劣化アインズの夫婦の旅   作:Revak

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第10話

 

 一週間後の朝。

 エ・ランテルの乗合馬車前に漆黒と蒼の薔薇は来ていた。

 

「合同依頼ありがとうね、また何かあったら……よろしくね」

 

 ティカがそういうとラキュースは微笑み返した。

 

「えぇ。こちらこそ依頼ありがとうね、ティカ。王都に来たら私たちのところに来てね、観光案内するから」

「ふふ、えぇ。その時はよろしくね」

 

 他の者たちにも挨拶をしていく。ルドガーもちゃんと挨拶をした。

 

 そして蒼の薔薇は馬車に乗り込んでいき、手を振りながら去っていった。

 

 

 

 ■

 

 数日後の昼。

 トブの大森林に二人の人外が居た。

 

 片方は黒い騎士のような鎧を着た男だ。背には青白い大剣を背負っている。

 騎士の鎧には薄黒いが、背中に漆黒のマントを背負っている。

 

「本当にこっちであってるんだろうな」

 

 そう騎士の男は左手に持っている頭で声を出した。

 

 この騎士の男の名はベルディア。デュラハンの男だ。

 ティカに仕える戦士の一人であり、レベル百の死の支配者の将軍(オーバーロード・ジェネラル)でもある。

 戦闘力は非常に高い。装備品もすべて伝説級の一品だ。

 

「大丈夫大丈夫。あってるよー」

 

 そう軽く返すのは最近ティカの配下になったクレマンティーヌだ。種族はゾンビ。

 

「この先に蜥蜴人(リザードマン)の集落か……強者はいるかな」

「まぁ、いたとしても英雄級程度だろうけどねー」

 

 ベルディアははぁ、とため息を吐いた。

 

「お前なぁ。一応は俺の部下でもあるんだから上司に敬語使えよ」

「ティカ様にそう命じられてないから使いませーん。あくまでベルっちに従うように言われただけでーす」

「名を略すな。まったく……まぁ、仕事させしてくれるならいいが……」

 

 

 二人の目的はトブの大森林内に居る強力なモンスターの収集だ。

 森が荒れている今ならば強力なアンデッドの素材を収集できると踏みティカがベルディアを送り出したのだ。クレマンティーヌは案内役兼現地モンスターの強さの指標だ。

 

 そうしてクレマンティーヌを連れベルディアは森を歩いて行くと瓢箪の形をした湖に辿り着いた。

 

「でかい湖だな……」

 

 泳いだら気持ちよさそうだな、とベルディアは思いつつ湖の外周を進んでいく。

 

「あ、生け簀だ」

 

 クレマンティーヌがほら、と指さした。確かにそこには網で出来た生け簀があった。

 

「生け簀があるという事は知的生物もいるという事だな……その中に強者が居ればいいのだが」

「そうだねー、それは……そこの奴らに聞いたらどうかな」

「そうだな」

 

 そう言うと二人は武器を抜いて構えた。

 

 茂みから二つの異形が飛び出す。

 

「ま、待ってくれ! こちらに敵対の意思はない!」

 

 そう叫ぶのは蜥蜴人(リザードマン)だ。

 蜥蜴をそのまま二足歩行させたような姿だが、足には水かきが付いている。

 

 背中に大剣を背負った者と腰に氷で出来た剣をさした物の二人組だ。

 

「えー、亜人の言う事なんて信じられないなー」

「……それはブーメランになるからやめろ」

「あ、そっか」

 

「それで、そちらの蜥蜴人(リザードマン)二人に聞きたいことがある」

 

 ベルディアがそう問いかける。

 

 

 

 

 蜥蜴人(リザードマン)二人──シャースーリュー・シャシャとザリュース・シャシャは警戒する。

 ベルディアは探知阻害の装備を持っていない。故に圧倒的強者のオーラという物を容赦なく放っている。

 更には女の方……クレマンティーヌもまた英雄の領域の実力者。

 

(あの女だけならばまだ勝ち目はあったかもしれない。だがあの騎士の男がいるなら……無理だな)

 

 相手が敵対を選んだのならば、自分が囮になって兄を逃がそう。そうザリュースは決めるのだった。

 

「なんだ?」

 

 ザリュースが返答をする。

 

「このあたりに強力なモンスターや人はいるか? だいたいこの女ぐらいの強さの奴を探している」

「……それは、人探し的な物か?」

「いや、殺して配下にするための捜索だ。いるのか?」

 

 その言葉に内心ザリュースは少し安堵した。

 目的が強者だというのなら──自分が犠牲になれば済む話だ。

 

「……俺が蜥蜴人(リザードマン)最強の戦士だ」

 

 ザリュースはそう胸を張って言った。

 

「お前が? ……まぁ、未開地の文明ならこの程度か……他の蜥蜴人(リザードマン)の集落はあるか?」

 

 その言葉に一瞬答えるかどうか悩んだ。

 だが、すぐに答えることにした。

 

「村は五つある。俺たちの村と、小さき牙(スモール・ファング)竜の牙(ドラゴン・タスク)鋭き尻尾(レイザー・テール)朱の瞳(レッド・アイ)の五つだ……ドラゴン・タスクは強者を好むという」

「そうか。ならそのドラゴン・タスクとやらに行くとしようか。方角はどっちだ?」

「あの方角だ」

 

 ザリュースは指先で正解の方角をさした。

 

「なるほど。感謝する。行くぞ、クレマンティーヌ」

「はーい」

 

 そうしてベルディアとクレマンティーヌは去っていった。

 

 

 

 二人が去った後、二人はほっと息を吐いた。

 自分たちの村に被害が来ることはなさそうだ、と。

 ドラゴン・タスクには悪いが、これも自分の村が生き残る為であった。

 最近、森が騒がしい。村の防衛のためにも出来ることをせねば、と二人は気合を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 休みなく進む事一日。ベルディアとクレマンティーヌはドラゴン・タスクに辿り着いた。

 柵で囲われた集落であり、門には門番の蜥蜴人(リザードマン)が二人いる。鎧は身に着けてないが槍を装備している。

 

 片方の蜥蜴人(リザードマン)がベルディアという左手で頭を持っている異形種を前に恐怖しながらも村にこのことを伝えるために走り出した。

 

「お、お前たち何者だ?! アンデッドか?!」

「そうだ。俺はデュラハンのベルディアという。この集落に強者が居ると聞いて来た」

「きょ、強者だと?」

「そうだ。弱者には興味がない。強きものを寄越せ」

「……集落に居れる訳にはいかない。ここで待ってもらうぞ」

「構わない」

 

 そうして待っていると奥から大柄な蜥蜴人(リザードマン)がやって来た。

 ベルディアの身長は百八十五センチ。それを優に上回る二百三十せんちという圧倒的巨体。

 右腕は異様に肥大化しておりさらには左手は薬指と小指が根本から無い。

 尻尾は鰐のように平らという異様な蜥蜴人(リザードマン)であった。

 

「ほぉ、つえぇ奴が来たな」

 

 そうドラゴン・タスクの族長、ゼンベルはニット笑った。

 

 二人は探知阻害の装備をしていないので現地民に強さというのがよく伝わってしまう。

 

「異形種が蜥蜴人(リザードマン)の村に何の用だ?」

 

 ゼンベルが右手に持つハルバードを構えながら問いかけた。

 

「強者を探している。より強きものを我が主の部下にするためにな。だが、無駄足だったようだ」

 

 ベルディアがわかりやす肩をすくめた。

 それに対しゼンベルは頭にカチンときた。

 

「あん? 俺は強者じゃねぇってか」

「そうだ。レベル三十にも満たぬ雑兵。わざわざ戦ってやる価値もない」

「言うじゃねぇか。頭に来たぜ。ぶちのめしてやる。だが、その前に」

 

 すぅ、とゼンベルは息を吸ってから叫んだ。

 

「聞けお前ら! 今から俺はこいつと一騎打ちをする! 勝った方がドラゴン・タスクの次の族長だ! ──行くぞゴラァァァ!」

 

 ゼンベルが叫びながら突撃する。それに対しベルディアはやれやれと呟きながら愛剣、伝説級の武器くろがね砕きを構えた。

 

「こい、力の差をわからせてやる」

「私は避けてますよーと」

 

 クレマンティーヌはそういうと俊敏な動きでその場から離れた。

 

 ベルディアはゼンベルのハルバードによる攻撃をくろがね砕きの腹で防ぐ。

 数度防ぐとゼンベルは苦い顔をしながら後ろに飛んだ。

 

(遠距離攻撃か?)

 

 ベルディアが相談すると同時にゼンベルは己の持つハルバードを投げつけた。

 

(自分の武器を捨てて何を──)

 

 ベルディアにとってみればただ投げられただけの武器など容易くはじける。すぐにくろがね砕きで弾いた。

 が、その隙を突くようにゼンベルが大きな右手で殴り掛かって来た。

 ベルディアはそれも予測済みだ、とばかりに右に動く事で回避した。

 

「モンクか」

「あぁ、そうだ」

 

 モンクとは素手での戦闘に特化したクラスの事だ。気功を操り他者を操ったり治癒することも出来る。

 

「オオオオオ!」

 

 ゼンベルは叫び拳での超近距離戦を選んだ。

 だが──

 

(これも防ぐのかよ……!)

 

 全てくろがね砕きによって防がれる。

 更にはくろがね砕きには傷やへこみ一つつかない。

 

 ゼンベルの拳は強靭だ。鋼鉄程度ならば容易くへこませたりむしり取ることが出来る。

 だが、その己の──特殊技術(スキル)込みの拳でも傷一つつかない相手に流石に冷や汗が流れる。

 

「ふん」

 

 ベルディアは鼻を鳴らすと少し移動し──目にも見えぬ速度でゼンベルを袈裟斬りにした。

 

「致命傷にはしてない」

 

 ドタン、とゼンベルは頑張って仰向けに倒れた。

 

「クソ……先は遠いな……」

 

「その傷なら回復魔法を受ければ助かるだろう。ではな、俺たちは別のところを探す」

 

 ベルディアがそう言い後にしようとする。

 それをゼンベルは止めた。

 

「ま、待て!」

 

 ゼンベルは蜥蜴人(リザードマン)の司祭に回復魔法を使ってもらいながら叫ぶ。

 

「強者について情報がある、それを対価に──この集落の長になってくれ!」

「……はぁ?」

 

 ベルディアは何言ってんだこいつ、という目をした。

 

「俺はアンデッド、でお前は生者だ。アンデッドが生者の支配者になれるわけないだろう」

「ただのアンデッドじゃないだろ。俺を殺さないし、何より生者を無意味に襲わねぇ……さらにそれだけの力。このドラゴン・タスクの族長に相応しい!」

「いやいや、お前が認めても他の者たちが認めないだろ」

「んなこたねぇ。なぁみんな!」

 

 ゼンベルが同意を求めるように叫ぶと周囲に居た蜥蜴人(リザードマン)たちが同意するように頷いた。

 

「えぇ……」

 

 無視して逃げるか、と一瞬考えたが、ティカからの命令をベルディアは思い出した。

 主にとって利となるかもしれない、と。

 主は戦力を求めている。生者ならば主のアンデッド支配の枠を使わず支配できるかもしれない──そう判断した。

 

「少し待て。上の指示を仰ぐ」

 

 ベルディアはそういうと<伝言>(メッセージ)をティカに繋げた。

 

『ベルディア、どうしたの?』

「ティカ様。トブの大森林の調査中蜥蜴人(リザードマン)の集落を発見。その族長と一騎打ちをした結果相手が新しい族長になってほしいと言われまして……どうしたらいいかと」

蜥蜴人(リザードマン)の族長に? 集落の他の者たちは同意してるの?』

「それが、問題なく受け入れている様子です」

『そう……蜥蜴人(リザードマン)の集落の規模は?』

「この集落は五百人近いかと。他の集落も恐らくは同程度だと思われます」

 

 その報告にティカは心躍った。

 五百人近い部下が一気に手に入るのだ。戦闘力が低いという点を除けば貴重な戦力になる。

 

『いいわ。あなたが蜥蜴人(リザードマン)すべての族長になりなさい。一段落したら方舟に戻って。戦力を与えるわ。他の集落も全て支配下に置く事。いいわね? 虐殺は最後の手段よ』

「畏まりました」

 

 そこで<伝言>(メッセージ)が切れた。

 

「主の命令だ。俺がお前たち蜥蜴人(リザードマン)の支配者になろう」

「おお! そうこなくちゃ!」

 

 治癒が終わったゼンベルが笑顔を浮かべた。

 

「それじゃあ、今日は宴だ! どんどん飲むぞ!」

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