劣化アインズの夫婦の旅   作:Revak

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第17話

 

 カッツェ平野にてついに戦争が始まった。

 

 王国軍二十万に対し帝国軍六万という倍以上の差がある兵力差だ。

 だがここはファンタジー世界。個の武力が数を上回る世界だ。

 帝国軍の兵士は鍛え上げられており、レベルも高い。

 さらに言えば王国軍の軍の八割近くは専業兵士ではなく徴兵された者だ。

 そのために言ってしまえば武装しただけの農民に過ぎない為、帝国軍兵士ならば苦も無く殺せるだろう。

 

 だが、帝国はこれまで本格的な侵攻をしなかった。

 

 理由は二つある。

 

 一つは王国側の最強の個、ガゼフ・ストロノーフという英雄級の存在だ。

 個の武力が数を上回るこの世界ではガゼフ単騎で下手したら帝国軍全軍を壊滅せしえる力を持っているのだ。

 更にガゼフが持つ五宝物の一つ活力の篭手(ガントレット・オブ・バイタリティ)は疲労を無効化する。つまり常に最高のパフォーマンスを発揮することが可能なのだ。

 下手すればガゼフ一人が帝国全軍に匹敵しうるのだ。

 

 もう一つが帝国の狙いはあくまで王国である、という事。

 

 これが王国が憎くて憎くてたまらないなどで王国を滅ぼすなどならもっとやり方はあるが、目的はあくまで王国の領土だ。

 領土という事はそこには民が居り、そしてその民は徴兵され帝国軍とぶつかることになる。

 つまり馬鹿正直に王国軍をぶっ潰せば支配するべき民も死ぬのである。

 

 支配地の民が居なくなるだけならまだしも『帝国は徴兵されただけの村人にも容赦がない』という話が立てられれば今後の統治に問題が生じる。

 だからこそ帝国はフールーダを出して王国軍を滅ぼすなどが出来なかったのだ。

 

 しかし──今例外が生まれた。

 

 ティカという強大な死霊術師が。

 

 彼女の力ならば村民を失った村にアンデッドという労働力を提供出来るだろう。支配下に置いた街から反乱など起こす気を微塵も無くせるだろう。

 だからもはや王国の運命は決まってしまったのだ。

 

 そして何よりも、皇帝はティカの力を知りたかった。

 第十位階という神話の領域だろう力の持ち主だが、実演してもらわねばどれだけの事が出来るのかわからない、と。

 

 

 

「壮観ねぇ」

 

 

 ティカはカッツェ平野に作られた帝国の砦からベルディアとニンブル・アーク・デイル・アノックを連れて砦から出た。

 勿論周囲には十二体の死の騎士(デス・ナイト)が護衛として立っている。

 

 そのまま帝国騎士が並ぶ中最前列へ進む。

 

 ティカは超位魔法を展開する。

 

 十メートルほどの立体的な魔法陣が展開される。

 魔法陣は幾何学的模様であり、見たことない言語であり、神秘的な代物だ。

 

(王国側にプレイヤークラスはいないか)

 

 ティカはあまり気にしてなかったがこうして戦場で超位魔法を発動しようとしているのに妨害が来ないことに対し少しさびしさを感じていた。

 

 そうして魔法発動までの時間を待機していると王国軍六万が突撃を始める。

 

 馬鹿正直に待つ必要はない。ティカはアイテムボックスから砂時計の形をしたアイテムを取り出した。

 課金アイテムの一つで超位魔法発動までの待機時間を無くすことが出来るアイテムだ。

 砕く事で使用し、即座に超位魔法が発動された。

 

<黒き豊穣への贄>(イア・シュプニグラス)

 

 唱えたのは超位魔法の中でもロマン枠の魔法だ。

 

 黒い風が吹き──王国軍六万にあたる。

 

 そして、死んだ。

 

 徴兵されただけの兵士も。軍馬も。指揮官たる貴族も関係なく。

 魔法の効果範囲内に居た者は全て──死んだのだ。

 

 それを見ていた帝国騎士とニンブルは恐怖で震えた。

 たった一つの魔法で王国軍六万を殺す──そんな馬鹿な話があるか、と。

 

 だが現実今こうやって実現している。その事実に恐怖する。

 

「なんという……」

 

 ニンブルは恐怖のあまり声が出た。

 

「ふふ、どうかしら。私の魔法は。すごかった?」

 

 ティカがそう微笑みながら問いかけた。

 それに対しニンブルは引きつった笑みとと共に返答する。

 

「す、素晴らしい魔法でした。まさか、王国軍六万を一瞬で……」

 

 その言葉にティカは笑みで返した。

 それが不気味で、怖かった。六万もの人間を殺した生物とは思えなかったから。

 

「な、何かご不快な事が──」

 

 ニンブルは慌てて謝罪の言葉を言おうとするが、ティカがさえぎった。

 

「いいえ。まだ魔法は終わってないの。これからよ。豊穣の贄が捧げられれば、仔山羊たちという返礼が来るの」

 

 

 

 それに気づいたのはやはり帝国軍だ。

 味方六万が一瞬で亡くなったことに対し混乱している王国軍ではなく、ある程度安全な地帯で見ることが出来ている帝国軍が気づくのは道理だろう。

 

 空に黒い球体があった。

 最初はピンポン玉のように小さかったそれは徐々に大きくなっていく。

 そして地面に落ち──コールタールのように広がっていった。

 

 闇が広がり、死体を飲み込んでいく。

 あるで悪夢のような光景だ、とニンブルは息をのんだ。

 

「絶望の始まりよ」

 

 

 ティカがそういうと闇から異形がはい出た。

 

 蕪のような姿をしたモンスターだ。

 全身から黒い触手が生えているが、触手を覗いたサイズは十メートル程度。

 だが触手の下には牙の生えた口が乱雑についており、不気味さを演出している。

 五本の足で歩くさまはある種可愛らしくも見えるだろう。

 

 そのモンスターの名は黒い仔山羊。レベル九十代の防御系能力が高いモンスターだ。

 

「あははははは! 五体も召喚できるなんて! 歴史上私が初めてじゃないかしら?!」

 

 ティカはそう狂乱するように笑った。

 その姿を見てニンブルは悍ましい物を感じた。

 六万の使者を生贄に召喚されたモンスターを見て笑うなど、まともな感性の持ち主ではない。

 更に言えば外見から人間種でないことは確定している。ならば──

 

「悪魔……」

 

 ぽつり、と言葉が漏れ出た。

 

 その言葉を聞いたティカはにぃと歪んだ笑みを見せた。

 

「そうよ、私の種族は悪魔──言ってなかったかしら?」

 

 ニンブルはその言葉がストンと胸に堕ちた。

 悪魔ならばこれだけの惨状を作り出しても笑う事に理解が出来る。

 

「さぁ、可愛らしい仔山羊たち。王国軍を蹂躙しなさい。思うがままに、ね」

 

 ティカがそう命ずると黒い仔山羊たちは「メェェェェ!」と可愛らしい山羊の鳴き声と共に王国軍に向かった。

 

「あ──だけど三人ほど殺しちゃダメなの居るから、それだけは気を付けて、ね」

 

 

 

 

 

 それからはひどいモノだった。

 なんとか槍を持って抵抗しようとしたが触手の一振りで殺された。武器も防具も投げ捨てて逃げ出すも足で踏みつぶされた。

 貴族は馬に乗っていたが軍馬があまりの事態に停止し逃げ出せずそのまま踏みつぶされる。

 

 屍山血河とはまさしくこのことを言うのだろう。地獄のような光景が広がっていく。

 

 帝国騎士たちはそれを見てどう思うか。同じ人間としてあれから逃げて欲しい──そう思うしかなかった。

 確かに戦争相手であり、殺すべき敵だ。だがそれでも、敵である前に同じ人間なのだ。

 

 同じ人間だからこそ、あんな結末を迎えていいはずがない──そう思うのだ。

 

 

 そうして涙を流していると一体の黒い仔山羊が近づいてくる。

 それはティカの元に来ているのだったが、帝国騎士たちにとってみれば自分たちを王国と同じ目に合わせに来たようにしか思えなかった。

 

 最初は耐えた。帝国軍人として恐怖などにも耐性が付くよう訓練をしている。

 

 だが何事にも限度がある。

 

 来ないでくれと祈っても叫んでも来る黒い仔山羊(カイブツ)を見て流石の騎士たちも逃げ出した。

 統率のとれた逃走ではない。我先にと逃げ出す脱兎のごとき逃走だ。

 

「お、お前たち!」

 

 形式上ニンブルがそう叫ぶも内心は彼らを攻める気はないし、何なら自分も逃げ出したい気分だった。

 だがそれでも逃げなかったのは皇帝への忠誠と、走ったところであの化け物から逃げれるわけがないという諦念だった。

 

「本来なら私の一撃の後帝国軍が突撃するはずだったけど……どうやらそれは無理そうね。だから私が行くわ」

「まだ殺したりないというのですか! あなたは……本当に悪魔なのですか?!」

「そうよ、私は悪魔。残酷で冷酷で非道で──そして可憐な悪魔よ」

 

 ティカはそう微笑むと背中から悪魔の翼を生やし飛んだ。

 そのまま黒い仔山羊の背に乗り、仔山羊は小さな触手で簡易的な玉座を作り、ティカがそれに座った。

 

「目的の者も見つかったしね」

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 戦場で。ティカとガゼフは対峙した。

 

 ティカは空からゆっくりと地面に向かって下降する。

 

「久しぶり……というほどでもないわね、ガゼフ・ストロノーフ」

 

 ティカがそう微笑むとガゼフも返答する。

 

「あぁ。つい先日、王都でパーティを開いたばかりだ、ティカ殿……それで、戦場で知人を見たから会いに来た──という訳ではないだろう? いったい何用かな?」

 

 ティカは地上に降りると微笑んだ。

 

「目的はただ一つ。貴方の勧誘よ──ガゼフ・ストロノーフ。私の元でその力を振るうつもりはない? 生あるうちも死したのちも、私の元で永遠に働きなさい。貴方にはそれに相応しい力がある」

 

 ティカはそういうと右手を伸ばした。

 

「もし断るというのなら……わかるわよね?」

 

 ティカはそういうと左手で指を鳴らした。

 

 途端、殺戮が止まる。

 黒い仔山羊たちに思念で命令を飛ばし、行動を停止させたのだ。

 

 ティカの言葉をガゼフは反芻する。

 

 そこにクライムもやってくる。

 

「ティカ様! これ以上はおやめください! 無駄な死となります!」

 

 クライムとて軍人だ。戦場であったら敵として戦わなければならないことぐらいわかっている。

 ラナーからティカが帝国に着いた時点で、戦場に来た事で剣を交えることになると覚悟は決まっていた。

 

 だが──これはあんまりじゃなかろうか。

 

 圧倒的な力を持つモンスターにただ蹂躙され、殺され、躯を晒すだけというのは。

 帝国の勝利はもう決まっている。ここであのモンスターたちを撤退させても何も問題ないはずだ。むしろそうするべきだ。

 そうクライムは考える。

 

「いいえ。無駄にはならないわ。全ての死者は私がありがたく使うモノ。死体も有効活用しないと、ね」

 

 ティカはそう微笑みで返した。

 それにクライムはゾッとする物を感じ、一歩あとずさりした。

 

「……クライム。そこまでにしておけ。そしてティカ殿。モンスターたちの動きを止めてくれた貴女には申し訳ないが──断らせていただく」

 

 その言葉にティカは驚いたように目を開いた。

 

「あら、アンデッドになるのが嫌だった? アンデッド化しても自我は残るわよ。それにアンデッドが嫌だというのなら悪魔や天使、ハーフゴーレムにしてあげてもいいわ」

 

 その言葉にガゼフは苦笑した。

 

「そういう問題ではない。私は王の(つるぎ)だ。王を裏切ることは出来ない」

 

 その言葉にティカの眼がすぅと細くなる。

 

「その結果王国民二十万全員が死ぬことになっても?」

「そうだ。私は王の剣。私を王国戦士長に任命し、この五宝物を預けてくださった王を裏切ることは出来ない。私は王の剣なのだから」

「愚かね、がゼロ・ストロノーフ……ならとっとと殺して、その死体を貰おうかしら」

 

 ティカが冷めた目でそう言い、右手で何かを掴もうとするモーションをする。

 だがその前に、ガゼフは叫んだ。

 

「ティカ殿! 恩義を受けた身でありながら無礼を承知のうえで頼む! 汝に一騎打ちを申し込む!」

 

 その言葉にティカは目を点にして驚いた。

 

「……正気? 死ぬわよ、貴方」

「正気だとも。敵の首魁が目の前。ならば剣を取らない理由がないだろう?」

「目の前、ねぇ……物理的にはそうだけど──」

 

 ティカが左手を軽く振るう。

 それだけで黒い仔山羊が触手を振るい、ガゼフの横をえぐり取った。

 ガゼフはそれを目で追う事が出来ず、事象が起こった後に認識するのが精いっぱいだ。

 

「それ以外の距離は……ねぇ」

「だとしても、戦わない理由にはならない」

 

 ガゼフは強い目でそう宣言した。

 それを見てティカは、この手の人種には何を言っても無駄か、と肩をすくめた。

 

「いいわ。その一騎打ち、受けてあげる」

「感謝する! ……クライム。一騎打ちの見届け人になってくれ」

「それは──」

 

 ガゼフはクライムを強く見る。

 それに気圧され、クライムは「わかりました」と絞り出すように言った。

 

 ティカはガゼフからある程度距離を取る。

 そして、アイテムボックスからアストラを取り出す。

 

 ガゼフとクライムの二人はその剣に魅了される。

 

 銀色の結晶で出来た大剣だ。二メートルほどの片刃の剣である。

 

「これで相手してあげる……クライム、合図をして。それが始まりよ」

「わかりました。魔法のハンドベルがあるので、それを鳴らします」

 

 二人とも了承した。

 

「それで、私が勝ったら貴方の死体と装備は貰ってもいいかしら?」

 

 その言葉にガゼフは苦笑した。

 

「死体ならまだしも、装備品は勘弁してくれ。王から授かった物だ。失う訳にはいかない」

「あらそう……なら死体だけでいいわ」

 

 一定の距離でガゼフとティカ、二人が対峙する。

 

 そして、クライムがベルを鳴らした。

 

「──」

 

 瞬間ガゼフが突撃し、ある武技を使う。

 それは元アダマンタイト級冒険者ヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファンが開発したものの、歳のせいで使えなかった武技だ。

 ガゼフオリジナルの<六光連斬>が数の武技ならばこの武技は個として最強の武技だ。

 

 その武技を──放った。

 

 ティカは一瞬驚いた表情を浮かべつつもアストラで受け止めた。

 アストラに少しの傷が入り、ティカは驚愕した表情を浮かべた。

 アストラは神話級、武器として最高位の武器だ。それに傷がついたことに驚愕せざる負えない。

 

 少し、ティカが押された。

 だがティカはすぐアストラを振るった。

 

 ガゼフは幾つかの武技を併用して何とか後ろに動く事で回避する。

 

「私相手だと、魔法を使うまでもないのかな?」

 

 ガゼフが冷や汗を流しながら問いかけた。

 

「最期のひと時を、少しでも長くしてあげるだけよ。強者故の余裕ってやつ……よ!」

 

 ティカがアストラを虚空に向かって振るった。

 銀色の飛ぶ斬撃が放たれた。ガゼフは<超回避>で回避する。

 

 地面が切られ、大地に傷がつく。

 

「凄まじいな……!」

 

 ならばとガゼフは接近する。

 

「接近戦がお望み? いいわ、乗ってあげる」

 

 そう言うとティカはアストラでガゼフのレイザーエッジを受け止める。

 だが受け止めるだけではない。攻撃にも転じる。

 ティカは戦士職も経験したことがある。

 ユグドラシルはレベルが上がりやすく、そしてレベルを下げやすい。

 九十レベルまでならば一週間もプレイしていれば簡単に上がるのだ。そしてデスペナルティは五レベルのダウンと装備品のドロップのみ。

 だからティカはあらゆる職を楽しんだ。ウォーリァー、レンジャー、魔法詠唱者(マジック・キャスター)。ドルイドなど。

 最終的に種族悪魔の死霊術師に落ち着いたが、悪魔は戦士系の種族。

 戦士としての技量もあった方が良いだろう、とベルディアや野良相手に戦士として戦ったことがある。

 更には完全な戦士化の魔法である<完璧なる戦士>(パーフェクト・ウォーリァー)も使える。特殊技術(スキル)こそ持たないが立ち回りは戦士のそれを持っているのだ。

 

(強い!)

 

 ただの木偶ではなく戦士としての技能も持っている──そのことに戦慄しながらガゼフはティカと剣を交える。

 

 ティカは楽しんでいた。

 この世界に来て同格──戦士としては──との戦いに。

 それには余裕があった。装備品の質、そしてレベルも圧倒的に上だからこその余裕が。

 

 ガゼフのレベルは二十九。英雄級にはぎりぎり届かないが、それでも人類の限界に近い。だからこそ、戦士職三十七レベル分相応のティカと渡り合えている。

 

 だが、このままだと負けるとガゼフは判断した。

 

 疲労はお互いに無い。だが、余裕の差がある。

 

 さらに言えば相手は本職は魔法詠唱者(マジック・キャスター)、つまり剣を交えることなく戦うのが本職だ。

 ガゼフはロクな対空手段を持たない。勿論遠距離攻撃武技である<空斬>は習得しているが、直接切るより大きくダメージが落ちる。

 つまりティカが空を飛んで爆撃すれば抵抗する手段が殆どないのだ。

 

 その手段を取られたら負ける──そう判断したガゼフは奥の手を切った。

 

 

 それはある老婆から貰った竜の秘宝。使えば戦士としての能力を限界を超えて高めてくれるという物だ。

 ユグドラシル風に言うならば、戦士職としてのレベルをプラス五するというとんでもない──ワールドアイテムにすら匹敵する代物だ。

 

 瞬間ガゼフはティカの予測を超えた力を発揮する。

 ティカも戦ってきたことで相手のこれまでの動きから次の動作を予測することなど動作もない。

 しかしだからこそ竜の秘宝は効いた。予測以上の速度と力を発揮したのだから。

 

 ティカは防御が間に合わず──胸を袈裟斬りにされた。

 

 ティカは驚愕し、痛みを感じるが瞬時に後ろに飛ぶ事で距離を取る。

 

 ティカは左手で己の胸に手を触れ、流れ出る血を見て──笑った。

 

 

「あっはははははは! まさか人間程度がここまでやるとは! 舐めてたわ! ガゼフ・ストロノーフ! 称賛するわ!」

 

 あーっはっはははは! とティカは笑った。

 それを見てガゼフはこれならまだ勝機はありうる、と判断するがそれは間違いだった。

 

なんとティカの傷が治っていくのだ。

決して深い傷ではない。ただ薄皮が切れた程度。だがそれでもダメージだった。

それが治っていく。何もなかったかのように。

ティカが装備している指輪の一つに<生命力持続回復>(リジェネート)の力がこもった物がある。それによる自己再生だ。

 

「お礼に本気(魔法)で相手してあげるわ」

 

 その言葉を聞くと同時にガゼフは駆け出した。

 魔法を使われれば勝ち目はないとわかっているから。

 

<真なる死>(トゥルー・デス)

 

 放たれたのは第九位階の即死魔法。

 低位魔法での蘇生を無効化する、最高位の即死魔法だ。

 

 それによりガゼフは動きを止め、倒れた。ガゼフは生命活動を停止……死んだのだ。

 

「ガゼフ様?!」

 

 級に倒れたガゼフを見てクライムが叫んだ。

 

「もう死んでるわ」

 

 ティカがアストラをアイテムボックスに仕舞いながらガゼフに近づいた。

 それを見たクライムが決死の形相でガゼフの元まで走った。

 

「ガゼフ様の遺体は使わせません!」

 

 クライムの先の問答を聞いている。死霊術師に使わせる訳にはいかないと叫んだ。

 それを見たティカははぁ、とため息を吐いた。

 

「ガゼフ・ストロノーフに免じて、その遺体に手を出さないわ。それに……黒い仔山羊たちも撤退させてあげる。けど、王国に伝えなさい」

 

 最期の時は近い──と。

 

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