ルドガーがザイトルクワエに向かう少し前。
「なぁ、これは夢か? 俺は夢でも見ているのか?」
プルトンは目の前の光景が信じられない、と呟いた。
目の前ではルドガーが無数のモンスターをその大剣ドゥームズでバッタバッタと一撃で斬り殺して回っている風景が見れた。
まるで散歩でもするような気楽さで移動しながら斬り殺していくのはもはやギャグにすら見えるだろう。
だがすぐに正気を取り戻し、プルトンは叫んだ。
「他の冒険者たちは彼の邪魔にならないよう下がれ! エ・ランテルに向かうモンスターだけ倒すんだ!」
プルトンがそう叫んでいると奥から強力なプレッシャーを放つモンスターがやって来た。
全長三メートルという軽自動車並みのサイズ。
四足の姿で疾走し、他のモンスターよりも圧倒的に速く移動している。
白銀の毛皮に覆われた体に丸く黒いつぶらな瞳。
蛇のようにシュルシュル伸び縮みするしっぽ。可愛らしい手足。
森の賢王と称される大魔獣がやって来た。
森の賢王はルドガーの前まで突進する。
ルドガーは聞いていたのと同じだ、と思いある
ただし精神系に分類されるので精神系に耐性を持つアンデッドたちには効かないし
さらに言えば今この場のモンスターの殆どは恐慌状態に近い精神異常の状態だ。精神系の状態異常は既に精神系の異常を喰らっている場合上書き出来ない。だから使わなかった。
だがそれでも威圧感だけは本物。森の賢王は即座にひっくり返って腹を見せた。
「降伏でござる! 某の負けでござる! 何でもするので生かしてほしいでござるよ!」
哀れ森の賢王は一度も剣を交えることなく敗北を受け入れた。
喋れる、という事にルドガーは驚きつつ対応する。
「そうか。詳しい話はあとだ。この場にいるモンスター共を殺せ。お前なら出来るだろう? 後で俺の妻にも会わせてやる。妻を主人にしろ」
「わかったでござる! この森の賢王、主君の為に精一杯頑張るでござるよー!」
うぉー! と雄たけびを上げつつ森の賢王はモンスターたちに向かって行った。
それを見たルドガーはこれなら妻の元に行ってもよさそうだ、と判断し空に飛びあがるのだった。
後の事は知っての通りだ。
■
ティカはルドガーと共に地上に降りた。
降りると歓声と共に迎え入れられた。
そこには賞賛の声の嵐があった。
凄いな、とかここまでとは思わなかった、とかあんたこそ真の冒険者だ、と言った声だ。
そこにプルトンがやって来た。
「本当にありがとう、ティカ君。ルドガー君。二人がいなければエ・ランテルは……いや、王国がどうなっていたかわからない。本当に感謝する……!」
そう深く頭を下げ感謝を示した。
「降りかかる火の粉を振り払っただけよ。それでも感謝するというのなら……そうね。私があの子を連れるのを許可して頂戴」
ティカがそういうと恐る恐る近づいていた森の賢王がびくっと肩を震わせた。
「姫の言う事は絶対に聞くでござるよ!」
「あら、あなた喋れるの! ますますいいわね!」
ふふふ、と悪魔的な笑みを浮かべる。
「勿論受け入れよう。というか使役魔獣なら組合に登録すれば堂々と連れて歩いて問題ない。まぁ登録手数料をタダにぐらいはしよう」
「ありがとう! あなた、名前は?」
ティカはプルトンにはあまり興味を示さず森の賢王に詰め寄る。
「そ、某は森の賢王と呼ばれていたでござる。名前は……ないでござる」
「あら、無いの? なら私が名付けるわ! 貴方の名前はハムスケよ!」
「おお! ではこれより某はハムスケと名乗るでござる! 姫に一層の忠誠を誓うでござるよ!」
そう森の賢王改めハムスケは頭を下げるのだった。
ハムスケだってさっきの戦いを見て二人の実力の高さを知っている。降伏するのに意は無かった。
■
一週間後。
ティカとルドガーの二人は英雄として賞賛されながら街を歩いていた。
エ・ランテル市内に居てもわかるほどに巨大なザイトルクワエを倒した英雄として崇められているのだ。
ティカは賞賛されることに慣れておらず照れながら組合の裏手に入る。
裏側に直接行くのは許されてないので組合に入ってから裏手に入った。
「おぉ、来たか」
そこには冒険者組合長プルトンと魔術師組合長のテオ・ラケシル、この都市の都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアが居た。
テオは魔術師らしい格好をした眼鏡をかけた男で、パナソレイは太っている金髪金目の男だ。
「おお! 姫、きたでござるか!」
そして最後にハムスケ。
「おはようございます。それじゃあ、聞き取りを始めましょうか」
「うむ。ではハムスケ君。何があったか教えてくれ」
「そうは言われても、詳しいことはわからないでござるよ。某も急にあのデカブツが来たので慌てて逃げただけでござるし……」
「その前に何かなかったか? モンスターが多く来たとか、強いモンスターが居たとか」
「ふむ……それで言うと、変わったことはあったでござるな」
その言葉に全員警戒を強めた。
「その変わったことというのは?」
「なにか珍妙な格好をした集団が居たでござるよ。ただ、その者たちはどれも某と同等の力を持っていたように思えるでござる。怖かったので手を出さないでいたら森の奥……東の方へと入っていったでござる」
「謎の集団……その者たちの格好は?」
「統一性が無かったでござるよ。スカートを履いている者や鎧を着ている者や……中にはボロボロの槍を背負っている者も居たでござる」
「……その者たちが関わっていそうだな。トブの大森林の調査は必須だろう」
「調査隊でも編成するか?」
テオがそう問いかける。
「いや、トブの大森林は人外魔境。ただ人を向かわせたところで死ぬだけだ。ここはアダマンタイト級チームを二つ使って調査しよう」
そうプルトンは痛い出費だが、と苦い顔をする。
「二つ……というと私たち以外に誰を?」
「蒼の薔薇に頼もうと思っている。朱の雫は今評議国に居るからな」
「蒼の薔薇……確か女性だけで構成されたチームと聞きます」
「そうだ。彼女たちもアダマンタイト級になって日が浅いが、それでも強力な戦力だろう」
「二チーム合同という事ですね。調査はいつ?」
「早ければ二週間後には行ってもらうつもりだ」
「わかりました。万全の準備をしておきますね」
「うむ。頼んだぞ」
■
二週間が経った。
その間漆黒はひっきりなしに動いていた。
何せスタンビードの影響でモンスターの生息地が変わったりし、低級冒険者を守るために外に出てモンスター狩りだ。
更には本来トブの大森林の奥地に住んでるようなモンスターでさえも人里に出てきていたのでそれらの対処をしなければならなかった。
悪魔は種族的に疲労を無効化出来るので問題なかったが人間だったら疲労困憊だろうな、とティカは苦笑しつつクエストを消化していったのだった。
そして蒼の薔薇が来る日。ティカとルドガーは二階の会議室で来るのを待っていた。
コンコン、とドアがノックされた。
ティカが「どうぞー」と返事をすると「失礼します」と一人の女性が入って来た。
見眼麗しい女性だ。生命の輝きとでもいうべき美を持っている。
歳は十九。金髪緑眼の美少女だ。
軽装鎧を纏っておりこれこそがかの
ゾロソロと他のメンバーも入ってくる。
筋骨隆々の男に見えるが女のガガーラン。
双子の忍者姉妹ティアとティナ。ティアがレズでティナがショタコン。
仮面をつけた赤いローブを着ている幼い少女に見える
系五人のアダマンタイト級冒険者だ。
ティカは立ち上がりリーダーのラキュースの前まで行く。
「初めまして、私は漆黒のリーダーの
「よろしくお願いします……できれば同じアダマンタイト級同士、敬語は使わず、仲良くしませんか?」
「あら、いいの? なら遠慮なく」
「えぇ。こっちこそよろしくね」
そうにっこりとほほ笑み合うと席に座る。
それと同時にまたドアが開いて人がやってくる。プルトンだ。
「全員揃っているようだな」
そう言いながら空いている席に座る。
「ではこれよりトブの大森林調査の依頼内容を確認する。期限は一ヵ月。その間にトブの大森林で何が起こったか調査してほしい。案内人は漆黒の使役魔獣でもあるハムスケ君に頼む。まずは何か質問は?」
それに対しラキュースが手を挙げた。
「一か月を過ぎても原因がわからなかった場合はどうしますか?」
「その場合は……まぁ、諦めるしかないだろう。ただ今後このような事が起こらないよう警戒をする必要があるが」
「わかまりました。全力で調査させていただきます」
「頼んだぞ。他には──
そうした会議は一時間近く続き、調査が始まった。
■
漆黒と青の薔薇はエ・ランテルを出発した。
昼ぐらいにエ・ランテルを出たので夕方カルネ村との間ぐらいで野営することになった。
「なにこれ」
ラキュースがグリーンシークレットハウスを見て呆けた表情を見せた。
「野営拠点よ」
「野営ってこういうものだったか?」
ガガーランが首を傾げた。
「この家、最大で十二人まで泊れるから、あなた達もどうぞ」
「お、いいのか、サンキュー!」
ガガーランはそう礼をいい、中に入っていく。
「ありがとうございます。使わせていただきます」
残るラキュースたちも礼をいい中に入っていく。
「これ、外見より広くないか?」
イビルアイが中を見渡しつつ呟いた。
ティカとルドガーも入りティカがイビルアイに返答する。
「ごはんの用意は皆さんでしましょ」
ティカがそういうとラキュースが「わかりました」と返答する。
「じゃあ俺っちは待ってるわ。俺肉焼くぐらいしか出来ないし」
「……私も待たせてもらおう。その代わり私の分の食事は要らない」
「私は手伝う。手取り足取り教えよう」
ティアがすっと立ち上がってティカに近づく。
「妻に手を出すな」
ルドガーはティアの不純な思いを察知し睨んだ。
「む、強敵……」
ティアは残念と言いながらキッチンに向かった。
一行は仲を深めるのだった。