一方そのころカルネ村では。
「オオオオオ!」
自警団に入った村人の一人が雄たけびと共に剣を振るった。
振るった対象はモンスター、
第一位階魔法で召喚できる天使系モンスターで最弱の存在である。
外見はどこか機械的な形で白く顔は四角い。
天使の証として背中から白い天使の翼が生え、頭上には白い輪が浮いている。
剣による攻撃はきちんと命中し、
だがすんでのところで避けられ、更に一撃貰う。
それにより
「お見事。この程度なら安定して倒せますね」
そう
「メアリさん、ありがとうございます!」
メアリはカルネ村に完全に馴染んでいた。
村人たちとも交友関係を結んでいる。
そして何よりも、その召喚魔法で役に立っていた。
天使に疲労は無く、病も無効化する。そのために森林伐採や土木工事に向いていた。
それらの能力を遺憾なく発揮し村の発展のために使っていた。
村人も多少は増えた。
それはカルネ村以外のスレイン法国に襲撃された村々の生き残りがカルネ村に移住してきたからだ。
冒険者としての技能は無く、都市であるエ・ランテルに行っても乞食になるしかなかった彼らはカルネ村への移住を喜んで受け入れた。
結果村民は増えて百四十人ほどになっている。
そのうちの何十人かは自警団を組んでいる。
メアリが訓練相手となり、ティカが得た金銭で武器や防具を買い、自警団の装備に回しているのだ。
更に壁も構築し、モンスターが来てもいいようにしている。
二度ほどモンスターの襲撃があったが、どれもゴブリンなどの雑魚で自警団だけで対処が出来ていた。
カルネ村は今日も平和である。
■
帝国に視点を戻す。
ティカとルドガーの二人が泊っているのは帝国でも有数の高級宿だ。
王国の宿は老舗旅館のようだったが帝国のはホテルを思わせる。まぁティカはホテルとか旅館に泊まったことないので感覚でしかないが。
そしてさぁ今日はどこに観光に行こうか、と宿を出た瞬間馬車が宿前に止まっていた。
高級そうな黒塗りの馬車だ。馬車をひいているのは魔獣系モンスターのスレイプニールだ。
通常の馬より体躯がでかく、八本の足を持つ馬だ。
筋力や持久力、速力に優れる馬で軍馬五頭分に匹敵する値段を持つが、値段相応の能力を持つ。
それが二頭馬車を引いていた。
馬車から男が降りて来た。
三十代を超えている男だ。金髪碧眼の男で筋肉質な体形をしている。
背中にはグレートソードを背負っている。
「よ、漆黒のお二人さん。今ちょっといいか?」
そう帝国四騎士の一人、バジウッド・ペシュメルは声をかけた。
「あら、騎士様が何用かしら」
ティカがそう微笑む。
「何、皇帝陛下があんたらに会いたいらしくて名。ちょっと皇城まで来ないかっていう誘いさ」
「あら、デートのお誘い? 悪いけど私旦那が居るの」
ティカはそう言いルドガーの腕をぎゅと掴んだ。
「はは、俺も妻と四人の愛人がいるからな、これ以上増やすと嫁に起こられちまう」
(そのつらでハーレム築いてるんかい?!)
ティカはロールプレイを忘れるぐらい本気で驚いた。
「……けど、皇帝様からのお誘いを断るのも失礼にあたるわね。いいわ。着いて行きましょう」
「いいのか?」
ルドガーが問いかけた。
「えぇ。観光は明日でも出来るから」
「わかった。なら、行こうか」
「おう、じゃあこの馬車に乗ってくれ」
そうして三人は馬車に乗り込んだ。
ティカとバジウッドは向かい合うように座る。
「出てくれ」
バジウッドがそういうと騎士が馬車を出発させた。
「それで、皇帝様が一介の冒険者に何の用なのかしら」
「そりゃ、スカウトさ。王国で何でも難度百を超えるモンスターを倒したんだろ? それだけの人材、人材好きの皇帝様は逃がさないさ」
その言葉をジルクニフが聞いていたら「ちょっと待てや」と怒ったことだろう。
スカウトなのは事実なので隠しようが無いが、もっといい方とかあっただろう、と。
「……スカウト、ね。王国でそういうのは一切なかったけど」
「王国は……まぁ……王国だからな……」
王国は無能であるというのは帝国の共通認識らしいと二人は把握した。
「けどスカウトね……うーん。割と乗り気よ」
ティカがそういうとルドガーが目を点にした。
「受ける気なのか?」
「えぇ。ただこっちの要求を全部飲んでもらえるなら、だけど」
「まぁ、乗り気なのは助かる──と、見えて来たぜ。あれが皇城だ」
そしてついに皇帝の城に到着する。
駐車場一つとっても高価そうで気品のある場所だ。
先にバジウッド、ルドガーが降りてティカはルドガーの手を取りながら降りる。
「んじゃあ、ここから客室まで案内するぜ」
「よろしく頼むわ」
そうして漆黒は皇城に入り、客室で少し待つことになる。
(豪華ね)
客室も豪華絢爛な作りだ。おいてある壺一つでも金貨数十枚、下手したら数百枚するだろう。
方舟にも客室はあるが凝った作りはしてないのでこれと同等か、下手したら皇城の方が上だろう。
座って茶菓子を食べていると部屋にノックが入る。
少ししてバジウッドが入り、一礼する。
「バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下入室です」
そう言われ念のため二人は立ち上がる。
部屋に入って来たのはまだ若い、二十代前半程度の男だ。
金髪にアメジスト色の綺麗な瞳。非常に整った容姿をしている。並みの女ならこのつらで微笑みかけられればいちころだろう。ティカも夫がいなければヤバかったかもしれない。
「初めまして、チーム漆黒の二人。私がバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ」
そうジルクニフは微笑んだ。
女を一目ぼれさせるような笑みだ。
夫がいなければいちころだったかもしれないとティカは冷や汗を流した。
遅れて老人が入ってくる。
身長の半分程の長さがある、白髭をたたえた老人だ。髪も雪の様に白いが薄くはない。
顔には長く生きた事を現すような皺があり、瞳は鋭く叡智の輝きを宿している。
純白のゆったりとしたローブを纏い、小さな水晶球を無数に繋げたネックレスを首から下げ、枯れた指には多くの無骨な指輪をしている。
この老人こそがバハルス帝国最強の
人類の中でも四人しかいない逸脱者に到達した者である。
フールーダはティカをじっと見る。
何かを見通そうとするが、見れていなかった。
遅れて自己紹介をする。
「初めまして。私はフールーダ・パラダイン。帝国の主席宮廷魔術師を務めております」
「こちらこそ初めまして、皇帝陛下に宮廷魔術師様。私はティカ。夫ルドガーと共にアダマンタイト級冒険者を務めています」
そうティカも微笑んだ。
異形種の微笑みだが一応は美人の物。並みの男ではたじろぐだろう。
だが二人とも意に介さない。女には困っていないのか、あるいは
ジルクニフは容姿には驚かなかったものの陰部だけ隠した黒い布というこいつ
王国の蒼の薔薇しかり帝国の銀糸鳥しかり冒険者は変人しかいないのだろうかと冒険者組合は変態育成所なのかと謎の疑問を抱いてしまう。
ジルクニフが座ると背後にフールーダが立ち、遅れてティカとルドガーも座る。
「では、本題に入る前に……君たちの冒険を聞かせてくれないか? 私は見ての通り冒険には疎いからね、生の話を聞きたいんだ」
「そう言う事でしたら、拙い話ですがどうぞ──」
そうしてティカとルドガーはこれまでの冒険を話す。
それは話してて楽しかった。
ジルクニフは絶妙なタイミングで相槌を打ち、気になったことは素直に問いかけてくる。
ティカは話してて楽しい、と思ったのはこれが初めてだった。
三十分ほど話していると喉が渇いて紅茶を飲む。
一息つくと、ジルクニフが話してくる。
「流石はアダマンタイト級冒険者。これまで人類未踏の冒険をしてきたのだとわかる──だからこそ、こう提案しよう。我が国にこないか? そうすれば、望むだけの地位を約束しよう」
それは魅力的な提案だった。
この人物の元なら自分は能力を百パーセント──いやそれ以上に発揮し、楽しく生きていけるだろう、と。そう思わせる魅力を皇帝は持っていた。
だから、ティカはこの人に仕えてみようと思ったのだ。
もともとこの世界に安住の地を求めていたのだ。方舟だけでは味気ないし。
「その提案、受けようと思います──ただ条件が一つあります」
以外にもあっさり受け入れられたことにジルクニフは内心驚きつつ顔には出さない。
「受け入れてくれてありがとう……それで、その条件とは?」
「私をエ・ランテルとその近郊、そしてカッツェ平野を私の物にすること……つまりそこら一帯の領主にしてほしいの」
その言葉にジルクニフは内心目を点にした。
エ・ランテルまでならまだわかる。支配欲があるのだ、と。だがカッツェ平野は不毛な地だ。
さらに言えば正確には帝国でも王国の物でもない土地である。というか両国ともアンデッド多発地帯という持ってるだけで損する土地など欲しくなかったのだ。
だから一応ヴァディス自由都市があるがそこの管理人は居るが領主という訳ではない。
「何故、カッツェ平野を? あの地は呪われた地だ。内政には向かないと思うが……」
「私は死霊術師ですので、アンデッドを簡単に補給できるあの地はネクロマンサーにとっては非常に良い土地なのです」
ネクロマンサー、という言葉にフールーダが反応した。
「ふむ。どのレベルのアンデッドを支配できるのですかな」
フールーダがそう問いかけた。
「レベル……難度二百三十ぐらいまでのアンデッドなら難なく支配できますよ」
その言葉にジルクニフとフールーダは目を点にした。
「それは、
フールーダが問いかけた。
「
その言葉にフールーダは声に少し怒りを滲ませながら言った。
「馬鹿なことを言うな!
「フールーダ、喋りすぎた」
ジルクニフが諫めるように言った。
その言葉でフールーダは冷静さを取り戻した。
「申し訳ありません、少々興奮しすぎてしまいました」
「いえ、お気になさらずに──でしたら
ティカがなんてことないかのように提案した。
「じ、実演できるというのか?」
フールーダが声を震わせた。
「えぇ。皇帝陛下。ここで召喚魔法を使っても構いませんか?」
その言葉にジルクニフは一瞬悩むもすぐに「問題ない」と返した。
「では──
使ったのはアンデッドを召喚する魔法だ。第七位階の魔法によって
ボロのマントを着たアンデッド。骸の相貌には赤い光が宿っている。
右手には百三十センチほどのフランベルジュを持ち、左手には己の身を隠せるほどのタワーシールドを持っている。
二百三十センチという圧倒的巨体。黒い棘のついた鎧を纏っている。
フールーダは恐怖など見せない。代わりに見せたのは──羨望。
キラキラとした少年のような瞳でティカを見た。
「ティカ殿! ──いや様! 私にその魔法を教えてください!」
フールーダが急に相手を様付けして呼んだがジルクニフは対応が遅れた。
「いえ、これは第七位階の魔法で召喚したの……教えられるようなものじゃないわ」
「だ、第七位階?! ──しかし私は何でもしましょう! 魔法の深淵を覗きたいのです!」
「フールーダ! 落ち着け!」
ジルクニフがそう叫ぶ事でフールーダは冷静になる。
「も、申し訳ありません。少々興奮してしまい……しかし
「超位魔法までちゃんと行使できるわ……こっちに分かりやすく言うならば第十位階とその上の魔法まで使える、と言った方がいいかしら」
第十位階という言葉にジルクニフは顎が外れるぐらい驚いた。
「なんと! しかし私の眼ではそれが見えません。何かしらの探知阻害をしているのでしょうが……どうか見せてはくれないでしょうか」
それに対しティカは微笑みで返した。
「いいわよ」
そう言うと左手に嵌めている指輪の一つ──探知阻害の指輪を外した。
瞬間吹き荒れる圧倒的強者のオーラ。
あらゆる生物に対し苦痛を与えるような、死の気配。
そしてフールーダにははっきり見えた。ティカの持つ膨大な魔力と、使える階位が。
「おぉ……!」
フールーダはティカの横まで移動した。
「魔法を司るという、小神を侵攻しておりました。ですが、あなたがそれでないというのなら──今その信仰は失われました」
急に語りだしたフールーダをだれも止めれない。
「どうか、私を弟子にしてください! そのためならば私が持つすべてを捧げます! いと深き御方! 深淵の主よ!」
土下座の姿勢で更に頭を深く下げたフールーダを見てティカは内心引いていた。
「あなた、帝国の主席宮廷魔術師なのでしょう? その人物が私の弟子になるというのは……」
「帝国など惜しくありません! 貴方が命じるならば帝国を敵に回しても構いません!」
フールーダがそう叫んだことに魔法狂いはそこまでだったかとジルクニフは内心舌打ちした。
だがフールーダの反応もわからなくはない。これほどの強者──超越者に与するというならば国の一つや二つ安い物だろう。
それに対しティカは若干引いていた。
元務め人として職場を売るのを惜しくないというのは大抵やべー奴である。
「望むならば靴だって舐めます! ですので何卒──!」
「いや靴履いてないし……まぁ、いいわ。弟子になることを認めるわ。ただ、これまで通り帝国に仕えてね? 私も所属する国なんだから」
「畏まりました! 師よ、深く……深く感謝いたします!」
ティカはその言動を見て早まったかなと早速後悔しかけていたが気にしすぎるのもな、と諦めた。
「それで、えぇと皇帝陛下。先ほどの要求、呑んでもらえるかしら」
「ああ、受け入れるとも」
ジルクニフは引きつった笑みでそう返すしかなかった。