劣化アインズの夫婦の旅   作:Revak

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第16話

 

 エ・ランテルに一旦戻ったティカは冒険者を辞めた。

 アダマンタイト級冒険者が引退するにはまだ早いと説得をされたが、帝国に所属するというとぎょとした目をされ、それでもどうか考え直してくれと言われたが決意は固いというと諦められた。

 ティカはリアルだったらここまで引き留められることなかったろうなぁと思い惜しまれつつも冒険者を引退した。

 

 そして暫くは帝国の皇城で暮らすことになった。

 最終的にはエ・ランテルの都市長の館がそのままティカの物になるとしてもそれまでの間の住まいは必要だ。

 公的には家を持っていないことになっているティカはそれまでの間は皇城で暮らすといいという皇帝の言葉によって皇城で暮らす事となったのだ。

 

 帝国での暮らしはティカには新鮮で楽しかった。

 

 帝都の屋台の軽食や劇場など、観光名所は幾つもあった。

 王国のように歴史を感じさせる場所は少ないが、それでも二百年の歴史がある大国なので観光名所は多いのだ。

 

 その間、ただのほほんと過ごしていただけじゃない。

 帝国四騎士相手にルドガーが模擬戦をしたり、ユグドラシルの魔法の知識をフールーダに教えたりするなど、楽しい日々を過ごしていった。

 

 

 そしてある日、ティカは部屋に四騎士の一人レイナース・ロックブルズがやって来た。

 

「コーヒーでいいかしら?」

「はい。ありがとうございます」

 

 部屋のソファに向かい合うように二人は座る。

 

「それで、何の用かしら?」

 

 ティカは薄々察しつつも問いかけた。

 

「はい。もう知っていると思いますが、私は呪われています」

 

 そう言いながらレイナースは隠している顔の右半分を見せた。

 鼻から上、そして右目の部分を除きそこには膿があった。黄色く変色した膿を出している。

 

「この呪いを解きたいのです。そのためならば、命以外何でも差し出します」

 

 レイナースはそう頭を下げて頼み込んだ。

 

「パラダイン様を超える魔法詠唱者(マジック・キャスター)であられるティカ殿なら、この呪いを解く方法を知っているのではないか──と」

 

 そうレイナースは期待を込めた眼で問いかけた。

 

「そうね……呪いを解く魔法を、私は使えるわ」

 

 ティカはそう言った。

 嘘ではない。覚えている超位魔法<星に願いを>(ウィッシュ・アポン・ア・スター)ならばワールドアイテムの影響でもない限り解呪できるだろう。

 

「だけど、その魔法には対価……触媒が必要。今のこの地で補充できる当てがない以上、使えないわ」

 

 <星に願いを>(ウィッシュ・アポン・ア・スター)は経験値を消費する。

 最低値十パーセント消費することで叶えられる願いが幾つか表示される。

 より経験値を多く消費することで叶えられる願いの質と選択肢が増えていくのだ。

 最低値消費でも解呪できるだろうが、それでも多大なるコストを支払うことにはなるので使う気はなかった。

 

「なんでも! 何でも致します! ですのでどうか──!」

 

 だがレイナースは諦めなかった。

 解呪できる、という言葉に希望を抱き涙を流してまで懇願する。

 

「けど、ある程度までの呪いなら解呪できる部下が居るの。まずは、呪いについて詳しく教えて頂戴?」

「は、はい! この呪いは──」

 

 レイナースから話を聞いたティカはユグドラシルにもあった呪いだ、と把握した。

 一部モンスターの最後っ屁はレベル以上の脅威を持つことがある。それだろうと推測出来た。

 話を聞いたティカは話し始めた。

 

「私の部下に、高位の神官が居るの。彼女なら……貴女の呪いを解くことが出来ると思う。彼女の場合は私のように触媒は必要ないと思う」

 

 その言葉にレイナースはぱぁっと顔を明るくした。

 

「で、でしたらぜひその方を私に紹介してください!」

 

 その言葉にティカは微笑みで返した。

 

「いいけど、デメリットもあるわ。貴女の呪いによって得た力……カースドナイトと言って、そのクラスの力を失う……まぁ、弱体化することになるわ」

「この力を失うことなど惜しくはありません!」

 

 力強い目でレイナースは言った。

 

「ならいいわ。なら対価として──私の部下になってもらうわ」

「構いません! 今この時より私はあなた様の部下になります!」

 

 レイナースはそう叫び頭を下げた。

 それに対し流石のティカも困惑する。

 

「い、いいの? 皇帝陛下に仕える四騎士でしょう?」

「陛下とは既に取り決めを決めています。呪いの解呪の為ならば、四騎士を辞めてもいい──と」

 

 その言葉にあの皇帝は意外と大胆だなとティカは思いつつ了承した。

 

「わかったわ。今から転移で連れてくるわ──<上位転移>(グレーター・テレポーテーション)

 

 この皇城の幾つかの部屋は転移阻害がある。

 だがティカレベルの転移ならば阻害されることなく転移が可能だ。

 

 すぐにカルネ村からメアリを連れてきた。

 

 レイナースは神官と言いつつメイドの格好をしていることに疑問を抱きつつも顔には出さないで置いた。どんな格好をしていようが人の勝手であるのだから。

 

「じゃあメアリ、レイナースの解呪をお願いね」

「畏まりました。では──」

 

 そうしてメアリは第十位階の回復魔法を行使した。

 瞬間レイナースに異変が起こる。

 顔の膿が綺麗さっぱり消えたのだ。

 

 レイナースは感覚でわかりながらも右手で己の右顔に触れる。

 

「あぁ……! ああ! ああああ!」

 

 レイナースの両目から感激の涙が溢れ出た。

 ティカは今は同じ女として己の顔が醜くなるなど受け入れられないからわかる、と頷いていた。

 

 五分ほど泣いた後、レイナースは「お見苦しいところをお見せしました」と涙をハンカチでぬぐいながらティカの前に跪いた。

 

「ティカ様。貴女に絶対の忠誠を誓います」

 

 こうしてレイナースを手に入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 九月一日。

 ついに帝国と王国の戦争が始まる。

 例年どおり、戦争場所は死者の大地カッツェ平野。

 

 その平野にティカは来ていた。

 

 来た理由は単純で、皇帝ジルクニフがティカの力を見せて欲しい、と言ったからだ。

 戦争の開幕の一撃を担当することになったのである。

 

 それにはもちろん裏の思想がある。

 ジルクニフはティカを測りきれていない。第十位階という超越者の頂の力を行使できるとはフールーダの力でわかったが、実際問題どれだけの事が出来るかはわからないのである。

 己の技量に会った仕事を割り振らなければ人材の無駄使いになる。

 更に言えばジルクニフはティカを警戒もしていた。

 フールーダを超える魔法詠唱者(マジック・キャスター)が何故わざわざ一国家の部下になったのか、気になるところである。

 だからこそここで最大値を知り、その力を測ろうというのだ。

 

 

 野営地にはティカ専用の場所が与えられ、テント内でくつろいでいる。

 だが外に居る兵士たちは気が気でなかった。

 何せ伝説級のアンデッドが十二体も居るのだから。

 

 テントを守る様に立っているのは十二体の死の騎士(デス・ナイト)だ。

 カッツェ平野にも一度だけ出たことがあるアンデッドでレベルは驚異の三十五。英雄級のアンデッドだ。

 ただし攻撃性能のが二十五レベルと低いが代わりに防御能力が四十レベル相当になる。

 更に相手の攻撃を引き寄せる特殊技術(スキル)とどんな攻撃を受けても必ずHPを一残す特殊技術(スキル)を持っているので序盤のタンクとしては割かし役に立つアンデッドだ。

 ティカも外見と性能が好みなので六十四体ほど支配下に置いてある。

 それ以外にも各種アンデッドは三対ずつ支配下にある。コレクションされているのだ。

 ティカはアンデッド強化より支配数に重きを置いた魔法詠唱者(マジック・キャスター)なので支配できる数だけは多い。

 

 ティカは開戦まで暇なので遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)でカルネ村を見ていた。

 

 するとカルネ村を攻めている王国軍と王国軍相手に無双しているメアリが居た。

 

「なんで?」

 

 思わずティカの口から漏れ出た。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 王国はティカが帝国に着いたことを知った。

 その情報源はレエブン候。優秀な彼は独自の情報網ですぐにティカが冒険者を辞め帝国に着いたことを知った。

 優秀な魔法詠唱者(マジック・キャスター)であるティカに対し対策が必要だ、とレエブン候は軍議でそう発言した。

 だがそれは軽んじられた。所詮はただの亜人の女、出来ることなどたかが知れている、と。

 レエブン候はまぁそうなるよな、と内心のため息を押し殺しつつ王とガゼフだけにはその危険性を伝えなければと苦心した。

 

 結果、王はティカと懇意にしているというカルネ村に対し調査を第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフに頼んだ。

 

 結果バルブロは五千の兵と共にカルネ村に赴いた。

 

 だがカルネ村は既に村と呼ぶにはあまりにも異質な場所だった。

 

 木材によって作られた頑丈な壁。物見やぐらに武装した村人たち。

 何処をどう見ても小さな砦でしかなく、村と言い張るには無理があった。

 

 最初は問題ないように思えた。使いの者を村は受け入れた。

 だがティカに関する情報を寄越せ、というと態度が一変した。

 

 ティカはカルネ村にとって恩人だ。村を救い、メアリという神官も派遣してくれた。

 だからこそティカに対し恩を仇で返す用な真似は出来ない──そう返答した途端櫓を火矢で撃たれた。

 自国の民だろうと容赦なく攻撃する──その姿勢に恐怖を感じたカルネ村は敵対を選んだ。

 

 だが、所詮は自警団も十人と少ししかいない、戦力差が十倍どころじゃすまないほどにある。

 正面切って戦えばまず間違いなく負ける。だから避難を──と村長が言おうとしたときメアリが現れこう言った。

 

『私が殲滅してきます』

 

 そう散歩でもしに行くような気軽さで言った彼女は門をジャンプで飛び越えた後、魔法を唱えた。

 

<最終戦争・善>(アーマゲドン・ホーリー)

 

 唱えたのは第十位階の魔法だ。

 天使を無数に召喚し使役する魔法だ。<最終戦争・悪>(アーマゲドン・イビル)と違いちゃんと召喚した天使は味方判定になる。

 

 それらの天使が王国軍五千を襲ったのだ。

 それに対し王国軍は何も出来ない。

 何せ天使や悪魔系モンスターは魔法効果の付いてない攻撃に対し耐性を持っていることが多い。この魔法で召喚できる天使も当然耐性を持っていた。

 となれば武技も使えず数うちの武器しか持ってない王国軍では相手にならないという物だ。

 

 更にメアリ本人の戦闘力。

 信仰形の攻撃魔法を飛ばしたり、本人のレベル百の身体能力を生かした戦闘でまさに無双ゲームのごとくばったばったと王国軍をなぎ倒していく。

 

 それに対しバルブロは少しの苦悩ののち撤退を選んだ。

 たった一人のメイドを相手に撤退など、彼のプライドが許すはずがない。

 だが、側近が飛んできた魔法であっけなく殺されたのを見て、すぐに撤退を選んだ。

 

 ──相手は敵を見ていない。

 

 殺す相手が貴族だろうが兵士だろうが気にもしていない。だから、自分もこの貴族と同じように何の価値もない雑兵と同じように殺されるだろう──その光景がありありと創造出来てしまい、撤退を選んだのだ。

 

 

 こうしてカルネ村は守られた。

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