「いい依頼ないわねぇ」
翌日。ティカとルドガーは冒険者組合のクエストボードを見ていた。
そこには銅級……最下級の冒険者が受けられる依頼があった。
だが、どれも大した依頼は無い。
荷物運びに下水道のジャイアントラットの討伐など。
下水道など御免被る。かよわい(当社比)乙女なのだから。
二人とも翻訳用の眼鏡とモノクルをかけている。
この中でどれが一番マシか、と考えていると声をかけられた。
「あの、少しいいですか?」
その声に二人はくるりと振り返る。
「あら、あの時の」
そこに居たのは先日冒険者組合の場所を聞いた男──ペテルが居た。
「えぇ。冒険者になったんですね……ところで、少しいい話があるんですが、聞きませんか?」
ペテルはそう笑顔で言った。
二階のテーブル席に二人は座った。
向こう側にはペテルたち漆黒の剣のメンバーが揃っている。
「では自己紹介を。私はペテル・モーク。チーム漆黒の剣のリーダーで戦士です」
「俺はレンジャーのルクルット・ポルブ。よろしく」
「
「
「私はティカ。
「ルドガーだ、よろしく」
がーん! とルクルットが声を出した。
「夫婦で冒険者になの?! どうして!」
ルクルットが若干涙目になりながら問いかけた。
「私たちは旅人で、世界を見て回る度をしているの。冒険者になったのはその方が旅費を稼げるからね」
「す、凄い旅をしてるんですね」
ペテルが凄いな、とつぶやきつつ返答した。
「それで、話って何かしら」
「そうでした。モンスターを倒すと倒したモンスターに応じて組合から報酬金が出ますよね。今回はそれを狙って一緒に狩りをしませんか? という誘いです」
「ドロップ狙いのようなものね……いいけど、なんで無名の私たちを?」
「一つは先日合った事から縁があるな、というのと……先日の宿屋の一件を聞いたんです。ランクが上の冒険者をぶん投げたとか」
「あぁ。それは確かに俺がやったな」
ルドガーがそう返答した。
「装備に見合うだけの実力はありそうだよな」
とルクルット。
「それじゃあ、トブの大森林外周を回っていこうと思うんですが、そちらは大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。旅の支度もしてあるから日を跨いでも問題ないわ」
「でしたらすぐ行きましょうか。こちらも準備は終わっています」
「えぇ、行きましょう」
という事で一行は席を立ちあがり二階から一階へ降りていく。
その途中の階段でルドガーが声をかけられた。
声をかけたのは受付嬢だ。
「ルドガーさん。ご指名の依頼が入っています」
その言葉に組合がざわついた。
新人冒険者に指名依頼が来ることなどまずありえないのだ。
「そういう話ならば、ティカに頼む。チームとしてのリーダーは妻なんだ」
ルドガーがそういうと更に場がざわついた。
妻、という事は夫婦。夫婦で冒険者なんて言う命の大安売りの職業をしていることに驚愕せざる負えないのだ。
「私が聞く……までもないわ。その指名依頼を受ける事は出来ないわ。既に彼らと冒険の約束をしているの」
ティカがそういうと冒険者たちがひそひそと話し始めた。
せっかくの指名依頼を断る。だが、その断る理由が先約があるというのならば納得できる。
だが、ペテルはそうではなかったようだ。
「ティカさん、せっかくの指名依頼ですよ!」
「だとしても、先に約束した方を優先するのは当然でしょう?」
「えぇっと、出来れば話だけでも聞いて欲しいんですが……」
そこに依頼主のメカクレ少年ンフィーレア・バレアレが現れた。
「話を聞くだけならいいけど、受けるかはまた別よ」
「それでもかまいません。えぇっと、二階で話しましょうか」
そうして一行は二階に逆戻りしたのだった。
■
二階のテーブル席に一行は座る。
ンフィーレアがまずは自己紹介を、と名乗りを上げた。
「僕はンフィーレア・バレアレ。このエ・ランテルで薬師をしています。今回の依頼は、カルネ村での薬草採取です」
(カルネ村?)
ティカはカルネ村という言葉に警戒を少し強めた。
「内容としては道中の護衛、薬草採取中の護衛兼薬草採取の手伝いとなります。だいたい三日ほどかかります」
(護衛かぁ)
ティカは護衛が苦手だ。
「(断った方がいいかしら)」
小声でルドガーに相談する。
「(いや、ここは受けよう。俺に任せてくれ)」
「(わかったわ)」
「なるほど、そういう話なら──ペテルさん。俺たちと共に依頼を受けないか?」
その言葉にペテルは言いたいことを察した表情を見せた。
「と、言いますと?」
「俺たちは戦士と
「なるほど、確かにそのとおりであるな」
ダインが肯定した。
「僕としては構いません」
ンフィーレアがそう言った。決まったような物だ。
「そう言う事なら構いません。報酬は……そうですね、僕たちとあなたたちで半分で構いません」
「む、いいのか? こちらのが取り分多くなってしまうが……」
「えぇ。その分ルドガーさんたちにも活躍してもらいますから、期待してますよ」
(うぐっ)
その言葉にティカは内心ダメージを受けた。ティカは期待されるとダメージを受けるタイプの人間であった。今は悪魔だが。
「ではルートは──」
そのあとは予定を話し、出発するのだった。
■
ンフィーレは馬車に乗って進む。
馬一頭に引かせ、屋根がついてなく、荷台には空いている壺や箱が詰まっている。
エ・ランテルを出て進み始めて一時間。レンジャーのルクルットが口火を切った。
「なー、なんでティカちゃんはルドガーさんと結婚したの?」
その言葉にティカは苦笑で返した。
「ちゃん付けは止めてください。それは夫の特権なので……そうですね、結婚したのは私が夫に惚れて、ぐいぐい迫って結婚までこぎつけたんです」
「なるほど、肉食系女子って訳か」
ルクルットはそれもまたヨシと謎の納得をしていた。
そうして雑談し、一度休憩を挟んでから再度進んでいく。
そうして進んでいるとルクルットが「敵だ」と告げた。
「どこからだ?」
ペテルが剣を抜きながら問いかけた。
「あそこだよ」
ルクルットがさした方角はトブの大森林外周だ。
そこには確かにオーガ四体とゴブリン十二体が来ていた。
オーガは薄茶色の肌に牙の生えた二メートル以上の体躯を持つ亜人種のモンスターだ。力に優れるが、時折オーガソーサラーという変異種の
ゴブリンは人の子供程度の背丈に緑色の肌を持つ。身体能力は成人男性と同程度だが殺意を持って振るうの強い。
ルクルットが矢を放った。
流石に距離がありすぎて当たることはなく、ゴブリンの前に当たった。
それを見たゴブリンは矢を当てることも出来ない無能だ、と相手を過小評価する。自分たちでもこの距離で矢を当てる事は出来ないが。
「かかったな」
「ダインはここでンフィーレアさんを守って。ニニャもここで魔法で支援。私は前に出る。ティカさんとルドガーさんはどうしますか?」
「前に出て攻撃します」
「わかりました。討ち漏らしの無いようお願いしますね」
「任せてください」
そう言うと二人はまるで散歩でもするような気軽さでモンスターたちの前に進む。
ルドガーが背中の大剣を抜く。
黒い結晶にも似た大剣だ。黒曜石の剣に似ている。
ゴブリンたちには目もくれず、オーガに近づく。
オーガは丸太をそのまま加工したような棍棒を振り上げた。
「ぬぅん!」
ルドガーは叫びつつ大剣で振り向きざまに切りつけた。
オーガの腰あたりを斬り上下真っ二つに斬られた。
「一撃で……!」
ペテルがそれを見て感嘆の息を漏らした。
オーガを両断するのは不可能ではない。だがそれには確かな実力と装備の質が居る。そのどちらも持ち合わせた者などそれこそ英雄級──アダマンタイト級冒険者ぐらいのモノだろう。
冒険者には八段階のランクがあり、その最上位でもないと出来ない芸当だ。
「
ティカが魔法を放った。
いかに専門職でなく、第三位階程度だとしてもレベル百の
オーガ二体を貫き焼き殺した。
ゴブリンたちがそれを見て動揺し、逃げ出そうとする者も居た。
「逃がさないわ──
火球が飛んで行く。
ゴブリンたちの集団に命中し、すべてを焼き殺した。
残る最後の一体のオーガはルドガーが大剣で縦に斬り裂いた。
「凄い……オリハルコン……いや、アダマンタイト級の力を……!」
ペテルはそれを見て感激するのだった。