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~メル編~
ツムギがいつも通り、路上でゲリラライブを開いた後、一曲演奏し帰ろうかというところで少女が突撃してきた。
「ちょ、ちょっとそこのお姉さん!スケッチさせてもらってもいいかな?」
「……はい?」
「私はレッドウィンターの姫木メル!ちょ~~っとお姉さんのことをスケッチさせてもらいたいんだけど……いいかな?」
「ふむ?メルさんも芸術活動をしているのですか?」
「よくぞ聞いてくれました!!」
メルはペンを高々と掲げながら、少し自慢気な顔をして説明する。
「私はレッドウィンターで普段漫画を書いてるんだ!主に二次創作をしているんだけど、将来的には一次創作で有名になるのを夢として毎日創作活動に励む日々!!でもでも!創作活動を脅かすすっごいピンチに追い込まれちゃったんだよ!!お姉さんも芸術に携わる者としてわかると思うけど、なんだか新しいものに挑戦だけはしたいのに、やろうと思うと具体的なビジョンが思い浮かばずに手が止まっちゃうの!!そんでもってちょ~~スランプ~~って感じでネタを探してとほとほ歩いてたらさ~そこでお姉さん!大人しそうな顔してデスメタルを演奏するいかにもキャラの濃そうなあなたを見つけちゃったんだよ!!ぜひスケッチさせて欲しいんだ!!」
早口で一気に現状説明をしたメルは、呼吸をはぁはぁと荒げながら、眼鏡の向こうから懇願する目でツムギをじっと見詰める。
(ふふ……スケッチですか)
ツムギはルームメイトのエリにスケッチしてもらった時のことを思い出す。彼女の熱量が自身を奮い立たせてくれたことは一度や二度ではない。だからこそ、メルの熱量を見てみたくなった。肌で感じたくなった。
「ふむ……いいでしょう!この椎名ツムギを思う存分スケッチしてください!!ただし、一つ条件があります!!」
「じょ、条件~~!?何何?私何されちゃうの!?お金なら持ってないよ!?」
「私を書く間、脳内に思いついた情報を思う存分口に出して欲しいのです。私にとってあなたのような情熱を持つ創作者はインスピレーションは、貴重な火種なのです。その火種を燻っている状態の心の薪に分けて欲しいのです」
「妄想垂れ流し~!?ちょっと恥ずかしいけど……まぁそれでスケッチできるなら背に腹は代えられないよね!」
妄想に自信のあるメルはこの条件を飲む。創作のためなら自身の恥ずかしさなどなんのその!創作者がプライドを持つのは創作物に対してだけでいいのだ!
契約成立。ツムギは既に心の中の芸術魂に熱さが溢れてきたのを感じながら、メルとの出会いに感謝しベースを構える。
「なら、アンコールに応えてもう一曲演奏。3,2,1,ヒャッハァァァーーー!!!」
演奏の後、ツムギはメルにオカルト研究会での冒険や様々な学校での出会いなどもメルに語ったところ、メルは溢れ出る創作意欲を抑えきれずずっとスケッチを続けていた。ツムギにとってもその姿は最高のインスピレーションになり、その場で一緒に作曲しながら話を続け、帰ったのはすっかり日も暮れて暗さのせいでスケッチ・作曲に実害が出るようになってからだった。
その後二人はスランプになると連絡を取り合い、互いに刺激を与え合う創作仲間になったらしい。
~コタマ編~
ライブでたんまり資金が稼げたので最新の音響機材を手にいれようとミレニアムに来たツムギ。エンジニア部からの情報でミレニアムで一番音響機材に詳しい人を尋ねるのだった。
インターホンを押して、機械に向かって声をかける。
「こんにちは~~ここが音瀬コタマさんのお宅ですか~?」
しかし、反応が無い。数回押しても、やはり反応が無い。もしかして出かけているのかも知れないとツムギは考え、コタマと連絡をとってくれたはずのウタハに確認しようとしたところガチャリと音がした。メガネがずれた状態で慌ててドアを開けたコタマは、髪を整えながら謝罪する。
「すみません……環境音を聞いていて……今訪問に気が付きました。あなたが椎名ツムギさんですか?」
「よかった。いらっしゃったんですね。ええ、私がワイルドハントの眠り姫、椎名ツムギで間違いありません。」
コタマはツムギの挨拶に首を傾げるが、まぁそこは変な自称をする人が身内にもいるためか、特に気にせず部屋へと案内する。
「いきなり部屋に上げてもらうなんて、申し訳ありませんね……でも、ミレニアムの最新の音響機材を知るならコタマさんにぜひ会うべきだと言われたので」
「ライブなどに使う機材は専門外ですが……まぁそういった音声も嗜みますからね。信頼できるメーカー調査や、値引き交渉なんかでは役に立てるかと」
そう言いながらもコタマは部屋の録音装置などに電源を入れていき、椅子に座る。
「じゃあ、交換条件。忘れていませんよね?」
「わかってますよ。コタマさんの音響機材の知識を借りる代わりに、私の演奏をコタマさんの前で披露する、ですよね?」
色々な音を集めているコタマにとって、ミュージシャンを一人部屋に呼んで演奏してもらえるなど夢のような事象である。ウタハの出した交換条件に一瞬で釣られて協力を快諾したのだった。
「安心してください。部屋はミレニアム最新の技術で完全防音になっています。色々と聞かれたら困る音声とかもあるので……」
「聞かれたら困る音声?」
「あ……えっと~私たちヴェリタスはセミナーに対抗するために作られた組織ですからね。私の補完している音の中にはミレニアムの機密情報もあるのです!!」
しまったという顔をしながらもコタマはすぐ落ち着いて言葉を紡ぐ。
「だから、下手に情報が漏れないようになっているのです!!」
実際のところ盗聴しまくり犯罪履歴残りまくりだとは客人にさすがに言えないので、ヴェリタスの名前で誤魔化す。普段から問い詰められることは多いので、こういうことに関しては口もよく回る。
そうとも知らないツムギは目をキラキラさせながら秘密組織のアジトにでも入った気分でそわそわしている。
「なんというか……秘密の取引がされている薄暗い地下バーで、演奏をするミュージシャンにでもなった気分ですよ」
「ふふ……余計なことを調べたらコレが火を噴きますよ?」
エコーリンクの引き金に指をかけて構えるコタマ。実際コタマの戦闘力では逆に鎮圧されるのがオチだろうが、いいのだ。ツムギも言っていたがこういうのは────『ムード』が大事なのだから。
その後、コタマからの情報で比較的安く(といってもミレニアム最先端の時点で十分高かったのだが)最新の音響機材を手に入れることができたツムギ。バンドメンバーも大層喜び今まで以上にバンド活動に力を入れるのだった。
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