DMMORPGユグドラシル。
日本で爆発的に有名となったDMMOだ。
一時期はDMMOと言えばユグドラシル、と呼ばれる事もあったほどに有名なゲームだ。
だが稼働して十二年。それだけ時が経てばより優れたゲームが開発、発売される。
そうして最期の時を迎えるのだった。
ユグドラシルの九つの世界の一つ、ヘルヘイム。
その空を一つの船が飛んでいた。
黄金で出来た船だ。船主には巨大な砲台が付いている。
その船主の上に一人の女が立っていた。
美女だ。
短髪の銀髪に銀色の瞳。額からは一本銀の角が生えている。更にはエルフのようにとがった耳を持っている。
服は真っ黒で、靴の代わりに布を巻いている。
女──名をティカは空を見上げる。
空には星空は無く、黒い雲と紫の瘴気しかない。
今日で
ティカにとってユグドラシルは自身のすべてと言ってもいいゲームだった。
小学校、中学校はなんとか通えたが高校には通えなかった。
アーコロジーではなく外の毒の空気蔓延る世界で生まれた
その世界を押し広げたのがユグドラシルというゲームだ。
仕事を終え、なんとなくでテレビをつけていたらやっていたCMになぜか心惹かれ、始めた。
結果、虜になった。
稼働二年目からほぼ毎日、風邪などの体調不良や会社の用事などでどうしてもいけない日を除き毎日遊んだ。
ゲームとして多種多様な遊び方が出来るのもまたハマった理由だ。
ユグドラシルのキャラクターの最大レベルは百で、九十レベルまでなら簡単に上がる。
そしてレベルダウンは死ぬと五レベルのダウンと装備品のドロップという物だった。
だからある時は剣士で。弓使いで。魔法使いなどで遊んだ。戦って、死んで、また戦っての繰り返し。
最終的には
クラス構成は死霊系
本当に死霊系特化になりたいのなら種族をアンデッドにすべきだが、悪魔からアンデッドに変える気にはなれなかったのだ。
そうして空を見上げ続けていると──途端空が変わった。
「え?」
二つの事でティカは驚いた。
一つは己の目に映る空が美しい事。
星がキラキラと輝く夜空で、月明かりによって照らされ、雲も白い。
もう一つは自身の喉から出た声だ。
ティカは女キャラクターでプレイしているが、中の人は男だ。ネカマというやつだが人を騙してアイテムを貢がせたことはない。
そしてボイスパッチを当てて女声を出していたが、その声とは違う。
まるで理想の自分の声が出たのだ。
更には胸に重みを感じた。
ティカの胸はそこそこ大きい。何がとは言わないがナニを挟める程度には大きい。
そして感じる股間の軽さ。これは──
「本当に女になった……?!」
ティカは己の現状を悟った。
(待て待て、落ち着け、冷静になれ)
ふぅ──、とティカは息を吐いた。
ここがどこで、何が起こっているのかわからない。
必要なのは情報だ、と判断し船──ノアの方舟に戻る。
方舟内部は白い空間だ。
どこか神聖さを感じさせる廊下を歩いて行く。
そしてなんとなく己の胸を揉む。
(……普通に揉めたな)
ユグドラシルではR18行為は禁止されており、自キャラクターであっても胸を揉むと言う行為は出来ない。
出来たとしても即運営から警告が来るか、あるいはBANされる。
だというのに今胸を揉んでも何もなかった。
ユグドラシルの法則が通じる世界ではなさそうだ、と思いつつ目的の部屋を見つけたので扉を開けて中に入る。
中は異様な空間だ。
まるで宇宙空間のように上下左右全てが夜空になっている。雲はない。
部屋の中央には台座があり、台座には鏡が置いてある。
部屋を進み設置してある鏡に触れる。
この鏡はティカが作ったマジックアイテムだ。名を
効果は情報系魔法であり、遠くの場所の景色と音を拾う事が出来る。
建物内もある程度見れるが、対情報系魔法対策をしている場所は一切見えないし、下手に見ようとするとカウンターを喰らいかねないので要注意だ。
ティカはそれを使い方舟の外を見る。
「……平原、ね」
ティカが居たのはヘルヘイム、地獄に似た世界だ。
だというのに外は何の特徴もない平原だ。
丘もなくなだらかな地形であるj。
草の葉が鋭く尖っていることもモンスターが徘徊してるわけでもない平和な平原だ。
画面を四つに増やす。
この場所では最大六つまで同時に映すことが可能だ。
東西南北それぞれに飛ばす。
南の方を進めていくと村を見つけた。
文明レベルの低そうな村だ。木造の家に畑などがある。
柵すらなく敵対者がいないのか、あるいは何も考えてない馬鹿のどちらかだと思われる。
(この村に行くか)
ティカはそう決め、方舟を南に動かした。
方舟とティカは繋がっている。そのためどれだけ距離が離れようと──流石に世界が違うとどうしようもないが、それ以外では動かすことが出来る。
このノアの方舟はギルド拠点ではなく、ワールドアイテムの一つだ。
自律移動が可能な拠点で、拠点作成用のNPCも最低値の七百分作成できる。
取りあえず夜だし寝るか、とティカは部屋を出て自室へ向かう。
廊下を歩いていると向こう側から人が歩いてきた。
身長百七十五センチ。しっかりとした体躯。
黒髪黒目の誰もが見惚れる美男子、アルフレッドだ。
執事服を着用し白い手袋をつけている。
この拠点のNPCは設定こそ全てティカが書いたが、モデルは別の人に有料で頼んで作ってもらった物だ。
流石イケメンと感心しながら歩いているとアルフレッドが小さく頭を下げてきた。
はて、自分はこんなモーションを起こすよう設定していだろうか。
「こんばんは、奥様。どうかされたのですか?」
そうアルフレッドはにこりと微笑んだ。
「……喋った?!」
ユグドラシルのNPCは一部のNPC、クエストキャラクターなどを除き喋らない。
プレイヤーメイドのNPCは喋ることが出来ず、やろうと思えばモーションに応じて叫び声などを発生させることは出来るがそれまでだ。
こんな流暢に喋ることは出来ないのである。
「え、えぇ。喋りましたが……何か問題がありましたか?」
心配そうな表情をアルフレッドは浮かべた。
有り得ない。プレイヤーメイドのNPCは表情を変えるという機能を持っていない。
更にティカの反応を見て台詞を選んだ。まるで中の人がいるかのような挙動。
ユグドラシルから離れた世界に来たとは認識していた。だがNPCが喋るなど想定外だ。
「……大丈夫、だ──いえ大丈夫よ。夫はどこかしら?」
ティカは素で応対しそうになり、慌ててロールプレイをした。
女の姿をしているのに男の口調では問題がある。NPC相手に何を、と思うかもしれないが。
だがティカは内心歓喜していたのだ。理想の女に成って理想の夫が居るのだから。
「旦那様なら今は書斎に居ます」
「そう。ありがとう」
そう言うとティカは書斎に向かって歩き出した。
ティカには女体化願望があった。
それは、会社に入って二年目の事。
同期の女性社員が寿退社したのだ。
それはもう幸せそうな笑顔と共に、会社を辞めていった。
そのあとその同期がどうなったかは知らない。ただ死んだとも離婚したとも聞かないから平和に暮らしているのだろう。
それを見て羨ましいと思ったのだ。
男に守って貰えて、庇護下に置かれて羨ましい、と。
自分も女に成って誰かに守られたい──そう思ったのだ。
それが今叶いつつある。
理想の女の体で。作ったのは理想の夫のNPCが居るこの状況で。
フレーバーテキストが現実化しているのならば夫、ルドガーはティカを愛して病まない男だ。
ルドガーの設定はの一部はこうだ。
銀髪銀眼の美男子だ。
ティカより少し年上の男性であり、優秀な家政夫でもある。
純粋な戦士であり、剣の腕ではベルディアを上回る。
ティカの夫であり、妻であるティカを愛してやまない愛妻家。
ティカには少し甘いが、それでも締めるところはしっかり締めている。
と、ティカの夫だと明記されている。
もしこれが現実になっているのなら、最高のぼくがかんがえたさいきょうのおっとだ。まぁ悪魔なのだが。
ルンルン気分で書斎に行く。
部屋に入る。
書斎とは言うが、結構な広さを持つ部屋だ。
下手な市の図書館程度の広さはある。
机と椅子も幾つかあり、本棚も多数ある。
人の気配を探して歩いて行くと奥に人影を見つけた。
少し近づくとその人影──ティカの夫ルドガーが振り向いた。
設定どおり、モデル通りの美人だ。
ティカと同じ銀髪銀眼。がっしりとした男らしい筋肉のついた体。身長は百九十五センチ。両のこめかみからは黒い悪魔らしい角が伸びている。
手足は丸太のように太いが、血管が浮き出るほどではない。
黒い服を着ており、その手には本があった。
「──あなた」
ティカがそう微笑むとルドガーも微笑み返した。
「ティカ、どうしたんだ?」
ティカは駆け足で近寄り、ルドガーの胸に飛び込んだ。
それに対ししょうがないな、とばかりの顔で本を置きルドガーは受け止めた。
「あなたが動けるようになったと知って、居ても立っても居られなくなったの」
「そうか、それはうれしいよ……これから、どうする? 俺たちが動けるようになったことからここはユグドラシルとは違う世界だと思うが……」
「ここから南の方に村を見つけたわ。明日二人で村に行きましょう。何かわかるかもしれないわ」
「わかった。初めての旅行だな」
「ふふ、えぇ、そうね」
ちゅ、とティカはルドガーの頬にキスをするのだった。
劣化アインズなんで絶望のオーラも<中位アンデッド創造>も使えない劣化版のゴミです