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~チセ編~
「さて……久しぶりに来ましたが、ここの景色は変わりありませんね」
ツムギは百鬼夜行の森の中、泉のほとりに来ていた。ここは観光名所というわけではなく、ただの森の中の、ただの泉だ。しかし、ツムギにとっては誰にも邪魔されずに自然の中、歌詞作りをできる場所である。
「なぜだがここに来ると歌詞が思い浮かぶんですよね~」
そういいながら、座り込んでしばらく風の音に耳を傾けたり、小鳥と一緒に歩いてみたり、思いついた歌詞をメモしてみたりなど、有意義な時間を過ごし一旦休憩のためにお弁当を広げていた時のことだった。
「いいにおい~~」
現れたのはどこか神秘的な雰囲気を身にまとった水色の髪と角が特徴的な百鬼夜行の生徒だった。
(一瞬泉の女神様が現れたかと思いましたよ……とても可愛らしい生徒さんですね。よく見れば、お弁当を持ってきてるみたいです)
「あれ~?こんなところに人なんて、珍しいね?」
「こんにちは。よかったら一緒にご飯どうですか?」
「いいの~?それじゃあ一緒に食べよっか。私は和楽チセ。あなたは?」
「椎名ツムギ。さすらいの眠り姫です」
「眠り姫~?じゃあここにお昼寝しに来たのかな?」
ゆったりとした動きでお弁当を広げながら、チセが尋ねる。
「いえ、ここには歌詞を考えに来たんです。作曲が趣味なので」
「そっかぁ。私もここには、歌を考えに来るんだ」
「チセさんも作曲が趣味なんですか?」
「ううん、私はね~
五七五
限られた音
歌詠う」
「おお!百鬼夜行の伝統文学ですね!じゃあ私のとは大分違いますね」
「でもツムギも、ここに来ると歌が思い浮かぶんだ。なんだか面白いね」
チセがくすりと笑うと、ツムギも自然と笑顔が零れる。神秘的なだけではなく、この愛嬌こそがチセの人気の1番の原因だろう。
「ええ……ここは歌が思い浮かぶパワースポットなのかもしれません」
「パワー……スポット?確かに百鬼夜行の神社とかは、よくパワースポットとして紹介されてるけど」
「パワースポットは自然界にも溢れているものです。立地、植物の配置、動物含めた環境、様々な要因が重なり、自然にパワースポットができるのはオカルト的には珍しいものではありません」
「そうなんだ~。そう言われると、また思いついたかも」
「ふふっ、聞かせてくださいよ」
「二人きり
パワースポットで
歌紡ぐ
────どうかな?」
「素晴らしい歌だと思いますよ。それでは私も思いついた歌を、歌わせてもらいますね」
二人は夕暮れまで、思いついた歌を披露しあって仲睦まじく過ごしたという
~コユキ編~
「にはは!!やっと反省部屋から出られましたよ!」
ユウカの温情で反省部屋から出て一人での時間を得られたコユキはミレニアム内を散歩していた。
「電子機器の類は全部取り上げられてますねぇ……どうしましょうか」
とりあえずお小遣いはあるしゲームセンターにでも、と考えたところで見慣れない制服を着た生徒を発見する。
「には?あれは他校の生徒っぽいですね。面白そうですし、絡みに行きましょう!!」
興味が湧けば行動するのが早いのがコユキの特徴。とてとてと駆け寄って緑髪の生徒に話しかけてみる。
「こんにちは!どこの生徒さんですか!?」
「おや、こんにちは。私は椎名ツムギ。芸術の楽園、ワイルドハントの生徒ですよ」
「ワイルドハント!行ったことないや!お話聞かせてもらえませんか?」
ミレニアム生徒らしいというか、子どもらしいというか、好奇心旺盛なコユキ。元来の人懐っこい性格もあって他校の生徒のツムギにも臆せず頼み込む。
「では、物語の語り手となりましょう」
そうしてツムギはワイルドハントの校風、内情、専攻できる様々な芸術分野などなどについてコユキに語った。コユキは目をキラキラさせながら、興味深そうに頷いて話を聞く。
「ほへー規則とか多くて大変ですねぇ」
「ミレニアムは自由を重んじる校風ですから、理解できないかもしれませんね」
「まぁそう言われてますけど、私はなぜか色々ルールが厳しくて!普段からずーっとユウカ先輩の監視がついてるんですよ!酷いでしょ!」
コユキはそんなことを話している最中に、あ、そうだと言わんばかりに手をポンと叩き、ツムギに質問する。
「ツムギさん。自分一人で部屋でできる楽しいことってありますか?できれば、電子機器を使わない遊びで!」
「そうですね……音楽なんかはどうでしょう」
「音楽……ですか?」
コユキはこてんと首を傾げる。音楽なんて電子機器を使わなければ聞けないし、あまり楽しいことというイメージはないのだが……という顔だ。コユキの表情はわかりやすく、ツムギはその顔を見て予想通りの反応に微笑みながら補足する。
「音楽と言っても、コユキさんが作る側、演奏する側になるんです。作曲してみる、楽器を極めてみる、歌にダンスに……考えれば考えるほど、無限に時間が使えます。もちろん、最終的には披露してこそですが────『練習』にとても時間がかかりますので」
「にはは……大変そうですねぇ」
「その代わり、成長して自分の理想通りのものが出力できるようになる快感は、誰かにそれを披露する瞬間は、何ものにも代えがたい最高の瞬間ですよ」
そう言いながらツムギはベースを取り出す。今から演奏が始まるのかなとコユキはわくわくした顔でベースを見つめる。
「それじゃあ地獄まで付き合ってもらうぜぇ~~!!ヒャッハー!!!」
ツムギはデスメタルを一曲コユキに披露する。ツムギの雰囲気から音楽と聴いてクラシックのようなものを想像していたコユキは、その音圧と圧倒的パフォーマンスに目を離せず最後まで聴き入ってしまった。
「……凄い」
あの煩いコユキから出たのは、ただ一言の賛辞。しかし、それが少女の宝石のような目に溢れんばかりの光を灯したのをツムギは感じ、満足そうにベースをしまうのだった。