村のはずれでティカは夫ルドガーと情報交換をしていた。
「帝国ではなくスレイン法国、か。けど襲った理由は末端の彼らには知らされていない……厄介ね」
「恐らくは餌だろう。と言っても釣りの獲物はわからないが」
「……ここから離れた方がいいかしら」
「いや、このままここで敵を待つ。下手に逃げて相手の殺害リストに載るのは不味い。ここで敵を捕縛する」
捕縛、という言葉にティカは疑問符を浮かべた。
「捕縛? 殺すのではなく?」
「あぁ。相手は国の中でも上層部に近い存在。捕らえれば情報が山のように手に入るだろう」
「ならアルフレッドに拷問室を開けておくよう
「そうしてくれ。そのあと一緒に村長まで敵がまた来るかもしれないことを伝えておこう」
「わかったわ。
そうして話しながら二人は村長の元まで行くのだった。
■
夕方。方舟から連絡があった。
なんでも村に接近する二つの武装集団を見つけたとのこと。
一つは戦士らしき集団でもう一つはローブを被った
ティカとルドガーの二人は村の広間で迎え撃つ体勢だ。
どちらがスレイン法国の部隊なのかわからない現状特に出来る事はない。村長にも避難してもらっており、何かあったら
そうして待つことしばし。村に戦士の装いをした者たち──リ・エスティーゼ王国所属のガゼフ・ストロノーフ率いる戦士団が入って来た。
全員馬に乗っており、ティカとルドガーに近づく。
先頭の男、ガゼフは馬を止め二人の上から話しかける。
「馬上より失礼! 私はリ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ! この周辺の村々を襲う帝国騎士を討伐しにまいった者である。お二人は何者だ? 村人ではない……かといって冒険者のようでもなさそうだが」
ティカが返答する。
「私たちは旅人よ。この地には転移魔法の事故でこの地に来たの。村を襲った騎士たちは私たちが倒したわ。証拠として騎士たちの鎧を倉庫に保管してあるわ……それで、念のため聞くけどあなたが王国戦士長だという証拠は?」
「……証明できる物はない。だが、信じて欲しい。私たちは村々を助けに来たのだ」
その言葉に嘘がないことをティカは感知した。
悪魔という種族は嘘に敏感というフレーバーテキストがある。それが実体化し嘘感知能力となったのだ。
といっても同レベル体だったり精神系の攻撃に対策を積んでいる相手には効かないが。
「わかった、信じるわ。騎士たちの装備はあなたに売却という形でいいかしら? 村の復興資金にもしないといけないし」
「……承った。こちらで買い取る形にしよう」
「あぁ、それと……村に近づいている
「なんと! そうか……こちらからも確認させ──」
「戦士長! 村を被うように複数の人影が!」
そこに見張りに立っていた戦士がそう叫んできた。
流石にめんどくさくなってきたな、とティカはため息を吐いた。
■
村の今は人がいない家の窓から外を見る。
そこには天使のモンスター、
「あれは
ティカがユグドラシルのモンスターが居るという事は魔法や
「貴女はあのモンスターについて知っているのか?」
ガゼフがそう尋ねた。
「えぇ。あれは第三位階の魔法で召喚できる天使系モンスターで、魔法的効果のない物理攻撃に対し耐性を持っていたはずよ」
「なるほど、強敵だな」
ガゼフは苦笑した。
第三位階など一部の天才のみが習得可能な上位の魔法だ。
その魔法を集団の全員が使っている。圧倒的な力だ。
「それだけの相手、となると恐らくはスレイン法国、しかも六色聖典のいずれかだろうな」
六色聖典というのはスレイン法国の暗部、表向きは存在しない秘密部隊の事だ。
六色の名の通り六つの部隊がある。
今カルネ村に攻めてきているのは陽光聖典という本来は亜人種の討伐に動く舞台だ。
そこまでは流石にガゼフはわからないが、それでも大部隊だ。
それが動くほど自分は有名になったのか、と少し苦笑した。
そして、これからどうすれば自分は生き残り、国の為に剣を振るえるか考える。
「ティカ殿、ルドガー殿。良ければ雇われないか? 報酬は望む額だそう」
「お断りするわ。あなたの国に所属して一国とやり合うなど嫌よ」
「……なら、王国の法を用いて強制的に、というのはどうだ?」
その言葉に対しルドガーが殺気を放った。
「あなた」
ティカがそう言う事で殺気が瞬時に収められた。
「……辞めておこう。六色聖典よりも恐ろしいモノを相手にしそうだ……だが、これだけは頼みたい」
そうガゼフは頭を下げようとしながら言う。
「どうか村人たちだけは守って欲しい。なにとぞ──」
「国の顔とも言える戦士長がそうたやすく頭を下げる物じゃないわ……いいわよ、村人たちなら私たちが守ってあげる」
その言葉にガゼフは顔を明るくした。
「ならば後顧の憂いなし! 私は前だけを見て進ませていただこう」
「……一応、餞別にこれあげるわ」
ティカはアイテムボックスから木の像を取り出しガゼフに渡した。
「貴女からの品だ。ありがたく頂こう」
ガゼフはそれを受け取り、カルネ村を後にするのだった。
■
「──何者だ、お前たち」
日が沈みかけているころ。
ティカとルドガーの二人組が陽光聖典の前に現れた。
先ほどまで陽光聖典と戦っていた戦士団はティカの持っていた課金アイテムで村の倉庫に転移済みだ。
「初めまして、スレイン法国の特殊部隊。私はティカ、こっちは夫のルドガーよ」
「……夫婦の旅人……?」
ニグンは考える。目の前に現れた亜人種らしき女と男を。
転移魔法か何か使えるらしいが、亜人退治のスペシャリストである自分たちの敵ではないと思いつつ警戒は強める。
「認識は好きなように。これから私たちはあなた達をおもちゃにするわ」
「おもちゃだと?」
ティカのその言葉に陽光聖典隊長ニグンは冷や汗を流した。
「そう。遊んで、弄って、捻って、こねくりまして。私たちの道具になってもらうの──素敵でしょう? 私たち夫婦の初めての旅を台無しにしてくれた愚か者には」
「ずいぶんと、大きく出たな、女。天使を突撃させろ!」
ニグンがそう叫びと隊員たちが
ルドガーが前に出て大剣ドゥームズを振るった。
「ぬぅん!」
ルドガーのレベルは百。十と少し程度の天使に負ける理由がない。
「なん……だと……」
某死神漫画みたいな台詞だな、とティカは思った。
「ぷ、
ニグンの背後に控えていた天使が動き出した。
動かすのは悪手だが、それでもニグンは動かしてしまった。
「面倒ね──
ティカの指先から吹けば消えてしまいそうな黒い炎が生成された。
その炎は天使に飛んで行き、当たるとごうごうと黒く燃え盛った。
一分も経たずに天使は燃えて消え、光の粒子となって消えた。
「あ、ありえるかぁぁ?! 上位天使がたった一撃でやられるわけがない!」
ニグンは今の現実を直視したくなく叫んだ。
現実を認められない男は醜いな、とティカが思っていると隊員が叫ぶ。
「ニグン隊長! 我々はどうしたら?!」
「──さ、最高位天使を召喚する!」
そう叫びニグンは懐からあるマジックアイテムを取り出した。
掌より少し大きい程度の水晶だ。名を魔封じの水晶。
輝きに応じて込められる魔法が変わるというアイテムで、このアイテムは魔法が使えない職業の者でも一度だけ魔法の行使を可能にするという物だ。消耗品である。
「あれは……!」
「ティカ、俺の後ろに」
二人の種族は悪魔。天使とは相性が悪い。
第十位階魔法で召喚できる天使に
それが相手となるとさすがに本気を出さざる負えなくなる。
「見よ! 最高位天使の尊き姿を! ──
魔封じの水晶が砕け、魔法が発動される。
発動されたのは第七位階の天使召喚の魔法だ。
空に無数の白い無垢な翼が付いた体だけの天使が召喚される。
よく見れば頭部と腕はあるが足はない。
両の手で笏を持っている。
「……この程度か」
はぁ、とティカはため息を吐いた。
たかが第七位階で召喚できる天使など雑兵に過ぎない。
「こ、この程度だと?!」
小声で言ったつもりだがニグンには聞かれていたらしい。
ティカはふん、と鼻で笑った。
「えぇ、何度でもいうわ。この程度の雑魚をいくら集めたところで私たち夫婦には叶わないわ──絶望を知りなさい。
天使の体に小さな黒い穴が生まれた。
黒い穴はものすごい勢いで天使を飲み込んでいく。
そうして十秒と経たず天使は飲みこまれ、消えた。
「ありない……お前は……いったいなんなんだ……」
「ただの夫婦よ」
空がパキリ、と割れた。
「──攻勢防壁が起動したわ。誰かがここを魔法で見ようとしたみたいね」
ティカはこれでも魔境ユグドラシルの出身だ。
PKから守るために最低限身も守るために攻勢防壁の魔法ぐらいは覚えて使用済みだ。
設定しているのは範囲強化した
「さて、あなた達は私の家に来てもらうわ。たっぷりと……そう、たっぷりと可愛がってあげるわ」
そうにっこりと、ティカは悪魔的な笑みを見せるのだった。