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~レンゲ編~
ツムギが百鬼夜行にて路上ライブを行っているとき、彼女は現れた。まるで赤い彗星の如く駆けてきて、地面を凄まじい強さで蹴ったかと思えば、演奏を終えたツムギの目の前に跳び下りた。
「そこのお前!ちょっといいか!?」
「むむ?どうかしましたか?」
水色の羽織と赤い龍のような尻尾、額から生えた角が特徴的な少女はツムギに声をかける。
「百花繚乱!?」
「なんだろ……ぱっと見ただの路上ライブだけど何か問題あったかなぁ」
「やっぱ歌詞が過激だったから?」
観客たちがざわざわと騒めきだす。それも当然。水色の羽織は百鬼夜行の治安維持組織、百花繚乱紛争調停委員会の証。そんな彼女が駆け出してくるということは、つまり問題が起きたということだ。
(おや……注意だけならよいのですが。最悪面倒なことになったら逃げるのも視野に入れますか)
ツムギが楽器を仕舞い逃げる準備をするが、彼女から飛び出した言葉はこの場の誰も想定してないものであった。
「私に青春を教えてくれ!!」
「「「「「……は?」」」」」
ツムギと観客、全員自然と出たのはその一文字であった。
「つまり、あなたは不破レンゲさんで、キラキラした青春に憧れていると」
「あんたの演奏を見て思ったんだ!凄く青春してるなって!!」
青春をしている。中々聞かないワードではあるが、演奏している姿がキラキラしていると言われたようなもの。ツムギとしてはそんなに悪い気はしない。
「まぁ確かに、他校の友人と集まってバンド活動しているのは、青春っぽいかもしれませんねぇ」
「色んな学校のやつが集まってバンドしてるのか!?」
「ええ、それにワイルドハントでは同じ芸術家としての志を持った同年代の仲間とルームシェアをしております」
「同年代の仲間とルームシェア……青春って感じだなぁ!!『恋よ鯉』で読んだものを実際に体験してるやつが目の前にいるなんて!!」
(やはり思った通り……作品で読んだことがあるような青春に憧れているようですねぇ)
レンゲは手を合わせ頭を下げ、ツムギに頼み込む。
「ツムギ!私に青春を教えてくれよ!」
「ふむ……レンゲさん。あなたは百花繚乱での活動をどう思ってますか?」
レンゲがどこかで見たような青春に憧れているのはわかったツムギは、逆にレンゲに質問するのだった。
「そりゃあ……毎日忙しくて、大変だよ。朝練に始まり、訓練にパトロールの毎日!ま、色々大変なこともあったけど、キキョウもいるし、ユカリやナグサ先輩とも仲よくなれたから、悪いもんじゃないけど……でも、こうキラキラした青春とは少し違うというか」
「ふむ……青春を教えて欲しいでしたっけ?お断りします」
「な、なんで!?」
「青春とは、誰かに教導してもらうようなものではありませんので。それでは」
「ま、待ってくれよ~~!!」
彼女は既に青春への参加権を持っている。ならば、彼女が自分から気づくまで、下手に口を出すのは無粋というものだ。結局、当初の予定通りに逃げ出すことにしたツムギ。普段から寮監隊と追いかけっこをして逃げ足には自信のあるツムギであったが、レンゲの身体能力と執念は凄まじく、追いかけっこは1時間にも及んだ。夕陽の河川敷を二人で駆ける姿は皮肉にも、青春の一幕らしい景色になっていたのだった
~チアキ編~
ツムギがゲヘナを訪れた際、以前と同じようにイロハに案内してもらおうと思ったツムギであったが、イロハから返ってきたメッセージは『今サボれないので代わりの人を送ります』であった。
「イロハさんの代理……ですか。どのような人でしょう」
ツムギはイロハのことを信頼している。以前イロハに案内してもらったときは最高のゲヘナ旅を満喫できたからである。だからこそ、代理の人には絶対的な安心があった。待ち合わせ場所で待つこと数分。向こう側からとてとて走ってくる影が一つ。ツムギの前で急停車する。
「おやおや?あなたが椎名ツムギさんで間違いないでしょーか!!」
「ええ、私がワイルドハントの旅するウサギ、椎名ツムギです」
「どーもー!!元宮チアキでーす!!この出会いを記念として一枚撮らせてもらってもいいですか!?」
チアキは忍ペロのシールが特徴的なカメラを構えてツムギに迫る。
「どうしたんですか!?鳩がグレネードランチャー喰らったような顔して!!」
「いえ、イロハさんの代理と聞いていたので、大分印象の違う方が来たな~と思っただけです」
「あはは!イロハちゃんはあんまりおしゃべりが好きなタイプじゃありませんからね~。寡黙な戦車長とおしゃべりな書記って感じのコンビです!」
「なるほど、書記の方ですか」
「主な業務としては週刊万魔殿を発行してますよ!!」
チアキは週刊万魔殿を広げて自慢げにツムギに見せびらかす。
(あまりこの手の業務に詳しくはないですが、書記の仕事には見えないですね……まぁゲヘナなりに色々あるのでしょう)
チアキの楽しそうな様子を見ると、深く追求する気も起きないツムギなのだった。
「今回ツムギさんとの旅も、記事にさせてもらってよろしいでしょうか!?」
「ええ、案内してもらう立場ですし、その程度問題ありませんよ」
元々断る理由もないが、彼女に笑顔で頼まれるとどこか手伝ってあげたくなる。そんな印象をツムギは受ける。
「ではどのような旅をご所望でしょうか!週刊万魔殿にも載せたゲヘナの名所トップ10!?それともおススメのスイーツビュッフェとか!?」
ツムギは顎に人差し指を当てて、数秒考えた後に答えを出す。
「以前イロハさんに頼んだときは、イロハさんのいつものサボりコースって言ってましたね。チアキさんの好きなコースにお任せしちゃいましょうか」
答えはあえてのお任せ。かなりの事情通に見える週刊万魔殿の発行者を信頼してのことだった。
「なるほど……私の好きなコースですか……でしたらまずはキャッチボール同好会に行って体を動かしましょう!」
「運動が趣味なんですか?」
「いえ!色んな人に会うのが趣味なんです!ゲヘナは個性的な子が多いんですよ!!だから私は色んな部活の客員メンバーになってて……きっとツムギさんにとってもみんなとお話するのはいい旅になると思います!学校の魅力は現地の生徒を知らずして語れませんから!」
「いいですねそれは……ゲヘナでの様々な出会い。聞いているだけで胸が高鳴ります」
「では心躍る、ゲヘナ生徒の魅力を伝える旅にしゅっぱ~~つ!!」
そうしてボードゲーム研究部・グルメ巡り同好会・火力研究部・歴史研究部などゲヘナ中を駆けまわった二人は、なぜか出発した時よりも活き活きとした様子で旅を終えたのだった。
「最後にツムギさんに今回の旅の感想を取材してもよろしいでしょうか!?」
「そうですねぇ……以前イロハさんに案内されたゲヘナ旅行とはまるで正反対でしたが……こちらも百点満点の旅だったとこの椎名ツムギが断言しましょう。ふふ、色んな学園を旅してる生徒からの意見ですから、記事にも信憑性が生まれるのでは?」
「やったー!!」
最後にツーショットを撮って別れた二人。今度ゲヘナに行く時は静のイロハと動のチアキ、どちらに案内してもらうか悩むツムギなのであった。
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