王都から八本指を殲滅し、ニニャの姉ツアレも転移魔法でカルネ村まで送った。
今は漆黒の剣がツアレについており、彼女の身の安全はこれで大丈夫だろう。
王都の治安を改善させた後は漆黒は観光を早々に終わらせ、エ・ナイウルへと旅立った。
■
バハルス帝国。皇城の執務室にて。
「これは本当なのか?」
皇帝ジルクニフ・ルーンファーロード・エル=ニクスは報告書を読みながら眉を潜めた。
「多数の目撃証言と……実物がエ・ランテルの外にあります。事実かと」
それに対し秘書官ロウネ・ヴァミリオンが言った。
「つまりこの女は爺……フールーダ・パラダインによる魔法の探知を無効化するほどの魔法の腕を持ち、かつ難度百を超える怪物を倒すほどの実力者、という訳か……更に法国の陽光聖典を撃退すらしているという」
ジルクニフが現在得ている情報をまとめた。
欲しいな、とジルクニフは呟いた。
古今東西この人間が弱いこの世界では戦闘力が高い者は喉から手が出るほどに欲しい人材だ。
「ぜひとも帝国に欲しいですな」
そう老人、フールーダが若干の興奮を滲ませながら言った。
「いったいどれだけ高位の魔法を使えるのか。最低でも第五位階魔法は使えるでしょう。もしかしたら第六位階に届いているやもしれないですな」
「そうだな。相手はアダマンタイト級冒険者だ……皇帝が会いに行くには充分な名誉を持っている。帝国に来たら、私直々に会いに行ってみようじゃないか」
■
「これが帝都ね」
数週間後。
漆黒の二人は帝国の首都、アーウィンタールに来ていた。
目的は当然観光だ。
一番見たいのはやはり闘技場だ。
ユグドラシルにも闘技場はあり、デスペナルティ無しで本気の殺し合いが出来る場所として結構な人気があった。
ティカとルドガーの二人はまず宿を取った後、二人で闘技場に向かった。
闘技場は混んで居たが入れない程ではない。入場料を支払い中に入る。
ルドガーが参戦したいと言うとルドガーは控室に連れていかれた。
ティカは夫の戦闘を見たく闘技場の空いている席に座る。
「隣失礼するわね」
隣に座っている男、ヘッケランはティカという外見亜人種に驚きつつも「どうぞ」と返した。
椅子に座って闘技場内を見る。
闘技場のアリーナでは冒険者チームが魔獣系モンスターと戦っているところだった。
四人組の冒険者は剣と魔法でバーゲストと戦っている。
周囲から「やれ!」「そこだ!」「食い殺しちまえ!」などと言った叫びが聞こえてくる。
ティカもつられて「もっとやれー!」なんて叫んでしまう。
そうして冒険者チームが一人の犠牲を出した後、バーゲストを討伐した。
そして次の試合が始まる。
『皆さんお待たせしました! 次の試合は闘技場が誇る無敗の剣士エルヤー・ウズルス対! 王国から来たアダマンタイト級冒険者、ルドガーだ!』
アダマンタイト級、という言葉に観客席がわっと湧く。
この帝国でもある程度漆黒の名は知られているのだ。
「あなたー! がんばれー!」
ティカがきゃー! と黄色い声と共に応援する。
「あなた?」
隣のヘッケランが疑問符を浮かべた。
「あっ私ルドガーの妻のティカです。夫婦で冒険者してるのよ」
ティカがそう笑顔でヘッケランに言った。
「夫婦で?! そりゃまたすごいな……」
極まれにカップルで冒険者している者はいるが結婚までしている者はまずいない。
結婚したら冒険者なんて言う危険な仕事は辞めて衛兵なり騎士なり安定した職業に移るからだ。
夫婦で冒険者をするなど変り者にもほどがあるだろう。
「えぇ。私の夫は凄いわよ」
ティカはそうサムズアップで答えた。
ヘッケランはそうですか、と若干引きながら回答しておくと試合に視線を戻す。
そこには闘技場無敗のワーカー、エルヤー・ウズルスを赤子扱いしているルドガーが居た。
エルヤーの空斬や縮地改による攻撃を巧みにルドガーは捌いて行く。
最初は余裕面だったエルヤーも途中から本気の殺意を滲ませる。
誰もが、息をのんでいた。
エルヤーは冒険者ランクにしてオリハルコン級の力を持つ。下手すればそれ以上……人類の英雄、アダマンタイトにすら届き得る力の持ち主だ。
闘技場無敗の異名は伊達ではない。ソロで冒険者チームやワーカーチームを倒した事だってある。
その無敗の人間が──たった一人の亜人に辛酸を舐めている。
盛り上がるのも無理はないことだった。
ティカは一人流石自分が作った夫だ! と興奮していたが。
そしてついに──ルドガーのドゥームズによってエルヤーは首を跳ね飛ばされ、死亡した。
■
楽しかった、とティカとルドガーは闘技場を出た。
闘技場のプロモーターたちが専属にならないかと持ち掛けてきたが冒険者なので、と断って来た。
帝国の闘技場には一人の支配者が居ない。複数人のプロモーターたちによる運営で成り立っている。
闘技場を出た瞬間、二人はエルフ達に囲まれた。
三人のボロを纏ったエルフだ。耳が切り落とされている。
「何の用だ?」
ルドガーが冷たい目で問いかけた。
「あの……ありがとうございます! エルヤーを殺してくれて……おかげで私たちは、一時的にですが自由になれました」
この三人はエルヤーの奴隷だったエルフたちだ。
エルヤーに日々辛い目にあわされてきた者であり、奴隷として人権の無い扱いをされてきたのだ。
自身の支配者であるエルヤーが死んだことにいの一番に感謝した者たちでもある。
控室で主人の死を聞いた時は小躍りしたくなったぐらいだ。
「礼を言う為だけに来たのか?」
ルドガーが問いかける。
「……はい。礼を言いに来ただけじゃありません。どうか、私たちの主人になってくれないでしょうか! 差し出せる物はありませんが、なにとぞ──!」
三人は深く頭を下げた。
こうして三人がルドガーの前に居る事自体ある種の奇跡だ。
本来奴隷の主人が亡くなると主人の遺言に従い次の主に移る。
だがエルヤーは遺言なんて残してなかった。ではどうなるかというと元の奴隷商の元に戻るのだ。
今は奴隷商側にエルヤーの死が伝わってないのでこうして動けるが、本来ならすぐに奴隷商の元に戻らないと不味い身だ。
それに対しルドガーはちらっとティカを見る。どうするか、と。
(奴隷を悪い主人から救うって、昔のラノベみたいだな……けどエルフ、エルフか……)
ティカはエルフ、という事に対し興味を抱いた。
エルフが居るという事はエルフの森とか国があるわけだ。そこに興味が向いた。
エルフの国の観光なんて実に楽しそうだ、と思ったわけだ。
「いいわ。あなた達を買ってあげる。暫くはうちでメイドでもしてもらおうかしら」
「「「「……! ありがとうございます!」」」
三人は深く頭を下げた。
「じゃあ、奴隷商の元まで行きましょうか」
「はい!」
こっちです、とエルフの案内の元ティカとルドガーは店に向かった。
闘技場からだいぶ離れた場所に店はあった。
店に入る。
受付は普通の店と変わらない。奥に扉があった。
カウンターには気のよさそうな青年が座っていた。
奴隷エルフが話しかける。
「あの……主人が亡くなってしまったので、戻ってきました」
「わかりました。では返還手続きを進めますね」
「その前に。その子たち私が買いたいのだけど、いいかしら?」
ティカがすっと割り込んだ。
「……店長に聞いてきます。お待ちください」
そう言うと店員は奥に去っていった。
少し待つと小太りの店主がやってくる。
「お客様。エルフの奴隷となるとお高くなりますが、大丈夫でしょうか? 更にこの者たちは技能もちとなります」
「問題ないわ。幾らでも支払えるわ」
「わかりました。では──」
ティカは思ったより高いなと思いつつ提示された金額を支払った。
これで公式にこのエルフ達はティカの所有物となった。
帝国ではエルフの奴隷に人権は無い。
これが人間の奴隷だったら酷使しすぎるのは禁止されており、命の危機なんて持ってのほかだがエルフに人権は認められてないのだ。南無三。
こうしてティカは帝国に来て早速良い物を買った、とうきうきになっていた。