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~ミネ編~
芸術家というのは、私生活が壊滅的だと言われることが多い。事実として、部屋が片付けられないため何度も引っ越しした話や、借りたお金を返さない話など、著名な芸術家には致命的な伝説がついて回るものだ。そして、芸術家の卵の多いワイルドハントでも、同じような事態は起きているもので……
「あと少し……あと少しで完成しそうな気がするんです!!」
そう言って缶詰め状態になり、まともに食事も睡眠も数日とっていないのは音楽家の卵、椎名ツムギであった。普段は外でインスピレーションを集める彼女だが、どうしても楽譜と向き合わないと出てこないものもある。そのためあと少しで完成するとルームメイトにも言い続け、まともに会話すらせずずっと新作とにらめっこしているのだ。
そんな彼女の元に、災害が降り注ぐ。
「救護!!」
ドバギィ!!鈍い打撃音と共に壊れる扉。さすがに三日三晩楽譜と向き合う集中力を見せたツムギでさえ後ろを振り返る。振り返らざるをえない。
「な、何事!?というか何者ですか!?」
「トリニティから来ました。救護騎士団団長の蒼森ミネです。救護が必要なのはあなたですね?」
そうだ。作品に夢中になるあまり自身の健康管理を疎かにする生徒があまりにも多いため、今日はトリニティの救護騎士団による講習会が開かれるのはツムギも知っていた。知っていたのだが……
「それで、なぜミネさんはここに……?」
もちろん作品に集中して忘れていたというのもあるが、講習会は強制参加ではないし、出なくても問題は無いはずだ────理屈の上では。
「救護に参りました」
しかし、理屈が通じる相手ではない。救護。その二文字でツムギの質問を一蹴する。
「いえあの、救護とはいったい何ですか?」
「救護とは、助けが必要な存在に一刻も早く救いの手を差し伸べるための行為。そのためには間にある障害など関係ありません」
「大分物理的に壊しましたね……」
木端微塵になったドアの惨状を見ながらツムギは呟く。
「それで、具体的には何をするんですか?」
「ベッドに縛り付けて検査と休養ですね」
「あと少しで完成しそうなんですよ。待っていただけませんか?」
「そう言ってずっと休んでいないと聞きましたが?これ以上言い訳するならばより強度の高い救護をすることになりますが」
きっぱりはっきりとしたミネの受け答えにツムギも目を逸らす。しかし、今いい所なので邪魔されたくない……となれば
(────『三十六計』、ですね)
逃げ出そうとするツムギ。しかし、三日三晩まともに食事もとらず、外を歩かず、寝てもいない。そんな体でトリニティの救護の化身から逃げられるはずもなく……
「救護!!」
その後ツムギが目を覚ましたのはベッドの上だった。ミネは胃に優しい温かく栄養満点のスープを作ってツムギに食べさせてくれた。
ちなみに後から聞いた話なのだが、ツムギがあまりにも根詰めているせいでカノエが心配になってミネに話したのが原因だったらしい。カノエとミネから散々説教をされたツムギは今後は根詰めすぎないように誓約書まで書かされたという。みなさんも、健康管理にはお気をつけて。
~ヒカリ編~
それはツムギがインスピレーションを求めてよく晴れた散歩道を歩いているときのことだった。何やら困った顔で少女がじーっと地面を見詰めているのだ。制服的にハイランダー鉄道学園の生徒に見えるが、どうしたのだろうか。
困った少女がいるならば、見捨てられないのが椎名ツムギという女。そっと近づき声をかける。
「どうしました?先ほどから地面をじーっと見つめてるみたいですが。何かありましたか?」
「ピンチ~ヘルプミ~助けて~」
「見たところ怪我などはなさそうですが……」
「白い場所以外マグマ~~でもここから白い場所一気に少なくなる~~ハードモード~デンジャラス~」
そこまで聞いて、ツムギは顎に手を当ててニヤリと笑う。
「────なるほど。アレ、ですね?」
アレ。そう、アレである。筆者も当然やったことがある。きっと読者のみなさんもやったことがあるであろう。学校からの帰宅途中とかに友達と遊ぶアレ。白い部分以外はマグマで、そこから足を踏み外したらアウト。そんな子ども時代の遊びである。
「ふむ……あちらの足場ならばどうでしょうか」
「お~~あそこなら行けそう」
少女は両足を曲げて大きく跳躍し、また一歩マグマの海を先に進む。
「乗りかかった船……いえ、鉄道です。一緒に遊ばせてもらってよろしいでしょうか?」
「もちのろん~わたしはヒカリ~」
「許可を貰えたならば、このツムギも久々に本気で遊ぶとしましょうか」
軽くストレッチをして準備万端。路上ライブにも耐えるツムギのメンタルは、子どもの遊びに全力になっているところを見られた程度では全く揺るがない。
「あっちいけそ~」
「あそこ、途切れてますから気を付けてください」
「うおお~~、ジャンプ!」
「あわわ……危うくマグマに落ちるところでした」
そうして歩き走りジャンプして、様々な困難を乗り越えヒカリの目的地の駅まで到着した。
「ゴール~~ツムギ初挑戦なのにノーデス凄い~」
「ふふ、ありがとうございます」
思ったよりも体力を使ったが、それでも普段の演奏に比べればマシな運動である。ノーデスはそこまで難しいものではなかった。
「これ、お菓子。お祝いに一緒にたべよ~」
ヒカリがビニール袋を開くと、中には色とりどりなお菓子がたくさん入っている。
「いいんですか?私も貰っちゃって」
「いいよ~。その代わり、また遊ぼうね?」
ヒカリは小さなお口を必死に開けて、口いっぱいにお菓子を頬張る。ツムギもフーセンガムを一箱頂き、ふくらませる。
ツムギにとって童心に帰る貴重なインスピレーションを得られる日になったのだった。