モンスターの集団の剥ぎ取りを終えた夕方。一行は野営の準備をしていた。
ティカとルドガーも野営するはずだが、この世界の常識とは外れたことをしていた。
「なんですかこれ」
ペテルが呆けた顔でティカに問いかけた。
「コテージよ」
ティカの目線の先には立派なコテージがあった。
最大収容数十二人の立派な木造建築である。
これはグリーンシークレットハウスというプレイヤー御用達のマジックアイテムだ。
「コテージって持ち歩くモノだっけ」
ルクルットが疑問を浮かべた。
「私たちはここで寝泊まりするけど……あなた達も泊まる?」
ティカがそう微笑みかけるとペテルが「いいんですか?」と問いかけた。
「えぇ。部屋は余っているわ。ただ食事は作ってもらいたいけど」
「それぐらいなら構いません。ありがとうございます」
「私は
ニニャはそう言い外に行き、他の者たちはコテージの中に入った。
「広いな」
「それに明るい……これは魔法の灯りであるな」
入ってすぐはリビングになっており、キッチンも併設されている。
「なんか外見よりも広くね」
ルクルットが疑問を問いかけたがティカは「気のせいよ」と言った。
そうか、気のせいか、と思いつつ漆黒の剣一行はキッチンに行く。
「そこに冷蔵庫あるから、そこから食材好きに使っていいわよ」
「冷蔵庫? 確か帝国で売ってるマジックアイテムですよね……凄いの持ってるんですね」
「そうなの? これに備え付きのモノだから知らなかったわ」
装甲は無しながら漆黒の剣が食材を取り調理を始めたころニニャも戻ってくる。
ニニャも調理に参加する。
ティカとルドガーも調理に参加したいが出来ない。
ここにある食材は全てバフ効果を持つ食材だ。料理人のクラスを持たないユグドラシルの存在である二人には調理が失敗になる。
だがこの現地民なら調理が可能だ。ただしその場合バフを得る事は出来なくなる。
そうして二十分ほど待っていると料理が出来て、一行は食べるのだった。
■
「あれ? あんな柵あったかな」
翌日。一行はカルネ村の近くまで来ていた。
カルネ村を見てンフィーレアが疑問を浮かべた。
カルネ村には本来柵が無い。これは森の賢王の縄張りが近いためモンスターが来ないからだ。
だが今は不出来だが木の柵によって囲われているし、ゲートもあった。
進んでいくと一人のメイドが現れた。
ゴシックスタイルのメイドだ。金髪碧眼の美少女で、出るところは出てひっこむところは引っ込んでいる。
「お帰りなさいませ、奥様」
そうメイド──ティカが作ったNPCの一人メアリは優雅に一礼をしながら挨拶をした。
「えぇ。あなたもこの村で役立ってる?」
「はい。けが人の治療や材木の入手などを手伝っています」
「それはよかった」
「あの、お二人は知り合いなんですか?」
そこにンフィーレアが問いかけた。その問いかけは漆黒の剣一同の疑問でもあった。
「えぇ。彼女は私の部下よ。この村を守らせているの」
「守らせる? ……何かあったんですか?」
「えぇ。つい先日この村にす──帝国の騎士が現れて襲撃されたの。何人か亡くなったわ」
その言葉にンフィーレアはひどく狼狽した。
「そんな! ちょ、ちょっと馬車をお願いします。僕はえ──知り合いが亡くなってないか確認します!」
そう叫びとンフィーレアは馬車を降り、走って去っていった。
ペテルが御者台に乗り馬を制御し、村へと入っていくのだった。
■
ンフィーレアが走ってすぐ、ンフィーレアが心配した人物──エンリ・エモットの家に辿り着いた。
衝動に任せドアをこじ開けたいのを我慢し、ノックをする。それでも強めに叩いてしまった。
「はーい」と返事が来た。エンリの物ではない。
そのことにドキリとする。
ドアが開けられ、人が出てくる。エンリの母だ。
「あら、ンフィーレアくん! 来るの速いわねぇ」
「おばさん、エンリはいますか?」
「いるわよー、エンリー! ンフィーレア君が来たよー!」
エンリ母がそう家の中に声をかけると返事が来る。今度はエンリの物だ。
すぐに扉までエンリが来た。怪我もしていない、健康的に肌が焼けている少女だ。
「エンリ! よかった、無事だったんだね!」
「ンフィーレア! ……うん。私は無事よ」
ンフィーレアは長いため息を吐いた。
「何があったか、聞いてもいい?」
部屋の椅子に座りンフィーレアはエンリと話していた。
話も終わり、ンフィーレアは得た情報を整理する。
「帝国の騎士が……」
「うん。だけどティカさんとルドガーさんが助けてくれたの」
(……その二人は、間違いなく依頼を受けてくれた二人だ。お二人にも感謝を伝えなきゃ)
ティカたちがいなければカルネ村はまず間違いなく滅んでいただろう。そうなればエンリも今頃は──
そこまで考えンフィーレアは頭を振り払う。
「それで、えっと……メイドさんがいたけど、あの人は?」
「あの人はメアリさん。ティカさんに仕えるメイドで、この村に家を作りたいらしくて来たの。神官様でもあるから治癒魔法とか、策を作るのに天使を召喚したりしてくれてるの」
「神官様がメイドに……? す、すごい人だね」
神官は名誉職だ。誉れ高い職業である。
それなのにメイドをするというのはよほどの訳があるのか、あるいは主に心酔しているか。
「それでね──」
■
ティカとルドガーは村を見下ろせる位置から村の広間を見ていた。
そこには木の的が設置され、村人たちは弓矢で的を狙っていた。
矢を放つと的に当たる。中央には当たってないし、射程距離も短いが確かに当たったのだ。
「報告書は読んでいたけど、こうも変わるのね」
ティカは人は案外簡単に変わる者ね、と見下ろしていた。
メアリを派遣させた本当の理由はこの村に偽拠点を作る事だ。
今後ユグドラシルプレイヤーやそれに準ずる戦力の持ち主と敵対してしまった場合偽の本拠点を用意しそこを襲撃させるという訳だ。カルネ村は表向きただの村なのでそこを襲撃するのをためらってくれたらいいな的な防波堤だ。
方舟は現在はトブの大森林の奥地の空に浮かばせている。
「ん、何か慌てているな」
そこにルドガーが声をかけた。
ティカがルドガーの視線の先を見ると息を切らしながら走ってくるンフィーレアが居た。
「ティカさん! ルドガーさん!」
「どうしたの? そんなに慌てて……まずは息を整えて」
「す、すみません……」
ンフィーレアは何度か深呼吸を繰り返し息を整えた。
「エンリから聞きました。お二人がカルネ村を救ってくれたって」
「まぁ、成り行きでだけど……それがどうかしたの?」
キリっと、ンフィーレアは背筋をただした。
「カルネ村を……僕の想い人を助けてくれて、ありがとうございます」
「まぁ、そう言う事なら感謝を受け止めるわ。お礼とかはいいからね」
「はいっ! ありがとうございました!」
■
「しかしティカさんがこの村を救ったなんてなー」
トブの大森林前に一行は集まっていた。
漆黒の剣も村人からティカたちの事を聞かされたらしい。
「そう大した事はしてないわ。私の力で出来る事をやっただけよ」
「それがすげーんだけどなぁ。ま、お喋りはこれぐらいにして……森の探索と行きます」
そうして一行は森の中へ足を踏み入れた。
森の中は薄暗い。太陽の光が木々に遮られ届かないのだ。
そのくせ草は元気に伸びていて移動を阻害してくる。
ティカはこれが自然かと最初ははしゃいでいたが途中から蟲! クソ! 死ね! となっていた。もしアンデッドなら<絶望のオーラⅤ>を放って蟲を即死させていただろう。
そうして二十分ほど進むと薬草の群生地に辿り着く。
「ここで採取します。皆さんには薬草採取の手伝いと、もしモンスターが来た際の護衛をお願いします」
「わかりました」
「わかったわ」
ティカとルドガーはダインに近づく。
「ダインさん。薬草の採取の仕方を教えてもらえる?」
「うむ。任せるのである」
ダインの指示を仰ぎつつ二人は採取する。問題なく採取が出来たが、ボーナスは無い。
ゲーム時代もアルケミストなどは採取時に採取アイテムのアイテム価値の上昇や数の上昇などの効果があったがそう言ったクラスについてない者はそう言った恩恵は受けられない。採取自体は出来るが。
何度か失敗しつつも多くの薬草を採取出来たのだった。
■
帰りは問題なかった。モンスターの出現もなく無事夕方には帰ることが出来た。
まずは薬草の運搬を、という事で一行はンフィーレアの家……バレアレ薬剤店の裏手に来ていた。
ンフィーレアがドアのカギを開けようとすると既に空いていることに気づいた。
「あれ? おばあちゃんもう帰って来てるのかな」
そうして裏手の薬草保管庫に入る。ンフィーレア以外は各々薬草が入った壺や箱を持っている。
ンフィーレアが中に入り、他の者たちも入ると女の声がした。
「お帰り~ずっと待ってたんだよぉ~」
そこにはネコ科を思わせる可愛らしい容姿の女が居た。歳は二十代前半程度だろうか。
金髪赤目の女で髪型はボブカットだ。ローブを被っておりローブの下からビキニアーマーが見えている。腰には日本のスティレットをさしている。
「あ、あの、どなたですか?」
ンフィーレアがそう言った瞬間ルドガーが前に出る。
圧倒的高速移動に流石の女──元スレイン法国の秘密部隊漆黒聖典の第九席次も視認できない。
そのまま腹をぶん殴りノックバック。薬草棚にぶつけ気絶させた。
「
ティカがアクティブ状態の対象……この世界では敵対する意思を持つ対象を感知する魔法を唱えた。
「そこね」
ティカが部屋から出る。
出て少し進んだ先には今さに逃げようとしている頭髪が無いアンデッドのように生気がない男──カジット・バタンデールが居た。
ティカも蹴りを腹に放つ。カジットがくの字に曲がった。そのまま背骨が折られ、死亡した。
こうして本来ならば街を混沌に陥れれた者たちは、ただの賊としてあっけなく打ち取られた。
「なんなのかしらこいつ」
ティカはそう言いながらカジットの死体をあさる。
この世界ではドロップアイテムが落ちないのでならばと死体あさりをする。まぁネクロマンサーなので間違ってないかもしれないが。
そうしてあさっていると他の装備品とは違ったアイテムがあった。ただの川辺に転がってそうな丸い石を見つけたのだ。
拾ってみると石──死の宝珠が喋りだした。
『……支配できん。何者だ?』
「喋るアイテム……珍しいわね。私はティカよ。あなたは……というより鑑定するか。
鑑定魔法の結果、アイテム名と効果を把握する。
「あなた凄いわね。私の物にするわ」
『……好きにするがいい』
死の宝珠は人間種限定の精神操作能力を持つ。が、当然異形種であるティカには通じない。
そのほかアンデッド支配能力の強化能力を持つためティカのコレクションに相応しい一品と認められアイテムボックスに仕舞われた。
今ここでアンデッドのすると問題なので後でアンデッドにしようと思いつつティカは店の方に戻る。
「そっちは問題ない?」
その問いかけには夫のルドガーが返した。
「問題ない。剥ぎ取りも終わった」
「そう。それじゃあ……このことを組合に報告した方が良いかしら。ンフィーレアさん、同行してもらえる?」
「わ、わかりました。何があったか話させて貰いますね」