だけを見ている。その勢いのまま、覆いかぶさってくる。どんな天災よりも激しく、端から端まで何もかもを征服してくれたわ。私という供物を、苦いところも隅々まで残さず味わい尽くして。

 私の穢れごと、丸ごと奪い去ってくれる。俗世の語る禁忌など、彼の望みの前では小さなこと。むしろ、彼の妨害をすることこそ許されざる罪業よ。もちろん、私のどこだって召し上がれるように準備をしているわ。

 

「あなたに、ふさわしい、ものを、捧げられて、いる、かしら……!?」

「こうしてる時点で、分かるでしょ……!」

 

 力強く、そして迷わず宣言される。神託とやらなんて、彼の言葉の前ではゴミ同然よ。

 私を当然のように信じてくれる。愛してくれる。溺れてもくれる。どれほどの慈悲なのかしら。まさに、神の愛。

 彼の想いは、煮詰めたはちみつより濃いってことね。その濃さのまま、私のありとあらゆるすべてを満たしてくれたの。もはや、私の血肉は彼で構成されているわ。

 

 いつもより彼の香りを感じて、最後には頭が真っ白になっていた。しばらく、視界が明滅するほどに。涅槃でも、これほどの心地ではないでしょう。

 やはり、彼は天よりも高きところにいるのよ。そこまで、私を連れて行ってくれたんだわ。

 彼の魅力はたくさんあるけれど、私を極限まで満たしてくれることも崇高よね。

 

 一段落して、彼は少しだけ離れてしまう。優しく頬を撫でてくれて、つい手を伸ばしてしまった。それも、受け入れてくれる。

 彼のすぐそばで深呼吸をすると、爽やかな空気が胸いっぱいに広がる。汗のベタつきも、すぐに収まっていく。

 やはり、彼の爽やかさは空間すらも支配しているのよ。

 

「素晴らしかったわ……。あなたのおかげよ……。もはや達人とすら呼べないわ……」

「ええ……。僕は普通だよ……。でも、喜んでくれたのなら良かった。なんて、欲望に負けちゃっただけだけど……」

 

 そっと抱きしめてくれる彼の胸に、頭をうずめたわ。こすりつけると、背中をさすってくれる。その優しさに、また頭が白くなりそうになったわ。彼の胸に鼻を押し付けて、我慢したけれど。

 

「今日は、いつもより良い香りだわ……。なにか、変えでもしたの?」

「香水とかは、特につけていないけれど……」

 

 つまり、彼本来の香りだけで、あれほど私を高められたということ。忘我の境地に至るほどに。

 花も霞むくらいの、極上の領域。やはり、彼は何もかもが素晴らしいわ。もはや森羅万象すべてを超える、完璧なんて言葉じゃ言い表せない存在よね。

 

「ふふ。じゃあ、今日は全部いつもと一緒だったの?」

 

 私の言葉を受けて、彼は少し考え込む。そして、何かを思いついたように手を打った。

 

「そういえば、最新の空気清浄機を買ったね」

 

 彼の香りを最大限に堪能できるように、空気まで整えてくれたということね! おかげで、最高の逸楽を味わえたわ!

 やはり、彼は天上天下で唯一の貴人。至高の愛を持っているのよ!


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