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~タカネ編~
レッドウィンターの極寒の中、ツムギは雪まつりの観光に来ていた。巨大な雪像が立ち並ぶ大迫力の雪国ならではの芸術の祭典。その目玉でもあるチェリノ様大雪像を見に来たのだ。
「ううむ……しかし、建物がほとんど雪に埋まっていてあまり地図が当てになりませんね……もし、そこのヒロイン。よければチェリノ様大雪像の場所を教えていただけませんか?」
「……え?もしかして私のことですか!?」
雪像をカメラで撮っていたお上品そうな雰囲気をした赤髮の少女は、少し不服そうな顔をした後、ツムギの地図を覗き込む。
「え……っと、チェリノ大雪像ですわね?近いから案内しますわ。この一面の雪景色では慣れてない人は目印も全て同じに見えてしまうでしょうから」
「本当ですか!?助かります。では案内よろしくお願いしますね」
ナチュラルに様を省いたな~と思いながらも素直についていくツムギであった。
チェリノ様大雪像を二人で撮影した後、ツムギは頭を下げる。
「助かりました。雪の国のヒロイン。よろしければ温かいコーヒーなどいかがでしょうか。礼として奢りますよ」
「……そのヒロインという言い方をやめていただけませんこと?」
「では、姫などいかがですか?」
「もっと嫌です!!私はタカネ!三善タカネですわ!!コーヒーは頂きます!!」
「私は椎名ツムギ。お誘いを受けていただき感謝します♪」
そして二人はカフェで温かいコーヒーを飲みながら暖を取ることにしたのだった。
「そういえば、カメラで雪像を撮っていましたね。見せていただきますか?」
ツムギからの願いにタカネは雪像の写真を見せる。
「綺麗ですね……雪像そのものもそうですか、構図もよく練られています。写真はよく撮るんですか?」
「ええ、写真撮影や読書・批評、後はアイスホッケーの観戦が趣味ですので」
「お上品な雰囲気に写真撮影と読書や批評が趣味と聞くと、姫やヒロインという言葉が相応しそうですが……なぜ嫌がるのです?」
「実は以前、売上向上のためと言われタカネ姫を名乗ったことがありまして……あの時は本当に恥ずかしかったですわ。顔から火が出るという表現を真に理解した瞬間としては貴重な経験でしたけれど」
「ふむ……私は眠り姫を自称したことありますが、わかりませんねぇ」
「よくできますわね!?そんな恥ずかしいこと!!」
「自分を物語の登場人物として考えれば、大したことではありませんよ」
「物語の登場人物……ですか」
「ええ。残念ながら私のタカネさんからの批評結果はよくないものでしたけど」
そう言いながらも、ツムギは堂々とコーヒーを啜りながら一息つく。
「……ツムギさんは堂々としてらっしゃるのですね。そういう方は私、好きですわよ」
「おや、始めて褒められた。嬉しいですね」
「私の批評は厳しいとよく言われてしまって……私のせいで筆を折る方もいたんです。ですので言われても堂々として言い返すぐらいの人が嬉しくて」
「ワイルドハントの芸術家は、そう簡単に折れる心配はありませんよ。少なくとも、真正面からぶつかってこられた批評ぐらい糧にできないと」
ツムギはにこやかにタカネに微笑みかける。
「そうだ、タカネさんのおススメの本、ぜひ教えていただけませんか?私、興味が湧いてきました。」
「ふふ……ええわかりましたわ。こういう時のためにリストが作ってありますの」
タカネはリストを取り出し、ツムギに写真を撮ってもらう。几帳面にまとめられたリストは、彼女が愛する作品への敬意を感じさせるものであった。
「ああそうだ……以前トリニティの生徒に販売した時はその、レッドウィンターの作品は大分過激という評価を受けてしまいまして……そのツムギさんは……」
「ふふ、大丈夫ですよ。私、過激なのも得意ですから」
その後ツムギはタカネにおススメしてもらった作品を買って帰り、新たなインスピレーションを得た。代償として、ツムギがいない間にこっそり読んだレナが内容に大ダメージをくらい思い出すたびに赤面していたらしい。
~ルミ編~
「やはり玄武商会の料理は絶品ですねぇ」
山海経に来たツムギは、玄武商会で昼食をとっていた。
「青椒肉絲に麻婆豆腐、餃子に炒飯!!来るたび色々試してみましたが、どれもこれも他所じゃ食べられないような味です」
「ハハッ、嬉しいこと言ってくれるね!」
お得意様であるツムギの褒め言葉に喜んでいるのはルミであった。様々な学校を渡り歩き様々なものを食べてきたツムギからの褒め言葉。料理人ならば嬉しくないわけはない。
「ただ、一つだけ問題があるとすればあれもこれもと食べ過ぎてしまうことですね」
玄武商会……というか山海経の文化としてもてなすときはド派手に食べきれないほどに、というものがある。故に、一品一品量が多い。しかしそれでも色んなものを食べたくなってしまうほど美味しいのだ。食べ過ぎだと脳は理解しているのに……抗えない、抗いたくない魅力だ。
「あはは!そのためにランチメニューは色んな料理が少しずつ食べられるようになってるだろう?」
「そうは言われましても……」
それでも十分量は多いし、だというのに他にも気になって追加メニューに手を出してしまっているのが現状なのだから……とツムギ反論しようとしたところで、ルミは不敵に笑って先んじてツムギに提案する。
「じゃあ、新作のお試し、いらないかな?作り方を少し変えたエビチリなんだけど」
「ここの料理はいつも新しい────『インスピレーション』を与えてくれますからね、芸術家として断るわけにはいきませんね。ええ、仕方ないことですね」
溢れ出る涎を隠そうともせずにツムギは新作に釣られてしまった。まな板の上のツムギである。
出されたエビチリは火の海のように真っ赤で、いかにも本場のエビチリという雰囲気だ。臭いだけでもむせ返るほどで口に運ぶのにさしものツムギも恐怖を感じないといえば嘘になる……が
(ルミさんの新作なら大丈夫でしょう……時々やりすぎることもありますが)
時たま実験のために新作ではやりすぎることもあるが、それでもルミはツムギの最も信頼できる料理人の一人である。覚悟してゆっくりレンゲでエビチリを口に運ぶ入れる。
「これは……まるで口の中で海老が躍るような感覚!なるほど、『辛み』は『絡み』へと昇華し!海老に生命力を与え口の中を旨味と海老のダイレクトな風味が跳ねまわります!!」
「あはは!相変わらず面白い表現だ。ワイルドハントの生徒が来ることなんて少ないからねぇ。私も批評してもらったり郷土料理教えてもらったりといつもいいインスピレーションを貰ってるよ!何より、美味しそうに食べてくれるのが嬉しいんだよね」
ツムギは本格的辛さに汗をかきながらも、夢中でエビチリを食べ進める。
「うおォん!!私はまるで人間火力発電所です!!」
結果、ツムギのお腹はルミの豊満な胸と並ぶほど膨れ上がってしまったのだった。
「も……もう動けません」
「はい、漢方茶。消化を助ける効果があるよ」
「漢方茶……専門の知識が必要だと聞きますが。さすが会長といったところですか」
「あはは。ちょっと体調を悪くしがちな知り合いがいてねぇ」
その後ツムギはまん丸お腹を揺らしながら必死に歩いて帰ったという。