劣化アインズの夫婦の旅   作:Revak

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第4話

 

 数日後。

 ティカは自室で報告書を受け取っていた。

 

「こちらが陽光聖典から得た情報をまとめた書類です」

「ありがとう」

 

 自宅の執務机に座り、アルフレッドから受け取った書類を読む。

 書類には周辺国家の情勢や生まれながらの異能(タレント)や武技という現地特有の異能についても書かれている。

 

「読みやすいわ、ありがとう」

「勿体なき御言葉……! 心より感謝申し上げます」

 

 ティカはルドガー以外のNPCのこれには慣れないな、と苦笑した。

 設定に絶対の忠誠を捧げているとか書いたのが駄目だっただろうかと思いつつ書類を読んでいく。

 

(真なる竜王、神人、アダマンタイト級冒険者……平和に暮らしていくには障害が多いわね)

 

 戦力の増強はほぼ必須だ。

 このノアの方舟はギルド拠点ではないので維持費はかからないが、隠密性能にかける。

 空を飛んでいる為飛行できる者でないとこれないが、逆を言えば飛行さえできれば割と気軽に来れるのだ。

 一応防衛設備として大砲や主砲があるが、防衛にはあまり向かないだろう。

 

「それと、陽光聖典の者たちは三度質問に答えると死にました。蘇生してみますか?」

「そうね、ユグドラシルと同じなら拠点で復活される可能性はあるけど……実験は必要。試してみて」

「畏まりました」

 

 ぺらぺらと書類をめくりつつ情報を会得していく。

 ティカの頭は優れてないし、悪いとも言えない普通の頭だ。

 だから一度に大量の情報を浴びせられると多少混乱する。

 が、これでも魔境ユグドラシルでワールドアイテムを保有し続けられた一級の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。

 どうにか情報を飲み込む。

 

(現地に赴いて直接情報収集する必要があるわね)

 

 方舟の防衛力は正直低い。

 レベル百NPCが三人しかいないため、普通の百レベルパーティが一組来るだけで負けるだろう。

 だから防衛力の強化は必須だ。

 

 ティカはアンデッドの強化よりもアンデッドの支配数の方に重きを置いた死霊術師だ。

 だから方舟内には十体の八十レベルアンデッドが居るが、まだまだ枠に余裕はある。

 

 この世界特有の珍しいアンデッドもいるかもしれない。そう思いティカは決めた。

 

「暫くは夫と冒険者をするわ」

「畏まりました。家族旅行ですね。私たちが同行しても?」

「……いえ。暫くは二人で行動するわ。あなた達は方舟を守って頂戴」

「畏まりました」

 

 さぁ、冒険に出かけよう──うきうき気分でティカは夫の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 リ・エスティーゼ王国。南東にあるエ・ランテルは城塞都市だ。

 三重の壁に囲まれた堅牢な都市であり、帝国軍でさえもこの都市を落とすのは一筋縄ではいかないだろう。

 リ・エスティーゼ王国の都市だがバハルス帝国、スレイン法国三カ国と繋がる要所であり、重要度は非常に高い。王の直轄領でもあるのだ。

 

 その都市の門前に、ティカとルドガーは並んでいた。

 二人は装備を変えていた。

 ルドガーが悪魔らしき騎士の格好を辞め、全身鎧ではあるが顔が露出している物にし、どこか堅牢な騎士を思わせる格好だ。

 ティカは黒い陰部だけ隠した布を辞め、魔法詠唱者(マジック・キャスター)らしいが、それでも少し露出が多いミニスカートを履いた服を着ていた。

 本来の装備品のランクから一段階落としたのは理由は二つ。

 一つはあの装備だと目立ちすぎるというのと、もう一つは何かあった時の為の奥の手として隠しておくためだ。

 そのため武器も試作段階で作って置いた性能が落ちている物を装備している。

 

 ティカがルドガーの腕に抱き着きながらラブラブ夫婦を演出しながら列を待つ。

 

 この都市に入るには検問がある。訪問税を払わないといけないのだ。

 と言っても法外な値段という事はなく、一人銅貨五枚程度だし、村人などなら村長からの委任状などがあればもっと安くなる。

 

 二人は注目を集めながら列を待っていた。

 

 何せティカは目立つ。

 美人ではあるが。世界一の美女だとかいうほどではない。では目立つ理由はというと二つ。角と耳だ。

 エルフ種特有にしては長く鋭い耳に額から出ている銀色の角が主張するのだ。

 更にはルドガーも悪魔の角を持つ。目立たない理由がなかった。

 

 並んでいる商人や冒険者たちは警戒しつつも、ティカがルドガーに抱き着いてるのを見てあまり危険じゃなさそうだなと思っていた。

 

 そうして待つことしばし。ようやくティカたちの番が来た。

 

 兵士たちはティカを見て驚いた顔をするが、すぐに気を取り直し警戒を強めた。流石は三国の要所の兵士名だけはあるだろう。地味にルドガーは彼らを評価した。

 

 検問室に二人は通され、椅子に座らされた。

 

「え、えっと……お二人はこの都市に何の用で?」

 

 兵士が若干困惑しつつ問いかけた。

 

「冒険者になりに来たの」

「冒険者、ですか……どこから来たか聞いても?」

「カルネ村の方から来たわ。私たちは旅人で、見分の旅をしているの」

「そう、ですか……えぇっと、人を食べたりはしないですよね?」

 

 見たところ亜人なので気になったので正直に兵士は問いかけた。

 

「食べたりしないわ(肉体は)」

 

 何か副音声が付いた気がするが兵士は気にしないことにした。

 

「えっと、もう少し待っててくださいね」

 

 そうして二分ほど待っていると部屋に深いローブを被った魔法詠唱者(マジック・キャスター)の男がやって来た。ねじれた杖を持っている。

 

「亜人二人か……何か怪しい物を持ってないか確認させてもらうぞ」

「えぇ、どうぞ」

「では……<魔法探知>(ディテクト・マジック)

 

 探知魔法を暑そうな男が使った。

 結果は、何も無し。

 

「うむ。危険な物は持ってないようだ。問題ないな」

 

 無論ティカたちの装備はマジックアイテムである。

 だが二人とも探知阻害の指輪を付けている為無効化されたのだ。

 

「そうですか……お二人の名前をお聞きしても?」

「ティカよ」

「ルドガーだ」

 

 

「ではティカさん、ルドガーさん。ようこそ。エ・ランテルへ」

 

 

 

 

 ■

 

 

 門の奥を通りエ・ランテル市内に二人は入った。

 

「素敵な街ね」

 

 ティカはあたりを見回しながら言った。

 人々の笑顔は明るく、街もある程度整備されている。ユグドラシルにもありそうな街だ。

 

「まずは組合に行きたいのだけど……」

「あの者に聞いてみよう」

 

 村長から聞いた冒険者の特徴、胸にプレートをかけている者にティカが話しかける。

 

「そこのあなた、少しいいかしら」

 

 ティカが話しかけると話しかけられた男、ペテルは「いいですよ」とティカの容姿に驚きながら返答した。

 

「冒険者組合に行きたいのだけど、どこにあるかしら?」

「冒険者組合でしたらこの道を──」

 

 ペテルの言葉を聞き、二人は道を把握する。

 

「ありがとう。また縁があったらよろしくね」

「えぇ、よろしくお願いします」

 

 そうして二人は冒険者組合に行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 冒険者組合で登録を済ませた二人は組合を出た。

 外に居た者たちから視線が集まる。推定亜人種──実際は異形種──の者だから当然だ。

 だがその視線も胸にかけられた銅のプレートによってすぐさま消え失せる。冒険者であるというのは立派な社会的地位があった。まぁ底辺に近いが。

 

 そうして二人は会話をしながら宿屋へと向かった。

 

「意外と簡単になれるのね」

「スラム落ちを防ぐ最後の防波堤の役割もあるのだろう。出なければい……亜人種の我々がこうも簡単に受け入れられるとは思わない」

「あぁ、そういう面もあるのね……」

 

 そうして話していると組合から紹介された宿屋に着く。

 現地の文字は読めないが翻訳アイテムが複数あるので二人とも身に着けている為読める。

 

 宿の中に入る。

 

(うわ、汚い)

 

 宿の質は最悪と言ってもよかった。

 碌に掃除されていないのか床の木と木の間には食べかすが詰まっているし、窓枠には埃が溜まっている。

 客層も人柄が悪く山賊の拠点と言われても納得しそうなところがあった。

 

 二人は注目を集めながらカウンターに行く。

 その視線にはやはり何で亜人がこんなところに? という疑問のモノが多かった。

 中には剣の柄に手をかけている者も居る。

 

「一泊したいのだけど」

「宿か。相部屋で五銅貨。飯は──」

「二人部屋をお願いするわ」

「……あんた、カッパーの冒険者だろう。なんでこの宿が進められたかわからないのか?」

「私たち夫婦なの。だから、二人部屋じゃないと……ね」

 

 その言葉に店主はカチンときた。

 どん、とカウンターを叩いた。

 

「うちは連れ込み宿じゃねぇぞ! まともな冒険者になりたくないのか!」

「流石にここでヤるほど馬鹿じゃないわよ。けど間違いがあったら嫌でしょ? 私女だし」

「……そう言う事にしといてやる。一日飯付きで十銅貨だ」

「わかったわ」

 

 ティカはアイテムボックスから銅貨五枚を取り出した。

 どういう訳かこの世界の通貨もユグドラシルの通貨と同じくアイテムボックスを圧迫しない別枠になっている。

 異空間から銅貨を出したことに店主は一瞬驚くもすぐに対応する。

 

「飯はここで食えよ。今用意するから適当なテーブルに座っとけ」

「わかったわ」

 

 そうしてティカとルドガーは適当な席に着こうとするが、それを邪魔する者がいた。

 足を出し、ひっかけさせようとしている者だ。ティカは気づいて無い。

 ルドガーが前に出てわざと足を引っかけさせた。

 

「おいおいいてぇじゃねぇか」

 

 そうチンピラ風の冒険者は立ち上がりつつ睨む。

 だがすぐにたじろぐ。

 何せルドガーは百九十五センチと二メートル近い長身だ。

 しかし他の仲間たちが立ち上がった事で気を取り直す。三対二だ。

 

「こ、こりゃ慰謝料貰わねぇとな」

 

 そう威圧されながらもチンピラは言った。

 

「お前ごときにやる金はない」

「なにを──」

 

 そのままルドガーは男の頭を掴んで持ち上げた。

 圧倒的握力と膂力があって出来る事だ。

 そしてそのままチンピラを放り投げた。

 

「まだやるか?」

 

 ルドガーがそういうと男たちはすぅ……と席に着いた。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

 女の悲鳴が木霊した。

 なんだ、と宿に居る者たちの視線が声の方に向く。

 そこには女の赤い髪の冒険者が割れた瓶を手に叫んでいた。

 

 その女はキッとルドガーを睨むとずかずかと近寄った。

 

「ちょっとちょっとあんた、何してくれてんの?! あんたのせいで私の大事なポーションが割れちゃったじゃないの!」

「それは……すまない。だが弁償ならこの者たちに請求したらどうだ?」

「あんたらいつも飲んだくれててポーション代工面できないでしょ」

 

 その言葉にチンピラの仲間たちは苦笑いした。

 

「あんたらそんな装備してるってことは金ぐらいあるんでしょ? 現物でもいいからさ」

「わかった。それなら──これでいいか?」

 

 ルドガーがアイテムボックスから最下級のポーションを取り出し、女……ブリタに渡した。

 

 ブリタはその色を見て一瞬怪訝な顔をするも、まぁいいかで済ました。

 ルドガーはそれに気づき配下のシャドウデーモンをブリタに移動させた。

 

 波乱の冒険者生活の幕開けだ。

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