翌日。
「~♪」
ティカは方舟内のアンデッド保管庫に来ていた。
この場所にはいずれレベル八十代のアンデッドが十二体。レベル九十の
他には
三メートルほどのこれぞ死神と言った風貌のアンデッドだ。
これは職業
<アンデッドの副官>は一度に一体しか作れないアンデッドだ。
ティカはシャドウデーモンを使い死体安置所に置かれたクレマンティーヌとカジットの死体を回収していたのだ。
その二人にアンデッド化の
まずは最初にカジットをアンデッド化させる。
「おぉ……我が主よ……」
アンデッド化したカジットが喋ったことにティカは驚いた。
「喋った?! 喋れるの?!」
「は、はい。喋れますが……」
カジットは困惑したように返答した。
「えぇ……ちょっと、他のアンデッドたちも喋れる?」
「喋れます」
「こりゃいいわ。あなた達の事教えてもらおうじゃない。次はそっちの女アンデッドにするわね」
そう言うとティカはうきうき気分でクレマンティーヌをゾンビ化した。
「はーい、ご主人様。何でも喋りまーす」
そうして聞き取りをはじめ、途中からこれメモ取らないと不味い奴だと思いアルフレッドに報告書を作らせたのだった。
■
昼過ぎにティカとルドガーは冒険者組合に訪れた。
先日の夜不審者を捕まえたと報告に行った後、戻っていない。
何せ夜遅かったので晩飯食って寝たかったのだ。しかも安宿だとベッドの質も悪くまるで眠れなかったし、前日は家に客人を泊めていたので緊張していたし。
という訳で詳細は後日でええやろと不審者の死体持って組合に行った後すぐ帰ったのであった。
そしてそんな奴らが再度訪れれば、受付嬢がガタっと立ち上がり駆け寄って来た。
「ティカさん、ルドガーさん。冒険者組合長から話があるのでついて来てください」
受付嬢の若干怒りを滲ませた顔に意も知れない恐れを抱いたティカは了承し、二階へと上がった。
二階の組長室に入ると、ソファにこのエ・ランテルの冒険者組合長プルトン・アインザックが居た。アフロヘアーの白髪の男だ。服の上からでもわかる筋肉を持っている。
「よく来たね。さぁかけた前」
言われるがまま二人は対面に座る。
「まずは……都市長から伝言を預かっている。"ガゼフ・ストロノーフの命を助けてくれてありがとう"と。私からも感謝する。戦士長が亡くなっていれば今頃王国はどうなっていたことか……! 本当に感謝する!」
そうプルトンは深く頭を下げた。
「成り行きでしたので、お気になさらず……本来の目的を聞いても?」
「あぁ、そうだった……先日君たちが殺して連れてきた不審者だが、装備品からズーラーノーンの可能性が高いらしい。君たちはズーラーノーンを知っているかね?」
「アンデッドを使う秘密結社、でしたか。なんでも都市を一つ滅ぼしたこともあるそうな」
「その通りだ。ただ奴らがどのランクの者たちかはわかっていない。だが奴らがこの都市での悪行を成す前に捕らえられたのは大手柄だ。ありがとう……それで、だ。当然功績にはそれに応じた報酬を払わなければならない」
プルトンが棚から金貨の入った袋を取り出した。
「これはズーラーノーンの殺害と……非公式ながら戦士長を助けたことに対する報酬だ。金貨百枚ある」
「ありがとうございます」
「それと、冒険者のランクをプラチナまで引き上げよう。勿論本来の君たちの実力はオリハルコン……あるいはアダマンタイトにすら届くかもしれないが、功績が少ししかない現状ではこれが限界だ。すまない」
「いえ、そこまで上昇しただけでもありがたいです。感謝します、組合長」
「そう言ってくれると助かる。あぁ、それと……君たちのチーム名を決めてくれないか? 今後冒険者として活動していく中で名を売るのは必要な事だ」
「そうですか……すぐに決めなくてもいいですか?」
「できれば今月中に頼む」
「わかりました。夫と相談して決めますね」
「頼んだ。今日はこれぐらいだ。もう退室して結構だ」
「わかりました、ありがとうございました、組合長」
それだけ言うと二人は組長室から出て、一階のクエストボードまで行くのだった。
■
一か月が過ぎた。
その間、二人はチーム名を決めた。
お互いに黒い装備を着ているのだから漆黒でいいだろう、と漆黒に決めた。
その後も活躍をし、今はオリハルコン級冒険者になっていた。
決め手はある貴族の護衛依頼を受けた結果倒したギガント・バジリスクだろう。
現地ではオリハルコン以上、出来ればアダマンタイト級が対峙するのが望ましい怪物をたった二人で倒したのが決めてとなった。
近いうちにアダマンタイトになるだろうともっぱらの噂であった。
因みにギガント・バジリスクはアンデッド化させていない。しようかと思ったが素材を売り、ランクを上げた方が利になると踏んだからだ。
今日は外でピクニックでもしよう、と二人でエ・ランテルの外に出た瞬間
『ティカ様。至急伝えたい事があります』
「あらメアリ。何かしら」
メアリの焦っている声にただ事ではないな、と察する。
『トブの大森林から多数のモンスターが移動し、南下しています。総数千を超えるかと』
「は? モンスターが? ……どうして?」
『アルフレッドから原因らしきモンスターを発見しています。レベルは最低でも四十以上。百メートルを超えるサイズの巨大なトレント系モンスターが暴れながら移動し、その余波でモンスターたちも逃亡している様子です』
「トレント系モンスター、ね……わかったわ。あなたとアルフレッドはカルネ村を守りなさい。私たちがエ・ランテルに来るモンスターはどうにかするわ」
『畏まりました』
そこで
「あなた、スタンビードよ。大量のモンスターがこのエ・ランテルに来るわ」
その言葉に流石のルドガーも目を点にした。
「お前が言うなら本当なのだろう。どうする?」
「迎え撃つわ。あなたは組合にこのことを伝えて頂戴」
「わかった。行ってくる」
そう言うとルドガーは拘束で移動し、跳躍。街の城壁を容易く超えて街中に入っていった。
「ん-、まぁ一体だけならアンデッドでもいいかしら」
そう思い召喚するアンデッドを決めておく。
「
遠視の魔法をティカは唱えた。
その魔法でトブの大森林の方まで視線を飛ばせば──確かに出てくるモンスターの群れ。
ゴブリン、オーガ。バーゲスト。ジャイアントセンチビートル。ハンキングスパイダー、その他多種多様なモンスターたち。
そしてそれらを追い立てる巨大なモンスター。
思わず「でか」と声が漏れるぐらいにはでかかった。
木の幹の部分だけで百メートルという圧倒的巨体。
六つの触手の木の根は三百メートルという圧倒的でかさを誇る。
木の腹部分には口が付いている。
名をザイトルクワエ。
ザイトルクワエが急にエ・ランテルに向かっているのには訳がある。
それは、スレイン法国が破滅の竜王をワールドアイテムで支配下に置き、使役しているのだ。
ガゼフ暗殺に失敗したスレイン法国は次の策に出た。すなわち三国の要所であるエ・ランテルを滅ぼし、帝国がそのまま占領しやすくするというのだ。
何なら更に進軍して王都を壊滅させてもいいとすら思っていた。犠牲になる一般市民には悪いが、そんな粗治療でも無いと王国の膿は取り除けないとスレイン法国は判断したのだ。
故に今ザイトルクワエはカイレという老婆に使役されている状態だ。命じられるがままに暴れながら移動しているのだ。
流石にあのサイズは面倒だ、と思いつつ出てきているモンスターを見ていく。
どれも雑魚モンスター、容易く対処できる──と思っていると一体だけ奇妙な者を見つけた。
全長三メートルという軽自動車並みのサイズ。
四足の姿で疾走し、他のモンスターよりも圧倒的に速く移動している。
白銀の毛皮に覆われた体に丸く黒いつぶらな瞳。
蛇のようにシュルシュル伸び縮みするしっぽ。可愛らしい手足。
それは、どこをどう見ても巨大なジャンガリアンハムスターであった。
「かわいい!」
思わず叫ぶほどには可愛かった。
(よし決めた。あれ必ずペットにしよ)
ティカはそう決め、やってくるのを待った。
二十分ほど待つと冒険者たちが武装した状態で街を出てきて、更には兵士たちも出てくる。
兵士たちは何か木材を大量に持っていた。
中にはプルトンの姿もあった。プルトンはティカに近づくと話しかける。
「ティカ君。モンスターが来ているのは本当かね?」
「本当よ。遠視の魔法を見せようかしら」
「いや、結構だ。貴重な魔力をここで消費する訳にはいかないからな……それに、城壁に居る者たちから同じ報告を受けている。信じるしかないさ」
「でしょうね。防衛方法は?」
「前衛に冒険者一同を。後衛に兵士たちを集めバリケードを作ってもらっている。気休めにはなるだろう」
「そうかしら。相手は更に面倒なのがいるわよ」
「なんだと?」
「全長百メートルを超える巨大なトレント系モンスターよ。あれを対処するのは私じゃないと無理そうね」
「ひゃ、百メートルを超えるモンスター?! いや、それが事実だとして君に対処できるのか?」
「出来るわよ。ただ、流石にそれの相手をしていると他のモンスターの対処は出来ないからあなた達に頑張ってもらう必要があるけど」
「わ、わかった。君の戦いの邪魔はさせないよう徹底しよう」
「お願いするわ」
そうして防衛について話、ティカとルドガーが最前線に出る。
「あなた、今からくるモンスターに白銀の毛皮を持ったモンスターが居るわ。そいつはテイムしたいから殺さないで欲しいわ」
「わかった。アンデッドだけじゃ味気ないからな。考慮しよう」
そうして話すこと十分。敵の最前列が見えてくる。
「キタゾォォォォオ!」
冒険者の一人が叫んだ。
無数の、千を超えるモンスターの群れだ。いや群れですらない、集団だ。
モンスターたちは足をもつれさせた者や転んだものを容赦なく踏みつぶし進んでいく。そしてどいつも焦燥に駆られている。
「まずは私から──
のたうち回る雷の龍が三つ現れモンスターたちに飛んで行く。
モンスターの一体に命中すると焼き殺し、次の獲物へと飛んで行く。
百レベルプレイヤーにとって八十レベル以下のモンスターの群れなど雑魚当然だ。更に範囲攻撃が使える
まだ狙いのモンスター、森の賢王は出てないのでド派手にぶっぱしたのだ。
それを見た冒険者たちが感嘆の息を漏らした。
見たことない魔法をさらに三重化して放ったのだ。帝国の宮廷魔術師でしかできないような芸当だ。
一撃で千近いモンスターを葬るなど正しくアダマンタイトに相応しい──あるいはそれ以上の異形であった。
これなら勝てる。そういう思考が伝播し──一瞬でそれは霧散した。
何故ならばあの巨体が出て来たからだ。
百メートルを超える圧倒的巨体を誇るモンスター、ザイトルクワエだ。
「駄目だ……」「あんなのに勝てるわけない……」「いくらアダマンタイト級が居たとしても……」
そう恐怖が伝染する。
更には追い打ちをかけるように更に数百のモンスターの集団がやってくる。
「諦めるな!」
そうルドガーが叫びだした。
「ここを突破されれば犠牲になるのは何の力もない女と子供だ! それでいいのか?! オーガに子供が食われ、ゴブリンに女が食い殺されてもいいのか?! ──良い訳ないだろう! ならば、武器を手に抗うしかないのだ! 最期まで!」
「行くぞ! 俺に続け! 漆黒に続け! 勝機は俺にある!」
その鼓舞によって冒険者たちも恐怖が薄れ、雄たけびを上げ戦意と士気を上げた。
ティカは悪魔の翼を生やし空を飛ぶ。
ザイトルクワエの前まで飛翔した。
「さ、私はあなたとワルツを踊りましょうか」
ティカは早着替えの魔法で装備を本来のガチ装備に着替える。黒い布と大剣アストラを構える。
「
唱えたのは相手のHPを見る魔法だ。
「測定不能って、レイドボスかよ」
ティカはそう愚痴を零した。
HPだけでレベルを測るのはこれでは無理だ。下手したら自分と同格のレベル百の可能性すらあった。
ザイトルクワエがクソでかい触手を振るいティカに攻撃する。
「
転移魔法を唱え触手の攻撃を避ける。
「お返しよ──
小さな黒い炎がザイトルクワエの触手に当たった。
黒い炎はザイトルクワエの全身を焼き、大ダメージを与えるもザイトルクワエのHPからしたら微々たる量だ。
ザイトルクワエは抵抗せんと触手を振り落とす。
「
次に唱えたのは爆発魔法だ。
爆発が振り落としている触手で起こり、起動がずれた。
ずしん、と地面に落とされ地面が揺れるもティカには関係ない。
触手での攻撃が無理ならば──とザイトルクワエは口を開いた。
「ちっ
空中に無数の人骨で出来た壁が生まれた。
その骸骨たちは全員武器を持っている。
五十メートル近い壁が半球状に広がった。
ザイトルクワエが種を飛ばす。タネマシンガンだ!
今回回避でなく盾を選んだのは後方にエ・ランテルがあるからだ。エ・ランテルまで攻撃が届くのはまずいのである。
無数のタネマシンガンを受け
それと同時に魔法を放つ。
「
アストラを振るいながら空間を裂く不可視の刃を飛ばす。
流石に感知できなかったようでザイトルクワエは胴体に喰らい、HPを大きく減らした。
ザイトルクワエは二つの触手で挟むように攻撃してくる。
ティカは右側の触手に対しアストラの力を行使する。
MPを消費することで銀色の飛ぶ斬撃をこの剣は放つことが出来るのだ。
更にこの飛ぶ斬撃はダメージ量よりもノックバックに重きを置いている。
飛ぶ斬撃を喰らった触手は半分ほど斬られ大きく吹っ飛んで行く。
その隙を突いて飛んで回避する。
(時間をかけすぎると面倒なことになりそうね)
戦闘の余波で冒険者たちが死んでしまいそうだ、とティカは手加減抜きで本気で相手することに決めた。
ザイトルクワエが触手を振るう──その前に根元からスパッと切り落とされた。
翼を生やしたルドガーがティカの横まで飛んでくる。
「あなた」
「地上はだいたい掃討が終わった。残るはこいつだけだ」
「わかったわ。前衛は任せるわ」
「任せろ」
そうしてルドガーは突撃する。
それに対しザイトルクワエも触手で攻撃する。
しかし一本の触手を斬られ、また攻撃手段を一つ失った。
「ギャアアアアアア!」
ザイトルクワエが流石に痛みを感じ叫んだ。
五月蠅な、と思いつつティカが魔法を唱えた。
「
空に魔法陣が現れ、魔法陣から隕石が降って来た。
ザイトルクワエは逃げようとするもルドガーが足でもある触手を攻撃する事で回避不能にする。
そうして隕石が落下し──ついにザイトルクワエは死亡したのだった。