数日後。
「ここがカッツェ平野、ね」
ティカとフォーサイトはカッツェ平野に来ていた。
多少の起伏はあるが殆ど平坦な地だ。地面は赤茶色い。
常に薄暗い霧に包まれており、この霧からはアンデッド反応が出るのでアンデッド探知を阻害される。
何故霧が出るのかはわかっていない。
この霧の中にはアンデッドが無数に居る。
だがしかし、帝国と王国の毎年の戦争の時だけは霧が晴れ、アンデッドもどこかに消えている。
その呪われた地にティカは来ていた。
左手にはそこらの川辺に転がっていそうな紫色の光を放っている石を持っている。
「この中じゃアンデッド探知できないんで、イミーナ……レンジャーの探知が頼りです。気を付けて行きましょう」
ヘッケランがそう注意する。
「わかったわ。それじゃ、行きましょう」
「はい!」
一行は霧の中を進む。
目的は二つ。幽霊船の入手と道中出現するアンデッドの捕獲だ。
アンデッドを公共事業に使えば金が回るとアルフレッドから教えられたティカは己の力でアンデッドを支配すべくこの地に来たのだ。
最初はクラルグラに任せるだけでいいかと思ったが、数を揃えるなら自分も行った方が良いかと思い直しフォーサイトを連れてきたのだ。
そうして五分ほど歩いているとアンデッドたちに遭遇する。
ただのスケルトン四体だ。
「じゃあ、行くわよー」
『……任せろ』
手に持っている石──死の宝珠が嫌そうな声と共に力を行使した。
死の宝珠はアンデッド支配能力を高める秘宝だ。
そしてその能力の上昇は固定値上昇ではなく割合上昇だ。
そのために元からアンデッド支配能力を持たない者には支配能力の増強は意味を成さないが、それでも負のエネルギーを元に死霊系魔法を幾つか行使できるため強いアイテムだ。
そして割合上昇という事はティカのアンデッド支配能力を大きく高めることになる。
更に支配数の増加もあるのでティカレベルならアンデッド数千体を支配下に置けるだろう。
目の前のスケルトン四体は簡単に支配下に入った。
「じゃあ転移魔法で送るわ。
転移魔法でスケルトン四体を一旦方舟のアンデッド保管庫に転移させる。
「それじゃあ、サクサク行きましょ」
一行は霧の中を進む──
■
二日が経った。
その間一行は折れ塔という目印の場所に野営した。
勿論ティカの持つグリーンシークレットハウスを使っての野営だ。
更にこの地に出るのは殆どアンデッドなのでティカが習得しているアンデッド除けの魔法
そして翌日からは進み方を少し変えた。
サモンアンデッドでエルダーリッチを召喚し、それらに
約三体のエルダーリッチが空から探索をしつつ、フォーサイトとクラルグラも探索をしている。
そうして進んでいるとエルダーリッチから
『目的の物らしき船を発見しました』
「了解。そこに転移するわ……みんな。召喚したエルダーリッチが幽霊船を見つけたわ。転移で行きましょう」
「わかりました!」
ティカの元のフォーサイトの者たちは集まり、転移魔法で幽霊船の元まで転移した。
「これが……幽霊船」
アルシェが驚愕の声を漏らした。
視界に映るのは巨大な船だ。
地面から一メートル程浮遊しているガレアス船だ。
だが非常にボロボロで、水上に浮くことなくそのまま沈んでいきそうな不安さを感じさせる。
船体には大きな穴があり、板がめくれ上がってる箇所が多数ある。
マストは三本。横帆が2つ、最後尾に縦帆が付いている。
マストもボロボロでマストとして機能している用には見えない。
「まさか本当にあるとは……どうやって侵入します?」
「空を飛んで行きましょ。
全員に飛行魔法をかけると一行は空を飛ぶ。
空から船の上に位置すると船上に居たスケルトンたちがクロスボウを構えた。
「私の後ろに」
ティカがそういうと先頭に立つ──飛んでいるので浮くの方が正しいかもしれない──とスケルトンたちは矢を放った。
しかし魔法的効果が無い遠距離攻撃だった為ティカの前に謎の障壁が現れ弾かれていった。
(船だと
「仕方ない、あのスケルトンたちはフォーサイトに任せるわ。降りるわよ」
「わっかりました!」
そう言うと船上に降りる。
降りた後もスケルトンたちはクロスボウで攻撃をする。
(クロスボウが通じないのはさっきのでわかったはずなのに再度攻撃する……知能は低いのかしら)
そう思考している間にもフォーサイトがスケルトンたちを一瞬で破壊した。
ただのスケルトンよりは強いが誤差とも言えない範囲だったので楽勝であった。
「こぉぉぉおら! 俺の嫁の上で何してやがる!」
そこに知性ある者の叫びが放たれた。
船の前後にある扉の内後ろの方の扉が開けられ、中からアンデッドが出て来た。
片手に抜身のシミターを持ち、頭には三角帽。地味な厚手のコートとズボンという海賊船の船長のような出で立ちのアンデッドだ。
なんなら顔には皮膚がついており、髭も生えている。
「
エルダーリッチらしきアンデッドは火球の魔法を放った。
ティカは船の上で炎魔法とかマジか、と思いつつアルシェが迎撃魔法を唱え相殺した。
「あなた、この船の船長?」
「そうだ! 俺はグレルネ、この鋼の戦乙女号の船長だ!」
鋼要素どこだよ。全員の思考が一致した。
「まぁいいわ……ついでなら貴方も支配してあげるわ」
ティカはそういうとこの船型のアンデッドにアンデッド支配の力を使った。
既にアンデッド探知魔法でこの船がアンデッドである事は把握済みである。
鋼の戦乙女号が相手の支配下に置かれた。そのことを察知したグレルネは──叫んだ。
「寝取られだぁぁぁぁ?!」
何言ってんだお前。またも全員の思考が一致した。
「寝てからいいさないよ」
イミーナが冷静に言った。アンデッド、しかもスケルトン系に近いグレルネにナニは無い。いやそもそも鋼の戦乙女号は船なのでナニの使用がない。
「嫁を取られちまった! こんな生者がいいのか?! 死者には無いぬくもりがあるってか畜生め! この鬼畜! 間女!」
「何を言っているんだお前は」
ティカは思わず素になって言ってしまった。
「んんっ! ──あなたも私の支配下に入りなさい」
ティカはそういうと死の宝珠を掲げた。
それによりグレルネも支配下に入った。
「嫁だけでは飽き足らず俺までも寝取るのか?! このビッチめ!」
「ビッチはやめろや」
ティカはまたも素になっていってしまった。
だがこれでこの変なアンデッドはティカの支配下である。目的は達成した。
「くっ……不肖このグレルネは貴女に忠誠を誓います……だが! 嫁と俺の愛はたとえ主であっても邪魔はさせない!」
「邪魔する気無いから安心しなさい……取りあえずこれで目的達成ね。フォーサイトもここまでありがとう」
「お、おう……思ったよりだいぶはっちゃけた奴だな……」
ヘッケランはグレルネを見てこんなアンデッドも居るんだな、と遠い目をした。
こうして雑魚アンデッド数百体と幽霊船を手にしたティカは堂々と幽霊船でエ・ランテルに帰還した。
クラルグラは特に役に立たなかった。